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初めての友達は動かない。

子犬時期のワクチン期間が終わり、
散歩ができるようになってすぐの事だ。

我が家の柴犬に初めてお友達のわんちゃんができた。
しかしそれは少し一方的な関係だ。

そのわんちゃんは、散歩ルートの終わりがけにある一軒家の庭の柵中にいる。

ゴツゴツした体をしていて、
なんとも無愛想で無表情なわんちゃんだ。

散歩の終わりがけになると、その柵の前に向かって腰を低くしズンズンと進み、リードを引っ張り突進する。

今日もあの家の子が気になっているのだろうか。

柵の間から鼻を出してクンクンとしながら、相手のわんちゃんの鼻先をつつく。

途中、逆に鼻先をつつかれたのか、
「ビクっ!」と驚き、

その勢いで遊ぶスイッチが急に入ったかのように周囲を走り回り始め、
気が付けば、ひとり大運動会。

微笑ましい光景ではあるが、
周囲の人が笑うので少し恥ずかしい光景でもある。

しかし相手は微動だにしない。
ちょっかいを掛けても連れないし、
表情1つ変えない。

うちの柴犬がクンクン鳴いても、
寡黙で視線はブレる事なくただ真っ直ぐを捉えていた。

どう見ても一方的な関心だった。
それも仕方ない。

このわんちゃんは「置き物」なのだ。

犬の形をしているが、
石と陶器のような素材で作られている、
庭の飾りだった。

動く訳がない。

ビクっ!としたのは、

鼻先をつつかれて驚いたのではなく、
つついて、自分で驚いただけだ。


数週間が経ち、
うちの柴犬は「彼が決して動くことがない」事を理解し、
柵越しの“鼻先フェンシングの戦い”の幕は閉じたのであった。

置き物であれ、
犬同士で遊ぶ事を初めて体験したすぐ後、
近所の野外ドッグランに入会して、
天気の良い日は、よく連れていくようになった。
だだっ広い空間で遠慮なく走り回ってる。

彼はドッグランに入ると、
いつも最初は最後方から
他の犬を全力で追いかけ回して遊んでいる。

だが、それも束の間。

気が付けば、
彼は先頭を走り、
逆襲に遭うかのように他の犬から追いかけ回され、
最終的に必死に逃げ回る側に立場が変わるのが
日常茶飯事だ。

ドッグランで逃げ回る姿を見るたびに、
状況が少しあの時に似ていて、
あの置き物の子のことを思い出し、
笑ってしまう。

つつかれて驚いたのではなく、
つついて、自分で驚いただけなのだ。

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