恵那にラリーがやってきた!【WRCラリージャパン観戦記】
11月中旬の週末、”我が家を”熱狂に包んだWRCラリージャパン。
初日の豊田スタジアムでのファンフェスタには次男と参加、セレモニアルスタートをでは会場にほとばしる緊張感を目の当たりにし、最終日の我らが地元恵那SSは家族で現地観戦、雨の降る中狭い林道を常識では考えられない猛スピードで走り抜けていくモンスターカーたちの爆音と迫力に文字通り度肝を抜かれてきた。
まっさらな田舎で感じた最高峰の世界の凄み
率直に、世界最高峰のモータースポーツの一つをこんなに間近で体感できて感動した。
ラリージャパン自体が12年ぶりの開催であり、自分の住んでいる地域に、ましてや地方の小都市にこのようなイベントがやってくるというのは巡り合わせとしか言いようがなく、ならば思い切り楽しんでみようと関連イベントなどにも参加してきた。
そしてやってきたWRC。手に汗握る展開を繰り広げたレース内容やWRカーの圧倒的な存在感は言うまでもなく、表舞台で輝くドライバーさんやコ・ドライバーさんはもちろん裏方で油まみれになれながらスパナを握るメカニックさんや広報らしきスタッフさんたちからも世界最高峰の一端を担っているのだという誇らしげな姿が心に残る。
どんなジャンルでも同じだが、極限を追求し極めた世界の人たちの空気に触れることには言い表せない感動がある。
オレは音楽にずっと携わってきたが、一流の人たちの音は自分のそれより”密度”を感じる。オレの持っている目盛りの単位が1㎜だとしたら、一流の人たちは0.01㎜、超一流ならマイクロ単位の目盛りで音を感じ、紡ぎだす。
1秒でも、0.01秒でも速く走りたいとチームが一丸となって究極のマシンを作り上げ、走らせる、そこから感じる空気感は極上のコンサートを観ているかのようだ。
その究極の世界だけが持つ空気がここ恵那にも運び込まれたのだ。特にWRCの特徴として一般道を他の一般車に雑じって移動する区間があったりするので距離感が驚くほど近い。世界レベルに触れたことでオレと同じようなヴァイブスを受けた人たちも多かっただろう。
実際、妻はモータースポーツとは縁遠かったが、近所のドリフト大会では感じられなかった”凄み”をこのラリージャパンでは存分に浴びたらしく、興奮を隠しきれていなかった様子であった。
普段見慣れた景色の中に世界の広さを感じられる、こういうイベントが地方で行われる意義はそんなところにあるかもしれない。
なんでもない田舎道の晴れ舞台
逆に日本の知られてこなかった田舎の表情、それは自分たちが見慣れている日常の風景なのだが、それが世界中に発信されたことも大きな意味があると思う。
東京や京都などは海外でも有名だけど、それだけが日本ではない。モンスターマシンが爆走する背景にうつる田んぼと古民家立ち並ぶ田舎道からはまた違った魅力が伝わったのではないだろうか。逆にオレからしてみれば、世界にもっと知ってもらいたい日本の姿に他ならない。
そういう意味では会場に閉じこもってしまうオリンピックなんかよりもよっぽど日本らしさがにじみ出るイベントとして有意義だと個人的には思える。
現地観戦で感じた課題など
いろいろと運営面では課題もあったようだが、TOYOTAの社長さんも言ってる通り、最初から100点はありえない。初回からバグの出ないプログラムなど奇跡なのと同じように。オレもファンフェスタや観戦の時にいろいろと感じることはあった。
また来年改善してもらえればそれでいいのだが、こうした場で声に上げておくことも大事かと思うので、少し書いておく。
ファンフェスタではかなりの人数の入場待ちがあり、入るのに1時間かかった。入場口は一か所しかなかったが、数か所に分散させることはできなかったか。同様にグッズ販売所もレジが一つないし二つほどしかなく、長蛇の列。楽しみにしていたサイン会も狭い場所に予定時刻より前からたくさんの人が集まってしまっているのに整理がされてない様子でどこが最後尾だかもわからない。この中に小さな子どもと長時間並ぶのは至難と感じ、あきらめた。チケット制でどれくらいの人数が来るのかあらかじめ把握しているわけだから、予想できない事態ということではなかっただろう。
セレモニアルスタートは豊田スタジアム内であったが、サッカーフィールドの周縁だけを使っていたので、フィールド上がぽかんと空いてしまい、閑散とした寂しい感じを受けた。ゲートをくぐった車たちを送り出すにもスタンド席から眺めるだけで、盛り上がりに欠ける。海外のセレモニアルスタートを観てるとその地域をもっとも象徴するような場所を背景に、観客の熱がドライバーたちに伝わる距離感で送り出すのがラリーらしい雰囲気でそれを期待していたので、これは残念だった。
来賓あいさつが多かったのはまだ仕方ないが、複数の代議士がそのあいさつの中で「日本のチームが強いことが大事」「日本人が勝つことを願っている」という趣旨に終始し、世界からやってきた最高峰のチームたちに対し、なんの感謝も歓迎の言葉もなかったことは、非常に残念だった。彼らの力なくして日本でのラリー開催はなかったことは承知しているが、単純に日本のものさえよければ他は眼中にない、などと思うファンはどれほどいるだろうか。
恵那市とラリーと。
もう一つ触れておくべきことは、我らが地元、恵那市である。
開催に至るまで恵那市は熱心に周知を重ね、地域住民の協力のもと安全でスムーズな運営が実現できたのはもちろん、数年かけて大会を歓迎する雰囲気を作り出し、多くの市民が興味関心を持ってリエゾンなどで応援をするに至った。
特に岩村の城下町のリエゾンでの熱気は大会公式でも「素晴らしいサポート」と注目されたがこのことの持つ意味は想像以上だと思われる。
世界でラリー会場になっている開催地はモナコモンテカルロやフィンランド、ケニアなど世界的観光地や自然豊かな環境を持つ場所として特に知られるところばかり。岩村はこれらに肩を並べて紹介されていると言ってもいいことが起きたのだ。大会を大いに利用し世界へのPRに成功したと言ってもいい。
また観戦にあたって市民枠を設け、気軽に足を運ぶことができたことも特筆すべきことだ。
一過性に終わらせず長く継続的に恵那が世界最高峰の舞台として定着させたたいという気持ちが伝わる力の入れようだった。
恵那市行政の尽力に感謝を表したい。
開催地としての今後に期待すること~山林再生への足がかりに~
こうなると今後、市としてWRCの開催地として相応しいあり方を進めていくことが必要だろう。
WRCは山野を駆け回る荒っぽいスポーツに見えて、欧州を主とした環境意識の高い地域が開催地になっていることが多い。
恵那市がWRCを契機に環境問題へ先進的なコミットを進めていくほどに、さすが世界的イベントを開くだけの都市だと評価されるだろう。
現在恵那市では「モータースポーツと車文化にやさしいまち」を掲げ、地域活性化を図るとしているが、経済効果や産業発展の面だけでなく、もう少し掘り下げて自然環境面への言及をしてほしいと思っている。
恵那市に限らず今回SSで走った区間などにも、間伐が進まず放置されたようなスギ・ヒノキの植樹林が多く目についた。図らずも日本では山林に問題を抱えているということをわざわざ知らしめてしまっている。
美しい森を取り戻し、その中をWRカーが走り抜ける、そんな光景を世界が目にすることがどれだけの意味を持つか。森林整備による水源環境の保護、生物多様性の回復、循環的な里山づくりなど、山を抱いて暮らす者たちとしての本来的な責務を忘れてはいけない。
これは持続可能な自然との共生社会への貢献によって恵那市が世界的に価値あるまちへと跳躍できるチャンスである。ぜひ行政には取り組んでもうらいたい。
感動の体験をさせてくれた人たちに感謝
今回は興奮冷めやらない状況で書いているので、それが文章に出てしまっている気がする。
今はもう、極限の世界を見せてくれたそれぞれのラリーチームたちに感謝しかない。どんな分野でも夢中になって自分のエネルギーを注ぎ込めることの尊さを見せてもらえた。
また地元のボランティアさんや町内会、消防団などこのイベントのために協力していただいている姿も多かった。本当に感謝しています。
最後にこの素晴らしい体験ができたのは次男(3歳)がずーっと車が好きでラリーの動画を見るのが好きで、欲しいおもちゃはGRヤリスWRC仕様のトミカ、という情熱あってこそということを付け加えておく。
現地でラリーカーが爆音を響かせたときの彼の信じられないというような笑顔をみれて良かった。
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