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農村でもっとも必要なスキルは〇〇だ ~草刈り考①~

タイトルですでに答えを言った。農村においてもっとも必要なスキルは、ITスキルとか、デザイン思考とかでもない。

酷暑の中、刈っても刈ってもすぐにまた生えてくる草々との闘い。

それは草刈りだ。

移住して9年目の経験の中から導いたこの結論を、草刈について多角的に考察しながら検証していきたい。

なぜこんなことを書こうと思ったか。

それは毎年草刈りで時間も金も体力も気力も著しく消耗していて、草刈りが暮らしの大きな障壁になっていると感じているが、やらないわけにはいかないので少しでも苦手意識を克服するために、まさに敵を知り己を知る、の境地で、草刈りを探究することで持続可能な草刈りとは何か、導き出せる気がしたからだ。なのでこの記事は自分に向けてのメモでもある。

田舎暮らしにおいて避けては通れない草刈りについて、田舎暮らしを検討している人などにも何か参考になるかもしれないので、記事化してみる。

なお、これから検証する内容は個人的な見解を多分に含み、特に安全面に関してはご自分で適切な指導などを受けたうえで実施してください。事故・機械の故障等においてはその責を負いかねますのでご了承ください。

岐阜県の移住サポーターを拝命している手前、というわけでもないが、より多くの人に地方移住、田舎暮らしという選択肢を提案したい思いから、情報発信を続けている。移住実践者の一つのサンプルとして参考にしてもらえたらありがたい。(所要時間約5分)

草刈とは

馴染みのない人に草刈りとはどんなものか、説明するにはまずは動画を見てもらうと良い(これは我が家から発信している田舎暮らしの情報チャンネルである)。

一口に草刈りと言っても、手鎌で人力で刈っていく方法もあれば、自走式の機械で刈っていくタイプもある。

この記事で取り扱うのは主に動画内で使っている棹状の「刈払機」と呼ばれるものである。田舎における「草刈り」とは「初夏から秋にかけて主に田んぼの畔・法面、庭など、家の敷地内で土のある場所には必ず生えてくる、あまり使い道のないいわゆる雑草を、刈払機で刈っていく作業」と定義しても差し支えない。

草刈りの目的

まず草刈りは何のための作業なのか、明らかにする。一見単純そうに見えて、実は多面的な機能を有することを確認いただきたい。

人の居場所を確保するためである
背後に山を背負う集落で暮らしていると、夏場ものすごい勢いで伸びてさらには勢力を拡大していく草々は、今にも人の暮らす場を飲み込んでいきそうなほどである。

実際に2,3年も放置すれば、空き家などは鬱蒼と飲み込まれ、家の内部にまで侵入しようとしてくる。

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(画像はオレが地域おこし協力隊で空き家対策をしていたときに実際に現地調査したときの写真)

景観をよくするためである
雑草が伸び放題の土手など見栄えのいいものではないので景観上の問題としても扱われる。

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(刈り頃になった法面)

周囲と良好な関係を築くためである
田んぼまわりは雑草が種をつけると風で飛んで他の人の田んぼに入る可能性があり(とされていて)、非常に迷惑がられる。

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(ヒエの生えた我が家の田んぼ)

危険な生物から身を守るためである
草の多いところには当然昆虫や爬虫類などの住処であったり食事の場となる。蛇や蜂など危険のある生物が集まってくるし、草むらになってるせいでこちらから発見しにくい。

土地の形状を堅持するためである
忘れてはいけないのは、石垣や畔・法面の崩落を防ぐ目的である。こうしたところに草が根を這わせ、枯れて根が分解するとそこは空洞となり土がもろくなる。また枯れた根が堆肥化すると土が柔らかくなってやはりもろくなる。

土手などは刈った草をそのまま放置しておくと、やはり堆肥化して土が柔らかくなる。ここに大雨などが降ったりすると、土が押し流され崩落の危険も出てくる。

草刈りの目的が多岐にわたることがご理解いただけただろうか。
田舎で草刈りが重要視されるのは、その目的のほとんどが安全な暮らしに直結することだからだ(心理的なものも含めて)。

しかしまた草刈りには危険もつきまとうし、意外と金銭的にも負担感がある。そこで次項では、草刈りに必要なものを各々検証し、その目的やリスク・コストなどを掘り下げてみたい。

草刈りに必要なもの

ここでは草刈りに必要なものをご紹介するので、刈払機導入の参考にもなればと思う。

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本体
刈払機にはガソリンで動くエンジン式のものと、電気式のものの2種類がある。

現在主流となっているのはエンジン式。メリットとしては燃料を継ぎ足していけば丸一日でも作業できる点である。
エンジン部が棹の末端に付いているものと、本体から分離して背負うタイプとあるが、背負うタイプの方が棹自体は軽量となる。

混合ガソリンの2ストローク式とレギュラーガソリンで動く4ストローク式とあり、ここでは2ストローク式は軽量,・構造がシンプル、4ストローク式は燃費が良くやや静音性に優れる、とだけ説明しておく。近隣ではほとんど2ストローク一択である。
またそれぞれ排気量の違いによって性能に差があるが、重量や替え刃の互換性などそれぞれにメリット・デメリットがあることだけお伝えしておく。

電気式のものは軽量で女性にも使いやすい、などとされ、以前はエンジンよりパワーがないなど言われていたが、実際は遜色なく近年普及が広がってきている感がある。
コード式とバッテリー式のコードレスのものがある。
コード式のメリットとしては時間を気にせず使えるということだろうが、田舎暮らしでは使える場面はかなり限定されそうだ。

バッテリー式のコードレス型は、逆に1回の充電で刈れる時間も30分程度(フルパワー時)になるので、1回の使用時間が長くなりがちなここら辺ではあまり使われているのを見たことがない。軽量性を優先しながら長時間作業したい場合は、交換用のバッテリーを複数用意しておくことが考えられるが、バッテリー単体でも1万円以上したりするので考慮にいれておきたい。
電動式は使用するバッテリーや仕様の違いで、パワーや使用時間が大きく異なるので詳しくは他のサイトをご参照いただきたい。

https://tanaka-km.com/html/page34.html

また草の切断は金属製のチップソーかナイロンコードなどの種類があり、硬い草には金属葉、柔らかい草にはナイロンコードなどの適正がある。それぞれについては次項で検証するが、アタッチメントを取り換えればどちらも使えたりする(メーカー・モデルによる)。しかし作業に合わせてアタッチメントを付け替えるのは面倒なので、本体ごとそれぞれ揃えていることが多い。

価格の相場としては、エンジンで3万円前後、電気式はコードレスので6万円前後となる。

チップ
チップソーもナイロンチップも消耗品である。草刈シーズンともなれば、どちらも4~5回ぐらいは交換している印象だ。
チップソーは3枚1000円なんてものから1枚3000円超まで様々。もちろん高い方が軽くて切れ味良かったりもするが、石とかにぶつけてすぐ刃が欠けたりすると結構凹む。自分で刃を研ぐための専用の機械もあったりするが、あまり時間をかけてられない人も多いだろうから、安いものをがんがん使い倒すのもいいかと思う。
ナイロンコードもいろいろあるが、ホームセンターで売っているのは1000円~2000円程度とみればいいかと。草がまだ低いうちや石が多いようなところは、ナイロンコードの方が使い勝手が良いと感じる。草が細かくちぎれて、刈跡もきれいに見える。ただし遠心力でナイロンコードを回転させるので、本体への負担は大きい。燃費もチップソーより食う。エンジンをぶん回す分、身体への振動が強く感じられる。

燃料
ということで、エンジン式は燃料が必要となる。
たいていガソリンとオイルの混合式で、1タンク0.6リットル前後入る。ナイロンだと1回1.5時間ぐらいで燃料が尽きる。
ガソリンが1リットル130円前後として3時間作業すれば1.2リットル150~160円という計算になる。1シーズンだとうちの場合なら累計72時間で30リットル弱、5000円弱ぐらいの計算だ。
混合オイルは多くの場合50:1の混合比となるので、ガソリン1リットルに対し0.02リットル。まあシーズンに1リットルのものを1本で足りるかと。1本1000円弱。
というわけで計6000円ぐらい。
充電式の場合、バッテリーの充電にかかる電気代はよくわからないので、情報を知っている方は教えてください。

装備品
安全のために身に着けるべき装備も多々ある。

フェイスガード/エプロン/ヘルメット
チップソーの破片や、跳ね飛ばした小石などから顔を守る。ナイロンコードが跳ね飛ばす石の勢いは当たると結構痛いので、身体を守るエプロンなどもある。チップソーの使用時、ナイロンコードほど小片がとばないから、と言ってガードなしに草刈りしている人もたまに見かけるが、石にぶつけてかけた金属片が万一目に入ったら失明の危険は免れない(事故例もある)。チップソーでもフェイスガードは着用することを勧めている。

服装
上記のように作業中の小石等の飛散から身を守るため、長袖長ズボンが原則となる。また近年屋外の現場でよく使われるようになった扇風機付きジャケットは自分も持っているが、40度に迫る暑さが珍しくなくなった昨今、少しでも熱中症のリスクを減らすなら有効なアイテムだ。ジャケットの中に保冷剤を仕込んでおくと冷涼感はさらにあがる。

手袋
通常の軍手や作業用手袋の他、防震性のものがある。刈払機の振動が手の毛細血管を破壊してしまい、後年に障害を起こす問題が発生しており、少しでも手を守りたいものだ。軍手なら100円でもあるが、防振性のものは700円ぐらいから買える。

履物
スタンダードなのは長靴。土や飛び散る草の破片も気にせず作業できる。万が一マムシなどと遭遇してしまったときに足を保護する役割もある(100%安全という意味ではない)。弱点としては、全体に密着感に欠けるので、斜面での安定性という点ではどうか。

チップソーの場合、足先を守るため安全靴という選択肢もある。実際専門で山林作業される方の中には履いている方も見られる。またスパイク付きのものはより安全性が高く、価格も登山靴ほどでもない。総合的に言えば最もパフォーマンスが高いと言える。ただし、重量は難点と言える。

年配の方では足袋を使う方もいて、密着感・グリップ感ともに良好だし、軽量なのがもっともメリットとなる。ただし布地で防水性に欠けるのと、安全面では心もとない。
靴は自分の刈る土地の広さ、斜度などによって選定するのがいいだろう。

ゴーグル/サングラス
フェイスガードをしていれば絶対必要ということでもないが、細かい土埃などがフェイスガードの網目を通して入ってくることがあるので、より快適性を求めるなら、あるとうれしいアイテムだ。

耳栓/イヤーマフ
刈払機の騒音は90db前後でこれは会話がほとんど成立しないレベルだ。
http://www.rinsaibou.or.jp/cont04/items70/pdf/1812shindo-souon.pdf
http://www.city.fukaya.saitama.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/31/souon_ookisa.pdf
作業が終わるとしばらく耳鳴りが消えないので、聴覚への影響を心配している。耳栓はあまり近所でしている人は見られないが、自分はつけるようになった。装着される場合は余計に周囲の状況がわかりづらくなるので、安全確認には念を入れたい。

体力・時間
本当は必要なものの一番に挙げたいのが体力だ。刈払機を実際使ってみるとわかるが、本体の振動は想像以上に身体にこたえる。まして草刈りをするのはほとんどが夏の前後の一番暑い時期だ。その中で斜度のきつい法面で足を踏ん張りながら棹を左右に振っていく作業はなかなかのものである。

ちなみに100平方メートルを刈払機で刈るのにかかる時間はだいたい1時間前後と言われている。平坦地ならもう少し速くできるだろうし、傾斜地はさらに時間がかかる。また草の伸び具合によっても変わる。
一度自分の敷地を一周刈るのにどれくらい時間がかかるか計ったところ、総計24時間がかかっていた。
これをシーズンに入れば3~4ターン回していくことになる。草刈りは長期戦なのだ。

草刈りの技術

草刈りをするにあたって特別な資格はいらない。「刈払機取扱作業者」という資格もあるが、これは草刈りを業務で行う人に必要なものである。
基本的には家族(親)や友人・ご近所さんなどから実践しながら教えてもらうことになる。
しかしそれゆえ自己流や装備を怠ったり、危険な箇所で「これくらい平気」と無理に作業しようとしたり、ということでの事故、機械の破損・故障も起こりえる。

そこで一部の行政では市民向けの草刈り講習会を開催したり、上記動画のように自主的に講習を開催する業者もある。

このような場で学ぶことで、効率的な刈り方から、次項で述べるような危険への対処、機材のメンテナンスの知識も得られるだろう。メンテナンスは機械の寿命を延ばすので、草刈り作業の一部として考えてもいい。

草刈りに伴う危険

ここまで読んでいただければわかるように、草刈り作業には危険がつきものだ。刈払機による事故は平成 27 年4月から令和2年3月末までの5年間に計 88 件報告されている(消費者庁/https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_032/assets/caution_032_200603_0001.pdf)

チップソーによる裂傷、法面での転倒(転倒に伴うチップソーによる事故も)、跳ね飛ばした石や金属チップによるケガ、など、これには刈払機の音で周囲の人に気が付かず傷つけてしまう痛ましい事故もある。少なくとも周囲の人とは15m以上離れた距離での作業が推奨されている。

また振動が引き起こす身体への影響も近年注目されている。長時間の作業で手にかかる振動が毛細血管を破壊し、血行障害を引き起こす、という報告が各所からされている。そのため刈り払い機での作業は30分おき5分の休憩、最大2時間まで、と推奨されている。http://www.rinsaibou.or.jp/cont02/items11/0211_03_idx.html

危険は刈払機本体のみならず、外的要因によっても引き起こされる。

真夏の作業は熱中症も引き起こす。作業中は長袖長ズボンに加えフェイスマスクにエプロンにと体感的な暑さは過酷と言ってもいい。https://www.maff.go.jp/kanto/seisan/nousan/sizai/attach/pdf/annzenn-1.pdf

こまめな水分補給が必須だが、ナトリウムやカリウムなどのイオンが体内から失われることが熱中症のリスクを増加させるので、これらを補給できるスポーツ飲料や経口補水液などが適切と言える。

草むらはスズメバチが巣を作ることがあり、作業中刺されたという話はよく聞かれる。
マムシなどは基本的には人間の気配から逃げていくが、ふいに遭遇する場合があるので警戒したい。

他にも腰痛の原因になったり、排気ガスによる健康被害など、草刈り作業における身体的リスクは多岐にわたる。

草刈りと環境問題

リスクといえば、人間の身体だけでなく環境への負荷も無視できない。

マイクロプラスティック化
ナイロンコードでの草刈りは、その性質上草を刈りながら自身も削れていく。固い石や茎などにあたるとさらに削れる。その破片は非常に細かく回収できるものでなく、いわゆるマイクロプラスティック状となって土壌に拡散していくか、水に流れて河川に流失していく。
この対策として数社から生分解性のコードが出されており、普及が望まれる。

土壌流出
もう1つには、法面で刈った草は、青草を堆肥とすることがなくなった今、回収の必要がなく、その場に放置されていることが多く見受けられる。
この刈られた草が法面の表面で分解、堆肥化することで、土壌が柔らかくなり崩れやすい状態となり、大雨などにより土壌が流れてしまう可能性もある。

刈草を集めて一か所で堆肥化し田畑に還元するのが環境的には望ましく思えるが、その場で焼却する人も見受けられる。
どちらにしろ回収という作業が付加されることは負担増になるので、さらなる検討の余地がありそうだ。

除草剤について
一方、上記に挙げた草刈りの負担の軽減を理由に、除草剤散布を行う人もいる。さすがに田んぼにもろに被りそうな位置で散布しているのは見たことがないが、雨で表層や土中を除草成分が流れ田んぼに入り込まないとは限らない。
除草剤にもさまざまなタイプがあり、環境にやさしいと謳う製品もあるが、果たしてどれだけの影響となるのかは様々な説がある。
ここでそれを議論することはしないが、もはや高齢者だらけの集落において草刈りがどれだけの負担になるか、それを知っている身としては決して手放しで否定できない面がある。

草刈りと地域性

草刈りは個人の敷地内の管理、だけにとどまらない地域的なマターでもある。

ひとつには集落全体での景観が整っていることに誇りを持つ人たちが多いと感じる。他人の敷地といえど、草が放置され伸びっぱなしになっている状況は、集落全体の面子にかかわることだと認識されている。
逆に言えば、荒れた景観の地域は「地域力」(住民同士のつながり、助け合いの気持ちなど)が弱いという扱いになる。

また、他の家の敷地と隣接するような場所の草刈りは優先的に行われる。特にひえやあわなどの草は、種をつけると飛んできて自分の敷地や田んぼで生えてくるから、という考えから早急な除去を求められる。

田畑を他の人から借りている場合はなおさら、そこの草刈りは最優先事項となる。草の管理ができていない、と判断されもう貸してもらえないという事態も起こる。借家でも同様だ。

もう一つには、農道など私有地以外の箇所も、地域で共同して管理する必要があり、ここでは夏に2回、春に用水路周りを1回、草を整理しておく。
この作業は必ず参加をするのが住民としての約束事であり、欠席する場合は「出不足」と言って、その日の前か後に全体作業と同じだけの時間の作業をするように求められる。それでも作業をしない場合に罰則などが明文化されているわけではないが、地域の中での信用を失い、日々様々な暮らしの中の協力を得ることは難しくなる。

このように草刈りは近隣との良好な関係を保つためにも、非常に重要な役割を果たしている。

しかし上でも述べたが、農村地域での高齢過疎化が進み、草刈りの担い手は驚くようなご年配の方が多くみられる。当地でも80歳、90歳のお年寄りが猛暑の中こまめに草刈りをしている。
今後10年20年と進んでいく中、耕作放棄地や荒れた敷地が増えてきたとき、地域力といったものにどのように影響してくるか、一住民としても心配でならない。

次回はこれからどのように草刈りに向き合っていけばいいか、過去から未来に向かって探究を続けてみる。


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