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小説・詩小説

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小説のようなものや短い詩の物語のようなものなどをまとめたお部屋。
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2022年6月の記事一覧

【詩小説】人魚の子

【詩小説】人魚の子

私が人魚だった頃
私は海の中を
たったひとりで
泳いでいました。

ハミングが遠のいていく。
いつも同じ声が木霊して。
海月が天に召されるような
あぶくがわきあがる。
私は追いつけないとわかっているのに
海の中を泳いで手を伸ばしている。

ここ最近は毎晩のように同じ夢をみる。
目を覚ますとタオルケットは足に絡まり、扇風機が首を左右に振って回っている。
生ぬるい風が汗で額にくっついた前髪を糊付けする

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【詩小説】純白の花

【詩小説】純白の花

アンテナを窓側に伸ばしたラジカセから
フォークソングが流れていた
六月 
朝 


姉さんはいつも以上に早くから台所へ立ち
味噌汁と甘い卵焼きに
大皿いっぱいのおにぎりをこしらえていた
あの日
寝ぼけて
運動会でもあったかしらと
わたしは
外の雨の音と交互に
姉さんの後ろ姿を目を擦りながら眺めてた

叔母さんの割烹着を脱ぎながら
姉さんは仏間へ向かった
お鈴を鳴らし合掌し
ひとつ軽いため息をはい

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【詩小説】教科書に落書きを

【詩小説】教科書に落書きを

はじめて隣の芝生が青くみえたのは
石川啄木をおさげの乙女に変身させた
君の鉛筆

私は自分の書く字を好きになれなかった
だからわざと濃く大きく書いて誤魔化した
自信がないことを見抜かれないために
とめ、はねをこれでもかとわざとらしく

枠からはみ出しては先生に注意された
消しゴムの跡が浮き彫りで
クラスの日誌で私のページは一番黒かった

私は君の鉛筆がうらまやしかった

そのうち君がうらやましくな

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【詩小説】暮れる

【詩小説】暮れる

大人だから色々ある
色々は
色々さ

面倒なこと聞いてくるやつだな
どうも調子が狂う

でも大人だから気にしない
こどもじゃないんだ

寝苦しい夜でもなかった

オンラインゲームに時間を忘れてたわけでもない

出張帰り
空港の免税店で買った洋酒を三口で飲み干すのも毎晩のこと

ブラームスを聴きながら眠りの泉に身を委ねたはずなのに

いつもよりだいぶはやくに目が覚めてしまった

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