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【短編】 昼休みの公園で出会う少女は危険

「ねえ、一緒に遊んでよ!」
 昼休みに公園のベンチに座っていたら、小さい女の子がそう話し掛けてくる。
 私は腕時計を見て、五分だけならいいよと。
「じゃあ、この木の枝を投げるから、拾ってきてね」
 女の子の投げた木の枝は、ベンチから五メートルぐらい先へ飛んでいった。
 私は、首をかしげながら小走りで木の枝を拾い、すたすたと戻って女の子に木の枝を差し出す。
「よくできましたね!」
 そう言うと女の子は、小さな手で私の頭をなでた。
 
 次の日の昼休み。
「今日はね、投げた木の枝を、口にくわえて欲しいの」
 それは無理です。
「一回だけでいいの。犬のペロが死んでからあたし病気になって、ずっと外に出られなくて……」
 まあ……、一回だけならね。
「ほらっ! くわえてきなさい!」
 
 その後、私は昼休みの公園に現れる女の子の要求に抗えず、犬の首輪まで付けられた。
 私は首輪のせいで、勤めていた会社で変な人間のように思われ、仕事のミスも増えて、結局失業してしまった。
「じゃあ、あたしの犬になりなさい。あなたの首輪は、死んだペロの首輪なのよ」
 私は君のペロじゃない。元に戻して欲しい。
「あなたは首輪を付けた瞬間からあたしの犬なの。ふふふ。そういう魔法なのよ」
 
 私はだんだん人間から犬の姿になっていき、まともな社会生活ができなくなった。
 
「今のあなたはただの犬で私の役には立たない。だから魔法の修行をしてもらいます!」
 
 私は山奥の道場に放り込まれ、人格が最悪な師匠や先輩に毎日イジメられた。
 修行は、人権を完全に無視した理不尽な暴力の世界で、私は毎日死にたい気持ちになった。
 でも、生きていれば何とかなるさと道場で友達になった奴にはげまされたり、道場で雑用を強いられる可憐な少女に恋をしながら、結局、百年ぐらい修行を続けたあと、ようやく魔法の初級免状を貰うことができた。
 
「おかえりなさい。修行はどうだった?」
 百年過ぎても、女の子は昔の姿のままだ。
「この世界は、百年前の世界戦争で終わったの。魔法を持たない者にはとても生きられない世界だから、あたしの魔法犬になったほうがマシだと思ったのよ」
 でも、私は君の犬じゃなくて人間に戻りたいんだ。
「もう人間は存在しないから、戻るのは無理よ」
 でも、人間の姿をしている人々が、少し残っているじゃないか?
「ああ、彼らはね、すでに人間の言葉を失ったただの動物よ。ただ生き残るのに必死で、言葉を失ったのね」

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