記憶できない困った時の「記憶管理メモ術」

<目次>
【このnoteについて】
【はじめに】
【睡眠薬の副作用で記憶できない】
【短期記憶テストを受ける】
【究極のメモ帳を常に手元に】
【ストックの管理】
【最後に】
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【このnoteについて】
 このnoteは当時会社員であった筆者が、自身の記憶障害の体験とその時に編み出したメモ術について書き留めたものである。
 私が記憶力に支障をきたしていた原因は強すぎる睡眠薬の副作用にあった。世の中には記憶できないことで困っている方々というのは、様々な原因によっていろいろといらっしゃる事だろう。目下、記憶ができないことで生活に支障が出ていて困っている方々の一助になればと書いたnoteである。筆者の赤裸々な病状の経緯詳細に触れていることもあり、今後有料化することもあり得るが初めてのnote記事なのでまずは無料公開する。似たような経験をした方々には是非ご一読頂ければ幸いである。

【はじめに】
 世の中には様々なハウツー本により、できるビジネスマンのタスク管理術や、ノート術、メモ術が溢れかえっている。このnoteはそういったハウツー本とは趣が異なる。冒頭の”記憶できない困った時の”という一文が味噌である。そう、これはできるビジネスマンの為のものではなく、記憶”できない”ビジネスマンの為のものである。
 人間常に意識を高く調子よく過ごせものではなく、体調がボロボロで生活に支障を来しながらも生活を放棄するわけにも行かない苦しい時期は誰しもあるだろう。そのような決して良い時期ではないときのひとつの支えになり得る知恵としてこのnoteに書き留めたい。

 ここで書いてある手法は筆者が単語の短期記憶がほとんどできなくなってしまった時期に仕事を支えてくれたメモ術を記したものだ。記憶できない状況の中で覚えておかなければならないことを管理していた実体験に基づいている。そして、その手法は極めてシンプルなものになる。
 その為、このnoteの確信の部分に当たる手法の解説の部分は前後の文章に比べボリュームが少なくなるだろう。その手法の部分だけ読みたいという方は私が体験した記憶障害の背景などをすっ飛ばして【究極のメモ帳を常に手元に】の章に飛んでしまっても構わないだろう。

 尚、実際はビジネスマン以外にも主婦の方にも学生の方にも役に立つと思う。様々な原因から来るであろう”記憶ができない症状”と付き合いながら普通の生活を成立させる為のメモ術として参考になるに違いない。

【睡眠薬の副作用で記憶できない】
 そもそもの記憶障害に困らせられた切っ掛けは不眠症からであった。歳もアラフォーと呼ばれる範囲にさしかかり、仕事の責任もそれなりに増えてきた年、ある日を境に突然夜眠れない日が始まった。
 眠れる眠れないに関わらず次の日の仕事に支障をきたしてはいけないと、ベッドに潜ってはいるのだが、深夜2時、3時に至っても意識が鮮明なままなのだ。明け方5時前後の記憶がやっと無くなることで、明け方少し眠れたことを自覚する、といった具合の毎日だ。昼間は仕事中もぼーっとしてイージーミスも増加する。
 これではたまらないと早速不眠が始まった週の週末に会社の近所の心療内科に足を運んだ。睡眠薬を処方して貰い、眠りにつくことはできるようになっていったが、結局その後1ヶ月ほどで診断名が適応障害に変わる。適応障害と不眠症という状態を睡眠薬で維持しながら仕事を続ける生活が始まった。(このあたりの体験はまたいつか別の機会でその詳細を記すことができればと思う。)

 睡眠薬というのは処方されるとずっと同じものを飲み続けるというものではない。体がその睡眠薬に慣れて効果が薄くなっていってしまう為、徐々に強くしていかなければ同じものでは眠りにつけなくなっていくのだ。定期的な血液検査をし、睡眠薬や安定剤を副作用を見ながら調整し、徐々に強くなっていく睡眠薬で眠りを保つということを隔週の通院で繰り返す生活を続けていた。 

 短期記憶が定着しなくなってきたのはその生活が半年ほど続いた頃からであった。1分前に確認したタスクを思い出せなくなることが頻発し始めた。
 後に心理カウンセラーとセカンドオピニオンの心療内科医によって記憶障害の原因が強すぎる睡眠薬にあることが判明するのだが、それまでの半年弱の間、この記憶障害と共に会社員としての生活を送らねばならなかった。
 記憶力が低下する前はスケジュール帳とすべての事柄を集約した一冊のノートで仕事のTODOリスト管理から打合せのメモまでを纏めていた。この、あえて複数の(例えばプロジェクトごとの)ノートに整理せずに、一冊のノートにすべてを纏めるというのはビジネスマンなら一度は聞いたことがあるノート術だろう。

 会社員はとにかく並行処理でやることが多い。その日の仕事を進める中でも常に飛び交うメールを注意深く観察し、刻一刻と変化する状況に応じて滞りなく状況が脱線しないよう補正の為の指示をメールや電話、チャットツールなどで適宜最適な手段で指示を飛ばしたり、報告をあげたり、出動を要請したりを行っている。もちろん日々のルーチン業務をやりながらのバックグラウンドとしてのことでだ。
 当然ながら総務から提示される期日までの経費精算、日報入力、業務報告確認等々の会社のシステム的な作業は言わずもがな。健常者の会社員にとってはこれを聞いても「まあ当然だよね。」と思われるかもしれない。
 しかし、人間常に健康とは限らない。調子が悪いときのこの”当然の業務”はもう聞いて想像してしまうだけで頭が痛くなるというものだ。(頭が痛くなるのは私だけではないと願いたいが…。)

【短期記憶テストを受ける】
 手で水をすくって指の隙間から水が零れ落ちるがごとく、手のひらに記憶が残らないという生活がはじまった時期はやや曖昧ではある。半月ほどの間でグラデーションのように少しづつ記憶の欠落が増えていった。
 メモ帳にすべてのタスクを書き出すという生活を初めて2ヶ月ほどで睡眠薬の処方をみた心理カウンセラーにセカンドオピニオンを勧められる。セカンドオピニオンの心療内科で主治医切り替えの準備の現状把握の一環として認知機能検査を行った。

 その検査は初めて受ける類のものだった。大きく単語リスト記憶、物語記憶、図形模写、数字記憶が主立った検査項目だった。自分ができるものとできないものが極端に鮮明化された。物語記憶、図形模写、数字記憶を何ら問題なくこなしたのだが、自身でもぎょっとしたのが単語リスト記憶であった。ランダムな単語が10個読まれ、記憶できている単語を暗唱するというものだ。単語は具象的なものや抽象的であったり概念的であったりと様々だが一単語として読まれる。
 10個の単語が読まれ終わり「それでは今の10個の単語を暗唱して下さい。」と言われてからが嫌な汗が止まらなくなった。読み終わった直後だというのに10個もあったうちの半分はおろか、2個しか暗唱できなかった。その後4、5回読み上げては暗唱するを繰り返したのだが結局満点に至ることはなかった。そして集中力が切れたせいか、5回目は4回目より暗唱できた単語数が少ないという有様である。

 これでは日常業務でタスクひとつひとつのリストを記憶できるわけがない。仕事では繰り返し暗唱してくれる人はいない。指の隙間から零れ落ちていたタスクリストが傾向として実に8割に上っている事が明らかになった。いち会社員としてはこれ程ショッキングがテスト結果は無かった。自身の会社員生命に不安を抱かざるをへないものであった。
 結局、セカンドオピニオンの医師指導の下、一部の強すぎると判断された睡眠薬の処方を調整して貰うことでだんだんと記憶障害は鳴りを潜めるのだが、短期記憶が病前の状態(又は通常時のタスク管理手法に戻った状態)まで持って行くのに半年程の時間がかかった。

【究極のメモ帳を常に手元に】
<まずは基本の大切な点>
 前章で綴った悪化期から回復期の半年程の間に記憶を留められない私のメモ術は平常運転を保つことのみに目的が絞られ合理化され、また洗練されていった。

 この時の私は完全に鳥頭という状態である。三歩歩けば忘れてしまうのだ。その為、「これをやらなくては」と気がついたが最後、三歩歩く前にメモをとる、を一日中繰り返した。タスクリストの記憶を脳に入れることは最初から放棄して手元のメモに完全に落とし込んで常にぎゅっと握りしめて生活をするのである。
 常に手元にメモの塊を握りしめている様子はさながら短期記憶領域の外付けHDを抱えて生活しているに等しい姿だった為、この方法を敢えて”メモ術”とせずに”記憶管理術”と呼んでいる。まずはこの外付けHDに全てのことをメモするぞという姿勢がこのメモ術の基本となる。

<究極のメモの作り方>
 ここから具体的なメモ帳の作り方とその運用方法の解説に入る。恐ろしくシンプルである。まずは私が用意したのはA4サイズのコピー用紙を半分に折ってA5サイズにカットした紙の束100~200枚程度分である。これをダブルクリップで留めて束にする。以上。どうだろうか、拍子抜けしただろう。
 しかし、様々なメモやノートを試した結果、記憶を外に追いやり整理把握するのに最も合理的なメモのあり方はなんと単なるコピー用紙のバラ紙の束だったのだ。そしてA5というサイズ感は束にしたとき片手に収まり常に持ち歩くのに適している。且つ私が書きやすく読みやすい文字の大きさで10行強が収まるサイズになるという点もA5が丁度良いとした理由だ。

 ここに書く内容は本人の記憶力の状態にも依るのだが、私の場合はもう仕事をするにあたっての箸の上げ下げレベルまで書き込んでいった。
 一日100通以上届くメールの中には重要だが内容が深すぎて一旦後回しにするメールも出てくる。そういうメールは「●●さんのメールを読む」「●●さんのメールに返信をする。」と細かく分けて書き込んだ。メールを読んでやるべき対処が増えた場合は読み終える前にメモに「▲▲さんに●●さんの依頼に関わる確認依頼」等も書き殴りながらメールを読んでいく。そう、三歩歩けば忘れるのだ。三行読んでいるうちに対処の方を忘れてしまうかもしれない。そういう気持ちで箸の上げ下げレベルをメモに落とし込んでいった。

<ある日のメモ例>
 下記にある日のメモの例を書いてみよう。それぞれがA5の紙片に書かれている。例えば一日のはじまりにメールチェックをしながらメモ①を作る。
 ここで必ず守らなければならないルールがある。すべてのメモ用紙の右上に日付を書き込む事である。そもそも記憶力が定かで無い状態だ。ここで何月何日のメモかを書かなければ、このメモがいつのものだったかを記憶から引き出せるとは未来永劫無いという心構えである。

 そして基本的にはメモ①で箸の上げ下げレベルのタスク(実際は一日分だとこの調子で数枚のタスクメモになってしまう。)を完了したものから色ペンで削除線を引き片っ端から片付けて潰してゆくのだ。更にここでは7行目の「・●●●●で起きた設備問題の調査」が大切だ。これは最初のメモ①の紙面の中では処理しきれないタスクの集合になる。その場合はメモ②のように●●●●問題の別紙タスクメモを作る。メモ②のタスクがすべて潰せたらメモ①のタスクの●●●●問題のタスクを一行削除線で潰していくのだ。

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メモ①          2021.●●.●●

・タイムカード打刻
・始業報告メール
・●●さんのメールへ返信
・◆◆さんの報告書確認
・○○さんへ○○○○の依頼をする。
・▲▲の図面チェック
・●●●●で起きた設備問題の調査⇨別用紙行き
・交通費精算
・残業時間の確認と控え
・今週の直行直帰申請
・終業報告メール
・タイムカード打刻

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メモ②          2021.●●.●●

・●●●●設備問題

 →設備図面確認
 →関係者ヒアリング(◆◆さんへ指示メール打つ)
 →発生事実の纏め
 →過去の類似問題の有無(○○さん▽▽さんメール)

  ⇨■■施設にて類似事例あり
   ・当時の対処法…□□□□□□□□

  ⇨●●施設にて類似事例あり
   ・当時の対処法…○○○○○○○○

 →その他見解ヒアリング集め

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 この要領でメモを作っていくと私の場合は大体一日平均5~8枚のメモとなっていった。そしてバラ紙のいいところはノートや手帳と違い、常に重要なメモほど一番上に来るように順番を入れ替えやすいことだ。
 おざなりにしてはいけないメモほど上に置くのである。一日のメモの中では優先順位が高位ものほど上に来るように、目につきやすいようにする。
 またバラ紙の束の中では最上段が当日のメモになるようにする。降順で束の下ほど過去になるように完全時系列管理をすることも重要だ。
 その日のうちに削除線を引けなかったタスクは、次の日に必ず書き写し持ち越しタスクとして記録していく。その際色を分けて「持ち越し用潰し線」を引く。基本的には潰し線が引かれていないタスクが紙面に残らないようにして日々のメモを積み重ねていく。

 一日に何度かは、理想は一週間分、難しくても2、3日分のメモは常に見返し、放置熟成させているタスクがないかを常にチェックし続ける。中にはストレスから意識的や無意識的に目をそらしているタスクが出てくるのも人間というものだ。調子がいいときも悪いときもそういう残存タスクを眺めることが重要である。
 常に見てさえいれば今が駄目でも未来の元気な自分が手遅れになる前に回収してくれるはずである。目を逸らしたくなるようなタスクでも強い精神をもって未来の自分に託すと思ってきちんと書き留め続けることはとても大切だ。何せバラ紙の束はただのメモ帳ではなく自分の記憶領域の外付けHDなのだから。

<バラ紙ストックの管理>
 こうやって過ごしていくと一ヶ月でおおよそ100〜150枚前後の紙の束ができあがっていった。将来何かあったときに当時の記憶を辿る術はこのバラ紙を見るより他ないので、ひと月ひと束といったかたちで紙束にして過去の古いノートと一緒に保管していった。
 あまりに紙の量が多すぎると持ち歩けないので大体一ヶ月分の履歴を鞄に常に入れて持ち歩いていた。そして手元には将来半月分程度のまっさらな紙束だ。そうすることで時系列で箸の上げ下げレベルの思いつきの集積が見える化した履歴として、書棚、鞄、手元に常に蓄積されていった。

 そんなことまでいちいちメモをとっていたら効率が落ちるのでは?という疑問もあるかもしれないが、些細なメモもすべてとるといった習慣は呼吸するようにできるようになってみると、作業効率に対しての悪影響は意外と少ないものであった。(あくまで少ないであって全く無いではない。)

<バラ紙メモ術の弱点>
 最後にこのメモ術で一定期間を乗り切った私の感想としてこの方法の弱点もお伝えしておく。とにかく漏れるタスクを最小限に食い止め会社員として安全な業務遂行を維持することのみに特化したメモ術となる。
 このひたすらタスクを潰していくだけの管理術だけでは欠落してしまうのが、概念図や系統図などで頭を整理する作業が必要なクリエイティブで体系的な思考を維持するためのノート術で得られるような効果は期待できない。
 健康で余裕がある状態ではないが故に必要な手法である為、こればっかりでは単なるタスク処理マシーンと化してしまうリスクがある。その為、生産的で発展的な発想が求められる会社員が長期間この方法のみに溺れるわけにはいかないという点は要注意ポイントである。

【最後に】
 以上が、私のバラ紙方式の記憶管理メモ術の具体的な内容となる。
 こう文字に起こしてみると大変あっさりしたシンプルな手法で一部の方は拍子抜けする方もいるかもしれない。だが、普通に横綴じしてあるノートにメモを書き殴って管理がうまくいってない方には是非とも騙されたと思って真似して試して頂きたい。
 手が小さい方はもう一回り小さいB判規格用紙でアレンジしてもいいかもしれない。なんにせよ会社員なのに短期記憶が8割方頭に残らない中、細かすぎるタスクを記録、処理、管理、保管する為に行き着いた最も合理的だったメモの究極形がこの手のひらに収まるバラ紙の束という結論だったのである。バラ紙記憶術は”メモの究極系は綴じてすらいない単なるバラ紙の束こそが最も合理的”なのだというコロンブスの卵的なメモ術アイデアなのである。

 普通の会社員であれば8割もの短期記憶を留めておけない時点で業務続行不可能というのが一般的な見方になるだろう。しかし、私はある程度の業務量調整とこの管理術で漏れの無い業務遂行を半年程ではあるが続行できた。
 人手不足の世の中、社会人は突然明日から会社に出なくなるというのもなかなか難しいのが現実である。主婦の方などはそれこそすぐに後任を見つけるといった会社のような話ですらない。極端な話、これはあくまで非常事態にある人の為の手法でもあるので、引き継ぎ先の担当者を見つけるまでの限定期間の手法として取り入れてみるだけでも充分なのだ。

 一時的に記憶ができないという苦しい状況をミス無くしのぎきる為の有効な手法として、似たようなすべての境遇にある方々には是非参考に活用して貰えれば大変嬉しい限りである。

おわり

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