【溺れる君】御前家の六男
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「ぼくは御前家の人間です!」
ぼくはいきおいよく立ち上がり、チカラのかぎりさけぶ。
「日本で一番のおかねもちの六男……でも、オメガでした。兄たちみたいなサイノウもないぼくは下の下の下なんです。そんな、ぼく、を……あなたたちの、か、ぞくに、なん、て」
たくさん言いたいことがあるのに、のどにつまって出てこないからうつむいたぼく。
その代わりに目があつくなって、ポロポロとなみだがこぼれていく。
テーブルにしかれたしろいものをグシャと握っても、モヤモヤしたままなんだ。
「そんなん、関係ないやろ」
つめたく言ったのに、ぼくは引きよせられて顔を上げた。
「お前が今、存在している……それだけでええ」
まっすぐな目とおちついた声で僕に言ったトトはゴクゴクとコップのなかみをのむ。
なにげなく言ったけど、僕はそのことばにすくわれた。
「あら、私と一緒じゃないの」
うしろにぬくもりを感じたとたんにぐらんぐらんとあたまをゆらされるぼく。
「ここは三種の性も種族も関係ないのよ……男か女かも障害の有無もね」
ほほえんだ顔がはじめてであった時のようちゃんの笑顔によくにていて、おもわず見つめてしまう。
「もう、かわい~い~♪」
こんどはガシガシとあたまをなでられるから、シカイがぐるぐるしはじめた。
カッコいいトトと力が強いカカ……やっぱり面白い人たちだ。
「オメガといえば、千佳(ちか)もやし夜彦もやな」
やひこにしろいぬので口をふいてもらいながらトトはポツンと言う。
口のまわりにアカいものをつけ、ボーっとしているトトを見て、心の中で笑った。
「あら、奇遇でごさいますね」
やひこはおほほと笑い、また右の目をパチンとする。
「アルファは百樹(ももき)さんと陽太よね?」
カカはふふっと笑って、ぼくの目のまえにごはんとおはしをおく。
「ゆーたんは将来俺の番だから♪」
キゲンよく、今にも歌いそうなようちゃんの方を見ると、ニコッと笑ってくれた。
「ベータは……?」
なんとなくきいてみたら、ふふんと鼻をならす音がきこえてきたからその方向を見たぼく。
「みてわかるやんか、ぼくぅだよ?」
ニヒッと笑う人が向かいのイスににすわり、ほっぺたに手をついていた……それはまひる。
感情がはっきりしているし、ムキムキでよくうごくからだだからてっきりアルファだとおもっていた。
フツウのベータなんて、だれがおもうのだろうか。
「おんまえだか、みたらいだからしらんけど……きょうからあさひゆうまやからな? にいちゃんのいうこときいとけば、わるいことはせんから」
ニヒヒと笑うまひるの顔はあくまにしか見えなかった。
のみもののアカみが口のまわりについているのでよけいにコワい。
むちゃくちゃなことを言われたらどうしようと不安になっていたら、大丈夫とあのあまい声がきこえきた。
目のまえにおみそしるとやき魚がおかれる。
「マーにぃ。あんま意地悪なこと言うと……血、もらえなくなるよ」
より低い声で言ったようちゃんにまひるはハッとして、もうしわけなさそうな顔に変わる。
「ごめんちゃい! なんでもやるから、それだけはかんべんしてぇな」
小さい手を合わせ、あたまを2回下げるまひるにそんなにぼくの血が大切なんだとびっくりした。
「だ、大丈夫だから……吸いたい時は遠慮なく言って」
ぼくがそう言うと、まひるは花がさいたようにほほえんだ。
「ひる、よい弟で良かったでございますね」
「さすが、おれの息子やわ」
「鳶が鷹を生む……ね」
まひるの口もとをふくやひこのも
鼻がたかいトトのも
まんぞくそうなカカのも
うれしかったんだけど
「ちゃんと言えたね……偉い偉い」
天使のような笑みを浮かべながら、あたまをなでてくれるようちゃんがやっぱり一番だったんだ。
続き
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