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粛清者

12
24000字完結!短く濃密な物語に仕上げました! 【あらすじ】 愛は規範の元に──。 正常性規範法。 同性愛、近親愛、その他の多様的な恋愛を全て禁じられ、違反者は厳しく処罰さ…
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記事一覧

#1

#1

 トマスとダニエルは、息を切らしながら走った。

 直線上に続くトンネルは、果てしなく長く感じられた。
 出口の光は、大きくなっているのだろうか──そんな不安がトマスの胸いっぱいに支配する。
 そんな不安を打ち消してくれるかのように、ダニエルはトマスの手を優しく包み込んだ。

「もうすぐ出口だ!がんばれ!」
「このトンネルを出られたら僕たち、やっと恋人になれるんだよね?」

 トマスの問いに、ダニ

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#2

#2

 セナは黒漆の革靴を鳴らして、白くて長い廊下を歩く。
 その最奥にある豪華な扉に立ち、ノックをすると「入りたまえ」と返事がかかる。

「失礼します」

 金色のドアノブを捻り扉を開けると「セナ」と女性の声がかかる。

「総統、お呼びでしょうか」

 総統と呼ばれた女性──レジーナはセナの立ち姿を見て微笑む。
 前髪を覆うほど長い金髪に、総統のバッチがついたブラウン色の軍服とズボンの制服、黒い帽子を

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#3

#3

『あんたを産んだのは、間違いだった』

 セナは母の最期を、よく覚えている。

 母は同性愛者だった──だが、それを隠して男と結ばれ、セナを産んだ。
 自分に嘘をつくのに限度があったのだろう。母はセナとの家庭を築きながら、別の女性と愛し合っていた。
 その女性は、母の横で真っ黒な焼死体となって転がっている。
 母の抱きしめるハードカバーの本には『カラーパープル』と記されていた。
 寄り添う黒人女性

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#4

#4

「また失敗したのか?」
「申し訳ありません、総統」

 レジーナは「そうだ」と思いついたように、

「もういっそ、私と結婚するか?」

 セナは顔を上げた。

「ジョークだよ」
「そうでしょうね」

 レジーナのジョークは、時折とんでもないので全く笑えないことがある。
 先代は細かい言葉遣いや所作に非常に厳格だった先代の頃と比べて、彼女はこうした酷い冗談を言うことがあるため、内心ひやっとする。

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#5

#5

 一歩、また一歩と踏み出し、森の中を駆ける。
 足元は濡れた土で滑りやすくなっており、泥がブーツを汚すが、セナは躊躇なく走った。
 その手にはトリガーに指のかかったガンフェルノが輝いており、首謀者をすぐにでも射殺しようという、明確な殺意がこもっていた。

 足を止める──がさり、と自然音とは違う草むらの揺れる音がした。
 セナはその音源へと目を向け、一瞬の躊躇もなくトリガーを引く。
 弾丸で引きち

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#6

#6

「ただいま、お客さんよ」

 クロエは樹木の扉を開き、中の人間に声をかける。
 セナはゆっくりと歩を進めて、樹木の中を覗き込んだ。

 てっきり洞穴のようなのを想像していたが、中は意外にも天井のランプで照らされ、廊下に両側に取り付けられた扉が見える。

「そいつ、粛清者じゃねぇかよ」

 わらわらと出てきた人々のうちの一人の男が、ずいっと出てきてセナのことを睨む──反応としては案の定といえよう。

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#7

#7

「はぁ──ふぅ──」

 まだ体の震えが止まらない。
 ベッドの上で横たわり、息を荒くするセナの姿を、クロエは満足気に見下ろしていた。
 七年間、セナは様々な男と体を交えてきたが、一度とて気持ちいいとは思ったことがなかった。
 少しでもまとまな男を見繕おうた思ったが、体はどこまでも正直だった。
 本当は分かっていた──クロエと抱き合えば、気持ちよくなれることくらい。ただ、認めたくなかっただけだ。

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#8

#8

「セナ・フォスターだ。改めて、よろしく」
「クロエの紹介なら、しょうがないな。レオ・ベルトランだ」

 正式に仲間になることを決意したセナは、レオと握手を交わす。
 前に隠れ家に訪れた際には敵意剥き出しだったにも関わらず、すんなり認めてくれたようで安堵する。

「分かっていると思うが、裏切ったりしたら道連れだからな」

 ──前言撤回。まだ信用はされていないようだ。

「お兄ちゃん、この人は大丈夫

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#9

#9

「セナ、3つ聞きたいことがある」

 非番が明けると、セナは早速、レジーナ直々の呼び出しがかかった。

 彼女はいつも通り、紅茶を淹れてセナに差し出してきた。
 いつもと比べて、明らかに紅茶の味が濃い。普段と比べて、明らかに空気がぴりぴりしている。
 既に嫌な予感がしていた──まさか、クロエとの密会が漏れて……?
 そんなはずは──細心の注意は払ったはずだ。

「ここのところ、体調は大丈夫か?なに

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#10

#10

「セナ、最近来るのが遅いじゃないか」

 レジーナは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「すみ……ませ、ん……」

 その向かい側には、ぜぇぜぇと息を切らすセナが立っている。
 いつもは余裕のある足取りでやってくる彼女が、時間ギリギリで、しかも走ってくるなんて、怪しくないという方が無理な話だろう。

 すっかり温くなった紅茶を寂しげに見下ろしながら、レジーナは「その──」と切り出す。

「前にも聞いたと思

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#11

#11

 クロエの粛清が終わると、セナは焚火モービルの後部座席に乗せられた。

『更生所で真っ当になって、また君と紅茶を楽しめることを祈っているよ』

 去り際に放たれたレジーナの言葉が何度も反芻する。
 頭の中で囁かれる度に、セナは奥歯が砕けそうなほどに噛み締める。

 憎い。
 憎い憎い憎い。

 よくもクロエを……それも、あんな残酷な方法で。

 肌に灯油をかけられ、じりじりと全身を燃やされる苦痛と

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#12 (最終回)

#12 (最終回)

 レジーナの宮殿の姿が近付いてくる。
 セナは後部座席から焚書用の灯油ポリタンクを掴み取ると、キャップを開けてアクセルの踏み台に置いた。

 足元が灯油に浸っていくのを見た後、セナはモービルか飛び降り、そのまま車体に向けてトリガーを引く。
 灯油で満たされたモービルに火が燃え移り、炎を纏ったまま加速していく。
 無人の燃え盛るモービルは、やがて宮殿の階段を駆け上がり、入り口前でエンジンに引火して爆

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