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岩井俊二監督『チャンオクの手紙』から『チイファの手紙』『ラストレター』へ

2017年制作(日本、韓国)
監督、脚本:岩井俊二
キャスト:ペ・ドゥナ、キム・ジュヒョク、イ・ジュシル、シン・ウンス、チョン・ジュンウォン

『チャンオクの手紙』は、岩井俊二監督による、4話からなる短編ドラマ。タイトルにあるチャンオクは、ペ・ドゥナ演じるウナが面倒をみる義母の名前である。

ウナは、ごく普通の主婦である。夫は長男であるという責任感からか、手術をして介護が必要な母親を施設に入れず、引き取ることにした。しかし、実際に面倒を見るのはウナで、夫はおろか、子供たちも手伝おうとしない。

威張り散らし、わがままな義母の面倒を根気強くみるウナ。ただ、友人との食事で義母を敵と言ったり、義母のへらず口に対しても、言い返してしまう図太さもある。

夫は義母の世話に対して非協力的である上に、夫婦喧嘩の際には、自分が働かなかったらどうする。仕事で苦労しているのだと、ウナに対する思いやりは一切ない。義姉は、ウナに申し訳ないというが、ウマが合わない母親を引き取る気はない。

とびきり不幸なわけでもない。けれど何だか疲れる。色のないただ過ぎていく日常で、変化が訪れるのが義母の死であった。遺品を整理していたら、チャンオクからの手紙を見つける。しかし、その手紙はウナ以外の家族宛で、ウナへの手紙はなかった。

一番世話をし、頼りにされていると思ったが、血のつながりには勝てないと言うウナに夫はそんなことない、親子だからこそうまくいかないこともあると言う。そして、チャンオクからの手紙をみせる。

“面倒をみてもらっている立場なのに、わがままを言ってすみません。最後まで謝れませんでした。ウナには本当に迷惑をかけました、ウナだけは大切にしてください”

意地っ張りな義母らしい手紙にウナは、「笑っちゃう、その通りなんですけど」と言って涙を浮かべる。本ドラマの良いところは、そこで終わらず、後日普段はしないのに、ウナのために子供たちは朝食を作り、夫は映画に誘う姿を映し出したところだ。

義母の遺影に向かってウナは、「いつまで続くかしらね」と独白する。ああ、家族ってそういうものだなあとしみじみと思う。時にぶつかって、すれ違って、大切さを実感して。でも「ありがとう」と言うのも、言われるのもなんだか照れくさい。

優しさを感じるドラマであったが、どうも引っかかるところがある。あまりにも日本の家庭すぎて何だかしっくりこないのだ。それは韓国映画をよく見ているから感じる違和感なのかもしれないが……。

その上、スマートフォンなどを使っていることからして舞台は現代なのだと思うが、そうなるとウナが専業主婦というのが引っかかる。介護のため仕事をやめている可能性もあるが夫婦喧嘩での夫の発言を鑑みても専業主婦のような気がする。

そもそも韓国映画やドラマを見ていて専業主婦というのは殆ど見たことがない。子供が赤ちゃんならまだしも、小学生~中学生くらいの子供がいて専業主婦はあまりいないのではないだろうか。日本でもそう多くない気がする。

夫の妻に対する、自分は外で仕事をして苦労しているだの、妻は義母との関係や家のことをうまく対処すべきだの、考え方がどうも全時代的。韓国における家父長制との問題とも少し問題点が違う気もするし、何だかチグハグな印象を受けるのだ。

日本らしい、自己犠牲の上に成り立つ主婦像。確かに日本キャストだとしっくりくるかもしれないが…しっくりきてしまうのもいかがなものかとここ近年私は思っている。

面倒くさいことを言っているようだが、このような違和感はすなわち、リアリティのなさに繋がるのではないだろうか。ジェネレーションギャップで済まされてしまうものなのだろうか。

『チャンオクの手紙』の配信は2017年で、今から6年前ということになるが…全てがひと昔前の家族のテンプレをいまだにずっとやっている印象を受けるのである。

これはこの作品だけでなく日本のさまざまなドラマ、映画にいえることかもしれない。ここ10年以上、古いテンプレートからの脱却がしきれていない。少しずつ変化はしているが、しきれていない。

うまく言えないもやもやが残るドラマであったが、そのもやりは『チイファの手紙』、『ラストレター』では感じなかったものであった。

『チャンオクの手紙』を長編化したらどうか、ということで企画・制作されたのが『チイファの手紙』である。韓国ではなく中国のキャスト陣で舞台も中国へと変わっている。更に『チイファの手紙』を日本で映画化したのが『ラストレター』である。

『チイファの手紙』、『ラストレター』は、細かい違いはあれど、大枠として内容は非常に似通っている。舞台やキャストの違いがそれぞれに変化を与えているようなものだ。『チャンオクの手紙』との共通点は、手紙が物語の核にあることや、主人公がごく普通の主婦であることであろうか。

短編ドラマであった『チャンオクの手紙』から、姉妹そして母と娘を繋ぐ初恋の物語を加えたことで手紙から広がる関係性に深みとエモーショナルさが加わっている。このロマンティックな設定の方が気になって『チャンオクの手紙』で感じた違和感がその2作ではあまり感じなかったのかもしれない。

『ラストレター』は、エモーショナルな展開にかえって盛り下がってしまったため、空気感でいうと『チャンオクの手紙』の方が好感だが、総合的には『チイファの手紙』が一番好感であったかもしれない。



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