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「軍艦・工作船・ダイヤモンドプリンセス」-- 船を見て色々考えた 横浜みなと散歩

のどかなGWの横浜港

ゴールデンウィーク初日。特に旅行の計画は無し。でもどこかには行きたい。明日の天気予報は雨。さて、どこに行こうか。本当は一般的な行楽地ではなく、何か新たな発見がある場所に行きたいのだが、考えた挙句、結局思いついたのが、横浜。やはり故郷が神戸ということと関係があるのか、ないのか。長い間海を見ないと落ち着かない。もう昼前だけど、とりあえず行ってみよう!

みなとみらい駅で降りて、臨海パークへ。
やっぱり港は、いい。開放的だ。天気も暑くもなく、寒くもなく、空も・・もうじき曇ってきそうではあるものの、青空。気持ちがいい!

目の前に米軍艦が

そんな爽やかな気持ちで、潮風を感じながら、目を海の向こうに移すと・・・
ん?あれは何だ? 
休日の公園には似つかわしくない雰囲気の船が泊まっている。

その近くに、もう一隻。灰色の無機質な船体が、砲台が、穏やかではない。

旗が見えないが、自衛隊の艦船か?

いや、実はこの公園のすぐ向かいは、米軍の「ノースドック」という施設なのだ。

横浜を代表するこの港の、市民や観光客の憩いの場所のすぐ目と鼻の先に米軍施設があることは、地元の人以外はあまり知らないかもしれない。瑞穂埠頭の55haを占めるノースドックは、米軍の輸送拠点になっているのだ。

ネットにある情報を集めてみると、どうやら最初の船が米海軍の高速輸送艦、そして二隻目が音響測定艦のようだ。

このノースドック、実は今年に入ってニュースに登場していた。1月に開かれた日米の外務・防衛の大臣級会合、いわゆる「2プラス2」で、このノースドックに米陸軍の280人規模の小型揚陸艇部隊が新編されることが合意され、4月中旬、つまりほんの2週間ほど前に完了したようなのだ。

横浜市や神奈川県も、不明な点をクリアにさせるよう、国に要望して米軍に回答させているが、不安は全て解消されているわけではないようだ。
(神奈川県のHPより↓)

https://www.pref.kanagawa.jp/documents/20686/20230414.pdf


北朝鮮の工作船

やはりこういう現状を見た後は100%休日モードになることもできず、少し複雑な気持ちを抱えたまま、観光客の流れとともに、山下公園の方向に向かって歩いてみる。

すると次に目の前に現れたのは、こちらの船。海上保安庁の巡視艇「あきつしま」だそうだ。

すぐ隣には、「海上保安資料館横浜館」と書かれた蒲鉾型の建物が。
なんとそこには、「北朝鮮工作船展示」とあるではないか。

北朝鮮?工作船?
これまた、連休のみなと散歩には似つかわしくないものが出てきた。
でも、さっきのアメリカ軍艦で、すでに自分の中のモードは変わっている。気になる。見に行かない手は、ない。

中に入ると、空間いっぱいに、ドーンと一隻のボロボロの船が鎮座している。
全長33メートル、44トンの船だ。

これは、平成13年(2001年)に九州南西海域に出現した不審船だという。

海上保安庁の停戦命令を無視して逃走した末に、海保の巡視艇と銃撃戦になり、3人の保安官が負傷。不審船は最後、自爆したという。

船体の銃痕が生々しい

不審船の内部も見えるようになっていた。

そして、中から見つかった数々の物は、この船が北朝鮮の工作船だったことを物語っていた。

ロケットランチャー、機銃、自動小銃、手榴弾などの武器・・・

これにまたがって岸に近づくのだろうか。水中スクーターまで見つかった。

このほかにも、金日成バッジ、朝鮮語の表記があるタバコ、自爆のための起爆装置などの品も。

そして、階段を上がると、上から船体を見ることができ、そこでは停戦命令から銃撃戦、自爆に至るまでの映像が上映されている。昔ニュースで見たことのあるシーンで、見るとすぐに思い出した。

館内の説明によると、この事件翌年の日朝首脳会談の場で、今のキム・ジョンウン総書記の父親、キム・ジョンイル国防委員長が、軍部の一部が行ったと思われる旨の発言をしたため、総合的に判断して、この船を北朝鮮の工作船と断定したとのだという。日本国内での工作や覚醒剤の密輸に使われていたという。

展示を見終えて、最前線で今も文字通り命をかけて任務に当たっている海保の人たちのことを考えた。と同時に、この船の中で命令に従って工作任務にあたっていた北朝鮮の乗組員のことも想像した。ニュースで国名を聞くだけではなんとも思わないことも、こうした物を見せられると、どうしても想像してしまう。どんな人たちが、何を考えて、家族から遠く離れた海の上のボロボロの船内で仕事をし自爆したのか。一生会うことも理解することもない人たちのことも、考えてしまったのだった。

いやあ、なんとも。
すっかりゴールデンウィーク気分も吹き飛んでしまった。

平和な時間は、こうした危機を予防し対処する努力や、微妙な外交や安全保障のバランスの上に成り立ち、それをめぐる様々な、複雑な課題も未解決のままであることを、否応無しに意識させられることになった。

あの、ダイヤモンドプリンセスが

そうした気持ちのまま、山下公園に向かって歩き続ける。
さあ、次は大さん橋だ。やっと、あそこのデッキでゆっくりできる。
・・・と思っていたら、今度は大型客船が目に飛び込んできた。

美しい。一度でいいから乗ってみたいもんだな、とボーッと見ていたら・・・

懐かしい名前が書かれている。

「DIAMOND PRINCESS」

えっ!?あの、ダイヤモンドプリンセス号か!
世界中がパンデミックで苦しむ最初の段階で、船内に患者が出て長い間現世から隔離されて、世界中が知ることとなった、あのダイヤモンドプリンセス号か。
(ちなみに中国語では、钻石公主号 zuànshí gōngzhǔ hào だったかな)

スマホで見ると、そうだ。前の寄港地が長崎。この後午後5時に青森に向けて出航するとスケジュールが書かれている。

豪華客船の出港の様子は見たことがない。ぜひ見てから帰ろうと大さん橋に着くと、すでに多くの人が集まってダイヤモンドプリンセス号を見上げていた。

まさに、洋上の高級ホテル。
私は、やはり三年前のあの悪夢のイメージがどうしても残っているのだが、これに乗って旅をする時間とお金があれば、乗ろうと思うのかもしれない。

今回この船は国内航路だが、今年に入って国際航路も復活。そして横浜には五隻の豪華客船が同時着岸して全国初だとのこと。港ヨコハマの本来の姿が戻ってきた、そして多額の経済効果が期待される、と、地元テレビが伝えている。

さあ、まもなく午後5時。出港の時間が迫ってきた。

奥はみなとみらい地区 海上保安庁の巡視艇も見える

大さん橋のスピーカーからは、何か物悲しい音楽が大音量で流れ、その場の包み込む。そして、目を上げると、船のデッキには無数の人たちが出て、こちらに向かって手を振る人も。桟橋の私たちも、船上の人は赤の他人なのに、なぜだか寂しい別れのような不思議な気持ちになり、気がついたら手を振っていた。

ボーッという汽笛の音は、何度聴いても、いい。低音で空気がビリビリっと震えるような感じが、いい。

ダイヤモンドプリンセスの巨体は、ゆっくりと岩壁を離れていく。

船が離れるにつれ、私たち桟橋の人たちも一番端まで移動し、いつまでも船を見送っていた。

横浜ベイブリッジをくぐるダイヤモンドプリンセス 左はまた別の豪華客船 2隻並ぶ姿は壮観

船が見えなくなるまで見送った桟橋の上の私たちは、静かに、爽やかな気持ちで桟橋を後にした。

今日は、ただふらっと港でも見ようと思って来ただけだったのに、こんなに印象深い一日になろうとは!


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きょうも最後までお読みいただき、ありがとうございました。
AJ 😀


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