惨劇で世界が震撼した日、中国では? 〜定点観測・「中国」のウクライナ報道〜
住民虐殺の映像が世界に溢れる日、中国では?
ウクライナ情勢をめぐる国内外の報道。ここ数日、いくらモザイクをかけても、心への負担を軽減できない、あまりに残虐な映像で溢れている。人間の心には防衛本能があるようで、最近は戦場の映像を見ても、慣れて、以前ほどの衝撃を受けていないような気がする。しかし、今回の映像だけは、もうその防衛本能も何の役にも立たないほど残虐で、無意識のうちに、心が悲鳴をあげているように感じる。
「(人口の計算上は)世界の五人に一人が視ている報道」として、これまでチェックしてきた中国国営放送CCTVの夜7時のニュース「新聞聯播(xīnwén liánbō=シンウェン・リエンボー)」は、きょう(6日)は、ウクライナをどう伝えたのだろう。
やはりいつものパターンなのか、世界を震撼させたブチャの衝撃的なニュースで、その伝え方に変化はあったのか。
今日もまじめな「定点観測」に、少しだけお付き合いください。
(注:この記事では政治的な議論や、特定の国や人種、職業などを一括りに批判することはしたくないので、ご協力をお願いします)
前回、前々回の記事は、こちら。↓
前回の記事を出した後、「SNSでは、国営ニュースではありえないような、ブチャの街の遺体も瞬間的に出回ったりしている」という現地情報をいただいた。また、「このニュースは普通の人は見ていない」「テレビの時代は終わった」など色んな見方があるが、私は敢えて、引き続きこの看板ニュースを「まじめに」定点観測していきたい。
それは、この番組が、中国社会で何がpolitically correctなのかを示す指標だから。そして、イメージで語らず、決めつけず、超大国中国が何をどう伝えたいのか、そして、何を伝えたくないのか、を冷静にウオッチすることは意味があると思うからだ。
「新聞聯播(シンウェン・リエンボー)視聴開始
まず、最初は「習近平国家主席が国交30周年でアルメニア大統領に祝電」
おっ、アルメニアと言えば、普段、小野寺翔太朗さんのnote「ナゴルノ=カラバフ紛争難民100人取材」で読んでいる紛争の当時国で、ロシアの同盟国。中国との関係についても色々知ってみたいが、この放送でそんなことは語られない。
そして、その後も、党での序列順に、幹部の動きに関するニュースが出てくる。
ただこれは、もう「定型」として決まっているもので、大袈裟な例を言えば。習近平総書記が動物園を視察したニュースが、王毅外相の重要な国際会議出席のニュースよりも先に來たりする論理だ。
で、ウクライナは、きょうも、番組終了数分前に出てきた
国際ニュースは、党や国の幹部が関わらないニュースは、どうしてもこの時間になってしまう。これも「定型」ではある。
まずは、「ロシアとウクライナが捕虜交換」
そして、下の画面の映像が、今日のウクライナニュースの中で、唯一の戦場の映像だった。廃墟を人が一人歩くだけで、数秒で終わった。
いつもそうだが、とにかく戦場の悲惨な風景をいかに大したことないように見せるかに尽力しているようにさえ感じる。
そして、「アメリカがまたウクライナに軍事装備を提供し、批判を受ける」↓
また、アメリカの批判だ。
ところで、誰から「批判を受け」ているのかと言えば、「分析人士(fēnxī rénshì=フェンシー・レンシー)」からだという。英語のニュースでも、"Analysts say…"などとよく言うが、「評論家が言っている」、ということだ。
その「分析人士」が、この方↓
ネパールの前外交官バタライさん?? 一体どんな方?なぜ、ネパール?「元」外交官?なぜこの方?何の権威?
その彼が、「欧米の動きは和平実現を破壊するものだ」と、中国の普段の主張通りに、欧米を痛烈に批判してくれている。
・・・また、いつものパターンのようだ。
そしてその後は、アメリカの新しい経済制裁にふれて、終わり。
ウクライナニュースに要した時間は・・・たった1分程度だった。
ブチャでの住民虐殺の話は・・・全くなかった。
さすがに、「全くない」とは思わなかった。
虐殺には触れた上で「ロシアは西側のでっちあげだと否定している」と言うのかな、と想像していたのだが・・・
国連での中国大使のスピーチ 風向きに変化?
しかし一方で、きょうは、国連安保理の会合で、中国の国連大使がブチャでの住民の虐殺について非難したというニュースが世界中で報道されていた。
中国のSNSでも速報ニュースとして流れてきたりした。
中国では、これまで全くロシアを非難してこなかっただけに、日本の報道では「中国の態度に変化か」などと話す人もいたが、どうもそんな単純なものとは思わない。
まず、国際社会向けなのか、国内向けなのか、ということもあるし(国内テレビは前述のようなわけだし)、あと、大使の発言自体をよく読むと、基本これまでのスタンスに変化は見られない気がする。
まず、虐殺行為自体は非難しながらも、ロシアがやったとする発言はどこにもない。そして、ロシアの軍事侵攻ではなく、あくまでも「ロシアとウクライナの軍事衝突」なのだというスタンスも何も変わっていない。
住民を襲撃するのはだめだ、と言っているだけなのだった。
ただ、映像のあまりの衝撃、それを見た世界中での非難の高まりを無視するわけにも、残虐行為を肯定していると取られることも避けなければならず、苦しい立場も見え隠れする気がする。
ーーー 今日のウオッチングは、ここまで。
実際に「何が、どう報じられているのか、いないのか(=いないのか、の方もすごく大事)」これからも、地道に愚直に、見つめていきたいと思う。
それにしても、こういう記事を書いていて、実は、ずっと何かが気持ち悪い。もやもやする。
中国だけでなく、伝えられるロシア国内での報道のされ方を含めて、惨劇を経験している現地の人たちが知ったら、どう感じるだろうかと。もし自分が彼らならどう思うかと。
自分の目の前で惨劇が起きたら、「”報道の切り取り方や視点の違い”もくそもない、今私の目の前で起きたことはひとつしかないだろ。頼むから、とにかくこれを世界に伝えてくれよ!」と思うはずだから。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
AJ 😀
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