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ささりすぎて眠れない文章本『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』【レビュー】

私はこの本をしばらく積んでいた。

タイトルや装丁も比較的かため。「朝日新聞の名物・名文記者の技巧25発」という帯のフレーズにも、むしろ取りつきづらさ感じてしまい手を出しあぐねていたのだ。正直、そこまで期待していなかったと言ってもいい。

それが昨日。夜子供を寝かしつけた後、やっと伊藤計劃さんの『虐殺器官』を読みおえ、次の本を選んでいたとき。目についた本書を私は「しぶしぶ」開いた。

――そして、私は眠れなくなってしまった。
その文章力の高さにおののき、内容の鋭さに打ちひしがれたのだ。


◇◇◇


『いい文章とは何か』

という問いには私自身いつも悩まされている。しかしこれにはすでに模範解答がある。どの本を読んでも一様に書かれていることだ。「いい文章」とは「ストレスなく読める文章」だ。
もちろん個人個人にとっての「いい文章」を突きつめれば、結局は「あなたが好きな文体がいい文章」ということでよいだろう。しかし広く大衆を見すえたときの模範解答は「ストレスなく読める文章」。これが正解といっていい。

本書では「ストレスなく読める文章」を作るために必要な技術や心構えが示される。それもかなり高いレベルの心構えを要求される。

例えば、読むと書くはセット、と前置きをしたうえで、「どれだけ読むか」ということには最低ラインというものがあると本書は説く。ではその最低ラインはとは? 
示されているのは「毎日2時間」という水準だ。しかもそのうち1時間は好きなものを読んでもよいが、残りの1時間は①日本文学②海外文学③社会科学あるいは自然科学④詩集をそれぞれ15分ずつ読むこと、と言うのだ。

専業で文字を書いているのであればともかく、仕事や育児をしながら2時間という時間を捻出するのはかなり難易度が高い。しかしにくいことに、そのあたりは著者も重々わかっている。わかった上で、トイレに行く時間や食事の時間などをひねり出せ。時間は作るものだ、と説くのだ。


これは一例に過ぎない。

そこまでやってこそ文章の神様は微笑んでくれるのだ。目の前に繰り広げられている圧倒的な文章力を前に、私たちはただひれ伏すしかない。


◇◇◇


ただ言うことをきいているだけであればまだ楽だったかもしれない。私にとって、一番問題だったのはストレスをなくすための「禁じ手」について語った部分だ。

鋭利なナイフを突き立てられているようなダメ出しの山がそこにあった。今書いているこの文章自体ヒドイとわかっている。私はそう知ってしまったのだ。もう戻ることはできない。

「常とう句を使わない」「オノマトペはあざとい」「としたもんだ表現」など、うすうす自分でもわかっていたのだと思う。だからこそ刺さるのだ。
この文章だけでもどれだけ常とう句を使っていることか……わかっているけど、本当に何も書けなくなってしまうので、今日だけは目をつぶってほしい。

面白くてどんどん続きを読みたくなるという本は結構ある。

しかし、突き立てられたナイフに縄をつけて引っ張られるような感覚の本にはなかなか出合うことができるものではない。


◇◇◇


自分の文章力のなさには毎日なげいている。

だからこそこうして、思い出したように文章本を読む。そして、多くの場合、こうして満身創痍になる。しかし本書にも書かれているように文章力も筋肉と同じだ。負荷を加え、筋繊維を傷つけて初めて大きくなる。そこには苦痛が伴うものなのだ。

「一番下の意識をもて」。そう本書は語りかける。

私も常々そう思っているつもりではある。しかしおごっていないと言えるだろうか。好みや評価とは別に、意識は常に「一番下」でなければならない。


本書は初心者よりも中級者くらいの方が刺さるのではないだろうか。思いあがって長くなった鼻を、これでもかとばかりにあかしてくれる。何度も読み直し、体に染みつけて行きたい一冊だった。


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