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目尻の小川と、ぼんやりする珈琲屋

目尻が汚れていた。


頬を伝ったような跡、ではなく。


眠っていたから、まるで、メガネのつるに沿うように。


もちろん、メガネはかけていなかったけど。


あくびの涙にしては、ずいぶんこびりついている。


眠っている最中に、泣いたとしか。


泣くような夢は、見ていないはずだけど。


それとも、覚えていないだけかな。


わからない。


昨日の朝のこと。


昨日の日中は、珈琲屋になっていた。


ぼくは、ときどき珈琲屋になる。


今のところ、ときたまにしかできないから、仕事とは言いにくい。仕事ではあるだろうけど。


パン屋さんで間借りしてもらっているので、店舗はない。


ので、どこかでお店をやっているんですか、とよく訊かれる。


今はないです、と応える。「今は」と言うものの、今後のことは、よくわからない。


普段は、べつの仕事をしているのか、と訊かれる。


はじめて会った人には、自宅で仕事をしている、と応える。なんの仕事をしているかは、言わない。大嘘だし。


実際は、人前で珈琲を淹れる以外にも、自宅でコーヒー豆の焙煎をしたり、勉強したりしているので、なにもしていないわけじゃない。


でも、仕事……。


未だに、仕事は何をしているのか、と訊かれると、うまく応えられない。


自宅で仕事をしている、が、一番いいか。なんの仕事かは、ごまかせるなら、ごまかして。


珈琲屋です、と言うと、相手によっては面倒なことになるから、言わない。


べつに、今のくだりは、目が覚めたときに、なぜか泣いていたこととは、関係ないのだけど。


今朝は、泣いていなかった。


なんだったんだろう、あれは。


今朝のぼくも、ぼんやりしている。

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