6/25
5:11起床。
天気は晴れ。
空気に、雨の名残りが混じっている。
ひとりぼっち。
1人?
独り?
そうだね、
どちらも。
昨日の夜は、
ひとりで過ごした。
ひとりの夜。
ヒトリノ夜。
サビ、どんなんだったっけ。
僕を、知っているだろうか。
いつも、傍にいるのだけど……。
いや、これは「愛が呼ぶ方へ」だ。
サビ、サビ……。
……何の話だったっけ。
ああ、そうだ。
僕は、
ひさしぶりに、ひとりぼっちになった。
いや、うそだけど。
アパートでは、1人で過ごすことの方が多い。
だけどね。
2日前の、日曜日。
1ヶ月ぶりくらいに、
2人の休みがかぶったのだ。
これまでも、
1週間に2、3回は会っていたけど、
ここ最近は、
どちらかが休みになっても、
その日の夕方から翌朝までしか、
いられないことが多くなった。
でも、
その日は、1日中いっしょにいた。
あれをしよう、
これをしよう……。
いっしょにやりたかったことを、
ここぞとばかりに、
たった1日の中に、
つめて、つめて、つめこんだ。
だから、かな。
昨日の夜は、
いつもよりも、しんとしていた。
もともと、1人で住んでいるくせに、
その夜は、1人でここにいることに、
妙な居心地の悪さを感じていた。
もそもそと夕飯を食べていると、
流しっぱなしのラジオから、
おちゃめな感じのする、洋楽が流れてきた。
……ん?洋楽?
それにしては、ずいぶん聴き覚えのある……。
……あ、これ「上を向いて歩こう」だ。
「上を向いて歩こう」のカバーか。
「……で、『スキヤキ』をお送りしました」
ユキ・ラインハートさん(パーソナリティ)が、
アーティスト名(わかんなかった)と曲名をアナウンスする。
スキヤキ……。
スキヤキね。
「上を向いて歩こう」は、
海外では、
「スキヤキ」という題になっている。
坂本九の『上を向いて歩こう』は、アメリカでは『スキヤキ』という題でレコード発売された。(中略)この曲は「スキヤキ・ソング」として世界中に認知されてしまうことになった。
――『村上ラヂオ』より引用
「スキヤキ?」
「そう、スキヤキ」
「なんでだろうね」
「なんでだろうー」
そのとき僕らが食べていたのは、
スキヤキじゃなくて、
ローストビーフ丼だったけど。
日曜日の、昼下がり。
リュックに入れっぱなしだった『村上ラヂオ』を開きながら、
僕らは、そんな他愛もない会話に興じたのだった。
ひとりぼっちの夜。
ひとりぼっちの夜……。
僕は、
ひとりぼっちの夜に、口ずさむ。
次に会えるのは2日後だし、
いつもだったら、
淋しくなんて、ならないのに。
……まあ、眠ってしまったら、
淋しさなんて、失くなっていたんだけどね。
まあ、
淋しさっていうのも、
悪いものではない、はず。
淋しくなるから、
その人のことが、いっそう愛しくなる。
そういうものだ、たぶん。
さて、
今日も頑張るか。
引用:村上春樹「村上ラヂオ:すき焼きが好き」新潮社.
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