オレが妖精カード? 笑わせるなよ『ポニイテイル』 ★35★
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「だからあれはウチの力じゃないって」
「花園の内側にあった力が引き出されたんだ。オマエのホンキが角で発揮されたんだ。だからやっぱりオマエの力だって」
「ホンキホンキって。マカムラ、ホンキブームなんだ」
「そう。ホンキで生きたい気分なんだ」
「だからこの前も残って……夏休みの宿題も終わらせてたんだね。なるほど」
「ドラマとロマンと、それに今回はラブもひとつまみのトリプルだからな。ていうか花園はホンキじゃないのか? 物語も同じだろ。ちゃんと計画立てないと、力入れても出るのはオナラくらいだぜ」
「オナラ? もう、男子ならヘって言ってよ」
あどは角を取り出し、マカムラの背中をつついた。
「だから今書いちゃおうって言ってるじゃん。そうすれば面倒な計画もヘもないよ。ねぇねぇ、続き書こうよ」
「だからキミには見えないわけ? オレが作業してるのが」
ブラさんの机を借りて何かを作っている。ガク、ガク、ガガとミシンが音を立てる。
「何、マカムラッチ、ミシン、使えるの?」
「当たり前だ。こんなの使えなくてどうする。何世紀前の機械だよ」
「ミシンやるのは女の人でしょ」
「どこの国に住んでるんだ? ハゲ山でミシンでも掘り出して来い」
「何を作ってるの?」
「ブレスレット。腕輪ってやつ。誕生日プレゼント」
「誰の?」
「オレと、オマエと、鈴原の。誕生日はもう過ぎたけど」
「あい?」
「消しゴムじゃダメなんだろ。もっと良いのをって言ったのオマエだぜ。誕生石をここに入れて、ここにステッチを入れて」
「すげー! 腕輪とかつくちゃうの! フツー買わない?」
「いちいち自分の発言に責任を持たないヤツだな。手作りの方がラブラブだって言ったのも自分じゃんか! オマエがそんなこと言うから、作り方から調べなくちゃいけなくてこっちは一苦労だよ」
「もらっちゃっていいのこれ? ありがとう」
「オイ、まだ出来てねーよ」
あどは作りかけのブレスレットを一つ手に取った。茶色の革にきれいな模様がステッチで入っていて、紅い石が3つちりばめられている。
「あれ、ここに文字が入ってる。これ、もともと?」
「もともとってなんだよ。焼きゴテで書くに決まってるだろ」
「コレ、英語じゃん。何て書いてあるの?」
「ミルキー・ウェイ。天の川っていう意味。ほら、川って言う字、三本の紐みたいだろ。それにオレら7月7日生まれだし。3つ誕生石ならべて。オレらにぴったりかなって思って」
「すごい! すごいアイデア!」
「まあ、レエさんが12って数に合わせた発想のパクリだけどね」
あどはため息をついて窓の外を見る。
尾行したとき、ウチらはあそこに隠れていたんだ。
はあ……レミ先生は行ってしまう。どこか知らないけど、もう図書室みたいにすぐに会えるような気がしない。レミ先生ならたぶん宇宙くらい遠くにいても、キラキラの愛を配信してくれる。それはわかってるけど、いつでも会えないのは悲しい。
ふうちゃんは別の中学行っちゃう。ていうかケンカしたままだし。仲直りしてもウチらどうにもならなくて、また泣き続けるだけなのかな。
「なんかマカムラって、どんどんすごい人になっちゃいそう」
「すごい人?」
「これでブラさんと冒険してきたら、もうウチらになんて興味ないくらい大人になっちゃってて……。オレもうガキじゃねぇんだけど、オマエらと遊ぶ時間なんてないよ的な」
「物わかりが悪いヤツだな。これは、一生仲間だってことを忘れないためのブレスレットだぜ」
マカムラは、作りかけのブレスレットをかざした。ルビーの緋色がこの世のものとは思えないキラキラを放つ。
「人間なんて、すごいっていってもたいしたことない。どんなすごくて、どんな強くて、どんなやさしい人でも、ヤバいのが来れば一発で持ってかれちまう。アネキも、父さんも、母さんも、オルフェも。友だちも——」
「オルフェ?」
「オルフェっていうのは、ウチの犬な。アネキが一番気に入ってた妖精の名前をとった。アネキ、毎日とっかえひっかえ色んなカードを選んでたよ。今日はテストがあるから頭を良くしてくれる妖精、今日はコクるから愛をつかさどる妖精。今日は体育で走るからこの妖精。よくわかんないけど、妖精カード袋とかいうお守り袋をミシンでたくさん作って、妖精を選んだり、コンビにして重ねたりして。オレの言うことなんて信じないくせに、オマエみたいに神とか妖精とかのことはメチャクチャ信じてて」
真神村流輝はミシンを激しく動かす。
「でも、何にも信じてないオレが生き残るとか意味わかんねぇ。バカだよな。オレに一番大好きな妖精カードを貸したりするから」
「オルフェのカードを?」
「そう。オルフェの妖精カード。守られたのかな、オレが」
「そのカード、持ってる? よければ見せて」
「そんなの持つかよ。オレが妖精カード? 笑わせるなよ。そんなの無くても負けねぇよ、オレは」
マカムラはちょっと集中したいから、たのむ、部屋から出て行ってと、顔を向けずにあどに頼んだ。
「カードはあげちゃったよ」
「あげちゃったの?」
「ああ。ボッチのオレを守ってくれるって言ってくれた——」
マカムラは少し上ずった声で言った。
「ブラさんの、1番大切なレミ先生にあげたよ」
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