隕石ハンタになるぜ!『ポニイテイル』★34★
ブラさんが彼氏だって?!
しかもレミ先生は学校を辞めちゃう。
校門で車を降りると、あどはまっすぐ校舎裏へ向かった。
もちろん勘違いの可能性もあるけれど……。
「隕石ハンタになるぜ!」
そんなことをたくらむ大人は、この日本にはきっと多くない。ていうか、ほとんどいない絶滅危惧種だ。クマヤギめ……
学校の先生同士の恋愛。超近距離恋愛が真実かどうか……土曜日だから誰もいないかもしれないけど行かないわけにいかない。警備員さんたちの家をのぞくと、ブラさんの代わりに助手がいた。
「マカムラッチ!」
「シッ! 声がでけーよ!」
「ブラさんは? ブラさんはどこ?」
「ブラさんはいない。土曜は休みだ」
「どこ? どこ行ったの?」
「師匠はね、大好きな——」
「大好きな? 大好きな何なの!」
「お馬さんのトコ」
「は? まさか競馬場?! 彼女をデートに誘わないで? ちょっと、今すぐ呼んできてよ」
「ムリだよ。競馬場って福島だぞ」
「そんな遠くに? 何しに?」
「だから競馬だって。七夕賞っていう大事なレースがあんだって」
「なんかサイアク過ぎるんだけど!」
「ん? なんで?」
「彼女より競馬を選ぶって。しかも福島まで遊びとか無い」
「遊びじゃねぇよ。知りあいの馬主のレースだってさ。その馬、予後不良の一歩手前のケガから立ち直ったんだって」
「ヨゴフリョウの一歩手前?」
「殺される一歩手前」
「殺されるって、何で?」
「治る見込みのないケガをすると競走馬はすぐに、安楽死させられるんだ」
「アンラクシ?」
真神村は花園の顔をチラリとだけ見て、視線を戻し作業を続けた。
「そう。安楽死。薬で殺す。でもこれはそんな暗い話じゃないから。ケガした馬が無事回復して、トレーニングとレースを重ねて、ついに地元で最大のレースに出走するまでになったというドラマ。勝っても負けても、明日のレースで引退するという一発勝負のロマン」
「明日? 明日なのに何で今日から行ってんの?」
「そりゃ前乗りするでしょ。前夜祭もあるみたいだし」
「かわいい彼女置いて、自分は競馬に夢中?!」
「ドラマとロマンのダブルだからしょうがない」
「ひい!」
「てか、花園は師匠の彼女のこと知ってんの?」
「マカムラッチは知ってるの? ブラさんに彼女がいること」
「レミ先生だろ」
「知ってたの! 何で早く言わないの!」
「言ってどうする」
「決まってるよ、大説教大会だよ」
「なんで」
「レミ先生、期待してるんだよ。ブラさんが一生懸命頑張ってお金を稼いでくれることを。なのに競馬とか」
「ウソだろ? ホントに? 期待してるのか?」
「あっ、ちがうか。頼んでもないのに勝手にって言ってたね」
「ふう……なんだよ。びっくりさせるな」
「びっくり?」
「ブラさん言ってたよ。自分のことをぜんぜん期待しないで笑ってくれるから、彼女のことが好きだって。なのにオマエが反対のこと言うから。テキトーなこと言うなよまったく」
「ひぃい!」
「ん? どうした?」
「マカムラッチって、ブラさんと……なんつーの、そういう熱い恋バナとかしてるわけ? 想像できないんだけど」
「どうせ花園たちだって語ってきたんだろ。いきなりコワイ顔して飛び込んできてさ。驚かすなよ。ところでさ、あの話、どうなった?」
「あの話?」
「黒竜がでてくる話。鈴原喜んだ? 誕生日プレゼントはあれでOK?」
「ああ、あれね。さんざんけなされたよ。スケールも小さいし、物語の先がカンタンに読めるって」
「そうか。喜ぶと思ったけど意外だな。ドンマイじゃん」
「いや、ウチはそう来ると思ったからヘーキ。でもね、あのあと、ふうちゃんがミヤコウマのサイトを見つけてきて、そこにウチが物語をおくることになっちゃって。前後を書き足して。だからマカムラッチに手伝ってもらわなくちゃ」
「よくわかんないけど、まあいいや。それ、いつ書くつもり?」
「今から」
「今から? 見ての通り、オレはいろいろと忙しいんだ」
「忙しい? ははーん、またウチをだますつもりだな」
「夏休みが始まったらすぐにオーストラリアへ行く。そのあとアメリカにも行く予定。準備しなくちゃいけないことが山ほどある」
「あい? 何しに?」
「もちろん隕石ハント。ブラさんと一緒に。七夕賞の馬主が旅の資金出してくれるんだって。戻るのは夏休み最終日だと思う」
「マジか!」
「ブラさんは1日でも、1分でも、1秒でも早く夢を実現したいんだと思う。オレも助手としてやれることはやる。城で毎日プラン立ててるよ。いつ、どこを探すか、どこに泊まるか。何が必要で何がいらないのか。調べることは山ほどあって、あの超便利なブースを借りられて、ホントに助かったよ。最高のプレゼントだった」
「そうなんだ……なんか、すごいね」
「超ホンキだよ。ミラクルは自力で起こす。ミラクルが起こせるって信じ切ることに決めたんだ。オマエだって……この前、すげー物語書けたじゃん」
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