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それらしくマッカッカ 『ポニイテイル』★01★

真神村流輝のパーツで動いているのは右手だけだ。
教室はめちゃくちゃ暑いのに……中学の制服みたいな白シャツのそでは手首に届いている。カッコつけた黒のジーンズは、上ばきにぜんぜん合っていない。腕にはヘンな柄の見慣れないミサンガ。四つ前の席。執筆しているスキだらけの後姿は縦にひょろ長くて、まるでやせパンダだ。

なんで微妙に、そこそこ人気?

顔がカッコいいから?
顔なんてどーでもいいじゃん。
性格もまあまあ?
いやいや、思いっきり暗いじゃん!
みんな落ち着け。やめときなよ。
ていうかあのミサンガ、もしかして誰かの誕プレ?

いきなり訪れたクライマックス。刺してちょうだいブルータス。撃ってちょうだいウィリアムテル。射抜いてちょうだいキューピッド状態。つまりスキだらけ。スキ、すき……好きなのかな、あっちは。

女なんてオレ、興味ねーし。
バカ。オレが興味あるのは――

そんなカンジで、あっさり言われちゃいそうだ。
じゃあ……マカムラは何が好きなんだろう。
クッキーはヘーキ?

ちがうちがう。何が好きじゃない。
誰が好きかが一番の問題……。

放課後の教室でたった二人っきり。
東京の学校ではありえない人口密度。おまけに今日はターゲットのバースデイ。このレアさ……うっかり見逃した世紀のイベント、皆既日食にゼンゼン負けてない。

「スキ」

うほっ!
言おうかなと思っていただけなのに、ココからイキナリ! 
意志とは無関係に、顔マッカッカフレーズが鈴原風の口から発射されてしまった。今さら口を押さえても遅い。真神村流輝が振り返った。

「は?」
「ん?」

「今、何か言っただろ」
「……」

さすがに「スキ」だけじゃ短すぎだ。
もう後には引けない。風は語数を増やして射直す。

「あのさ……マカムラ、好きな人、いる?」

ああ、口に出しちゃったよ……心臓が一つだとは思えないほどのテンポでトクトク、ドクドク、トクドク、ドクトク。揺れは体の内で激しさを増し、各パーツへ伝わってゆく。ここで夕焼けでもあれば、貧血気味で青白い鈴原風の小顔もそれらしくマッカッカだろうが……6年3組の窓からうかがえる遠くの山々は深緑で、7月7日の午後4時は、他の季節に比べてずっと明るく、人口密度から見ても逃げ場はなかった。

「だから……いる? もしいないならさ――」

「おまたせー」


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以下は編集後記『ポニイのテイル』です。物語の更新に合わせて、毎回書き添えていきます。


ポニイのテイル ★1★ 編集後記&日記

『誕生日にプレゼントしたくなる物語』があるといいなと発想し、まだ小さかった息子(当時1歳)をひざにのせながら創り始めました。その子も、もうすぐ11歳です。

すごく嬉しかったような、悲しかったような。切なかったような、楽しかったような。見たことはたしかに覚えているんだけど、きれいさっぱり忘れてしまった夢。7月7日、同時に誕生日を迎えた3人の男の子と女の子。3人の夢みたいな現実と現実みたいな夢が、ぱっとしない天の川でキラキラと混ざり合う。それはまるで3頭のポニイたちの記憶、ハナロングロングゾウの詩のような物語。メインの登場人物は3人です。

・花園あど(HANAZONO Ado):ほほに夢を蓄える、アドベンチャ好きの、ハムスタ系少女。
・鈴原風(SUZUHARA Fu):心配性でとっても臆病な、バンビ系少女。
・真神村流輝(MAKAMURA Ryuki):ブラさんに憧れる、生き急ぎやせパンダ系少年。

2018年1月から『note』で連載していきます。無事この初連載を終え、できればそれが書籍の形になって、誰かのバースデープレゼントになることを願ってます

また、この編集後記『ポニイのテイル』では

(1)あとがき=その回についての筆者(藍澤誠)の感想と、販促状況(売り込み記録、アクセス記録など)

(2)できごと=執筆中・連載中に起きた出来事、あるいはアップした日の日記を書きます。

(3)しゃしん=見出しタイトルに使った写真のエピソード

の3つの視座を軸として書いていきます。


では、物語(と編集後記)を通したおつきあい、よろしくお願いします。


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