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ぷぷぷ。ナノレベルノベル。略してナノベ! 『ポニイテイル』★25★

3人の誕生日から一夜が明けた

7月8日午後3時。鈴原風のいるF4のグローブソファは、監視モニタで見るよりはずーっと固くてあどの好みではなかったし、壁紙のピンク色はただでさえ落ち着きのない花園をさらに不安定にさせた。

誕生日翌日、せっかく12歳になったのに鈴原風はティフォージュ城に閉じこもり、学校には姿を見せなかった。予想通り机の上のパソコンとにらめっこだ。

「リンリン、やっぱズル休みだったね」

あどは横取りしたおやつのドーナツをかじりながら、リンリンをバカにする。

そしてこのまま不登校になるというね。ウチの予想通り」

「ウザっ! ていうかさ、この物語――」

ハムスタから手渡された原稿に目を通したバンビは

「なんて言ったらいいのか微妙過ぎて頭が爆発しそう」

と言い放つと、あどがどっかりと占領していた巨大グローブの中に飛び込んできた。

「あどちゃんは、この物語どう思うの? っていうか、あたしにどう言われると思った?」

細っこいバンビは、柔らかいハムスタに寄り添う。

「ありがと! メッチャ嬉しい。すごい! よくこんなの書けたね!」

あどは似てないモノマネをしてリンリンのほほを突く。

「――っていうのだけは無いとは思った。なんとなく」

「うん。それに書いたのはマカムラでしょ。マカムラの字、好きだからこんなにたくさんもらえて、それは嬉しいけど」

「あれあれ? 好きなのは字だけ?」

「……レエさん、何か余計なこと言ってた?」

「いろいろ言ってたけど、教えなーい。ていうか何このソファ、固すぎる!」

「しかも最後のプーコがブーコになってたし。マカムラ、ゼッタイにわざとやったな」

「ウソ! 気づかなかった・・・ホントだ!  やるなマカムラッチ!」

「まあいいや、でさ、実際、あどちゃんからのプレゼントじゃなくて、ユニコーンからのプレゼントでしょ? あどちゃんは口を動かしていただけみたいな感じなんでしょ、どーせ」

「まさに! 見てたの?」

「見てたのはそっちでしょ」

「あのさ、ここを見るカメラってどこにあるの?」

あそことか、あそことか、あのすきまとか

バンビは天井や照明や壁の隙間を指さした。

「でもウチら、ふうちゃんのことほとんど見てなかった。楽しすぎて」

「ちょっと貸して」

鈴原風は花園の手からユニコーンの角を奪い取り、宙にかざした。

「そっか、この角、おもちゃじゃなかったのか。ていうかベトベト!

「ドーナツおいしいね。さすがお嬢さん」


ハムスタがドーナツを食べ終えるまで、30秒ほど沈黙が流れた。

青白かったバンビのほほが、ほんの少しだけ赤くなる。

「見つけたのハゲ山だったけど、ホンモノだったんだ」

「うん、ホンモノだった」

「あのとき、ちょっぴり、ホンモノかなって思ったけど」

「ふふふ。誕生日の3人がそろっていたからね!」

「でもどうしよう、こんな中途半端な話、ユニコーンからもらっちゃって。スルーするわけにはいかないよね」

鈴原はユニコーンの角を鉛筆のようにして机に向かうと、文字を超高速で書きつけるフリをした。

「そうそう、そんな感じ! マカムラッチ、書くの超速かった! スゲーよ、ウチの家来」

「マカムラとあどちゃんとユコーンの合作か。うーん。でもなんか……イマイチ」

「やっぱり……ユニコーンの背中に乗ってたとき思ったもん。あれれ、この話はリンリンの好きな話じゃないよって。どこが好きじゃないかはうまく言えないけどさ。ウチは好きだけど

「ユニコーン、知っててこの物語を作ったのかな」

「意外とズル賢くて意地悪なんだ、ユニコーンって。きっとふうちゃんがこまるの知ってて、プレゼントしたんだよ」

ユニコーンの角は金色のまま、風の手のひらでじっとしている。

「マジでこまった」

「何が? 何でそんなにこまる?」

「あたしの気持ち分からないの、あどちゃん」

「うん」

「だっておかしいじゃん。話が中途半端過ぎるよ。まさかこれで終わりじゃないでしょ。ていうかそもそも始まりが始まりじゃないし。いきなり物語の一部じゃん。作りかけもらっても……」

「続きとか前のとこを書けってことじゃないかな。もらったリンリンが」

「あたしが? 何のために?」

「何のためにって、ユニコーンの気持ちわからないの、リンリン」

「ユニコーンの気持ち?」

「ネットばっかやってるからじゃん。ユニコーンが心配したんだ、きっと。リンリンにヘンな勉強をさせないために。わあ、意地悪かと思ったらやさしいなぁ」

「ヘンな勉強ってなんだよ。あたしホンキで忙しいし。作家になりたいのはあんたでしょ? どっちかっていうとあどちゃんだよ。たぶんこの話、ユニコーンからあどちゃんへ出された宿題。あとは人の力借りないで、ちゃんと自力で仕上げて親友にプレゼントしろってことじゃない? きっとそうだよ」

鈴原風は角を額にあて、ユニコーンの口調を想像して告げた。

「あどよ、作家になりたいとな? しからばこの話の続きを書いて、見事に成長してみせなさい。プーコとともに出来上がりを楽しみにしておるぞ。ふぉっふぉっふぉ」

「なんでおじいちゃん口調。あのさ、勘違いしてるみたいだけど、その角、子どものユニコーンの角だよ」

「え! そうなの?」

「宿題は学校だけでたくさんだよ。もういらない。それにこの物語の続きなんてウチ、これっぽっちも、少しも思いつかないよ」

「え? それはない

バンビは目をドーナツのようにして、花園あどにたずねた。

「マジで思いつかないの?」

「うん」

「ウソ! ここまで書いてあればもうゴールまで見えるじゃん。ミエミエのバレバレ」

「え?」

「ありがちだよ。くそ~、ユニコーンめ! 妄想マックスだったあたしたちをナメてるな」

「ええ? ありがち? そうかな、ウチは珍しいっていうか……ヘンな物語だって思ったけど。自分でも読んでみて、こんなの読んだことないって」

「それはなんつーの、あどのキャラがエキセントリックなだけでしょ。物語自体はありがちだよ」

「エキセントリック? ムズい言葉使わないでよ」

「ちょっと頭がおかしいってこと。でもその他はフツー

「そ、そうかな? どうなるの、このあとの話。リンリンわかるの?」

「まったく、キミは絵本ばっかり読んでるから。どうせこの物語、このプーコっていうのが受験に悩んでいるっていう設定でしょ」

「ウソ! どこでわかるの?」

「こういうのは対極なキャラの対比で進めていくものなの。冒険好きのあどと、日曜日も塾に行っているプーコ。プーコは心配症で中学に受かるかどうかを気にしてて、毎日受験勉強ばかり。夏休みもちっとも遊ばない。そんなある日、あどはユニコーンの角を見つけた。その角はすごい力を秘めているのに、あどはそれを自分のために使わない。なんと、親友のプーコに惜しげもなくあげるのだった」

「やさしいんだね、物語の中のウチも」

「プーコはそのプレゼントのおかげで、メッチャ勉強ができるようになった。ユニコーンの角を握ったまま勉強すると、すいすい暗記できるし、難題も秒殺。成績も急上昇。この調子だと合格も確実。もう毎日受験勉強をしなくてもいい状況になった」

「おお! プーコ、良かったじゃん!」

「は? 何、油断してるの! ダメだって。物語的には上げてから下げる。ちゃんとワナが待ってるんだから」

「わ、ワナ? どんなの?」

「余裕ができたプーコは久しぶりに、物置にしまっていた絵本を何冊か取り出してきて、ホコリをはらって読みだしたの。絵本は親友のあどちゃんも大好きで、でもプーコはそんなあどを幼稚だってバカにしてた」

「バカにしてるの?」

「あたしはぜんぜんバカにしてないよ。でもあどちゃんの場合、絵本を読むのはいいけど、絵本やマンガばっかってとこがダメ」

「うぐっ」

「そういえばお昼に、あどちゃんのブースを絵本で埋めるとか……何かレエさん、張り切ってたけど」

鈴原風はポキポキと指を鳴らす。

花園あどは園児のように続きをねだる。

「で? そのあとそのあと」

「ああ。でさ、絵本の世界とか、しばらく忘れてたファンタジーの世界を思い出しちゃうわけだよ。火がついちゃって、町で1番大きな図書館に行って、あれこれ素敵な本を見つけては読みあさって。現実的だったプーコはユニコーンとペガサスの違いもわからなかったのに、ちゃんと見わけがつくようになる」

「ぷぷぷ。そういえばリンリン、昨日ユニコーンの角検索してたよね」

「やっぱり見てたんじゃん!」

「見てたよ、思いっきり」

「まあいいや。で、さんざん夢の世界にひたったあと、プーコはイキナリ冷静になるわけ。ユニコーンの力を借りて……こんなズルして受験に合格していいのかなって。悩んじゃうんだね」

「素直だね、物語のプーコちゃんは。実際のふうちゃんはどうなの?」

「迷わずユニコーンの力を借りまくる」

「そこは悩みなよ!」

「で、余計な迷いが生じたプーコちゃんは、1番大事な受験当日にやらかしちゃうわけだ」

「わかった! ユニコーンの角を置いてきちゃう!」

「ビンゴ! あの角がないとこまる。どうしよう? 思いっきり動揺しているところに、1時間目は苦手な国語。国語は漢字以外暗記科目じゃないし、今までぜんぶ角に頼っていたのでどうしていいかわからない」

「マズい、どうしうよう!」

「ところが問題が配られてびっくり。テストに出題された文章は、なんと、ユニコーンの角をめぐるファンタジー小説だったの。しかもプーコのお気に入りの、何度も読み返していた物語。プーコは息をのんで、問題を解いた。たぶん全問正解。その勢いで、算数、社会、理科と4科目を終えて受験終了。手ごたえはバッチリ。テストにゼッタイという言葉はないのかもしれないけど、これはたぶん、ゼッタイに受かっている!」

「良かった、ホント良かったね、プーコちゃん!」

「で、オチはもう解るよね」

「オチ? オチって?」

「物語の締めくくり」

「はい? なにそれ。わかんないよ、ぜんぜん」

「だいたいこんな感じ。プーコが家に帰ると、しまっていた引き出しにユニコーンの角がない。あれ? どこにいったの?」

鈴原風は実際に、自分のテーブルの引き出しをあける。売り物のようにきれいに整理された文具たちが顔をのぞかせる。ユニコーンの角のような非現実的なものは1つもない。

「どこにいったの?」

「だんだんプーコはぼんやりとした気持ちになる。ユニコーンの角を持っていた記憶自体が、すべてリアルな夢のように思える。あたし角の力で受験したの? それとも自分の力? 角なんて最初から無かった? でもそれを確かめる術はない」

バンビは後ろ手にユニコーンの角を隠す。

「あるよ! ウチに聞けばいい!

「そう。それに気づいたプーコは、あどちゃんの家に行ってみる。しかし、あどちゃんが住んでいた部屋はもぬけのから。あどちゃんは旅立っていた。ユニコーンの角とともに、本当は絵本やファンタジー小説が好きなんだけど、勉強が心配で素敵な本をちっとも読めない不幸な子を助けるために」

「すごい!」

「すごい? どこが?」

「プーコ、作家になりなよ!」

「プーコでもブーコでもないよ、あたしは」

「すごいよ! もしかしてひょっとして、今ふうちゃん、ずっとユニコーンの角を握ってた? そっか! それでこんなすごい話がスイスイ創れたんだね!」

「だから、ホンキですごくないから、悪いけど」

「え、わかんない。どの辺がすごくないの?」

「まず物語のスケールが超小さい。これじゃナノレベルじゃん。ぷぷぷ。ナノレベルノベル。略してナノベ!」

「スケールが小さい? スケールって何?」

「受験で悩んでる子を救うくらいじゃ、読者は喜ばないよ。もっと、たくさんの人が読んで、感動できるような大きな話じゃないと」

「読者って、誰? この話の読者はふうちゃんじゃないの? ふうちゃんは嬉しくないの? 合格したんだよ?」

「物語の中ではね。でも実際は違う。たぶん、あたしは合格しない。こんな話を読んでも、テンション上がるどころかヘコむだけ。もう気分はペコペコのベコベコ

「それは、塾さぼって、ネットばっかりしてるからでしょ」


ポニイテイル★26★へつづく

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ポニイのテイル★25★

今回のタイトルの絵は、みんなのギャラリーからお借りした、Tome館長の『花占い』です。ありがとうございます! ピンクの背景に惹かれ、少女のあやうさが胸を衝く『花占い』。不協和音なイメージが欲しいところに、ぴったりでした。

読んだ人の何人かが『ユニコーンの角が欲しい!』という感想をくれました。特にここを読んだ大学受験生の子は「今すぐ角が欲しいんですけど」と言ってました。あと当時はメールで小説を配信していたのですが、未送信だった物語のつづきを「つづき、早くお願いします!」と言ってもらえたときは、とても励まされました。今思い出しても胸が熱いです。

noteに限らず、物語は誰にどう読まれているのか、全く見当がつきませんが、他の人たちが表現している姿に励まされつつ、ページビューに現れる「誰かのもとに届いている」という事実を頼りに、note執筆再開後、ちょうど1か月書き続けてきました。およそ1日1noteペースで続けたら、1か月で50noteを超えました。それは当たり前か・・・1つしか乗り物がないテーマパークなんてありえないから、コンテンツとして成立させるためにも、引き続き創作を続けたいです。

腰を据えて読まれる形だけを想像しているのではなく、ちらっと見るだけ、これくらいだったらオレでも書ける、と思ってペンを執る人すら想像しています。媒体であるnoteの世界を深く知るために、ヴィンセント海馬くんではないですが、フォロー数(※フォロワー数ではないです)の限界までフォローして、タイムラインにあるものを、時間がある限り全部読んでいます(1000以上フォローしても、その日に表現されるものは半分の半分くらいになっている感じだから、ぎりぎり追うのが可能)。もちろん読み切れませんが、時間をかけられないときは、タイトルだけでも1分だけでも気合い入れて触れる。自分が「公開」のボタンを押すときの、あの気持ちを忘れない。そのために、サッカー観戦の時間を削り(DAZN解約)、Yahooなどのネットニュースを閲覧することをやめ、隙間時間をかき集めてこのnoteにいます。

『ポニイテイル』のような長編の全部を読む時間なんて持ち合わせていない人も、数多くいるだろう。自分が他の人の作品に触れ続けているとそういうことが実感できる。音楽でいうところの、アルバムの中に収録されているお気に入りの1曲、自分を上げるためのワンフレーズを探すために、アプローチする人もいるかもしれない。だからちょっと抵抗がありましたが、今回、あえて作品に太文字をつけてみました。これはここが大事、というわけではなく、電話番号がハイフンで区切られるように、視覚的な息継ぎとして選びました。

またこの『ポニイテイル』に初めて出会った人、最初から読み直す人も当然いるので、引き続き先頭にリンクを貼っておこう。前回の分を読み直す人がいるかもしれないから、前のページに戻るは続行。

そして再び、noteの今を十分に吸い込んで編集。たった今の状況を具体的に言えば、noteで音楽をやっている人の作品をBGMにしています。

このポニイのテイルを書くにあたっては、館長の絵や朗読にダークにエンパワーされ、

詩の創作で悩みつつもnoteにアップした方の勇気に励まされます。

また現実に目を向ければ、今日(正確には昨日)は、高校生たちの受験が終わった日だったのですが、プーコのように、受験勉強が終わったら本やマンガを読みまくり、音楽を聴きまくりたい!という子がいましたが、そういうものの1つになれるよう、思いついた、やるべきことを1つでも多くやること。しかも力を抜きながら、努力ではなく楽しみとして、その上で仕事としてやること。いつか、そして今、あるいは過去に、だれかのエンターテイメントになるだろう・なっている・なっていた・なりかけた・なりそこねた・なってきているなどと自覚して、迷いなく(迷ってもいいけど止まらず)書き続けること。

止まっていた時間が極端に長かったので、今は書き続けること、書き続けるデザインに生活を変えていくことが大切だと感じます。文字通り、出口が見えない毎日を、書くことでつないでいる。本当に2018年の目標がかなうのか、不安しかないのですが、一歩ずつでも毎日進めていく。

自信がゆらいだときは、物語に目を向ける。パソコンやりすぎで心が破裂しそうなバンビ。初めてのアウトプットによる不安と期待を処理できないハムスタ。彼女たちの思いに心を寄せつつ、早起きをし、手間でも手を動かしつづけ、編集し、アップする。こうなってしまった以上、動けるのは作者しかいないから、姿勢を正して、どうどうと、やれる手を尽くす。

現代において物語作家であるということがどういう意味を持つか、noteという媒体で書くにあたって、どのようなスタンスで、どのように書いていきたいのか。自分が作った物語をどう引き受けていくか。理想と現実をどのようにミックスして、世界と調和していくか。

そういうことに個人的に思いを巡らすナノレベルな章となりました。

***

新連載『ヴィンセント・海馬くん』は、『ポニイテイル』とはまた方向、想定読者がぜんぜん違いますが、ちらりと一読でもしていただけたら嬉しいです。イラストのタッチがまちまちなのはすみません。イラストを描きなれていないからで、そういうものだと思っておつき合いください!


読後📗あなたにプチミラクルが起きますように🙏 定額マガジンの読者も募集中です🚩