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2018年にやりたいこと

はじめまして。藍澤誠(あいざわ まこと)と申します。

2018年にやりたいこと。それは小説『ポニイテイル』のnote連載を続けながら、出版のエージェントを探して、『ポニイテイル』を書籍化することです。物語の中に出てくるように、金と銀と銅がまじりあったような、きれいな表紙の書籍にしたい。そしてこの世界を生きる12歳の子どもたち、そして12歳だった大人たちにプレゼントとして手渡すことが、2018年にやりたいことです。作中では『7月7日』の七夕がとても重要な意味を持つので、7月7日に出版できたら美しいと思っています。

連載中の編集後記『ポニイのテイル★6★』にもほんの少し書きましたが、この小説を書き終えた直後に、私が開いている私塾(今年で18年目になります。先生は私ひとり、生徒は30~40人)へ『新しい子が入りたい』という連絡が入りました。

『ポニイテイル』は、3頭の子馬が活躍する物語なのですが、脱稿した直後に私の前に現れたその女の子(新高1)が、なんと『お馬さんが私のすべてと言えるくらい馬が大好きな女の子』だったのです! さらに、その子のお母さんのメールアドレスに、『Altairアルタイル』という文字が入っていたので、もしや!と思い尋ねると、『7月7日』生まれだった!というミラクルが発生したのです。

その偶然の一致が2014年の3月のこと。そして、その年の7月4日の夜、もうすぐ七夕というときに、私は1つの決断をいきなりしました。塾の移転を思い立ったのです。

物語の中の子どもたちが7月7日に勇気を出して人生を変えたのに、それを1番近くで見ていた自分が動かないのはおかしいと突然思えたからです。私は気になっていた物件のオーナーにメールして、翌日7月5日に新物件を見せてもらいました。たまたま鎌倉旅行のために、7月5日から7月8日まで五連休をとっていた(日付はやや記憶があいまいですが)ので、そこで一気に話を進め、7月3日の時点ではまったく考えていなかった教室移転を、7月7日ぴったりに実現したのです。

◎引っ越し前のレトロ教室◎



◎引っ越し後の秘密基地◎

1階は天井の高いガレージ、2階は教室兼書斎

※詳しくは絵本シェルフ『しごとば』に書きました。

馬の話に戻ります。

私の前に現れた『馬が大好きな女の子』を、ここではポニイちゃんと呼ぶことにします。高校生になったそのポニイちゃんは、大学受験を考えていました。そして、かなり頻繁に、朝の5時30分くらいに、私へ「これから勉強します!」というような内容のLINEをくれていました。彼女は乗馬で有名な大学に入るのが目標だったのです。今の学力からすると相当がんばらないといけない。そんなわけで彼女は、この2018年の宣言じゃないですが、私という他者に宣言し続けることで勉強のモチベーションを保っていたのです。

しかし、ポニイちゃんと期末テストの勉強をしている12月上旬のお昼。たしか期末テスト期間中の水曜日で、上の写真の教室で、たった2人で勉強していた時のことです。私は、苦しそうに勉強しているポニイちゃんを見ていました。毎朝、毎朝、真面目に勉強している。テスト前はいつでもギリギリまで一生懸命、嫌いな日本史や、数学を詰め込んだりしている。でもポニイちゃんがやりたいことは、こんなことじゃない。たしかに頑張っているけれど、これは絶対、思いっきり遠回りだ

私は、自分が塾移転を決意したときのような熱量で、ポニイちゃんにいきなり提案しました。

「いきなりなんだけど、馬の学校がいいと思うんだ」

馬の学校――それは東京からそう遠くないところにある学校です。馬が何百頭もいて、朝から晩まで、馬の世話をしながら、馬に関する知識を学び、馬に関わる仕事へ旅立っていく学校です。以前、ちょっとだけネットで調べたことがあった学校でした。

ポニイちゃんは、私がタブレット上に表示した情報を興味深そうに眺めていました。馬の学校は日本にいくつかあって、そのうちの2つが候補にありました。

「どう? ちょっと体験に行ってみる?」

「楽しそう!」

私はその場で馬の学校へ連絡し、週末に見学の予約を取りました。そしてその週末の日曜日、ポニイちゃんと私と当時小学2年生の息子と3人で、高速道路にのって、広大な敷地の馬のパラダイスへ行ってきました。

ポニイちゃんは一発でその学校を気に入りました。案内してくれている先生と私が話している間、ポニイちゃんはずっと馬をなでたり、美しい姿勢で馬を走らせていました(乗馬歴は4年ほど)。息子は「すごいね、あちこちで馬が歩き回っている!」と興奮。生徒たちの移動も馬なんです。案内のベテラン先生は言いました。

「ただこの学校に入っちゃうとね、お正月もなくなります。馬は生きてるからね」

真面目な話を聞いているのかどうか良くわからないポニイちゃん。遠くでは「また洗濯機が~」という会話が聞こえる。タオルを洗う、小さなボロボロの洗濯機が壊れたらしい。秘境?!と表現してもいいかもしれない馬場や牧場から離れたところにある学校の寮は、便利そうな都市部にある。しっかりした建物だけど、部屋はとてもせまい。馬の業界が衰退している産業なのかはわからないけれど、きらびやかな世界ではぜんぜんない。牧場では馬の小屋を掃除したり、えさをせっせと運んだりといった作業も見せてもらったが、朝5時半どころか3時、4時から準備らしい。夏の暑い日も、冬の凍りつくような寒さの日も――ベテラン先生は言い切りました。

「でも馬が大好きなら大丈夫です」

真剣な表情で頷くポニイちゃん。思いがけない形の小旅行。幸せすぎる時間。ただ、私は馬のパラダイスから東京へと帰る道中にふと思いました。

「でも、家に帰ったら、夢から覚めちゃうかもしれないな」

もし馬の学校への編入を選ぶなら、頑張って受験勉強して入ったばかりの高校を1年時を終えたところで退学することになります。仲間と楽しくやるのが大好きな女子高生が、親元を離れ、友だちと別れ、ひとりぼっちで馬だらけの学校へ向かう。とても大きな決断に思える。牧場は楽しかったけれど、魔法が解けたように、テスト前という現実に戻っていくのではないか。

彼女はとても強かったです。

「どうする?」

「高校やめます! 先生、頑張りますよ、わたし!」

これから娘と別れることになる、息子と二人暮らしになってしまうアルタイルなお母さんは笑いながら私に言いました。

「今は、ちょっとだけ悲しい母って感じにさせてください(笑) でも、この道だったんでしょう、きっと」

そんなポニイちゃんも、今年2018年3月、ついに馬の学校を卒業します。

馬の学校を提案したとき、お前は人の人生を変えてしまうような選択に対し責任を背負えるのか、という不安はありました。でもどうやら彼女は、大変なこともたくさんあったようだけれど、馬のパラダイスでとてもとても幸せな時を過ごしたようです。専門性が限りなく高いとはいえ、高校生として普通の勉強もプログラムにあったのですが、時おり私に「物理が宇宙語です!」「後輩に数学教える約束しちゃってピンチです」というLINEが届いていました。ただ前と違うのは、そんなときはいつでも「お忙しい時間にすみません」「ダメだったら無視してくれちゃってもぜんぜん構わないです」という前置きが付されていました。

ポニイちゃんが、不安や悩みを私にLINEしてくることは一度もありませんでした。すべて勉強のヘルプだけ。私がポニイちゃんに直接関わったのは、最初の学校見学に行った日と、旅立つ彼女のお別れパーティーとして、リクエストされたたこ焼きパーティーを開き、特製の馬のクッキー(私の友だちに作ってもらった)をプレゼントした2回のみ。


2014年の冬、ポニイちゃんは決断し、2015年の春から人生を一気にギャロップさせた。

人の人生を変える、ということはどういうことか。

よくよく考えると、人の人生に影響を与える覚悟を持たずして、その人を大切だと言えるのだろうか。お互いに影響を与え、影響を与えられる。それはスペシャルなことでもミラクルなことでもなく、それがすべてじゃないか。大切な人に少しも影響を与えないような表現や行為に意味があるのだろうか。

2014年に馬の学校へ足を運んで以来、私は一度もポニイちゃんのパラダイスで活躍する姿を見ていません。一度、2015年秋の金曜日に、ポニイちゃんが乗馬の大会に出場するというので、塾の仕事をぜんぶ休みにして応援に行こうとしたことがあります。

ところがその日は、超が3つか4つくらいつきそうな大雨になり、私のラパンは高速道路にのった瞬間大渋滞に巻き込まれてしまう。いつもなら5分くらいの距離に1時間かかったので、私はあきらめて高速を降りました。

その大会でポニイちゃんは1年生ながら、大が5つくらいつくほどの活躍をしたそうです。

私はというと、平日にいきなり予定が空いてしまったので、映画館へ映画を見に行きました。ガラガラのTOHOシネマズで鑑賞したのは、『星の王子さま』のその後をファンタジックに描いた『リトル・プリンス』です。それは3年生になった息子が「パパ、ぜったい観た方がいいよ!」と言ってた映画でした。そのちょっと前に、箱根の『星の王子さま』ミュージアムへ妻と息子の3人で遊びに行って『物語』のもつ影響について思いを巡らせたばかりでした。この写真はミュージアムで撮ってもらったものです。

ずっと昔にフランスで生まれた物語が、世界に大きな影響をもたらしている。こんなに遠く離れた日本に、素晴らしいミュージアムが出来て、美しいバラが咲き、たくさんの人が今でもそこを訪れ、毎日を全力で生きてる小さな子どもを、そして子どもだった迷ってばかりの大人を励ましてくれる。

映画『リトル・プリンス』を観たあと私は、映画のワンシーンをまねて、昼の間に光を貯めて、暗闇になると光る、薄っぺらい星のプラスチックシールを購入して、教室の天井に貼り付け星座を作った。その星たちは、毎日の授業を終え、教室の光を落とすと、一斉にぱっと立ち上がる。『ポニイテイル』では宇宙と星も重要な位置を占めている。こうして現実が物語に包まれ、私のいる世界の景色がたった今、少しだけ美しく変わる。

『物語』という表現自体が素晴らしいのもそうだけれど、それが音楽であれ、絵画であれ、あるいはそういう芸術ではなく、ちょっとした親切だったり、人から見たら小さいけれど、本人にとっては大きい決断だったりといった行為が、時間も空間も現実も夢も超えて、周りの人を巻き込んでいく。有名、無名、子ども、大人なんて関係なくて、1人の人間から放たれた表現に影響されたそれぞれの人が、自分の持ち場で想いを形にしながら、この世界をときには大きく、ときにはほんの少し彩っていくそのありようが、本当にとても素晴らしいと感じる。

『ポニイテイル』が生まれた直後に出会ったポニイちゃん。自分が書いたはずなんだけれど、そんな気がまったくしない『ポニイテイル』。10年ほど前に、息子が生まれたすぐ後にその原型が生まれた物語。2014年にひとまず完成し、2017年の冬に手を入れ直し、2018年に外へ向かおうとしている物語。

物語の一番そばにいる者として、この物語に最も影響を受けながら、次のミラクルへと向かっていけたらと強く思う。このように文章にしてしまうと、どうしても大げさになってしまうけれど、シンプルに、この物語を読んでくれた人の幸運を祈って連載を続け、書籍という形に結実させることが、私の2018年の目標です。


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