その日はララの誕生日 『ポニイテイル』★06★
「砂漠のその国では、女の子が料理をしてはいけない掟で」
「オキテ? 何それ。そんな難しそうな話だっけ」
「そうだよ。さてはあどちゃん、読めない字、飛ばしてるね?」
「女が料理しちゃダメなのか? なんでだ?」
真神村は恥ずかしくなるほどまっすぐ、鈴原の目を見つめる。
「あ、それはええと、その、昔からの習慣で。女の人が作るとけがれるとかなんとか。日本とは違って、家の料理も男の人しかしないのがフツーの国で」
「ヘンな話だな。そんなアホくさい国あるかよ」
「本当の話だよ。世界にはヘンな国とか決まりがいっぱいあるんだ」
鈴原風は少しうつむいて続ける。
「生まれつきひどい食いしん坊の、ララって女の子がいてね――」
「食いしん坊の女? なんだそれ」
「そこはウチみたいなキュートな子を思い浮かべればいいよ。ねぇ、マカムラッチ、このクッキーうますぎ! 一つだけあげる」
「あ! それ、学校で開けちゃダメだよ! 作ったあたしが怒られるでしょ!」
「おう、サンキュ。ん、うまい!」
流輝は風にグッドマークを向ける。
「で? 続き続き」
「あ、うん。ええとね、それで、ええと……」
「リンリン、顔マッカッカだよ」
「まあ、その何て言うの、ララは、あどちゃんみたいなまるまるとしたビジュアルだけど、あたしみたいに料理の才能に恵まれていて」
「あい? ふうちゃん不器用マックスでしょ。さてはこのクッキー、ホントはどこかで買ってきたな」
「ララは小さい頃から大人に隠れて、自分の好きなお菓子や料理を作っては、こっそり食べていたの。うん。世界各国のレシピをネットで検索して、珍しい料理の作り方を覚えたりして」
「ケンサク? 現代なのか」
「そう。だって本当の話だから」
「なるほど。舞台は現代か。で、どうなるんだ?」
やせパンダが身を乗り出すので、風は目を閉じ続きを語った。
「いつも隠れて1人で食べるお菓子や料理は、それなりにおいしいけど、さみしくて味気なくて」
「わかる! 学校のトイレで食べるチョコはちょこっと苦い」
「オマエ、本だけじゃなくて、菓子もか」
「マンガも読むよー」
「ララはすてきな夢を描くの。将来、料理人になってみんなの前でおいしい料理を作って、友達や家族といっしょにテーブルを囲めたらどんなに幸せかって。そう思いながら12歳の誕生日のちょうど1ヵ月前、1人さびしく、空を見上げていたらそこに――」
花園と真神村が同時に口に出す。
「リュウセイ!」
「そう。見たこともないくらいきれいな、金と銀と銅色が混ざったみたいな流星が西の空を流れて、遠くに落ちたの。ララは一瞬にして理解できた。あの流星は私の運命を変えてくれるはず。流れた方角は危険な動物がいる地域だから少しだけ迷ったけど……このままだと、ここにいても何も変わらない。大人たちはこの国のオキテを変えようとはしない。大好きなパパもやさしいママもやっぱり同じ。ララが友だちのように大切にしているかわいいラクダちゃんもそのうちレースに駆り出され、酒を飲んだ男たちはそれに金をかける。年をとり走れなくなったラクダは料理され、ママたちはそれに大喜び。ヘンだこの町は。自分を変えなきゃ。この世界を変えなきゃ。ララは子どもなのに、ありったけの勇気を振り絞って家を出た。強い大人になるために。ラクダちゃんと共に西へ駆け出したの。その後、いろいろと大変な目に遭ってなんとか流星が落ちた町を突き止めた。その日はララの誕生日だった。そしたらなんとそこには――」
「そこには?」
「魔法のフライパンがあった」
「魔法のフライパン!」
「は? なんだそれ。魔法のフライパンとか。ていうか花園! オマエ何、ちょっと泣いてんだよ」
「思い出し泣き。いい話でしょ。こういう話がね、ええと、リンリン10だっけ、20だっけ?」
「12。世界中から集めた、12歳の誕生日を迎えた子の、すてきな物語がぜんぶで12編」
「いっぱい入ってるお得な本なの。これくらいで感想文、イケる?」
「まあ、イケるけどよ、そんなふざけた作り話をわざわざ金出して買うとか、それこそ金をドブに捨ててるみたいなもんだな。誰が読むんだよ。あ、ごめんキミたちか」
「だから、作り話じゃないって。ファンタジーっていうの。マカムラみたいな心がブラックホールな人にはわからないでしょうけど」
「そうそう。妖精も見えない男子には一生縁がない世界」
「てか空飛ぶフライパンだぞ。ダジャレ? そりゃ引くわ」
「ノウノウ!」
冒険という名のあどが、胸を張って堂々と反論する。
「ウチだって、誕生日に好きな人にコクれば上手くいくんじゃねとか、そんな残念な話だったら引くよ。だよね?」
バンビは無言でうつむく。
「でもこの話は違うんだから。世界中のどの子にもね、12歳の誕生日には、もれなくサイコーの宝物が見つかるの。その宝物のおかげで、みんなの特殊能力が発動するってわけ」
「ありえねぇ」
「チッチッチ、それが世界中で言われているんだな~。読めばわかるよ。12歳の誕生日は、誰が何と言おうと特別なんだって。12歳の誕生日に宝さがしすると……ぐほっ! ていうか、ウチら今日12歳じゃん! ねぇ! このあと探しに行かない? 宝物が見つかるかもじゃん! マカムラッチもヒマならいっしょに探す?」
「宝さがしとか園児かよ」
「いいの? ウチらは今から探しに行くよ、ね、ふうちゃん」
「あたし、塾」
「オレも大事な用事がある。フライパンはラクダと探せ。よし、あらすじと感動情報はそのくらいでOK。3分で書き上げちまおう」
「バカだな、2人とも。12歳の誕生日なんて、人生にたった1回しかないんだよ」
「バカはお前だ。何歳の誕生日だって人生に1回だよ」
「ぷぷぷっ。きっと今日の夜、ふとんをかぶった時にメッチャ後悔するよ。あー、12歳の誕生日に、何も探さなかったなーって」
「後悔なんてしねーよ」
真神村の言葉はあどには少しも届かない。
「そうだよ、うん。そうだ!」
あどは2人の手をダブルで同時に取り叫んだ。
「いいこと思いついた! ほら! 誕生日が同じ3人が一緒に探せば、何かすっごいのが見つかりそうじゃない? だから3人で――」
かわいらしいあどの耳が、ポニイのとがった耳のように、ヒクヒクと小さく動いた。
「宝さがしに行こうよ!」
ポニイのテイル★6★ 宝さがしに行こうよ
ラクダのお土産は、塾の子のヨルダンのお土産です。家のことはすべて子どもたち(兄弟2人)に任せて、ヨルダンへ旅立ってしまったお母さんからのプレゼントです。8年くらい前にもらいました。こんな形で役立つとは!
『こんな形で役立つとは!』という展開がとても好きです。物語内でも情報が思いがけずいきなりリンクし、イメージが広がると嬉しい。物語内の情報がネットワーク化され、どんどん世界が生まれていくのを眺めるのが楽しい。
物語世界と現実世界がいきなり結びつくこともよくある。
たとえば、この『ポニイテイル』(2014年版)を書き終えたその日に、塾に『新しい子が入りたい』と連絡が入って、その子がなんと、あり得ないくらい馬が大好きな女の子で、しかもお母さんの誕生日が物語の始まりである『7月7日』生まれだったというミラクル。
『事実は小説より奇なり』みたいな、ありふれたフレーズがあるけれど、この手のことは、大げさじゃないくらい『いくらでもある』ので、毎日、『何かすっごいの見つかりそうじゃない?』という宝さがし気分で暮らしています。
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