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13歳、懲役6年。-第7話-

〜嘘と毒蛇〜

 わたしの学年に中島というヤツがいた。中学一年から寮生活を共にし、今では20年近いの付き合いになる。
中学では同じ剣道部で毎日汗を流し、寮では毎晩一緒にゲームをしていた。おそらく学年で一緒に怒られた回数が多かったのが中島ではないだろうか。


 中島は、学習時間の休憩時間に男性用避妊具を膨らまして遊んでいると放送で「中島、風船もってこい。」と寮監エンドウに呼ばれ、事務室カウンター越しの二人の間に、しぼんだ男性用避妊具が置かれた状態でエンドウに説教されたり、学校の教室前の廊下で、通学カバンをハンマー投げの要領でほうり投げ、そのまま壁にカバンが突き刺さり、こっぴどく叱られ、後日その廊下を「ウォールバッグストリート」と名付けたり、相談室(寮内特別指導室)という狭い部屋でモトキに説教され、あまりの声のデカさで後半の説教がほぼ聞こえなくなったりしていた。
度重なる遅刻や中途半端な言い訳や備品破壊と、とにかくなにかとやらかすヤツだった。


 しかしそんな中島にも意外な一面があった。
中島は歩く動物図鑑と言われるほどに、哺乳類、昆虫、爬虫類、関係なくとても詳しかった。ただ仲良くつるんでいるだけで、わたし自身も少し動物に詳しくなってしまったほどだ。
 ある日、寮ウラでサッカーをしていた時、ボールが鳥の巣に当たってしまい、5羽の雛を巣ごと落としてしまったことがあった。中島はすぐに巣から落ちてしまった鳥の雛を拾い上げ、部屋でこっそり飼い始めた。
寮ウラの丘に生えている芝や細い木の枝を集め、細かく破ったティッシュを箱のそこに敷き、巣を作り直してあげ、温め、警戒心をなくさせ、餌付けを学習させ、餌を与え、育て、飛行訓練までして、そして最後はベランダから5羽全てを無事に巣立たせたこともあるくらいだ。





 ある日わたしは中島と週に一度の外出で、イオンに行くことにした。山を降りる道中の獣道で、ヤマカガシという強い神経毒を持つ蛇がいた。
通常の人の目にはただの毒蛇にしか見えないが、中島の目にはカワイイともだちにでも見えていたのだろうか、中島はその蛇を見るや否や迷いなく頭を持ち、捕まえて、左手に抵抗して絡みついた状態の毒蛇を持ってイオンへ向かった。


 イオンの入り口にいる警備員は、目の前から来る、まるでもののけ姫に登場する、祟り神の呪いが触手のようにゆらゆらと腕全体にまとわりついているアシタカを彷彿とさせるようなヤバい中学生を通すわけはなく、すぐに追い返し、中島は文句を垂らしながら寮へ帰った。
 そして中島は「おれ、家でオオトカゲ飼ってるからいける。」という謎の理由で、そのまま逃すことなく、部屋でこっそりヤマカガシを飼い始めたのだ。(因みにわたしが中島の大阪の実家にお邪魔した時、オオトカゲは確かにいた。黒色だった。)





 毒蛇を部屋で飼育することになった、というところで文章のいわゆるオチの要素は十分揃っているはずではあるが、ここで終わらないのが中島だ。

 ある日、学習室から帰ってきたら部屋で毒蛇が行方不明になっていた。また不運なことに、わたしの学年は「集い後すぐ消灯」期間の真っ最中であった。
集いが終わると、すぐに階段を駆け上がり自室で見つけないと、明日の朝を迎えられない、自分の命がない(蛇はセンサーのような器官を持ち夜でも獲物を仕留められるということは、もちろん中島がよく知っていた。)それどころか寮内に逃げ出したらもっと大変なことになる。
そんな思いを頭に巡らせながら中島は一人、部屋を急いでひっくり返す。

…しかし無情にもブレーカーは落とされ、4畳半の毒蛇との1vs1暗闇デスマッチのゴングが鳴ってしまった。
もちろん一睡せず、聴覚を人間の最大限まで研ぎ澄ませ、朝になった。明け方に無事捕獲したらしい。そしてそのまま安心して眠りについた。

 朝、集いに寝坊してきた中島の口から出た「部屋に毒蛇がいたので昨晩は一睡もできませんでした。」という言い訳に寮監は

嘘つけ!

と最速で返していた。

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