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子どもへの性的虐待を、もう見逃したくない。

昨日は痴漢の被害について書きましたが、私にとって最も許し難い性暴力は、子どもへの性的虐待です。
 
日本では、子どもの性的虐待の被害が見逃されています。とりわけ、乳幼児期から小学校低学年の子どもへの被害に気づけていない現状があります。
 
このnoteでは、子どものトラウマケアの専門家である西澤哲著「子ども虐待」を参考にしながら、性的虐待の実態、虐待を受けている子どもたちにみられる兆候、加害者心理、大人や専門職への提言を書いていきます。
  
※ここから先、具体的な被害の内容について書いています。フラッシュバックなどの心配がある方は、ご自身の状態に注意してご覧ください。

性的虐待の実態

"綾香さんの場合
綾香さんは小学校五年生、11歳の女の子である。綾香さんは、学級担任に実父から性的虐待を受けていることを話し、驚いた担任教師が児童相談所に通告したため、一時保護所に保護された。
綾香さんの話では、父親からの性的虐待は、5歳の頃から始まったという。幼児期には、父親と一緒にベッドに入り、アダルトビデオを見せられながら、父親が綾香さんの性器を触ったり、あるいは父親の性器を触らされたりといった性的接触が多かった。
小学校に入ってからは、乾電池などの異物を性器に入れられるようになり、小学校三年生の頃から、父親のペニスを性器や肛門に挿入されるようになった。
綾香さんの母親は夫(綾香さんの父親)からDV被害を受けており、家庭内での行動は完全に夫の支配下に置かれていたため、娘の性被害に気付くことができなかった。  ー「子ども虐待」より引用"
 
性的虐待がその他の性暴力と明らかに違う点は、同じ相手(しかも本当ならば一番信頼できるはずの相手)から、繰り返し何度も何度も、何年もの間、行為を受け続けることです。

欧米の統計では、性的虐待の被害者の年齢は6歳ごろと12歳ごろにピークがあるにもかかわらず、日本では思春期以前の被害者の報告数が少なく、幼少期の子どもの被害が見落とされています。
 
その背景には「まさか、幼児期や小学校低学年の子どもは性的な行為の対象になるはずがない」といった思い込みがあると思われますが、
本当に残念なことに、思春期以降の子どもはもちろん、幼児期や小学校低学年の子どもたちさえも、性的虐待を受けている現状があります。

また、性暴力というと男性→女子への加害というイメージが浮かぶかもしれませんが、男性→男子、女性→女子、女性→男児への加害もあります。

ここから、虐待を受けている子どもたちにみられる兆候について書いていきます。

虐待を受けている子どもにみられる兆候

幼児期〜小学校低学年

幼い子どもの性的虐待が明るみに出ない理由の1つに、子ども自身がされている行為の意味をわかっていないことがあります。
ただ、性的虐待行為によって、子どもには以下のような行動が観察されることが少なくないため、性的虐待の可能性をスクリーニングすることは可能です。
 
①過剰な性器いじり
性器いじりという行為自体は異常ではなく、乳児期から観察されますが、多くの場合は、寝ているときに布団や枕などが性器にあたり、その刺激が快感をもたらすことを知って、同様の行為を繰り返すなどします。
枕が当たって気持ち良いと感じた子どもは、枕に性器のあたりをこすりつける行為を続けます。

一方で、自分の指が当たって快感を得た子どもの割合はさほど高くないと思われるため、手指で性器を刺激する子どもの多くは、誰か他者の手指による性器への刺激、つまり性的虐待を経験した可能性が考えられます。
 
②性化行動
性化行動は、性的な意味を持つ行為(男性の性器を触るなど)が性的な意味とは無関係に行われたり、あるいは性的な文脈とは無関係に出現したり、通常の行為に性的な色彩が備わったりすることです。
これを読んだ時に少しイメージが付かなかったのですが、先日若い男性教師に絡みつくように身体を密着させていた女子を見かけて、「こういうことか」とピンときました。(その時のことをnoteに書いています
 
③性的な遊び
性的な遊びは、リカちゃん人形とリカちゃんのお父さん人形を裸にして重ね合わせたり、裸になって他児と抱き合ったりする姿が遊びの中で観察されます。
 
性的虐待を受けた可能性をスクリーニングする指標についてさらに詳しく知りたい方は、以下の論文で紹介されています。
「子どもの性的行動チェックリスト」
https://www.my-kokoro.jp/books/research-aid-paper/vol42_2006/pdf/mykokoro_research-aid_paper_42_18.pdf

思春期以降

子どもが思春期になると、虐待行為の意味を理解するようになり、そのことで苦しみは増します。被害の影響として、大きく分けて精神科症状と行動上の問題が表れてきます。
 
①精神科症状
思春期以降、性的虐待の影響が、精神科症状として現れることは少なくありません。たとえば摂食障害や、いわゆるリストカットなどの自傷行為、疼痛や、喉の違和感、嚥下困難など呼吸器系・消化器系の身体症状、あるいは解離性障害など、さまざまです。
 
解離性障害には、ストレスの高い出来事の記憶を思い出せなくなる「解離性健忘」や、複数の人格状態が存在する「解離性同一性障害」などがあります。
以下の動画では、子どもの頃に虐待を受けた女性に、成人して以降も「解離性健忘」の症状が見られている様子がわかります。

https://youtu.be/yHe2-g7pfnQ

②性的逸脱行動
性的虐待を受けた子どもは、思春期以降になって異性との早熟な関係を持ちやすくなると考えられます。
無意識に他者から性的行為や性的加害性を引き出してしまうことがあり、その結果、再び性的被害に遭ってしまうことも少なくありません。
 
ある児童相談所では、性的虐待の被害に遭った子どもと関わりをもつきっかけの大半は、子どもの「性的非行」であったことが報告されています。 

子どもに性的虐待をする加害者

子どもに性的な行為を行う親について、極めて異常な、モンスターのような人間だと思っている人も多いかもしれませんが、実は違います。
小学生の娘に性的虐待を行っていた父親が、先の細い腰の低い男性であったりすることも稀ではありません。
 
また、性的虐待は自らの性的欲求を解消するために行うという印象を持たれるかもしれませんが、主たる欲求は「支配欲求」である場合が多く、家庭内で子どもに性的虐待を行う者の大半は、子どもに性的欲求をもつ小児性愛障害(ペドファイル)ではありません。

性的虐待は、子どもが親元や家族から逃げられない状況にあることを利用して、子どもを完全に支配する行為であり、「性的な行為さえできるほど完全に支配できている」ことで、有能感を得るための行為なのです。
 
ちなみに、痴漢などの性暴力の根底にあるものも「支配欲」であると言われています。
https://m.huffingtonpost.jp/2017/10/18/sexual-molester_a_23248308/

子どもの身近にいる大人のみなさまへ

わたしは「子ども虐待」を読んで、もしかしたら小学校、中学・高校時代にも、同級生や身近な人が性的虐待の被害を受けていたのかもしれないと思いました。
  
リストカットを繰り返していた先輩、性に早熟だった子、摂食障害でガリガリに痩せていた子…
そうした行動の背景には、もしかしたら「性的虐待」が隠されていたかもしれないと、今なら思うのです。
 
ただ、子どもの時はまさかそんなことが身近に起きているなどとは知る由もないし、知ったところで、子どもが抱えきれる問題ではありません。
 
だからこそ、どうか子どもの身近にいる大人は「まさかそんなこと」ではなくて「もしかしたら…」という視点をもって、子どもたちの様子を気にかけてほしいのです。
 
性被害に遭っている女子高生が妊娠検査のため産婦人科を受診すると、「気を付けなさい」と医師に呆れ顔で対応され、さらに深く傷つけられてしまうということさえ起きているようです。

性的虐待によって何度も妊娠させられるという悪夢のような出来事は、被害者の身に現実に起きていることです。だからこそ専門職は「困った子」と決めつけるのではなくて、「誰よりも困っている子なのかもしれない」と立ち止まって考えてみて欲しいのです。
 
痴漢や強姦も卑劣ですが、性的虐待は長期間にわたり同じ相手から尊厳を踏みにじられ続け、逃げられない子どもを狙った卑劣極まりない許し難い行為です。性虐待された被害者の人格、人生、一生に深い深い傷跡を残します。
  
子どもの逸脱行動や問題行動は、子どものSOSであり、その背景にある闇に気付くチャンスです。
 
親や保育者、教師、専門職はじめ、子どもの異変に気付ける大人が、どうか増えていきますように。
苦しめられている子どもたちを、できるだけ早く、救い出せますように。
 
子どもへの性的虐待を、もう見逃したくない。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
よかったらお近くの方と話したり、シェアしていただけると嬉しいです。
 

参考資料
□冒頭でもお伝えしましたが、このnoteは以下の書籍を参考にしています。
西澤哲(2010)「子ども虐待」講談社現代新書

□性虐待の被害者の方たちの声が、NHKハートネットで紹介されています。読んでいると、性的虐待が被害者を一生苦しめ続けることがわかります。
https://www.nhk.or.jp/heart-net/new-voice/bbs/8/1.html

□性的虐待の被害者が声を上げ、フラワーデモの活動をするなど、少しずつ闇が明らかになってきています。
https://youtu.be/qHk-cHQUE7c

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