日本建築学会 建築論・建築意匠小委員会による「建築論の問題群」

日本建築学会 建築論・建築意匠小委員会では建築論の活性化のために、2017年に「建築論…

日本建築学会 建築論・建築意匠小委員会による「建築論の問題群」

日本建築学会 建築論・建築意匠小委員会では建築論の活性化のために、2017年に「建築論のテ ーマ」に関するアンケートを実施し、その結果を基に研究会等を重ねてきました。 2021年からはラウンドテーブルと称する討論会を実施し、本noteではその時に獲得した視点を紹介します。

最近の記事

建築論の問題群04〈自然〉 建築にとって自然とは何か? その2-「四方域」のあな

田路貴浩(京都大学大学院教授)  自然に外部はない。とはいえ、人間は自然の外部に立ちうると考える傲慢な習性を持っている。同時に、人間は自然から疎外されているという被害者意識にも取り憑かれてきた。  人間が自然の外部に立つことができると考えるには、それなりの理由がある。それは人間が記号能力を持ったことによる。言語や数学といった記号体系を獲得することによって、自然とは別の人間の世界がつくり上げられてきた。しかもそれは自然を写し取り、記述することができ、おまけに操作することさえ

    • 建築論の問題群04〈自然〉 建築にとって自然とは何か? その1-大宇宙という「善悪の彼岸」

      田路貴浩(京都大学大学院教授)  自然に外部はない。まずこれを命題としてみる。  人間は自然にあらがい、対抗し、操作し、自然には存在しない世界を創り出そうとしてきた。そうした営みが〈建築〉だと理解することもできる。しかし、はたして人間は自然の外部に飛び出すことができるのだろうか?人間は自然の一部ではないのか。自然の外部に飛び出すことができるという意識自体も、自然の内部でのことではないだろうか。  『西遊記』に登場する孫悟空のひとつのエピソードが思い出される。孫悟空は筋斗

      • 建築論の問題群03〈建築の社会性〉 現代建築(における社会性?)の5原則

        小川次郎(日本工業大学 教授) 土佐谷勇太(建築家) 某月某日・都内某所の某設計事務所にて 【introduction】 〈所長〉いやーこの間のプロポ、またダメだったなー……。無念。 〈所員A〉これで去年から足かけ6連敗ですか。さすがにメゲますね。 〈所長〉提出した直後は「控えめに言って最高傑作だな。この案を越えるものはまず無かろう。」くらいの勢いなのに、1次審査に引っ掛からないこともしばしば……。 〈所員A〉応募要項からテーマを読み込んで、審査員の傾向を読み込ん

        • 建築論の問題群03〈建築の社会性〉 「モノ」と「コト」の往還に見出す建築論の〈社会性〉

          香月 歩(東京工業大学 助教) 建築論・建築意匠小委員会では、2019年3月に〈社会性〉をテーマとしたシンポジウム、および2022年12月に同テーマのラウンドテーブルを実施した。ここではこれらの研究会における議論を承けて考えたことを述べてみたい。 建築の社会性、その射程  各研究会の詳細はレポートを参照いただければと思うが、そこでの論点は、建築家の創造的活動(クリエイティビティ)は社会といかに関係しうるか、ということだったと思う。「社会性」という言葉の意味を辞書でみると、

        建築論の問題群04〈自然〉 建築にとって自然とは何か? その2-「四方域」のあな

          建築論の問題群03〈建築の社会性〉  建築と建築家、そしてタイポロジー

          奥山信一(東京工業大学 教授)  建築学分野で一般的に社会性とはどのような内容で議論されているのであろうか。たとえば日本建築学会の地球環境委員会のHPでは、「建築物の社会性」を、建築が個人の所有対象にとどまらず、社会の財産としての性格を有するとし、安全かつ健康で快適であること、資源を浪費せず持続可能性が高いこと、周囲の環境及び社会インフラと適合していること、人々が大切にしたいと思う魅力を有すること、などが要求項目として列記されている。つまり、ここでの建築の社会性とは、原則と

          建築論の問題群03〈建築の社会性〉  建築と建築家、そしてタイポロジー

          連続研究会報告/(レビュー)            第1回 自律概念と他律概念の整理

          日時:2018年11月4日 場所:東京理科大神楽坂キャンパス1号館3階132教室 パネラー:  坂牛卓:建築の自律性/他律性について  市原出:形と空間の問題  櫻木直美:かたちを生み出すロジックの拡張 まとめ:藤原学  坂牛報告は、建築の自律性と他律性およびそれにまつわる概念の歴史的展開を踏まえ、現在の建築家の課題を浮き彫りにした。  すなわち、自律性は近代美学を基礎として展開し、建築にもそれは移入されてきたという歴史がある。そしてモダニズムはこの自律性を標榜しながら生成

          連続研究会報告/(レビュー)            第1回 自律概念と他律概念の整理

          連続研究会報告/(レビュー)          第2回 建築デザインにおける社会性を巡って

          日時:2019年3月9日 14:30-18:00 会場:法政大学市谷田町校舎5階マルチメディアホール パネラ−:  坂本一成「建築としての住宅における社会性」  妹島和世「建築の地域性と社会性−実作を通して」  ヨコミゾマコト 「文化的地域遺伝子と建築」  青井哲人「能動、受動、中動:通路とその外」 まとめ:奥山信一 司会進行:下吹越武人 担当委員:奥山信一、下吹越武人、宮部浩幸 今回のシンポジウムは、建築論の問題群を探るべく企画された一連の研究会の第2回目にあたるもので、

          連続研究会報告/(レビュー)          第2回 建築デザインにおける社会性を巡って

          建築論の問題群02 〈建築の自律と他律〉  つくる只中で発見する

          能作文徳(能作文徳建築設計事務所・東京都立大学)   2回目のラウンドテーブルのテーマは「建築の自律性と他律性」である。坂牛卓氏のレクチャーを受けて、考えたことを簡単に述べてみたい。まず「自律性と他律性」を目的論的な問いと方法論的な問いに分けて考えてみた。目的論的な問いとは「なぜ自律性を問題にするのか」であり、方法論的な問いとは「なぜ自律と他律に分けるのか」である。  最初の問い、なぜ自律性に着目するのか。それは現代の建築があまりにも社会的政治的存在になっているからだと考

          建築論の問題群02 〈建築の自律と他律〉  つくる只中で発見する

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉                流れ、その見えざる規則―坂牛卓氏の設計論「〈物〉/〈間〉/〈流れ〉」によせて―

          片桐悠自(東京都市大学) 本稿は、建築学会建築論・意匠小委員会での「建築論の問題群」第3回ラウンドテーブル(2022年5月15日、東京理科大学神楽坂キャンパス)における坂牛卓氏のレクチャーを承けて、過去の建築における理論的作品とともに、氏の建築論を読解するものである。レクチャーの内容については、同氏による前稿(日本語版、英語版[English version])を参照されたい。  坂牛氏はこれまで〈物〉と〈間〉が建築の設計における二つの基本的な構成要素であると論じ、それらに

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉                流れ、その見えざる規則―坂牛卓氏の設計論「〈物〉/〈間〉/〈流れ〉」によせて―

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉                 Finding a middle ground between architectural autonomy and heteronomy

          Taku Sakaushi (Architect / Professor of Tokyo University of Science) Introduction At the starting point of modern thinking of architecture lies the issue of architectural autonomy, that’s what I think. Some people say my idea is outdated.

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉                 Finding a middle ground between architectural autonomy and heteronomy

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉               建築の自律性と他律性の中庸を見据える

          坂牛卓(東京理科大学教授、O.F.D.A.) はじめに  建築の現代的思考をスタートする出発点に、僕は建築の自律性問題があると思っている。そういうことを言うと時代遅れだと言う人もいるようだ。確かに自律性問題はエミール・カウフマンがルドゥーを分析するあたりから近代建築の背骨のような属性として据えられた概念でありその根は相当古い。それゆえこの概念は批判を浴びて世紀末には建築の舞台から消えかかっていたのである。しかし今世紀に入ってから哲学的にその再考が始まり、生き返りつつあるよ

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉               建築の自律性と他律性の中庸を見据える

          建築論の問題群 01  〈形態言語〉  静かな文法の発見  

          山村健(東京工芸大学准教授、ガウディ学研究所) この言葉は、香山壽夫先生が日本建築学会大会で話された言葉である。 私はこの言葉にとても強い衝撃をうけた。 新古典主義の建築に対してこんなにも生き生きと、そして力強く語る言葉を聞いたことがなかったからだ。自分が学生のときに受講した西洋建築史の講義において、新古典主義が登場していたかですら記憶が怪しい。そんな自分にパリのパンテオンを「最高に美しい建築」と称する香山先生の言葉が強く印象に残った。 その秋から早速、香山形態論の読

          建築論の問題群 01  〈形態言語〉  静かな文法の発見  

          建築論の問題群 01  〈形態言語〉   香山壽夫の形態論と、その現代性 

           木内俊彦(dsdsA)  実は今回、私はこの小委員会に参加する初めての機会で、正直、前日に送られてきた資料を見て、身構えた。その内容が「本気」の形態論だったからである。「本気」とは、本気でないときがあるような失礼な言い方であるが、「形態について本気で話し合うぞ」という気構えを感じて、私は嬉しくなった。  今回の「第1回ラウンドテーブル」のテーマは「形態言語とかたちことば」であったが、私はかつて自分で使うために香山の形態論を勉強したことがあるので、それに関連して考えたことを

          建築論の問題群 01  〈形態言語〉   香山壽夫の形態論と、その現代性 

          建築論の問題群 01  〈形態言語〉   かたちことばと建築のかたち    

          市原出(東京工芸大学教授)  第1回ラウンドテーブルの当初の問いは香山壽夫の「形態言語」と「かたちことば」とはなにが、どう違うのかであった。そのことに関連して発言した、建築のかたちに関する二つのテーマのそれぞれの論点を記す。 1.形態言語とかたちことば  香山壽夫の数多くの論文、著書の中から以下の1論文、3著書を取り上げ、それら文献の構成の図式化を試みる。そしてそれらの中で、「かたち」と「ことば」、あるいは「かたちことば」がどのように位置づけられているかを検討する。

          建築論の問題群 01  〈形態言語〉   かたちことばと建築のかたち