連続研究会報告/(レビュー) 第1回 自律概念と他律概念の整理
日時:2018年11月4日
場所:東京理科大神楽坂キャンパス1号館3階132教室
パネラー:
坂牛卓:建築の自律性/他律性について
市原出:形と空間の問題
櫻木直美:かたちを生み出すロジックの拡張
まとめ:藤原学
坂牛報告は、建築の自律性と他律性およびそれにまつわる概念の歴史的展開を踏まえ、現在の建築家の課題を浮き彫りにした。
すなわち、自律性は近代美学を基礎として展開し、建築にもそれは移入されてきたという歴史がある。そしてモダニズムはこの自律性を標榜しながら生成されたイズムといえる。しかしポストモダンを契機に他律性が大きな流れを作るに至る。そしてさらに他律概念は建築を開くという形でさらにおおきな建築の潮流となっている。その開かれた建築は、必然的に社会との関係を構築することとなるが、社会性は建築のみならずアートと歩調を合わせ現代建築の一つの踏み絵のようにさえなっているとした。
市原報告は建築形態論の進展として空間を捉えるために、形、空間、空間形態の3つに論点を整理し、それらの主題が孕む問題を整理し、論じた。
まず形の問題を、形態言語、物体形態および空間形態のトピックに分割し、それぞれを香山壽夫形態論に即して概説した。
つづいて香山形態論と空間論の史的展開との関係を示した。20世紀半ばの建築思潮における「空間」というテーマを概観すると1950年頃を境に「空間」から「場所」へ移行する。この移行にやや遅れて、またルイス・カーンの思索との呼応の中で、香山は「空間の基本構造」を提示し、形の問題から空間の問題へ接近、展開していくとした。
最後に空間を形の問題として捉える、つまり空間形態を問いの主題とすることについて、報告者みずからの研究に即して説明した。
櫻木報告は「生成:かたちを生み出すロジックの拡張 Digital Technology の進展がもたらすもの」と題して、近年のデジタルテクノロジーの進化が建築設計の手段にとどまるものではなく、新たな建築概念をもたらす可能性を秘めていることを、多くの実例とともに紹介した。
デジタル・テクノロジーの進展は、建築造形の自由度を飛躍的に高め、創造の地平を拡張し続けている。たとえば導入初期には作図補助ツールに過ぎなかったCAD(Computer Aided Design)が、建築が作られる枠組みそのものを大きく変えるプラットフォームに成長しつつある。その変遷を具体的な実例に基づいて詳細に論じた。さらにそうした技術革新によってもたらされる建築の可能性を展望した。
藤原学
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