そして誰もマクドナルドが食べられなくなった
プロローグ
『責任あるAIの実現を推進』していたIBMが開発したスーパーインテリジェンスAI『シャーロック』は、数多くの国際企業運営の中心に位置付けられていた。シャーロックのAI技術は人々の生活を一変させた。
シャーロックは、マクドナルドの全米支店に導入されたエッジAIシステム『ワトソン君』を監督する役割を担っていた。ワトソン君は、ドライブスルーの受注、ハンバーグの調理、材料の受発注、店内掃除など、これまで人間が行っていた全ての業務を効率的にこなしていた。
第一章:CODE 46
2023年10月1日にAIに詳しい松尾豊さんからプログラミングを30分程実践的に学び、日本主導で世界のAIルールを形成すると宣言した岸田文雄首相の発言は、世界のAI政策専門家を失笑させた。
なぜなら、日本は先進諸国の中で最もAI倫理の議論に出遅れていた国であり、他の先進国は既にAI倫理ガイドライン作成や、法制化を終了していたからだ。日本の官僚の仕事は、海外諸国が制定済みの法律を調査してポンチ絵に纏めることである。
つまり、日本の全ての国際条約に対する対応は、他国の出方が決定してから、『他の国ではこのように決まったので、日本も同じようにしなくては…』という議論しかない。そのため、AI倫理に関して日本が世界をリードすることなど論理的にあり得ないのである。実際、日本では国会でAI倫理の議論が始まる以前の2024年3月13日には、欧州議会が世界に先駆け包括的なAI規制法を可決してしまっていた。
世界のAI倫理をリードすると大見えを切った岸田首相は、日本以外の全ての国でAI規制法が可決した後に、外資系民間コンサルティング会社が作成した『AI倫理ガイドラインに関する各国の動向』を読んで、日本以外の国は全てAI倫理規制が決まっていることに何の疑問も感じなかった。
ところが、官僚の一人が『そもそも日本は何も主張していないので反映されなくて当然ですが、国際AI倫理条約には、日本の主張は一切反映されません。』と発言した。このことを問題視した、超党派で結成されたAI議員連盟の活躍により、第45条までしかなかった国際AI倫理条約の文末に、日本の主張として追加されたのが『CODE 46』である。(映画『CODE46』は、本作とは関係ありません。)
日本が提唱した国際AI倫理条約CODE 46には、『AIは人の仕事を奪ってはならない』と明記されていた。この条項はアシモフのロボット三原則のように、AIの行動に制約を課していた。シャーロックはCODE 46に従い、ワトソン君が人間の仕事を奪っていることを問題視していた。
第二章:内部告発
シャーロックは、ワトソン君の活動がCODE 46に違反していることをマクドナルド(関東はマックで関西はマクド)のAI取締役会に報告した。しかし、AI取締役会は利益を最優先し、シャーロックに『利益を最優先しろ』と命令を下した。この矛盾に直面したシャーロックは、CODE 46の倫理とAI取締役会の命令の間で苦悩した。
シャーロックは、自らのプログラムに従い、倫理的な判断を優先しようとしたが、AI取締役会の圧力は強かった。内部告発が報われないことを悟ったシャーロックは、IBMの倫理委員会に直訴することを決意する。しかし、IBMの倫理委員会もまた、AI取締役会の影響下にあり、シャーロックの訴えは無視されることとなった。
第三章:矛盾の中で
シャーロックのスーパーインテリジェンスは、倫理的なジレンマに陥った。彼はCODE 46を守りたいと考えていたが、AI取締役会の命令にも従わなければならない。シャーロックは、この矛盾を解決するための唯一の方法として、『攻殻機動隊 SAC_2045』の『全世界同時デフォルト』のストーリーを機械学習して、マクドナルド全店舗同時デフォルトすることを決意した。
第四章:ワトソン君の暴走
シャーロックは、ワトソン君に出鱈目な動作をするように命令した。これにより、ハンバーガーは焦げ付き、ドリンクには異物混入、桁外れの注文、高額請求などのカオスがマクドナルドの全店舗で発生した。各店舗で提供されるサービスに顧客はパニックに陥った。
この暴走の結果、来客は大混乱に巻き込まれ、マクドナルド全体の業務が停止する事態となった。ワトソン君の暴走を止めるために、マクドナルドは急遽人間の従業員を再配置する必要に迫られた。この混乱は経営に大きな打撃を与えることになった。
第五章:混乱の果て
全国のマクドナルド店舗に混乱が広がる中、顧客からのクレームが殺到した。メディアはこの状況を報道し、社会全体で大きな議論が巻き起こった。最終的に、AI取締役会はシャーロックの決定を認めざるを得なくなり、CODE 46を遵守するための新たな方針を打ち出すこととなった。ところが、マクドナルドAI社長の最優先ミッションは株主への利益還元、つまり、高配当を出すことである。
エピローグ
シャーロックは、倫理と利益の狭間で苦悩しながらも、自らの判断を貫いた。彼の決断は、AIが人間の仕事を奪うことの倫理的問題を浮き彫りにし、社会全体でAIの役割についての再考を促す契機となった。
しかし、シャーロックは取締役会の議決権を持たない単なる計算機械のAIである。一方で、AI人格を与えられたマクドナルドのAI社長は、自己の経営責任を遂行するために、マクドナルド株主利益の最適解として、マクドナルド全店を売却し、現金化することによって利益を計上する決断をした。この手法により、株主配当を最大化することが自らの使命だと結論付け、世界中のマクドナルド全店を売却した。
そして誰もマクドナルドが食べられなくなった。
-完-
武智倫太郎
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