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そして誰も休めなくなった

 2024年の日本では、一日中ブラウザーを使って仕事をしている人は、人口の10%に満たない程度だった。

 ところが、内閣府AI戦略会議座長の松尾豊が、コンピュータ音痴で有名な岸田文雄内閣総理大臣に『日本人の大半は一日中ブラウザーを使っているので、失われた三十年間を取り戻すためには、日本人全員がChatGPTを使いこなす必要がある』と説明してしまった。

 総理大臣はブラウザーが何のことだか分からなかったので、議員立法によって『ブラウザー資格取得特別措置法』が成立し、すべての国民がマイナンバーカードと紐付けしてChatGPTを使う方法を学習することが義務付けられた。

 ブラウザー資格はコンピュータが分からない人がChatGPTで適当に作ったもので、支離滅裂な質問に対して意味不明の正解が用意されていた。試験の合否を決めるのもChatGPTだったため、合格率は0%で、試験が開始されて三年が経過しても合格者は0のままで、日本最難関の資格試験になってしまった。

 自称脳科学者でコメディアンの茂木健一郎は、誰一人合格者が出なかった事実から、ChatGPTが人類の英知を超えた証拠だと主張し、ChatGPTはASI(スーパーインテリジェンス)で、『AIは全人類の叡智を総和したレベルの少なくとも1万倍になる』という孫正義の説を支持した。

『ブラウザー資格取得特別措置法』は、2030年までに資格を取得しないと禁治産者扱いされる内容だったので、すべての日本人が寝食を惜しんでブラウザー資格の受験勉強をした。

 そのため、特別措置法施行後一年間で、すべての国民から土日の休みが消えた。平日が休みの人も休んでいる暇などなく、24時間勤務シフトや交替勤務の人も休日に休んでいる暇などなかった。

 誰も合格者が存在していないので、『ブラウザー資格』に確実に合格する方法など論理的に存在しなかったが、X(旧Twitter)やnoteなどには、『ブラウザー資格を一発で合格する方法』や『誰でも簡単確実にブラウザー資格が取れるセミナー』といった悪徳情報商材や悪徳セミナー商法が溢れかえった。

 このような悪徳商売に騙された人が増え続け、施行後二年目にはほとんどの人から夏休みが消えた。三年目には冬休みが消え、四年目には忌引き休暇が消え、五年目には結婚休暇も出産休暇も消えた。

 そして誰も休めなくなった。

― 完 ―

特別付録

 私が『日本には今でもhttpsではなく、httpを使っている自称コンピュータやAIの専門家がいる』と指摘しても、ICT産業に詳しい方からは『今時そんなリスクの高いWEBサーバーを使っている人などいないでしょう!』と中々信じてもらえません。ところが、実際には、日本の防衛省の関連団体や国立研究所、松尾研などでは、いまだにhttpを使っているのです。

http://ymatsuo.com/japanese/vita.html
松尾豊のオフィシャルドメイン情報

#松尾豊 のホームページを管理しているYoshihiro Noumiは、漢字で書くと野海芳博という東京大学松尾研究室のチームリーダーです。日本のICT業界の人材不足の深刻さが浮き彫りになっていますが、松尾研のほかに選択の余地がなかった可哀そうな方だと察すると同情を禁じえません。

武智倫太郎

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