見出し画像

『電脳時代と羊の夢』/掌編小説

おはようございます。

スイッチをいれてください。

朝食の卵料理はスクランブルエッグとオムレツ、どちらにいたしますか?

ただいまスープを温めます。

夜はよく休めましたか?なにか夢を見ましたか?

__毎朝聞いてくる台詞だが、ワタシは夢を一度も見たことがない。


本日のご予定は十時からホテルサンソーラーでビッグプリズンの代表と会合、十二時からディメンションタワー十八階の仮想レストランにてご昼食、
午後三時半から空想バインドホールで『アンティークドアイドル(AI)の減少とニューヒューマロイドの台頭』について講演のご予定となっています。
ギギッ

__膝が痛むのか、移動の度に小さく関節のきしむ音をたてる。不完全な体を持つ時代遅れのアンティークだ。
素早く精密な動きは出来ないが、おいしい卵料理を作ることが出来るこのAIをワタシは内心気に入っていた。
もはやこの電脳社会には不要となった古いAIを置いている理由でもある。

__そろそろ家を出る時間だ。


行ってくる。


そう言って出ていく主人の後ろ姿を見送って、私は今日もきしむ膝を抱え、広い屋敷の掃除に取りかかる。

スイッチを入れてもらったコーヒーメーカーの美味しいコーヒーができ上がる前に。


この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,099件

よろしければサポートをお願いします!日々の創作活動や生活の糧にさせていただきます。