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1万本の紫陽花に包まれる 矢田寺

「矢田寺の紫陽花、人が来ないように全部切られてしまったんですって。」
お義母さんからそう聞いたのは、2020年の6月初め頃だった。

2020年といえば、新型コロナウィルスが突如としてあらわれ、瞬く間に世界中に広がった年。
誰もがその感染力の強さと症状の重さに恐れを抱き、やり場のない閉塞感に苛まれていた。

諸外国が続々とロックダウンを行う中、日本では、4月に初めての緊急事態宣言が出され、5月末に解除されたが、6月になっても外出自粛を続ける人は少なくなかった。

「以前お聞きしたことがある、あの紫陽花の名所ですよね。それは残念ですね。こんな状態じゃ見にいく人もいないでしょうに…。」
「そうなのよ、本当に残念よね。お寺の人も胸が痛かったでしょうね。」
「ほんとですね。またコロナが落ち着いたら見にいきましょう」

そんな会話から3年。
今や、あんなに恐れられていた新型コロナウィルスは、季節性のインフルエンザと同等に扱われるようになった。

外出に後ろめたさを感じることは無くなり、梅雨の暑さに後押しされて、コロナ禍の象徴ともいえるマスクをつけないことも増えてきた。

コロナの影響が全く無くなったわけではないが、以前とほぼ同じ落ち着きを取り戻した今、外出先で周りを見渡すと、花屋さんに紫陽花が並んでいる。

美しいものには、やはり近づきたい。
吸い寄せられるように、足は自ずとそちらに向かった。

色とりどりの紫陽花を目の前に、何色の子を迎えるか、悩みに悩む。
薄い青の子も上品でいい、濃い紫の子も意思が強そうでいい。
ああ、どの子も一緒に帰れたらいいのに…

カートに乗った娘をあやしながら見ていると、ふと矢田寺のことが頭をよぎった。
「矢田寺はどうなってるんだろう」

結局、どの子にするか決めかねて、買わずに帰ったのだが、数日後、お義母さんからこんなお誘いがあった。
「今年は矢田寺の紫陽花が見られるみたいだから、週末にでも一緒に行きましょう。」

本当に不思議なもので、お義母さんとは何故か思っていることがシンクロする時がある。
こんなに運命的なお誘いを断る理由はなかった。
「ぜひ、お願いします!」

こうして私たちは、矢田寺に紫陽花を見に行くこととなった。
あじさいまつりを知り尽くしたお義母さんの勧めで、夕方、少し涼しくなる頃を狙って、車で向かった。

ナビに従いお寺に着くと、すぐ近くにある北川駐車場へ車を停める。
料金は良心的で、500円だった。

車を降り、道すがら、傍らに見える紫陽花を見て、きっと境内も見ごろだと胸を踊らせる。

行先に目をやると大きなお地蔵様が私たちを迎えてくれていた。
(矢田寺は矢田のお地蔵さんとしても親しまれているそうで、大小様々なお地蔵さまがいらっしゃる。)

ご挨拶をして、3分ほど歩くと山門だ。
両脇に紫陽花が咲き乱れる石の階段を上がったところ、朱色の門。
入山券はこちらで購入する。


赤い門をくぐると、立派な立派な長くて長くて急な階段が目の前に広がった。

予想外の光景に、まばたきが止まらない。
階段のてっぺんに目を凝らしても、境内の入り口すら見えない。

スーパーか近くの公園にいく以外、外にでない専業主婦。
なまりになまった体の私には、なかなか過酷な戦いなのでは…
そう思っていると、お義母さんが優しく声をかけてくださった。

「大変かもしれないけど、綺麗だから、頑張りましょう。」

お義母さんはいつも挫けやすい私を温かく見守り、
捻くれ者の私にも届く、慈愛に満ちた言葉で私を励ましてくれる。

お義母さんの励ましもあり、ゆっくりゆっくり登っていく。

ここまでで、おそらく全体の1/3くらい

何度かうねりくねり、進む方向を変え、途中でお地蔵様にも励ましを受けながら10分ほど上ると、境内に辿り着いた。

ふと顔を見上げると、お義父さんが笑顔で後ろを指さしている。
なんだろうと振り返ると、絶景であった。
のどかな奈良の盆地、大和郡山の景色が一望でき、汗ばんだ体をなでる柔らかい風と共に、優しい気持ちを味わうことができた。

のどかな大和郡山


そのまま息を整え、境内に入り、両脇を白壁に囲まれ、まっすぐにのびる石畳を歩く。

大門坊や念佛院を越え、さらに進むと、左手にあじさいが見えてくる。

入り口近くの紫陽花

平な道を歩くのはなんと楽なことか、あっという間にあじさい庭園の入り口に辿り着いた。

紫陽花の道をほんの少し入ると、広場に出る。
中央に大きな紫陽花の株が現れ、道順を示してくれていた。
(写真を撮りそびれました、ごめんなさい)

入り口から少し奥へ入ったところ

案内に従い、そのまま歩みを進める。
石の歩道、紫陽花は竹で区分けされ、しっかりと管理されている庭園がそこにはあった。

このまま、このような庭園が続くのかと思いきや、
私の浅はかな予想は奥に入れば入るほど、大きく大きく覆される。

この辺りから景色が変わりはじめる

神社の方の愛情と、大地の栄養を存分に吸収し、壁のように大きく成長した紫陽花。
紫陽花にニオイがあったなら、きっとむせていただろうなと思うくらい咲いていた。


気分はさながら、迷路園に迷い込んだ和製アリス。
四面を紫陽花に囲まれてワクワクが止まらない。

自分と変わらない背丈の大輪の紫陽花。
色とりどりのドレスに身を包む貴婦人たちがガーデンパーティをしてるようにも見え、
賑やかにめいめい楽しみ、たまに話しかけてくれているかのような感覚になる。

かと思えば、足元には沢が流れていて、ひっそり静かに凛と佇んでいるレディもいた。

途中、道に迷いそうになったところ、行き先はこちらですよ、と道案内してくれる親切な紫陽花もいた。



色や種類だけではなく、置かれた場所で美しく咲き誇る紫陽花は一つ一つに個性を感じることができる。
素晴らしい庭園。

意外と、山道のようになっていたり、飛び石の階段があったりもするので、もし行く場合は濡れても良い滑りにくい靴で行かれることをお勧めする。


ひとしきり周り、入り口のところまで来たらあじさい庭園の旅は終わり。
親切なことに、一休みできる大きなベンチがあったので、しばしみんなで談笑した。

蚊がいることを想定して、虫除けスプレーを振り撒いていたのだが、あまり見かけず、刺されることもなかった。

ゆっくりした後は、遅れてしまったが、本堂へお参り。

道の途中に
味噌なめ地蔵という大きなお地蔵様を見かける。
このお地蔵様の口に、作った味噌を塗ると、その味噌は美味しくなるらしい。

階段を登って、お賽銭を入れて、
家族の健康をお祈りした。

娘が小さいので、矢田寺の全てを見尽くすことができなかったのだが、
どうやら、奥には八十八ケ所霊場巡りができる場所があるようで、その道中の閻魔堂の近くにはもう一つあじさい園がありそうだ。
みそなめ地蔵の近くにある、あじさい見本園にもよれなかったことも悔やまれる。
また時間を見つけて行ってみたいと思う。

おしまい。



もう時期が終わってしまってからの更新になってしまったので、
もしご興味ある方いらっしゃいましたら、
是非、来年の5月のカレンダーに矢田寺について調べると
リマインダーを登録してみてください。
その時のURLは、こちらがおすすめです。
とても丁寧に案内してくれています。

あと、参考までに2023年のあじさいまつりの基本情報も掲載しておきますね。

あじさいまつりの開催期間・入山料について
開催期間:5月27日(土)~7月2日(日)※見頃は6月上旬~7月上旬
時間:8:30~17:00
入山料:大人700円、小学生300円
障害者割引:障害者手帳のご提示で入山料無料(ご本人様のみ)
本堂特別拝観(6月1日~30日):拝観料 500円※
※奈良交通バスをご利用される方は100円引き
駐車場:有 約500台※民営駐車場(無料駐車場はございません)

2023年 念佛院H Pより引用





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