【芸術祭】【優秀賞受賞作】賢治嫌い

賢治嫌い

【登場人物】


ある首相
アナウンサー

本作品は男と友の物語を想定している。演出により男の一人芝居、あるいは男と友の二人芝居もあり得る。また一人芝居、二人芝居、いずれの場合も友とのラインのやり取りはプロジェクターを映写するなど分かりやすさに配慮することを期待したい。
舞台セットは観客の想像力を喚起するよう簡素なものでかまわず、作り込む必要はない。

―1―
2019年12月。
撮影所。
男、チンピラに扮し、脅迫している。

男 ああ!? ざけんじゃねえぞ、チンカス野郎!!

男、殴る蹴るの暴行を加える。
監督のOKが出る。
男、ガラリと和やかになり、

男 ありがとうございます。お疲れ様でした~。(ペコペコ頭を下げる)

男、若い役者(タカシ)のもとに歩み寄り、

男 お疲れ、タカシ。頑張ったよぉ。(とタカシの肩を叩く)あっ、付いてるよ、血のり。待って。拭く。新しいタオルで。

男、新しいタオルで丁寧に拭く。

男 よしと。あのさ、このあと何かある? ない? 暇? あのさ、ここの近くでいい感じの居酒屋があるんだけど、どう? 行く? ホント。そっか。じゃあどうしよっかなぁ。(スマホの時計を見て)5時でいい? よし。じゃあ正門に集合で!

―2―
同日の夜。
居酒屋菩薩。温かみのある雰囲気。
男とタカシがいる。カウンター席。大皿と2人分の取り皿、それにジョッキとお湯割りグラスがある。
2人はすでに出来上がっている。

男 売れるって。イケメンだし。言ってたぞ、マネージャー。タカシを売り出したいって。そうだよ。顔いいから。自信持てよ。天下のオクトプロモーションがそう言ってんだから。(『蒲田行進曲』の銀四郎の真似をして)羨ましいぜ。小一時間この店いるのに、サイン一つはおろか、気味悪がって居酒屋ホールバイトすら断られたんだぜ?

タカシ、ポカンとする。

男 知らない? 『蒲田行進曲』の台詞。観ろ、面白いから。いいよぉ。大部屋俳優ってなくなっちゃったけど。そう、絶滅。チャレンジしたかったなぁ。

タカシ、何かを尋ねる。

男 ああ、断られたんだよ、ホール。チェーンだったんだけどね。店長チラッと見て、「たとえばですけど、キッチンのお仕事はいかがですか」って。フツー言うかぁ? 居酒屋なんてどこも人手不足でしょ。ホールがいいですって受けてんのに。

タカシが何かを尋ねる。

男 無理無理。目玉焼きすら満足に焼けないんだから。2だよ、家庭科の成績。キッチンなんて務まるわけないし。

タカシ、また何か質問する。

男 理由? 一つしかないじゃん。

男、やや間を置いて、

男 顔。それ以外ないでしょ? 強面の俺が(ちょっと凄む)。いいよぉ、菩薩は。温かく迎えてくれるし。(大きい声で叫ぶ)サンキュー菩薩! ごめん。そういや頭下げられたことあるよ。ヤクザに。マジマジ。勘違いかなーと思ったんだけど。ほらVシネで、歌舞伎町の帰り道。あったじゃない、発砲事件の。そう、マリンジュリー。ヤクザの出待ちに出くわして。うん、しれっと通り過ぎようと思ったんだけど。「(挨拶程度のニュアンスで声をかける)ざっす!」

タカシ、爆笑する。

男 笑うよね。とりあえず「(再現して)お、おう」って(タカシ爆笑)。笑いすぎ。腹よじれるんじゃない? まぁいいや。しかし大変だよねえ、ヤクザも。排除条例でがんじがらめでしょう? 足洗っても5年はカタギに戻れないっていうじゃん? まぁ今回も半グレが暴走したって設定だけど。え、知らない? 無理だよ、ヤクザは。一発で摘発されるもん。結局さぁ、ヤクザも居るとこなくなってクスリに手出すしかなくなるじゃない? 可哀想っていうか、こうなっちゃうんだと思うとねえ。いや詳しいっていうか、ちょっと調べることあって。

男、しんみりする。

男 しんみりしちゃった。何の話してたっけ? ヤクザに挨拶された話? 笑いすぎだから。どんだけ笑ってんだよ。何打ってんの? ああ、マネージャーの。期待されてんだって! まぁ事務所に拾ってもらって、ホント良かったと思ってる。この年でねえ。(タカシに)何か鍛えてる? マジ? やったほういいよ。俺レッスン行こうと思って。殺陣、殺陣。あんのよ、木刀。そう、修学旅行で。パッと飛びついたんだけど。そうそう。捨てようかと思ったんだけど、手に取った瞬間気づいたわけよ。「使える」って。華麗にやったりして(と殺陣をする真似)。まぁわからんけど。役名ついてキャスティング! なんてことになったらさぁ。もうホント、

タカシ、ラインの着信がくる。

男 ラインね。え? 雨? 降ってなかったのに。傘は? ああ、コンビニで。雨ニモマケズ、風ニモマケズってなぁ。(急速に不機嫌になり)日本の偉人? 好きなの? 宮沢賢治。グスコープ(ブ)ドリ? まぁよだかでもプ(ブ)ドリでも勝手に飛んでろって感じだけど。え? 木こり? ああ、ブドリね。ま、どうでもいいけど。忘れたし。つーか読んでもない。地元なんで賢治新聞だの何ちゃら巡りの歌だの腐るほどやらされてさ。うんざりだよ。ああ、岩手岩手。訛らないよ。盛岡だもん。これでもシティーボーイ。賢治グッズばっかりだよ。時計台やら老人ホームやらわんさか溢れて。別に賢治に詳しいわけじゃなくて、単に郷土の誇りだから持ち上げてるだけじゃないのって気がするけど。どこ? 横浜か。まぁ広いしね、横浜。

タカシ、なおも『銀河鉄道の夜』の話題を振る。

男 ええ? もう良くない? 『銀河鉄道の夜』とか百万回くらい聞いたよ。ジョバンニカンパネルラ聞き飽きた。どうしてカタカナか意味わからん。

タカシ、『銀河鉄道の夜』がなぜカタカナなのかを説明しようとするが、

男 (さらに機嫌を損ね)いやいいよ、説明しなくて。はっきり言って興味ない。あのさ、一点だけアドバイスするならば、直箸。勝手に食べちゃアウト。取り皿があるでしょ。何のために2人分の取り皿持ってきたわけ? あと楽しく話してんのに、いきなりラインイジりだしたり。俺はいいよ。でもわかんないじゃない。スタッフさんだって見てるかもしれないし。

タカシ、落ち込む。

男 凹んだ? 大丈夫だって、小さいことだし。ちょちょっと直せばいいんだから。(タカシまだ落ち込んでいる)ほれ、食え食え。栄養つけろー。(大皿からタカシの皿に料理を取り分けてやる)ホント顔小さいよなぁ。羨ましいわ。

男、グラスを示し、

男 どうする? 水? じゃお会計済ましちゃうねー。

男、退場。間もなく水を持ってくる。

男 お待たせー(タカシの水を置く)。(金額を尋ねられる)ん? いいや、俺が誘ったし。出世払いで頼むぞー。(スマホ見て)おっ、中国の武漢市で原因不明の新型肺炎だって。怖っ。いやいや遠いですねって、侮れないよ。ばあちゃん肺炎で死んだし。(と帰る支度をし)よし、行くか。傘忘れんなよー。

―3―
同日の深夜。
軒下。
どしゃ降りの雨の中、男が傘もささずに駆け込んでくる。

男 ひゃあ、ひでえなぁ。宮沢賢治の馬鹿野郎! 何が雨ニモマケズだ! 綺麗事抜かすな!! 調子こいてんじゃねえぞ! 全部すっからかんだ!! 買えねえよ、傘! どうしてくれるんだ! 欲はある、決死の覚悟で怒ってる! そういう者に私はならない、死んでもならない!! おごるんじゃなかった!

母から電話がかかってくる。

男 (いきなり訛り)はいはーい。観た? 『さすらいの帝王』。んだ、鉄パイプを振り上げるシーン。一瞬だども。鉄パイプっていっても、実はプラスチックなんだけどね。気づいたんだ。いがった。ホッとした。いやいや気づくわけない、一瞬だし。何だ、メールくれればいがったのにさ。(笑って)何で? 3時間も4時間もかがったって。「観だよ~」だけでいいべ。それがコミュニケーションだべ? まぁ習うより慣れよだよ。そのうちやってればコツ掴むし。新しいことにも挑戦しねえど。え? 腰(こす)打った!? 階段から? 気ぃつけで。して? ああ、だば、いがった。うん、したら(電話を切りかけるが)あっ、あと名前呼ぶの止めてけで。こないだ芸名変えたべ? 正しい芸名できちんと認めて貰うのが夢なんだで。うん、よろしぐ。明日の病院忘れねえで。観てけでありがとう。おやすみなさい。

男、電話を切る。
男、雨量の幾分少ない方を選び、猛ダッシュで走り去る。

―4―
2020年の2月。
アクション倶楽部の道場。
男、場違いな雰囲気(カルチャースクールのノリ)で木刀を持って入ってくる。

男 失礼します。あ、先生。よろしくお願いします。(先生に歩み寄り木刀を示し)あの、松島で買ったんですけど、できれば自分のホームページに「特技、木刀」って書かせて頂けたらなと。一芸ありじゃないですけど、プラス材料にはなるんじゃないかと思いまして。え? 駄目? あぁ、基礎体力(残念そうにする)。不満? いやいや、滅相も! 殴れ? いやぁ、殴られたこと、(躊躇しながら)いいんですか? 本気で行きますよ?

男、先生を殴ろうとすると、いとも簡単に倒されてしまう。

男 (目を丸くして)あの、今の?

先生、さらに殴れと要求。男、殴ろうとするとまた倒されてしまい、話にならない。(以下同じ調子)
男、息が切れてしまい、

男 先生、これは?

先生、答える。

男 あ、合気道を。(やがて膝をつき土下座)師範と呼ばせて下さい!! え? 集団感染?

照明切り替わり、ある首相の声が聞こえてくる。

ある首相(声) えー、いわば医療現場は正に危機的な状況にあると、言えると思われます。首都圏の感染者数(少し噛む)も増加の一途を辿っており、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼす恐れがあると判断し、えー、ただ今より緊急事態宣言を発令することにいたしました。

―5―
4月。
都内。
男、Uber Eatsの配達員として現れる。配達バッグとスマホ。辺りをキョロキョロ見回し、上京したての地方出身者であるかのよう。
なおマスクは代用品で、見るからに不格好。

男 (独り言のように)国民経済は結構ですけど。20人ぐらい? 誰だよ、3万円稼げますって言ったの。ん? 笑った? しゃあねえだろ。お互い協力し合おうぜ。(2才くらいの可愛らしい女の赤ちゃんが通りかかる)おおー、可愛いですねえ。何才ですかぁ?

赤ちゃん号泣。大人達速やかに立ち去る。
男、茫然自失。

男 え、泣かなくても?

男、母に電話をかける。

男 おう、俺だ。今Uber Eats始めたどご。撮影も何も全部ストップしてらがら。
(理解していないようなので正しく言い直す)ウーバーイーツ。デリバリーサービスみてなどこだ。盛岡にはねえの? へえ、そなの。(何か不審に感じ)なんじょした、クチャクチャしたの。みたらし団子!? してねの? みんなしてらよ。マスク。うん、東京は。はぁ、ブレイクタイムで。んだね。着けるにこしたこだあないね。東京はどこも品切れ状態。コンビニもスーパーもさっぱりだ。やっと出たど思ったら買い占めで。終わってら。恐ろすね、都会のひとらば。盛岡は? ホント。もし見がけたら。助かります。そんじゃ(切ろうとするが母がまだ話しかける)ん? なんじょした? あぁ、帰(け)りたいけどねー。でぎれば。ちょっと状況が状況で。うん、電話する。メールでなくて電話で。

男、電話を切る。
男、おんぶ紐で赤ちゃんを背負うように配達バッグを大切に背負い直す。

―6―
同日。男の一室。夕方。
男が百均のスタンドミラーを立て、マスクの代用品を探している。

男 (ハンドタオル)強盗。(却下)(海水浴に行ったらしいシュノーケルグッズ)怪しい。

男、寝転ぶ。

男 マスクマスクって。

ラインがくる。

友 お久しぶりー。僕のこと覚えてる? 座付き作家でーす。
男 あれ?
友 ユニット解散して連絡すんの止めよう、自分の道を歩もうって誓ったんだけど。あまりに暇で。(モスラの歌ならぬコロナの歌を歌う)コロナや、コロナ~
男 それコロナじゃなくてモスラ!
友 実はあのあと色々ありまして。まぁ一番大きいのは脳出血で倒れたことかな?
男 マジ!? 
友 飲み仲間の忘年会で張り切って飲んでたら、ウトウトしちゃって。ハッと気づいたら左の感覚がなく、ヤバい! と思ったらバタン。半年入院して片麻痺だよ。めちゃくちゃ仕事探して、結局見つかったのが障がい者雇用の在宅ワーク。まぁ待機だね。障がい者って法令上雇用しなきゃならないけど、企業にとっては渋々だから。「当面お願いしたい仕事はないので、とりあえず待って」って言われたよ。一応会社からは給料出てるんだけど。
男 ああ、それなら(いいね)、
友「いいね」って人は言ってくれるんだけど、複雑。何もしてないのにいいの? って思うんだよ。杖突いて歩いてると、人生間違ったんじゃないかって。ごめん。そういう話をしたいんじゃなくて。今回連絡したのは別のことです。
男 何?
友 単刀直入に言わせてもらいます。
男 はい。
友 ビックリするかもしれないけど。
男 (改行が多くてスクロール出来ない)ん? 
友 実家を手放しました。
男 え? 盛岡の? 
友 幸い土地を買ってもいい人が現れて今は更地だよ。『なにもない空間』って読んだことあったけど、グーグルマップで見ると、ホント何もなくて、虚しいなって心から思った。
男 何で?
友 隠してたんだけど、ユニット組んでる時、小道具やら雑用やらに勝手に使ってて。
男 言ってなかったじゃん!
友 書くのはできるけど主宰としてはポンコツで。「ふざけんな!」って役者に怒鳴り散らされて。
男 あったね。
友 ついにはサラ金とリボ払いに。
男 それ手を出しちゃダメなやつじゃん!
友 もう後悔の連続。
男 何やってんだよ。
友 結局母と東京に住むことになって。うち母子家庭だから、余裕ないし、その方がいいんじゃないかという話に。
男 相談してくれれば。
友 岩手の魅力なんて考えたこともなかったよ。実際家が無くなって心に穴があいた感じがして。盛岡出身ってシティボーイと呼ばれるけど、山もあって綺麗な川も流れてる。秋になると鮭の遡上も見られて。
男 鮭の死骸も。
友 たまに思うよ、帰りたいって。昔あったじゃない、ヤクザの芝居で、「俺には帰れる家族も故郷もないです」って嘆いてたら、若頭が慰めるように「まあいいじゃねえか。俺たちにはシマがある」って台詞。
男 懐かしい。
友 そんな感じ。今は岩手川のCMをYouTubeで流して、勝手にノスタルジーに浸ってるよ。
男 潰れたよ、岩手川。
友 作家仲間の芝居ばかり観てるよ。あとは執筆。芸術祭の表彰式が盛岡だから、それに向けて書き進めてる。あとで気付いたんだけど、盛岡ってきっかけが無いと帰れないの。帰りたくても母が「何で?」って訊くし。まぁ賞取れるかわかんないけど、もし受賞したら、表彰式はビジネスホテルかな、なんて。コメントしづらいかもだけど。
男 しづらいよ!
友 連絡待ってます。

男、ラインを打とうとするが、思い止まり、バービージャンプをする。

男 (教えをなぞるように呟く)キチンと胸に付けて。

バービージャンプが続く中である首相の声が聞こえてくる。

ある首相(声) 国民の皆様には大変ご不便をおかけしております。その上で、緊急措置としまして全世帯に再利用可能な布マスクの配布を実施いたします。こちらは洗剤を使って洗うことが可能です。私も着けておりますが、新規感染者数は急増しており、急激に拡大しているマスク需要に対応する上で極めて有効であると考えております。

―7―
4月のある日。
公園のベンチ。
男がアベノマスクとビニール袋を持ってやってくる。マスクは別の物をしている。
男、アベノマスクを顔のサイズと見比べて、   

男 入る?

気づくとご婦人が立っている。

男 (驚いて)あっ、ごきげんよう。すいません、気づかなくて。一応離れますね、三密なんで。(と、距離を取り)ええ、今朝届きまして。思ったより小さめというか。あー、そうですね。配ってくれる気持ちはありがたいかもしれない。ただ顔デカいんで。大丈夫ですよ、スリムなんでご婦人。

男、ビニール袋の中からネオバターロールを取り出し、食べる。
ご婦人、話しかける。

男 ああ、167円だったんですよ、特売で。もう1円でも安くしないと。爪に火を灯す生活ですよ。配達員です。Uber Eatsの。競争激しいですよ、日給3万なんて。(ご婦人が何か話しかける)あー、どのような? ええ!? そんなに頂いちゃっていいんですか? おお! 不織布マスク? いやぁ助かります(と、握手する)見つからなくて困ってたんですよ。ええ、チラシ作るくらいなら。それ詳しく教えてもらえますか?

―8―
数日後。早朝。
武州漢店前入口。
マスクをした男が現れる。辺りを見回し、
「武州漢店様
どうして人のことを考えられないのでしょう?
どうぞおとなしくしてて下さい。
お願いします」といった貼り紙を貼る。

男 (念じるように)間違ったことはやっていない。間違ったことはやっていない。

男、足早に去る。
チャイム音。
間もなく男が荷物を運んでくる。そこは男の一室。

―9―
数日後。男の一室。
男、荷物を確かめる。通常のマスク2枚のほか、黒い帽子にフロックコートが入っている。それはまさに宮沢賢治グッズである。
男、たまらず母に電話をかける。

男 届いだよ。ありがとね、マスクも。うん確かに、少しだげ。まぁ言葉悪りいけど雀の涙だね。使い捨てでしょ? すぐ使ってしまうと思うけど。ただ嬉しいよ、気持ぢは。跳ね回ってくれたし。ありがどな。ところでさ、何か気づがない? 被んないよ、分厚いコート。暑すぎるくらいだぁ。誰? 菊池さんて。いやぁ、記憶も曖昧で。東京だよ? 何度も言うようだども。真っ黒い(と言い掛けるが母が何かを言っている)いや岩手と言えばって。前話したよね、賢治嫌いって。責め立ででないよぉ。ただそうだって言ってるだけ。寝間着にはいいかもわかんないけど。まあ考えるよ、いずれ。(母が何かを語りだす。男、嫌そうに)いいって。全部リセットしてきたがらよぉ。俺が本当に心を許せるのはグレートサスケと大谷翔平ぐれえだ。スゴい人だよ、ホント。あっ、ごめん、キャッチホン。ちょっと一瞬。ん? ついでに?(よくわからず)あぁ、ありがとう。一旦切ります。 (切り替えて)はい、もしもし? ああ、ご婦人ですか。ごきげんよう。すいません、お待たせして。何か? ええ。あぁ、そうですか。まぁ仕方ない部分も。1回だけだったんで。そんなに!? いいんですか? じゃあイメージだけ送ってもらって。

男、電話を切る。
男、母の発言に気づき、箱を開ける。中にはひっつみ汁と煎餅汁セットが入っている。
男、感極まって、ひっつみ汁と煎餅汁セットを抱く。

―10―
翌日早朝。
武州漢店前。
男がサングラスやマスクを念入りに施し、現れる。誰もいないことを確認し、ビラを貼る。内容は「中国人は祖国へ帰れ」「この寄生虫!」など見るに耐えないものである。
男、貼り終わると、猛ダッシュで立ち去る。

―11―
同日。
男の一室。
男が罪滅ぼしをするように一心不乱にバービージャンプをしている。

男 495、496、497、498、499、500――

男、息も絶え絶えである。

男 ダメだ。死ぬ。死にそう。師範すみません。私は弱い人間です。木刀百年、いや千年早いです。さようなら、俺の松島。(土産物の木刀「松島」に手を振る)

友のラインがくる。

友 ちゃお。やっぱり連絡くれなかったね。
男 気まずいじゃん。
友 ところで、宮沢賢治についての意外な一面が分かったよ。知ってる? 宮沢賢治がうつ病だって。
男 うつ病?
友 知り合いの劇作家の一人芝居を観に行ったのね。その人医者なんだけど。
男 (ポツリと)金持ってそう。
その一人芝居に宮沢賢治が現れて、普通にうつ病患者として扱われてて。ビックリして調べたんだけど、正確にはそううつ? 浮き沈み激しくて、そうの時は1ヶ月に原稿用紙3千枚の童話を書いたりして。
男 3千枚?
友 どうやって書いたのって感じなんだけど
男 確かに。
友 ただうつは酷くて、初期の作品短いし、堅苦しくて、何やら暗い感じなんだよ。
男 へえ。
友 知り合いの手紙にこんなこと送ってんの。
「私は暗い生活をしてゐます。うすくらがりのなかで遥に青空をのぞみ、飛びたちもがきかなしんでゐます。
あなたが感ずる様に暗黒の時代は近いかもしれません。その暗黒のただなかをまっすぐに通り抜け、かがやきの国に立ってふりかへって暗黒の国の壁を破るひとはあなたの様にめまひのする様なはげしいところで力をつくりあげるのでせう。」
男 暗っ。
友 送られてもさ、やり場に困るというか。
男 やめてほしい。
友 まあ賢治の文体とか好みじゃないよ。賢治あんま好きじゃないって話でユニット組んだわけだし。でも評価される理由はわかる。『銀河鉄道の夜』のカンパネルラは妹のとし子がモデルとか。
男 そうなの? 
友 ほかにも賢治が生きた大正時代は農業の科学化が進んだ時代で、だからあえて科学的な言い回しにしてるとか。
男 スルーで。
友 まぁ好みはそれぞれだけど、人としての宮沢賢治、面白いなぁって。賢治は元々裕福な花巻の家庭に生まれたんだけど、お父さんと折り合いが悪くて、色々思い悩んで数年ごとに仕事を転々としたんだって。そう思うとかなりナイーブだし、惹かれるかと問われれば微妙かもしれないけど、なんか人間臭くていいじゃない。バンザイ、一人の宮沢賢治\(^o^)/
男 顔文字?
友 そういうわけで連絡信じてお待ちしてます!

ラインが終わる。
男、しばし考えるが、バービージャンプに明け暮れる。
一転して明るい青空に変わる。

―12―
5月下旬。
ゴミ集積所。カラスに荒らされたらしく、ゴミが散乱している。
男、ポリ袋を持ち、「虹の向こうに」ならぬ「解除の向こうに」を歌って現れる。

男 解除されたよ、コロナよいなくなれ。マスクの向こうにはいつもの日常~♪ (ゴミが散乱していることに気付いて)(ため息)

男、仕方なく散乱したゴミを片付ける。袋の中に菓子パンの残りがあるのをつまみ上げて、その辺に放り投げる。
男、片付け終えて、あることを思い立ち、退場。
まもなく財布を持って現れる。金額を確認し、歩きだす。武州漢店にたどり着く。閉店の貼り紙。言葉を失う。引き返そうとした時、電話がかかってくる。着信を見て、凍りつく。無視しようとするが、電話が鳴り続ける。仕方なく電話に出て、

男 はい。ごきげんよう。いやぁ、もう十分っていうか、実はですね。え? ネットですか? あー、それなら。

男、電話口でゆっくり消えていく。

―13―
数日後。
オクトプロモーション事務所。
男とマネージャーがいる。

男 ないですか? いや十分わかってるんですけど。PVでもMVでも道の端っこでも監督の要求汲んで悪ぶるんで。何ならYouTuberでも。そうですか。タカシですか? ええ。おお、イケメン密着24時! 決定ですか? 良かったぁ。悩んでたんですよ、オーディション受からなくて。しっかりお祝いしないと。(と立ち去りかけるが)ああ、自分はUber Eatsを。なかなか苦労してますけど。ちなみにどんな? いやぁ、ゴミ収集は。職業に貴賎はないですけど。

男の後ろのスクリーン上に、マネージャーのノートパソコンの画面。自粛警察のビラを貼る男が映る監視カメラの映像が映し出される。

男 (思わず)人違いです!!

マネージャーが「微妙なラインなんだよねー」と言っている。

男 いや微妙なラインじゃなくて。どこで? 誰が密告したんですか。別人ですよ。してるじゃないですか、マスクとサングラス。行ったこともないですし。いいですよ、美味そうな写真見せなくて。見せなくていいです(ノートパソコンを無理やり閉める)。だいたい、免許持ってないんで。

男、逃げるように立ち去っていく。

―14―
特に場所は限定しない。飲みの席の憂さ晴らしタイムである。昼間から飲んでいる。ビール。焼酎。ハイボール。やがてはコンビニの第3のビールにまで手を出してしまった(展開はお任せ)。しかし気持ちが晴れることはなく、男は酔いに任せて電話をかける。

男 おう、お袋か。ごめん、柄にもなくお袋なんて。母ちゃんだね。酔ってるよ。ごめん、解除されたもんで、パーッとやりたくて。色々考えでさ、盛岡に帰ろうかなと思って。及川さんって町内会長? え、だって岩手は感染者ゼロでしょ? ふうん、恐ろすね、回覧板って。何だか悪者扱いみでだな。東京。(やや強気になり)してらよ、マスク鼻まで覆って。まぁ残念だけど、ホント。心からコロナ収束することを願って。

男、電話を切る。マスクを着け天を仰ぐ。それは泣いているのかどういう心持ちなのかわからない。
ラインがくる。

友 お疲れ。宣言解除されたね。嬉しくなって芝居観てきたよ。良かったなぁ。一番印象に残ったのが「今見えてる星って何億年も前に光ってるものなんだ」って台詞。ハッとしたよ。いくら星が光っていてもそれは何億年の過去に過ぎないんだって。たとえば「スピカ」は250光年。地球からスペースシャトルに乗ってもたどりつくまでに959万年かかる距離なんだって。今は星を見ているかもしれないけど、もしかしたらとっくに終わっていて、「いつの話ですか?」って感じかも。そう思うと自分はなんてちっぽけな存在なんだと思うよ。賢治が亡くなったのが1933年。畑が広がる大地で、星はもちろん、風のこと、命の営みのこと、生きる理由を考えていたのかなって。それにしても星綺麗だね。お互いいつか飲もうよ。あの時みたいに。

	ラインが終わる。

男 (独りごちる)飲みたいよ。

男、宮沢賢治の『星めぐりの歌』を歌い出し、歩いて行く。(東京をゆっくりと確かめ、歩き回るようなイメージ)

あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の  つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。

オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。

大ぐまのあしを きたに
五つのばした  ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。

男、退場する。

―15―
7月中旬。
居酒屋菩薩。
男とタカシがいる。テーブル席。

男 本番は? うわ、突貫工事だ。台詞入れた? ダメだよ、入れないと。台詞入れないと舞台役者失格って。言ってたよ、女優さん、演劇賞も取ってるような。うん、読売新聞にも。言っちゃった。この業界狭いから。舞台やってると、知名度のある人もフツーに飲みに行ったりしてて。たとえば(タカシに耳打ち)、スゴいっしょ? テレビも映画も引っ張りだこ。たまに舞台もやることあったんだけど、昔ちょっとお高めなイタリアンのお店に連れてってもらったことあるんだよ。まぁ座付き作家の繋がりで。その女優さんデザートにプリンを注文したんだけど、何て言うの? シャレオツな? 三角のプリンが出てきたの。そしたら、「ごめんなさい、私丸いのしかダメなの~」って。

タカシ爆笑する。

男 食べたよ、三角のプリン。美味しかったぁ。プッチンプリンより百倍。日々感謝だよ。感謝を忘れないこと。(途端に説教臭くなる)演じ手は支えて下さるファンがいて、スポンサーがいるわけだよね。もちろんスタッフさんだったり、劇場の小屋付き、全部の協力で成り立ってる。そのこと忘れちゃいけないよ。俺が言うのもアレだけど。何やらオヤジの説教になってるね。こういうのがダメなんだな。よし、お会計するか。

―16―
同日。
居酒屋菩薩。
男とタカシが会計を済ませて店から出てくる。手には1枚の封筒が入っている。

男 悪いね、おごってやれなくて。あとマスク鼻、はみ出てる。気をつけなよ、鼻出してたし。いやそれでもだよ。我慢して着けないと。(マスクを着けて)いきなり渡されたけど(開けると招待券が入っている)え? 招待してくれんの? 払うのに。いいの? ありがとう。さっきはごめんな、説教みたいなこと言って。自信持っていいよ、やっと掴んだ仕事なんだし。俺も持ち場で。うん、おやすみ!

	二人、別れる。

―17―
8月初旬。
男の一室。
パソコン上で作業しながら男が電話している。
木刀を脇に置き基礎練に興じていたと思われる痕跡がいくつか。
話しているのは男と母。

男 出だねえ、第1号。え、何で知ってんの? まぁ少ねえしね、人口。出だ途端に苦情100件って。思うよね、これが日本のイーハトーブかって。誰だってリスクあるんだし。もっと思いやり持だねど。うん、気ぃつけで、おだがい。

男、電話を切る。
木刀を持ってレッスンへ。

―18―
同日。アクション倶楽部。
男がいる。

男 素振りしていい!? ありがとうございます! 泣きそうです! どうすれば? 手本を? ぜひお願いします!

師範、お手本を見せる。

男 おー、さすが! びゅんびゅんですね、刀。いやぁ、重そうなのに。鍛練の賜物です。鍛えてきたんでしょうねぇ。それで、無理なお願いで恐縮なんですが、松島を素振りして頂くことは? よろしいですか!? すいません。(師範のアドバイスを真剣に聞く)お願いします。刀を持ち上げたら、ふっと力を抜き、振り下ろす時に力を入れ、雑巾を絞るように両手の人差し指と親指の股と股を合わせて体幹を意識する。ですね。やってみます。

男、言われたとおりに素振りしてみる。
ちょっと師範に褒められる。

男 (大変恐縮して)そんな、とんでもないです。ありがとうございます。精進しますので、よろしくお願いします!

電話が鳴る。

男 はい。ええ!? 参ります。(と、マスクを着けて)着けました。はい、至急。(と、電話を切る)師範、緊急事態です!

―19―
同日。
オクトプロモーション事務所。
男がやってくる。

男 失礼します。はい、着けてます。バッチリ二枚重ねで。あの、それで(と言いかけるがマネージャーから消毒の指示)あ、消毒を(と消毒をする)はい(非接触型体温計で検温。平熱である)で、申し訳ないんですけど、外しても宜しいでしょうか? 走ってきたもんで。すいません(とマスクを外す)タカシは今? そうですか。じゃあ不幸中の。一応招待してくれたんですけど(と招待券を見せる)でも本番までしばらく時間がありますよね? もう少し休んで貰って。何人ですか? 五人!? いやぁ、ホントコロナが(とポケットにしまう)え、そんな! 冷たすぎますよ。ああ。まあたまにありましたよ、鼻出してて。いや鬼の首を取ったみたいに。慣れてないのもありますし。解雇かぁ。どうするんだろう、これから。マナーとか怪しいんで、仕事見つからないと思うんですよ。まぁ何とかするかもしれませんけど。(マネージャーから一枚の紙を手渡す)ん? 何ですか?(見る)契約解除!? 私が? サインしろ? ここに? 急すぎますよ。だいたい何をしたって言うんです?

マネージャーのパソコン、自粛警察画像がアップされる。

男 だから、この前も言ったとおり、

マネージャー、パソコンをクリックすると、並べて映された男の写真との相似度が95%になる。

男 いつの間に?

男、『水戸黄門』のベタな悪役のように、後ずさりする。

男 待って下さい、まだ決まったわけでは、

マネージャー、『半沢直樹』のテーマ曲をセット。

男 しないぞ! 何があってもしないぞ!

高まる『半沢直樹』のテーマ曲。追い詰めるオクトプロモーションのマネージャー。そして、

男 (土下座をして)サインします!

―20―
同日。
男の一室。
男、ハンガーラックとビニール袋を持ってやってくる。それは母が送ってよこした宮沢賢治グッズ(賢治人形)である。
男、第3のビールを取り出し、飲む。

男 どうする? バラバラになっちまったぞ。ホント言うとな、バラバラではねえんだ。批判的な記事を見つけては「桜の会より大問題の、尖閣に連日領海侵犯しているチャイナ船籍をガン無視して、何でもかんでも大反対して議会に出て来ない野党に払う金の方が無駄遣いだと思うけどねえ」っていう狡い仕事をやってんだ。1種類じゃないよ。国の理想を語る。同調しつつソフトに問いかける、ただのボヤキの3パターン。巧妙だよ、ご婦人、パソコン弱い割に。右翼じゃないぞ。誰のせいだよ。賢治のせいだ!(と攻撃する。ハンガーラックに黒い帽子が落ちる) (改めて賢治人形を眺めて)こうやってボサーッと突っ立ってると無性に腹が立ってくるよ。何が雨ニモマケズだ。綺麗事言い過ぎていじめられてたんじゃないかって。まぁ俺もな。

男、黒い帽子をハンガーラックに掛ける。そしてあることに気付く。ポケットの中から招待券を取り出す。

男 鼻まで覆えよ。思い残し切符だ(フロックコートのポケットの中に入れる)。

友のラインがくる。

友 ねえ、どうして連絡くれないのー?
男 酔っ払ってる?
友 あんな長いメール書いたのに、全ては水の泡だね。
男 酔っ払ってるね。
友 最近さぁ、つくづく人間が信じられなくなってきて。狡いじゃん、人って。上手い答えが見つからないけど。僕の好きなラーメン屋に大好きな柚子胡椒がなくなって。必要な方はお声がけ下さいって書いてたけど、置いてあったんだよ、元々。コストカットかわかんないけど、そういうのがさぁ。性分なのかな? どうして狡く振る舞うの? 最近増えたよね、コロナで。
男 (痛いところを突かれている)
友 ごめん、酔っ払ってる。飲まずにいられないよ。最近視線が冷たいし。その点真っ当だね、賢治は。狡いこと何もしてないもん。変わったところはあるけど、たぶん賢治は優等生なんかじゃなくて、「こうあってほしい」と思って書いてる気がする。まぁ物書きの直観だけど。いまどこにいるの? 検索しても全然見つからないし、ホント寂しさが募るよ。自分は盛岡には帰れない。書いてるよ、帰れると信じて。もう宿命だね。表彰式で冷麺じゃじゃ麺死ぬほど食ってソウルフードを堪能したい。それだけを支えに。出来ることなら(と言いかけるが)もう言いません。待っています。

男、テレビをつける。

アナウンサー(声) 続いてのニュースです。全国各地でクマの出没が次々報告されています。先月はショッピングセンター内に侵入し、長時間居座ったのち、猟友会によって射殺されました。
男 (素朴な驚き)殺されちゃったの?
アナウンサー(声) 侵入したのはオスの大人のクマで、体長は130センチくらいと見られます。人里に降りてくるようになりついには市街地にまで出没したと見られています。今年はキャンプ場で襲われる被害も相次いでおり、

男、テレビを切り、スマホを検索する。

男 あった。(賢治グッズに向かって『なめとこ山の熊』の一節を読み聞かせる)「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。おれも商売ならてめえも射たなけぁならねえ。ほかの罪のねえ仕事していんだが畑はなし木はお上のものにきまったし里へ出ても誰も相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ。」(訛りだし)聞かせてくれだなぁ。(賢治人形に)もう迷わない。ご機嫌取るのはサヨナラだ。

男、友にラインを送る。

「長いことすまん。俺は大丈夫」

男、ラインを打ち終える。木刀を手に持ち、賢治グッズを見つめている。荒々しい目差しで。
暗転

―21―
幾数ヶ月が経過した。
男、宮沢賢治グッズと、アベノマスク、沢山のポリ袋を持って現れる。背中には木刀。
男、位置につき、残飯を漁り始める。
ゴミ清掃員がやってくる。
男、それを見て、

男 こっちゃ来んな! 邪魔だ! あっつさ行ってろ!! (木刀を振り回す)

清掃員がいなくなると、残飯作業を再開。袋の中から菓子パンが出てくる。 
男、臭いを嗅ぐ。問題ないとわかるとムシャムシャと残飯を食べる。
ポリ袋に囲まれて男は食べ続ける。
それは『なめとこ山の熊』のラストシーンのようである。

【引用・参考文献】
宮沢賢治作『なめとこ山の熊』(青空文庫)
福島章著『宮沢賢治―こころの軌跡』(講談社学術文庫)
●劇作家・黒川陽子さんのコメント●
コロナで食うに困った男が、自粛警察の手伝いをし、中華料理店を閉店に追い込んでしまうくだりに、リアリティがありました。宮沢賢治の『なめこと熊』になぞらえながら、社会からあぶれそうになっている男が、より弱い立場にある者の命を奪っていく。そして、その相手には憎しみを抱いているわけでもなく、なんなら罪悪感を抱いているという描写をしているのがとても良いと思いました。

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