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緑にゆれる(ロングバージョン)

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長編小説「青く、きらめく」の十五年後の物語。大人になったカケル、美晴、マリのそれぞれの愛の行方は――鎌倉周辺で取材で撮った写真と共にお送りします。
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#青春小説

【連載小説】「緑にゆれる」Vol.6 第一章

 小さな店内は、温かい静けさに満ちていた。南に開いた大きな窓から、日差しがたっぷりと入っ…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.7 第一章

 夕ごはんも食べていって、と言われて、そのまま夜までごちそうになった。 「ランチの残りで…

清水愛
2年前
3

【連載小説】「緑にゆれる」Vol.8 第一章

 そのとき、彼女は立ち止まって、小さく、あ、と声を漏らした。 「どうした?」  カケルも…

清水愛
2年前
2

【連載小説】「緑にゆれる」Vol.9 第二章

   第二章  このピアスをするのは、久しぶりだ。鏡に向かって、ピアスをつけたあと、マリ…

清水愛
2年前
7

【連載小説】「緑にゆれる」Vol.11 第二章

 ふいに、おそろしく虚しい気分に襲われた。ぽかーん、とした昼間。みんな忙しく自分の世界で…

清水愛
2年前
4

【連載小説】「緑にゆれる」Vol.13 第二章

 カケルは、リラックスした様子で、マリを見て、そのまま緑に目を移している。 「この間、美…

清水愛
2年前
7

【連載小説】「緑にゆれる」Vol.15 第二章

 カケルは、椅子の背もたれに寄りかかって黙って話を聞いている。 「働いていたときは、同じ方向を向いていた気がするのに、今は同じ空間にいても別の方を向いている気がする」  結婚して五年間は、子どもができなかった。正確に言えば、できないようにしていた。ディンクスを楽しみたい、という気持ちの方が強かったのだ。恋人の雰囲気を残しながら、一緒に生活をする。今よりずっと身軽で、ほんのり幸せだったころを思い出す。 「それ、やばいな」  突然、ぽつりと言ったカケルの言葉に、どきんとし

【連載小説】「緑にゆれる」Vol.19 第三章

 ふらりと、また来てしまったのはなぜだろう。  二ヶ月ほど前にたどっていた道を、またこう…

清水愛
2年前
3

【連載小説】「緑にゆれる」Vol.21 第三章

 引っ越しは、わりに手際よく済んだ。 「荷物のほとんどが本や紙類なんて!」  重たいなぁ…

清水愛
2年前
2

【連載小説】「緑にゆれる」Vol.23 第三章

「一緒に暮らすにあたって」  美晴がわざとらしく落ち着き払って言う。 「いろいろルールを…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.25 第四章

   第四章  カフェの南側の大きな窓から、離れへと続くウッドデッキを眺めて、圭が大きな…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.27 第四章

 それから十五年。すっかり変わってしまった自分と、すぐ隣に寝泊まりしているあまり変わらな…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.29 第四章

  そう、遠い初夏の日。東京で、安くて古いアパートに圭と二人で生活していた頃。  無認…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.31 第五章

   第五章  クラシック音楽が好きだったのは、自分ではない。別れた元妻の里伽だった。  彼女は、くっきりとした音響のステレオで、よく音楽を聴いていた。  ラヴェルが好きなの、絵画的で。そんなことを言っていた。勤めていたのが、美術画廊だったから、音楽を聴きながらも自然と絵が浮かぶのだろう。  自分が仕事で、彼女が休みの日。外から帰ってくると、よく音楽がかかっていた。旋律がつかみづらく、でも情緒的なオーケストラの響きが、部屋の中に満ちていた。外も室内もすっかり暗いのに、電