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第74 回 007 ロシアより愛をこめて(1963 英)

 『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開が迫っています。果たしてちゃんと公開されるのか分かりませんが、これに合わせてAmazonプライムで歴代の007シリーズが全て配信開始になりました。

 そして、ショーン・コネリーの一周忌が間もなくです。というわけで、これを機会としコネリーがボンドを務めた作品を集中レビューいたします。

 既に第1作『ドクター・ノオ』はレビュー済なので、シリーズ第2作『ロシアより愛をこめて』をお送りします。

 無暗にエロいオープニング、次回予告をするエンディング、Qと秘密兵器、スペクターとブロフェルド、前作に無かったシリーズの必需品が出揃い始め、シリーズ最高傑作と推す人も多い一本です。

 007でBLが出来るのかという心配は無用。私に言わせればボンドは間違いなくバイです。今作はコネリーボンドでも特にホモ臭い出来であり、代替わりするたびホモ臭くなるのが007です。みなもと太郎先生もなくなりましたし、まさにホモホモ7というわけです。

007 ロシアより愛をこめてを観よう!

 Amazonでシリーズ通して配信が始まりました。U-NEXTでもポイント配信があります


真面目に解説

題名に偽りあり?
 映画に明るくない人の多くが本作はロシアが舞台だと信じていますが、これがまず大きな間違いです。冷静に考えて、スパイ映画のロケなどソ連が許すわけがありません。

 トルコがシリーズの大半の舞台になります。暗号機を巡ってソ連の女スパイのハニートラップにボンドが挑むという筋書きです。だからロシアより愛をこめてなのです。

 また、日本での公開当初の邦題は『007危機一発』だったことでも知られています。この邦題は我らが水野晴朗先生の作です。

 危機一髪とするところを危機一発とするのはこれが最初ではないようですが、少なくとも広く知らしめたのは水野先生です。いやあ、映画って本当に素晴らしいものですね。

 また、007シリーズ恒例の無駄にエロいOPは本作からスタートしました。暗闇で踊り狂うベリーダンサーの身体にクレジットが照射される様は殆どストリップです。


悪の女幹部の型
 この件はブロフェルド(アンソニー・ドーソン=ただし秘密扱い)率いる悪の組織、スペクターが糸を引いています。

 スペクターは犯罪のコンサルタントとして世界を動かす組織で、ブロフェルドがナンバー1で、幹部は番号で呼び合い、失敗すると殺されるという中二病文化に大きな影響を与えている組織です。

 ブロフェルドはナンバー3ことソ連の諜報部隊のローザ・クレッブ大佐(ロッテ・レーニャ)にボンド抹殺を命じ、ソ連の暗号機「レクター」を餌にボンドをおびき寄せて始末し、ついでにレクターを手に入れて英ソ関係も悪化させようと狙います。

 このクレッブが今回のラスボスですが、完璧に仕上がった悪の女幹部です。ナチス風の制服に鞭を持ち、ヒステリーで高圧的で、しかもレズであることが暗示されます。

 もう婆さんなのでボンドによるノンケ落ち展開はありませんが、クレップのスタイルは悪の女幹部の型として国や分野を問わず広く普及しています。007の影響力は計り知れないのです。

 ロッテ・レーニャはドイツでは高名なミュージカル女優で、映画への出演はわずかですが、本作と『ローマの哀愁』で当てた名女優です。ミュージカル出身だけにこの手のオーバーでイカれた役に強いのです。


今回のコンドーム
 クレップは美女のスパイが暗号機をもって亡命しようとしているという絵図を描き、ジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)に迎えに来させるという条件を付けてボンドを始末しようとします。

 その美女というのがタニアことタチアナ・ロマノヴァ伍長(ダニエラ・ビアンキ)で、クレップにセクハラされつつ国家の為にボンドに食われに行きます。

 ダニエラ・ビアンキはイタリアのファッションモデルで、英語が出来ないのでセリフは全部吹替です。このように世界の若手女優を集めるので、ボンドガールは国際女優としては成功できず一発屋に終わるというジンクスがあります。

 もっとも、ボンドガールになったというだけで永く名前が残る事が約束されるのですが。


ジョンブルの心意気
 タニアは写真を見てボンドに一目ぼれしたという設定のもと、ボンドが迎えに来るなら亡命するという条件を付けてきます。見え見えの罠です。

 しかし、これはイギリス人は罠に敢えて挑戦する人種だという知恵者のナンバー5ことクロンスティーン(ヴラディク・シェイバル)の計算で、果たしてボンドもM(バーナード・リー)もこれを承知でこのミッションに挑むのです。

 Mが案外向こう気が強いのは007が好きなら誰もが知る事ですが、こんな設定が付いたのはひとえに原作のイアン・フレミングがイギリス人はそういう人種だと自覚していたからでしょう。ジョンブルは理屈ではなく気骨で動くのです。

 ボンドは気骨以上に下半身で動くので、タニアの写真を見せられて「頭がおかしいんじゃないですか」などと言いつつ罠に乗りに行きます。それで世界を救ってしまうボンドなのです。


鞄の中身は男のロマン
 本作でついにボンドの真の相棒であるQ(デスモンド・リュウェリン)が初登場します。

 Mから任務を受るボンドに同席し、Mの肝煎りでダブルオー要員全員に持たせるという鞄をボンドに授けます。

 銃弾にナイフ、ソブリン金貨50枚(400グラムくらい)が隠されていて、中には折り畳みの狙撃用ライフル。25口径で折り畳みのライフルで狙撃なんて私は嫌ですが、折り畳み式というのが重要です。男の子はボンドガールと同じくらいこういうのに憧れたのです。

 これにベビーパウダーに偽造した催涙ガスを噴射する仕掛けが付属するだけです。器用なファンなら自作できそうですが、最初はこんなものだったのです。

 しかし、ボンドカーの登場は次回を待たねばいけません。ボンドは私物のベントレーに乗っていますが、車載電話とカーセックスに十分な広さくらいしかボンドカー要素がないのです。


当て馬女はつらいよ

 ボンドガールはコンドーム同様使い捨てですが、Mの秘書のマネーペニー(ロイス・マクスウェル)は違います。彼女はいつでもMI6に居るのです。

 相変わらずボンド好き好きオーラを出すマネーペニーですが、タニアの顔写真にボンドは「ロシアより愛をこめて」とサインして残していくわ、ダイヤルQ2並みのエロい報告テープを聞かさて鉛筆を噛んで悔しそうにするわ、当て馬女ぶりには拍車がかかる一方です。

 もっとも、ボンドがどこへ行くにせよ、彼女の部屋で帽子を投げてひとしきりいちゃいちゃしないと始まりません。ともすれば、ボンドの真の正妻はマネーペニーなのです。

 当て馬というのは肉屋に売るのは忍びない功労馬の仕事です。ボンドにとってマネーペニーが性欲抜きに特別な女性である事はダニエル・クレイグになって以来急激に裏付けられています。


スパイの十字路
 タニアを迎えにイスタンブールへ飛んだボンドですが、空港から迎えの車に乗るなりKGBの尾行が付いてきます。これに対してMI6もKGBに常に尾行を付けています。

 というのも、トルコは文明の十字路などと申しますが、当時の西側と東側の境目であり、スパイの最前線でもあったのです。

 こうなると互いに隠し事は困難であり、お互いやる事がバレバレの中で腹を探り合うという奇妙なスパイ合戦が繰り広げられているのです。

 この辺は凄くリアリティがあり、おそらくフレミングの実体験によるものでしょう。このノリもまた後続の作品に多大な影響を与えています。


オリエンタルボンド
 ボンドはトルコ支局長のケリム・ベイ(ペドロ・アルメンダリス)の元に身を寄せます。このケリムが実に良いキャラです。

 サーカスの力業芸人から身を興した立志伝中の人物で、豪快で気前が良く、古風ですが優秀な実に気持ちの良い御仁です。

 愛人のおかげで命拾いする事と言い、その延長線で重要なポストは全部息子で固めて身を守る方法論と言い、ケリムはボンドとどこか似ています。

 ボンドは演者を問わず協調性に欠けていますが、ケリムとは似た者同士で気が合い、多くの事を学びます。007シリーズでこういう役回りは珍しく、人気のあるキャラクターです。

 つまり、この人はBL的に非常に美味しいわけです。詳しい話はまた後ほど。


エロエロマ
 ケリムはホテルは危険だというのでボンドをロマの村に宿泊させます。Amazonで配信されている吹替は新しいソフト版ですが、原語だと遠慮無用でジプシーと言っています。

 そして、ロマがソ連サイドのブルガリア人が嫌いでイギリスに協力するという所にこれまたフレミングの実体験としか思えないリアルが覗きます。

 都合の良い事に村へ行くと女二人が男の取り合いで決闘をする儀式の最中で、ボンドはダンサーのお姉ちゃん(リサ・ギロー)からベリーダンスで接待を受け、決闘を見物します。

 OPでクレジットを照射されながら踊っているのは恐らくこのダンサーです。こんなエロい踊りを子供に見せたら性癖が歪みます。私は少なからず影響されました。

 その上決闘と称したキャットファイトです。これは映画史上における最初期のキャットファイトであり、その筋のマニアの間では歴史的大一番なのだそうです。

 ベリーダンスに男が欲情するのは美少年の小姓に欲情する程度に自然な事なので、むしろこっちが危険かもしれません。

 もっとも、ヴィダ(アリジャ・ガー)とゾラ(マルティーヌ・ベズウィック)の決闘は突然の敵襲で水入りとなり、銃撃戦でボンドに救われた長老(フランシス・デ・ウルフ)の命令で結局ボンドが頂いてしまいます。

 つまり、この二人はストーリーに寄与しない完全な使い捨てのボンドガールなのです。後腐れなさそうで一番エロかったダンサーのお姉ちゃんにしておけば良かったのに。


オリエント急行でGO
 前作ではドクター・ノオが自分でボンドを殺しにかかりましたが、ボス自ら打って出る例は少数で、特にコネリーボンドはアクの強い殺し屋を差し向けられるのが恒例になっています。

 本作ではスペクターが刑務所から拾ってきたレッド・グラントという殺し屋が差し向けられます。

 演じるロバート・ショウはオスカー俳優なので下手したらボンドをやっていた頃のコネリーより格上で、流石に殺し屋っぽい凄味がありますが、後に続く変態を三歩くらい踏み超えた怪人と比べると無個性です。

 次々関係者を始末してボンドと対峙しますが、案外簡単にやられてしまいます。アクションの比重からすると、グラントを始末した後のヘリコプターとの戦いやボートチェイスの方が重いくらいです。

 むしろ注目したいのは、グラントが居たスペクターの訓練施設の仕上がりっぷりです。無駄にコンパクトなスペースで射撃訓練や兵器実験が行われ、男の子が何を欲しているのかテレンス・ヤングは実によく分かっていると感心します。

 柔道や空手がトレーニングメニューに入っているのも注目です。フレミングは見識の程度はともかく、日本文化に傾倒していたのは確かなのです。

 そして、この訓練施設のノリはフレミングの愛した日本のカラテ映画に完璧に継承されています。フレミングが生きていたならきっと喜んだでしょう。


James Bond will return
 ラストはベニスになります。もっとも、合成で現地ロケはしなかったようですが。

 マット・モンローが歌う「ロシアより愛をこめて」の流れる中、例にもよってタニアとボンドがヤりながら〆となります。

 そして、エンドロールの頭で「James Bond will return」とお約束のワードと共に次回作『ゴールドフィンガー』の予告がなされます。これは今でも伝統として踏襲されており、映画では珍しい次回予告です。『ノー・タイム・トゥ・ダイ』でもきっとそうでしょう。

BL的に解説

ボンドもフレミングも隠れバイ
 ピアース・ブロスナンはボンドがゲイであってもいいとし、クレイグボンドはもはやバイですが、フレミングの遺族はQをボンドボーイに認定するのを拒み続けており、原作のボンドは同性愛者を社会不適合者呼ばわりさえします。

 フレミングはゲイの友人がやたらに多かった半面ホモフォビアであったとされ、これがボンドにも反映されているとされます。しかし、そこに私は裏を見るのです。

 まず、本noteでは如何に英国紳士が男色に親しんできたか力説してきました。ましてフレミングはイートン校出身。イートニアンがノンケなんて、ロンドンのパブで言ったらバカにされます。

 そして、英国諜報史と同性愛の密接な歴史です。『イミテーション・ゲーム』で書きましたが、諜報する方もされる方も英国紳士の男色趣味を中心に動いていたのです。

 つまり、フレミングが実はバイセクシャルであり、例えば作家とMI6の先輩かつ明確なゲイであるサマセット・モームに色々仕込まれていてもおかしくないのです。ゲイの友人が多いというのもこれで説明がつきます。

 また、ホモフォビアが自らの同性愛傾向を受け入れられずにホモフォビアに走るホモのホモ嫌いの原則があります。フレミングがそうだとすれば、ボンドにも当然それは反映されます。

 つまり、ボンドは自分が男に心惹かれる事を受け入れられず、男らしさを強調するために女に狂っているとも取れます。

 ボンドの色気では何もしないと男に言い寄られ、ボンドは女同様我慢できず頂いてしまうのは必定です。女狂い設定で男を遠ざけているのです。

 また、ボンドは女を完璧にコンドーム扱いし、コネリーボンドに至っては割と平気で暴力を振るいます。その一方で男の友情は非常に大事にしています。この行動様式もボンドがバイであるという前提があれば容易に説明できるのです。

 本noteでは今後ボンド実はバイセクシャル説を強烈に推し進めていくことをここに宣言いたします。


ブロフェルドもバイ
 ついでに言っておきたいのはこれです。これは明確な物的証拠があります。

 第一に、原作で異性愛者でも同性愛者でもないと明記されています。フレミングとしては無性愛者と言いたかったのかもしれませんが、これはごく最近できた言葉です。

 つまり、ブロフェルドが両性愛者であるというより現実的な可能性が否定できないのです。勿論これが本noteでは前提になります。

 ナンバー3ことクレッブは議論の余地なきガチレズですが、ナンバー5ことクロスティーンは見た目と所作が完全にホモです。海外のファンもそう思っているようです。

 表向きは世界的チェスプレイヤーなのですが、対局中にブロフェルドから呼び出しを受けて出頭するまでの所作がホモその物です。クイーンでチェックメイトして勝負を付けたというのも意味深に思えます。

 おまけに演じるシェイバルは数度に渡ってゲイ役を演じている上にユダヤ人なので非常に色気があります。ゲイのユダヤ人というのはブランドなのです。

 このように、スペクターはノンケっぽい人物を探すのが困難な程のハッテン場であり、ブロフェルドのセクシャリティを裏付けているように思えてならないのです。

ボンド×ブロフェルド
 コネリーは総攻めなので原則としておっさんによる誘い受けの構図になります。ブロフェルドはボンドに明らかに損得勘定を超えた何かを抱いています。

 ボンドをただ殺そうと思えばそう難しくないはずです。女の腹に爆弾でも仕込めば一発です。なのにブロフェルドはホモ臭い手下を使って手の込んだ回りくどい方法で殺そうとします。

 これはどういう事か?ブロフェルドはバイオレンスポルノ愛好家なのです。ボンドを屈服させたうえで殺さないと満足できない困ったセクシャリティの持ち主なのです。

 結局の所ブロフェルドはボンドの色気に狂い、そのせいで滅んでいくのです。


ブロフェルド×ドクター・ノオ
 本note初、登場しない人とのBLですが、これはシャレにならない案件です。

 何故ブロフェルドはこんな無理筋の作戦を承知したのか?発案したナンバー5がドクター・ノオの仇討ちである事を強調したからです。

 格別むごたらしい死をと語気を強めるブロフェルド。これは明らかにドクター・ノオに特別な感情を抱いていた証拠です。でなきゃあんなご機嫌な秘密基地を作ってくれません。

 任務失敗と見るや簡単にナンバー5を処刑してしまうのもそれを裏付けます。ナンバー5がパパにおねだりしたという構図ではないわけです。

 その後もブロフェルドは諦めず、ボンドにむごたらしい死を与えようと腐心し、遂には破滅します。ともすれば、ボンドよりもドクター・ノオこそがブロフェルドの真の想い人だったのかもしれません。

ボンド×M
 ボンドは前作でQに愛用のベレッタを取り上げられてワルサーPPKを使う事を強要されましたが、今作でもそれ以降も長く使い続ける辺り二人の愛は盤石です。

 タニアが写真で一目惚れしてボンドを指名してきたという見え見えの罠を二人とも見抜いています。「頭がおかしいんじゃないですか」という冷ややかなボンドの一言が二人のホモソーシャルな関係を物語ります。

 ともすればボンドの女性観はこの程度の物であり、真に大事にしている女はマネーペニーだけという彼女が喜びそうな事実も浮かび上がってきます。マネーペニーがどんなに重い愛をぶつけてもボンドは決して拒みません。

 そして、罠と知って飛び込んでいくのは他ならぬボンドです。いくら何でも無謀だと言えばMだって無理強いはしないでしょう。

 しかし、ボンドは前作でカジノで知り合った彼女をほったらかして「差し迫った予定もないですし」と安請け合いしちゃうのです。

 これはレクターを手に入れたい、罠と知って逃げるのが嫌な、そんなMの為にやるのです。使い捨ての彼女やタニアなどどうでもいいのです。

 勿論、Q入魂の鞄を持たせるのも愛です。Mは息子にして妻の部下たちをとても大切にする素晴らしいボスなのです。だからこそボンドは自ら死の危険に飛び込んでいくのです。

 そして、ボンドとマネーペニーがいちゃついていると必ず釘をさすのはMのジェラシーです。後の作品でボンドが行きがかり上結婚した時マネーペニーは号泣していましたが、万一ボンドとマネーペニーが本当に引っ付くと泣く羽目になるのはMなのです。

 タニアが欲情しながらレクターの仕様を説明する録音テープを聞くMの表情は苦虫を噛み潰したようです。ボンドの悪い病気が始まったと言わんばかりですが、マネーペニーに退席を促すあたりは流石に素晴らしいボスです。


ボンド×Q
 二人のファーストコンタクトは気まずいものでした。マネーペニーの部屋で恒例の帽子投げをし、マネーペニーにエロい挨拶をしているその後ろにQが居たのです。

 冷ややかな視線を送るQ、柄にもなく口ごもるボンド。二人の爛れた関係は明白です。

 普段は説明を真面目に聞かないボンドですが、何しろこれが初めてのプレイですので新鮮味があったらしく、今回は説明を真面目に聞きます。

 一応説明だけ聞いてこんなの必要ないとボンドは言いますが、この鞄はMとQの心尽くしなので結局持って行き、ボンドはこの鞄のおかげで命拾いするのです。

 この強烈な体験が今後のボンドとQの夫婦漫才の方向性を決定付けたのでしょう。今やQこそが事実上のボンドボーイであり、2020年代中には正式に結ばれる方向になると私は信じています。

 7代目ボンドが誰かは分かりませんが、ベン・ウィショーの濡れ場なんて想像するだけでたまりません。


ケリム×ボンド
 コネリー総攻めと言いましたが、特別な相手にだけ受けに回るのを私は良しとします。従ってケリム相手では受けです。油っ気はないですが石油王BLです。

 まず第一に、ケリムはボンド同様バイに違いありません。そもそも。あの世代のトルコ人にとって同性愛は普通の事です。

 オスマン帝国は19世紀には同性愛を合法化し、現実的にはそれ以前から普通の事でした。キリスト教原理主義に毒された西洋人が恐れおののいた超先進国です。

 しかもケリムの出自はサーカス力芸人です。きっとキャリアの初期はその芸でもって偉い人のパーティーに呼ばれたついでに任務を行ったのでしょう。

 サーカス、ひいては旅芸人が売春と不可分であるのは広く知られることです。ケリムがホモの富豪の求めに応じて尻を差し出すシチュエーションは一度や二度ではなかったはずです。

 また、ケリム演じるペドロ・アルメンダリスはこの時点で末期がんに冒されていました。撮影後に拳銃自殺しています。つまり遺作であり、一世一代の芝居なればこそ007ファンの心を掴んだとも言えましょう。

 ケリムはボンドにこやかに迎えます。「ソ連とのゲームも他所とは違う」とトルコの流儀を語りながら煙草を勧めるケリム。何気ないですが愛用の煙草を勧めるというのは実に尊いシチュエーションです。BLでは煙草は性器なのです。

 そして息子で主要ポストを埋めるのを「血が最大の安全保障」と述べます。これはそれを許す権力があっても息子が居なければ始まらない方法です。

 つまり、ケリムはボンドがそれを可能にする器量と異常性欲の持ち主である事を知っているのです。

 また、ケリムは「イスタンブールで命の洗濯をしたら国へ帰れ」とも言います。これは最前線である当地に居残る事は非常に危険であるという先輩からの優しい忠告です。

 では、命の洗濯とは何か?あんなロシアのオメコ芸者より私と楽しもうというモーションです。イスタンブールでは男と男のゲイムも他所とは違うのです。

 ボンドとケリムの関係を強化するイベントがその直後に発生します。執務室のベッドで愛人といちゃついていると、机が時限爆弾で爆破されます。

 スケベ心が剛運と直結するという共通項を見出した二人は何だか嬉しそうです。ゲイムは中盤戦に突入です。

 ソ連が突然パワーバランスを壊すような攻撃を仕掛けてきたのは怪しいとケリムは読み、ビザンツ帝国時代の地下水道を自らボートを漕いでソ連領事館の真下までデートとしゃれ込みます。

 そこには何と覗き用の潜望鏡が付いています。これには後のソ連の潜水艦王もびっくりで「Mがあんたを買ってる理由が分かったよ」と完全にケリムを認めます。

 ケリムと因縁のある殺し屋クリレンクを一緒にディスり、タニアをいい女だと褒め、すっかり意気投合した様子です。

 ここへきてケリムは完全にボンドをリードし始め、ホテルは危険だというのでロマの村へ泊めてもらいにわざわざボロ車で連れていきます。

 空港へ迎えに来たロールスロイスがいいと小学生レベルの駄々をこねるボンドですが、これは替え玉作戦で、ケリムのスパイとしての知恵です。ボンドにもまだスパイとして学ぶ余地が残っているのです。

 一緒にエロエロベリーダンスを見物して酒飲んでご機嫌の二人。ケリムはキャットファイトの前哨戦の言い争いを通訳しようとしますが、ボンドは大体想像がつくと断ります。ほとんどフィリピンパブにしけ込んだ商店街のオヤジ状態です。しかし、それは濃厚な精神的ホモなのです。

 これから決闘が面白くなるというタイミングでクリレンクが襲撃してきます。ボンドは長老を助けたりと大活躍ですが、ケリムは歳なので腕を撃たれて「老いぼれた」としょんぼりしてしまいます。

 そんなケリムの傷を手当てし、復讐に燃えるケリムを「飲み過ぎは身体に障る」と気遣うボンド。ゲイムのチェックメイトは間近です。

 決闘していた二人などコンドームです。考えてみれば、ダンサーの方はケリムが頂いたのでしょう。だとすればこれはほぼ間接ホモセックスです。

 ケリムはクリレンクを殺すと息巻きますが、その身体では無理だとボンドが代理を申し出ます。完全に嫁です。

 これに対してケリムは「これ以上借りを作れない」と言いますが、ボンドは「水臭い事言うなよ」と浪花節丸出しでQが持たせてくれた狙撃用ライフルを組み立ててケリムの肩を借りてクリレンクを狙撃しようとします。

 しかし、土壇場になってやっぱり自分でとケリムは言い張り、心配するボンドに逆に肩を借りて見事本懐を遂げます。チェックメイトです。

 狙撃で肩の貸し借りというのはスナイパーにとってはセックス以上の愛情表現です。そんなボンドが部屋に帰るとタニアが裸にチョーカーだけでベッドに待ち構えていますが、BL的にはその前にボンドはケリムに後ろのボスポラス海峡を頂かれているのです。

 タニアに領事館の建物の図面を持ってくるように命じ、グラントの妨害もありながらどうにか手に入れます。

 こうなるとレクターの入手はもう簡単ですが、ケリムは簡単すぎるからタニアが嘘をついているのではないかと揺さぶりをかけます。しかもジェームズ呼びになっています。

 ケリムはデカそうなのでボンドのボスポラス海峡を通過してダーダネルス海峡まで達したのかもしれません。ケリムはタニアに気をやるボンドが面白くないのです。アラブ人の独占欲の強さにはめまいがします。

 ケリムの懸念通りタニアはもやは股間の黒海で物を考えている有様で、観光船でカメラに仕込んだテープレコーダーで欲情しながらレクターの仕様を説明します。これをMが聞いてレクターは本物と確認し、ボンドは領事館に催涙ガス爆弾を仕掛けて混乱に乗じてレクターとタニアを奪い取ります。

 地下からケリムの手引きで逃れ、オリエント急行に乗り込む三人。しかし、ソ連の殺し屋のベンツ(ピーター・ベイリス)と、グラントが乗り込んできます。

 サマーセット夫妻という意味深な名前の偽パスポートを受け取ったタニアは子供がイギリスで待ってる設定に固執しますが、ボンドは嫌そうな顔をします。マネーペニー以外のヤンデレ女はボンドはお断りなのです。

 これに対してケリムは大家族の素晴らしさを説き、太っ腹な所を見せつつタニアを牽制します。

 その一方でケリムは有能なので、ブルガリア国境近くで車掌に頼んで列車を止めてもらい、息子に飛行場まで運転させてアテネ経由でロンドンへというルートを手配しています。男色の聖地アテネ経由というのが実に意味深です。

 ボンドはハネムーンと称してタニアにそれっぽいドレスを用意しておいて着せます。タニアは大喜びですがこれはタニアが不用意に動かないようにするためで、どうせ飽きたら捨てる気なので罪な男です。

 そこへケリムが食堂車へ行こうとボンドを誘い、ついでにベンツをとっ捕まえます。ケリムのベンツへの皮肉な態度はまさにオールドボンド。「君のおかげで退屈だったイスタンブールが一変した」と嬉しそうです。即席コンビなのに完璧なバディです。

 ケリムはベンツの見張りに付き、ボンドはタニアのお相手に戻りますが、タニアの知らない途中下車の時間が迫って戻ってみるとなんとケリムとベンツが殺し合って両方死んでいます。

 車掌に金を握らせて口止めし、心底悲しそうにしながらケリムの遺品のシガレットホルダーを取るボンド。

 ボンドはタニアが黒幕だと睨んでタニアをぶん殴って拷問します。しかも容赦なく顔にかまします。明らかにタニア<<<ケリムです。

 本当に何も知らないとはいえ愛してる愛してるばかりで要領を得ないタニアにボンドは完全に愛想を尽かします。もはやケリムこそボンドボーイである事が明白です。

 途中下車が無かったので心配したケリムの息子がベオグラードの駅に先回りしてボンドと接触し、Mに逃走の手引きの要員を求める電報を打つよう頼み、シガレットホルダーを手渡して別れます。

 ボンドもケリムを想ってこれで一服するくらいの事はしたでしょう。間接キスなんてのは小学生レベルの発想で、それはもっと深く崇高な愛です。重ねて言いますが、煙草は性器なのです。

 そして、『消されたライセンス』の原作ではケリムの息子の一人がスパイとして一本立ちし、ボンドと再会します。ボスポラス海峡の月より美しい物語です。ボンドにとって特別な男との悲しくも美しき愛のオリエント急行は何処までも何処までも走っていくのです。


グラント×ボンド
 グラントの経歴からしてホモ臭いものがあります。殺人で刑務所に入りながら脱獄、外人部隊に逃げ込んでスペクターに拾われたというものです。

 刑務所は少なくとも映画の中ではホモ祭りであり、グラントは新入りの尻を独り占めしてきたに違いありません。あるいは刑務官やマフィアのボスにケツを差し出して保身を図った可能性もあります。

 そして外人部隊です。当時の外人部隊は犯罪者やナチスの残党の巣窟です。犯罪者は当然男を知っており、ナチスにおいて同性愛が党議に反して盛んであったのも広く知られた話です。

 そんな男達が一番危険で辺鄙な最前線に送り込まれれば、そりゃあ互いの尻でという話になります。『エリア88』がホモ臭かったのはリアルなのです。

 イスタンブールにボンドが着くや車に乗って尾行してくるグラント。いきなりソ連のエージェントを殺して英ソ関係を悪化させて絶好調です。

 クリレンクによるロマの村の襲撃でグラントはボンドに襲い掛かる敵を狙撃して助けます。

 これはレクター入手までに死なれたら困るという建前ですが、本音は違います。グラントは強い男フェチであり、ボンドを自ら屈服させたいのです。だから趣味の合うブロフェルドに拾われたのでしょう。

 ケリムの訃報を息子に知らせにベオグラード駅のホームに降り立ったボンドを野獣の眼光で追いかけるグラント。完全に獲物を狙うホモの目です。

 そしてグラントはザグレブ駅でMが差し向けた助っ人を殺してすり替わり、ナッシュ大尉と称してボンドに接近します。

 ボンドが「良い身体をしているな」とグラントを褒めるのに彼のメンタルの乱れが見て取れます。ケリムが死んで新しい男を求めているのです。もはやタニアなどゴミ箱です。

 グラントもグラントでボンドを「大将」呼びです。ノンケのセンスじゃありません。敵味方でなければ二人は結ばれたでしょう。

 しかし、グラントが食堂車で舌平目に赤ワインを合わせたのが決め手になります。グルメのボンドはこれを怪しむのです。

 そうと知らないグラントはタニアのワインに睡眠薬を盛り、完全に野獣モードです。しかし、完璧な作戦と称する力押しにはボンドに一日の長があります。

 それを見抜いているボンドはグラントに銃を向けますが、グラントは脱出プランは一人用と申し開きして切り抜けます。

 そして列車が減速するタイミングで飛び降りてトラックに拾ってもらうというプランの説明中に後頭部を殴られてボンドは昏倒します。

 ねっとりした手つきで拳銃と金目の物を奪い取るグラント。品性の卑しい男だけにボンドのような知的な紳士に憧れがあるのでしょう。「いくらワインに詳しくても負け犬では意味がない」というセリフにグラントの歪んだコンプレックスが覗きます。

 ボンドはグラントをソ連が送り込んだものと思っていましたが、グラントはこのように割とアホなので口を滑らせ、ボンドは黒幕はスペクターだと悟ります。

 勝ち誇り、イスタンブールではお前の守護天使役に徹したと聞かれもしないのに行ってしまうグラント。ホモの言語感覚です。口が軽いのでクレップ大佐が裏に居る事も話してしまいます。

 ついでにボンドとタニアの濡れ場を隠し撮りしたフィルムをグラントは持っていて、二人がこのフィルムをネタにタニアが結婚を迫って殺し合ったことにするという後のシナリオまで披露します。

 ボンドは怒りまくって「どこの病院からスカウトされた?」と今ならコンプライアンスに引っかかる恨み言を言います。無論、捨てる予定のタニアよりもケリムを殺したことが許せなくてこんな事を言うのです。

 これに対して「自分の立場を考えろ」と攻め様スタイルでビンタをかますグラント。ついでに手口は自分の裁量次第と言うのはボンドを掘る布石です。


ボンド×グラント
 ここでボンドがグラントの卑しさに目を付け、成功報酬のバイもとい倍払うと買収を持ち掛けますが、グラントはちょっと乗り気になりつつも「楽にしてくれとない手足にキスさせてやる」とゲイのサディストぶりを遺憾なく発揮します。

 ボンドはこれはいけると踏み、末期の煙草と引き換えにナッシュの鞄に隠されているソブリン金貨を提供して応じさせます。

 グラントは卑しいのでボンドの鞄にも金貨があるはずと睨み、金貨ではなくQの魂の催涙ガスを頂戴します。

 一転攻勢に出るボンド。どの代にせよボンド自身の戦闘能力は大したことはないのですが、グラントは前評判の割に弱く、鞄に隠されたナイフでやられます。結局のところボンドを攻めようという男には死が待っているのです。

 ブロフェルドはこの失敗を受けてこれ以降殺し屋を変態超人に切り替えたのでしょう。次作以降それは花開き、コネリーボンドは完成を見るのです。

 ボンドとタニアはヘリコプターを撃墜し、ボートでの追撃もガソリンで焼き払ってベニスに辿り着き、クレップも始末してゴンドラセックスをかましながらフィルムを川に捨てます。観光客と船頭が観ているというのにとんだ変態です。

 当時同性愛はおぞましい事に精神病とされていましたが、セックス依存症は今や立派な病気です。ボンドこそ病院へ行くべきなのです。


百合的に解説(閲覧注意)

クレッブ×タニア
 ボンドがあまりに女をないがしろのするので、こういう形でバランスを取ります。クレップは議論の余地なきガチレズです。

 クレッブはボンドの餌役としてイスタンブールの領事館から愛国心に燃えるいい女のタニアを選びます。

 いきなり「上着を取れ」と来て一回転させて「なかなかいい女だ」とかまします。現代アメリカならタニアはクレムリンを買えるほどの賠償金がもらえるシチュエーションです。

 身上調査所から意味もなくバレエをやっていたという経歴を読み上げるのも、それは彼女にとって意味があるからです。

 バレリーナは男の憧れですが、レズビアンにとってもそうです。男のバレエダンサーの同性愛率の高さと裏腹に、レズビアンのバレリーナは意外なほど少ないそうです。高嶺の華は美しく見えるものです。

 流石にソ連には人権が無く、身上調査書には「今まで三人の男と付き合った」という恥ずかしい事実も書かれています。

 タニアはこの現代アメリカならモスクワごと買える賠償金の貰える案件を当然嫌がりますが、クレッブは鞭を振るって怒ります。これぞ我々の求めるレズの女幹部です。

 ここへきてタニアは何をやらされるか察し、ボンドの写真を見せられます。そして「彼の言いなりになるのだ」とクレッブはレズ特有のデリカシーの無い指令を授けます。拒否すれば殺すと脅迫付きで。

 タニアをねっとり触りながら「文字通り愛の奉仕だよ」と現代アメリカならエルミタージュの展示品を全部買える賠償金を取られるような事を言って念を押すクレッブ。ここでシーンが切り替わりますが、これは007です。

 クレッブは党への忠誠を試すとか何とか言ってタニアを食っちゃうのです。勿論断ればタニアは殺されるので逆らえません。あの鞭がどんな風に使われるのかは言うまでもないでしょう。

 ボンドとタニアの濡れ場も自ら立ち合って隠し部屋から撮影します。とんだ変態です。ベリヤも腰を抜かします。

 しかし、グラントはケリムの敵討ちに燃えるボンドに倒され、ブロフェルドの面前でクレッブはクロスティーンと責任のなすりつけ合いを始めます。

 クロスティーンはブロフェルドのごつい護衛に靴に仕込んだ毒ナイフで殺され、クレッブはレクター奪還の為にこの靴ナイフを携えベニスへ乗り込みます。このナイフもまた今や定番のアイテムとなりました。

 二人の投宿するホテルにメイドのふりをして潜り込んだクレッブ。ボンドに拳銃を向けて一発逆転を狙うクレッブはタニアにドアを開けろと命令します。この分だと、タニアはクレッブ相手にも随分と乱れたのでしょう。

 しかし、タニアは反抗し、クレッブは靴ナイフで稚拙な前蹴りをかましてボンドを始末しようとします。悪の女幹部に戦闘能力は不要です。それが型であり、クレッブプが型を作ったのです

 クレッブはボンドに椅子で壁に押し込まれ、タニアに撃たれて息絶えます。レズの女幹部は最後はノンケ落ちするという型はタニアを介して間接的に成されたのです。この映画は永遠に残る価値のある映画だったという事です。

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 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

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