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第17回 スターリンの葬送狂騒曲 (2017 英・仏)

 前回の『ロッキー4』ではアメリカの傲慢さを指摘しつつ、レーガン大統領をBL的に分析するという暴挙に出たわけですが、幸いCIAが訪ねてくる様子もないので、本noteの平等(にホモ呼ばわり)の理念と、私のあらゆる思想信条にノンポリという確固たる信念に基づき、バランスを取るべく映画を選ぶことにしました。

 今回紹介するのは『スターリンの葬送狂騒曲』です。スターリン死後のソ連における醜い権力闘争ブラックジョーク吐き気を催すリアリティで描いた作品であります。

 結局はフルシチョフが後釜に座るわけですが、そこに至るまでには赤黒い争いがあったことがつぶさに描かれています。恐ろしいのはほとんど史実通りであることです。

 いきおい登場人物は皆実在する偉い人ですが、BL方面でも私は容赦しません。あの国の性質を鑑みるに、今のツァーリさえイジらなければKGBが訪ねて来ることもないでしょうから。

スターリンの葬送狂騒曲を観よう!

執筆時点ではAmazonで配信されるのみです。

真面目に解説

邦題の妙味
 タイトルもまた映画の一部であり、邦題というのは映画愛好家にとって悩ましいものです。吹替にノーと言う人が居るように、邦題にニエットと言う人も居るのは当然の事です。

 『ランボー』のように本家に逆輸入される表彰モノの邦題から、『俺たちフィギュアスケーター』『沈黙の戦艦』の亜流のような無責任極まる邦題まで色々ですが、今作はかなり高得点を出せる邦題だと思います。

 現代は「The Death of Stalin」直訳すれば「スターリンの死」というそっけないものになります。

 その点この邦題はスターリンの死と葬儀とその裏の騒動を描く今作の内容を的確に面白そうに表現しています。無責任な邦題もそれはそれで背景を知れば楽しめます。こういうのも映画の楽しみのうちです。


共産趣味のススメ
 いわば今作は政治劇です。筋は難解極まり、登場しない人物の名前もバンバン出てきます。ほとんど死人なのが実にソ連的です。

 正直言って予備知識がないとこの映画をちゃんと楽しむことは不可能です。ソ連に詳しくない方はまずは一回観てみて、このnoteの解説とWikipediaで登場人物のバックボーンやソ連の仕組みを頭に入れてもう一回観て下さい。全く違うものが見えてきます。

 そして調べるうちに、ソ連は傍から見ている分には結構面白いという事実に気付く方があろうと思います。

 「共産趣味」という言葉があるくらいで、ソ連と共産党は案外興味深いコンテンツなのです。

 この本は何度も紹介しましたが、入門編にはわかりやすく必要十分なのでお勧めです。



アネクドート
 ソ連や共産党の体制をネタにしたブラックジョークをこう呼びます。Wikipediaに膨大な数が記載されていますが、ソ連は腕の立つ落語家でも抱えていたのかと思う程良く出来ています。

 この手のジョークはKGBに聞かれればシベリアに送られる危険な物でしたが、それが却って創作力を刺激したのでしょう。日本のポルノが良く出来ているのと同じ理屈です。

 今作はある意味アネクドートの集合体のような作品です。違うのは本当に起こって人が死んだという事だけです。


ソ連と教会
 『レッドオクトーバーを追え!』でも聖書を読むラミウス艦長を政治将校が馬鹿にしていましたが、ソ連、ひいては社会主義はキリスト教に限らず宗教と相容れない思想です。

 今作でもベリヤは主教を殺して説教台に晒せと部下に指示し、その一方でスターリンの葬式にフルシチョフへの嫌がらせの為に主教を招待し、モトロフはベリヤ暗殺に際して「奴のケツにロシアンクロスを突っ込んでやれ」と神も仏もあったもんじゃない扱いをします。

 実際ソ連は成立から崩壊まで一貫して宗教を弾圧してきました。ロシア連邦に代わって表向き弾圧は無くなりましたが、それでも政府の冷遇と内部対立が根深く残っています。

 何しろロシアにはクリスマスがないのです。代わりに正月を盛大に祝います。季節と場合に応じて都合よく宗教を使い分ける日本人とは全く違った宗教観を持っているのです。

 ロシアはご存知の通り広く、多民族国家なのでムスリムも居れば仏教徒もユダヤ人も居るわけですが、扱いは似たようなものです。


スターリンという男
 ヨシフ・スターリンと言えば世界に名だたる悪党というのが定説になっています。しかし、ロシアでは指導力が高いというので結構人気があります。今のツァーリといい、ロシア人の求めるリーダー像が伺えます。

 しかしながら、歴史上最も多くの人間を殺したのは毛沢東で、その次がスターリン、更に次がヒトラーというのが定説になっています。気に入らない奴は殺す。それがあの土地を治めるのに必要なのは何百年も前から変わりません。そういう土地です。

 今作ではエイドリアン・マクラフリンが演じていますが、すぐに死にます。ずっと死体の役です。けど似ています。彼に限らず、ちゃんとモデルに似た役者を集めているのは高く買います。

 スターリンには側近と飲み会をしては死ぬほど飲ませるという迷惑な趣味があり、今作にも飲まされてたいこもちに徹する側近たちの姿が描かれています。

 しかし、スターリンは恐ろしく疑り深く、鍵付きの寝室で寝ていたため、脳卒中で倒れたというのに発見が遅れました。そして側近たちも冷たいもので、誰も積極的に助けようとしません。

 それどころか死にかけのスターリンを跨いで通りながら権力闘争の前哨戦をおっぱじめ、さっさと死ねと願うのです。

 尤も、当時のモスクワはユダヤ人の医師が高官を毒殺したといういちゃもんでまともな医者は軒並み粛清された後で、まともな医者はいませんでした。医療費タダが社会主義国家の大事なセールスポイントなのですが。

 そして期待通りスターリンは死にます。悲しんだのは遺された二人の子供と古い仲のモロトフだけでした。独裁者の末路はこんなものです。地獄に行ったら鬼が天国に亡命してくるというアネクドートもあるくらいです。


フルシチョフという男

 一番たいこもちが上手だったのが今作の事実上の主人公、第一書記のニキータ・フルシチョフです。演じているのはスティーヴ・ブシェミ。そう、バンデラスにマリアッチを取られた人です。ソ連の指導者なんてそれ自体がデスペラード(ならず者)なのではまり役と言えましょう。それに私はブシェミのマリアッチの方が好きです。

 フルシチョフは目立ちたがりで言う事やることが大袈裟でした。国が傾くほどの金を使ってアメリカ相手に威張る為にロケットを打ち上げ、何かというと核戦争をしたがり、国連の会議で耳の痛い事を言われて靴でテーブルをガンガン叩いて会議を妨害し、そのくせろくに仕事をせず遊び呆けていた、早い話が小学生みたいな人物です。

 今作でもスターリンにしょうもないジョークを連発して機嫌を取り、何かというとスターリングラードで戦ったことを自慢し、やることなすこと芝居がかっている胡散臭い人物像が余すことなく描かれています。

 スターリンの死後はベリヤと権力闘争を展開し、やりたくもない葬儀委員長を押し付けられたのを逆に利用してベリヤを殺してトップに立ちます。しかし、64年にはブレジネフに追われて失脚する事が語られて映画は終わります。その繰り返しが現在に至るまで続いているのです。


ベリヤという変態
 スターリンとフルシチョフ以外の高官は一般的な日本人が知っているとは思えませんが、ベリヤは知っているという人は多いのではないでしょうか?

 フルシチョフと対立し、一時は勝利目前まで行ったのがKGBの前身であるNKVDのトップであるラヴレンチー・ベリヤです。演じるサイモン・ラッセル・ビールはCBEを授与されたほどのイギリス演劇界の大物で、さすがの演技力です。並の役者にベリヤなど手に負えるわけがありません。

 ベリヤと言えばソ連の悪の象徴みたいな人物です。前任者をゲイだというので粛清してその地位に就き(ゲイなのは本当だったようですが)、スターリンも引くほど粛清をしまくって天下を取ろうとしました。

 スターリンへの忠誠心は他の高官同様ゼロで、スターリンが倒れたという情報を一番に掴むと口止めをして一番乗りで現場へ赴き、「バクーの便所のような臭い」などと最低な事を言いながら重要書類を盗み出します。アゼルバイジャンでベリヤはキャリアをスタートさせたのです。

 ベリヤはとにかく粛清と拷問をしまくります。そして広く知られる話ですが、ロリコンの強姦魔です。作中でも女絡みで恐ろしい行いを繰り返します。具体的な内容はアソシエイトの資格が取り消されそうなので書きません。

 秘密警察の親分なので、ベリヤの武器は情報です。あらゆる人間を過去の罪状や弱みで脅し、その一方でスターリンが死んだのをいい事に自分のやってきた事を棚に上げ、恩赦を出して人気取りをしようと画策します。

 こんな奴は嫌われるのが当たり前です。これは殺すしかないと高官達は不仲ながらも意見の一致をみて、スターリンの葬儀の後の会議の場で軍と協力してベリヤをとっ捕まえ、適当な裁判で死刑にして死体をガソリンで焼き、映画は一応の結末を見ます。

 罪状は外国勢力の利益拡大の後押し、347件の強姦、性的倒錯、ブルジョワ的不道徳、7歳の子供との変態行為というおぞましいものです。


モロトフという忠義者
 最年長で一番スターリンと付き合いが長く、スターリンにニエットと言える数少ない人物であり、忠義者だったのがモトロフです。

 演じているのはモンティパイソンでおなじみのマイケル・ペイリン。ホモネタで天下を取った男です。シベリアへ送られても女装して木こりをエンジョイです。

 作中の説明では外務大臣ということになっていますが、実際は妻のポリーナがスパイの嫌疑で収容所送りになったことから左遷されており、冷や飯を食わされていました。

 しかも、ベリヤの粛清リストに名前が載ってしまいます。それでもスターリンを一番大切に思っていたのはモロトフでした。

 スターリンの死後はベリヤが懐柔策としてポリーナを開放(マッチポンプとも言う)し、味方に付けようとしますが、人気取りの為にスターリンの築いた体制を破壊しようとするベリヤの暗殺を最初に決意したのはモトロフでした。

 ベリヤの死体を前にしてまだ裏で糸を引く余力があったようだと満足気ですが、この人の行動原理はスターリンなので、外務大臣に返り咲いたというのに後にはフルシチョフと対立して左遷に左遷を重ねて失脚してしまいました。しかし、余力が有り余っていたのか96歳まで生きました。


マレンコフという弱腰
 第二書記であり、スターリンの死後一時的にトップに就いたのがゲオルギー・マレンコフです。『トランスペアレント』の性転換した親父さんですね。道理で頼りないわけです。ベリヤみたいなことをして降板しちゃいましたし。

 この人の武器はゴマすりと変わり身です。おかげで早くからスターリンに取り立てられてナンバー2になれたわけですが、主体性がないので全く指導者には向きません。

 古くからの政敵であるはずのベリヤに傀儡としていいように扱われてしまいます。このままではベリヤが取って代わって殺されるのは明白です。

 一方フルシチョフ達はマレンコフ抜きでベリヤを始末する計画を練ります。フルシチョフは賛同を取り付けろとモロトフに迫られ、無理矢理迫られると持ち前の主体性の無さでビビりながらも承諾し、ようやくベリヤは地獄へ行くことになります。

 その後すぐにフルシチョフにトップの座を追われ、失脚して貧乏暮らしに落ちます。

 ちなみにロシアの指導者にはトリビアの泉でも紹介された「つるふさの法則」という有名なジョークがあります。やたらに毛が多いスターリンの後が薄毛のフルシチョフという事になっていますが、髪さえどっちつかずのマレンコフはこんなところでものけ者にされます。

 ベリヤをマレンコフの前にして無理矢理成立させるパターンもあるようですが、いずれにしても無理があります。


その他大勢の畑で獲れる連中

 その他ストーリーに直接関与しない並び大名カガノーヴィチ、ミコヤン 、ブルガーニンと登場します。勿論全員最後は失脚です。

 カガノーヴィチはこの中でも早く失脚した割に見せ場があり、ベリヤの処刑に際して変態と囃し立て、フルシチョフにマレンコフが心配だと問われ、「弱い男は信頼できんだろ」と至極尤もな回答をします。

 これについてはBLパートでは重要な伏線になるので、覚えておいてください。


赤い貴族
 一般国民は平等に貧乏で、党幹部は平等に金持ちというのが社会主義国家の現実です。スターリンには子供が三人居ましたが、当然贅沢な暮らしをしています。

 長男のヤーコフは先の大戦(ソ連では大祖国戦争と呼ぶ)で死に、次男のワシーリー(ルパート・フレンド)と娘のスヴェトラーナ(アンドレア・ライズボロー)が残っています。どっちも人民の事などまるで考えてはいません。赤い貴族とはそういう生き物です。人気取りの為に高官達はこの二人を味方に付けようと必死です。

 特にワシーリーのアホさ加減にはびっくりです。一応空軍中将なのですが、アル中で軍務などこなせず、解任されてホッケーの代表チームのGMとして遊んで暮らす日々です。

 ちなみに1950年にチームは飛行機事故で全滅し、ワシーリーが暴れるとベリヤはこの件で脅しをかけて黙らせます。実際はスターリンに報告はしたものの、スターリンはホッケーに全く興味がなかったためお咎め無しであったそうです。

 スターリンに限らず、レーニン以来社会主義国家の偉い人はエンバーミングされて霊廟で飾られる慣習があります。脳みそを取り出そうとしている最中に折悪くワシーリーは駆けつけ、酔った勢いで怒り出して銃を乱射して暴れます。

 そして葬儀会場でもフルシチョフがニューヨークのシオニストのゲイ野郎にスターリンの脳を送ったと中国の来賓にぶち上げ、ジューコフに殴り倒されてしまうのです。

 妹のスヴェトラーナの方はもう少しまともで、ベリヤの味方に付く代わりに元恋人の収容所からの釈放を頼み、ベリヤも引き受けるのですが、既に死んでいたのでこれまた怒って暴れます。短気は遺伝するのです。

 ベリヤの処刑後、スヴェトラーナはフルシチョフから脅しの言葉とウィーン行きのチケットを贈られて事実上追放され、最後はアメリカに亡命。作家として人気者になりました

 ワシーリーについては作中語られませんが、始末に負えないので逮捕されて刑務所に入れられた挙句、アル中で死にます。VXガスで始末された人も居ましたが、独裁者のバカ息子の末路はこんなもんです。

 ちなみにスヴェトラーナはカガノーヴィチの息子と結婚したと言われていますが、真偽ははっきりしません。


地獄の沙汰も金次第
 党と関係ないところでストーリーを動かしたのがピアニストのマリヤ・ユーディナ。演じたのはボンドガールのオルガ・キュリレンコです。

 ラジオ放送に出演していましたが、その録音をスターリンが欲しがった所から映画が始まります。

 慌てて録り直しを行いますが、彼女はボンドガールが演じているだけに反体制的で、ユダヤ人なのにキリスト教の信仰篤く、神に誓って録り直しは嫌だとわがままを言います。

 1万ルーブルというギャラを提示したプロデューサーに2万ならという条件で応じる辺りはユダヤ人らしく実に商売上手ですが、心を込めた手紙と称したメッセージを録音したレコード盤に差込みます。

 このメッセージは「死ね暴君」というとんでもない内容で、スターリンは大笑いした挙げくぶっ倒れます。このくだりは史実ではないようです。

 ベリヤはこの手紙を書類と一緒に盗み、ユーディナはフルシチョフの姪っ子にピアノを教えていた縁から脅しの材料に使いますが、結局あんまり影響はありませんでした。


ジューコフという赤いカウボーイ
 全く人間として尊敬できる人間が出てこない映画ですが、スターリンの葬式で姿を現した軍総司令官、ゲオルギー・ジューコフが全部帳消しにします。

 演じるのはジェイソン・アイザックス。マルフォイの親父と言えば大抵の人には通じるでしょう。

 大祖国戦争の英雄で、凄まじい数の勲章をじゃらじゃらさせ、上着を肩掛けにして登場し、下品な言葉を吐きまくり、葬儀の警備は軍ではなくNKDVが担当する事に強烈に嫌味を言い、暴れるワシーリーを殴り倒して「軍服を汚すな」と一喝し、スヴェトラーナを華麗にいなして去っていきます。

 そしてフルシチョフからベリヤ暗殺の話を持ち掛けられ、幹部会に報告すると一旦言っておいて、大喜びでフルシチョフにキスして話に乗ります。

 というのも、スターリンは軍を冷遇してNKDVばかり可愛がるのでジューコフはベリヤもスターリンも嫌いなのです。

 そしてスターリンの出棺が済んだら「豚を料理しに行くぞ」とベリヤ暗殺に動き出します。会議室に通信機を設置し、トイレに隠れて合図を待ちます。拳銃は入り口で没収されましたが、ジューコフは上着の中に「今夜のガールフレンド」と称して2梃のAK-47を隠し、会議で全員集まったところで合図とともに突入、ベリヤを殴り倒して「国を守るのは軍の仕事だ」と決め台詞です。

 そしてベリヤ処刑に際して「ショータイムだ」済んだら「というわけだ」と決めます。プーシキンやトルストイでは絶対に学べない言語感覚の持ち主です。一人だけマカロニウエスタンです。最後は『仁義なき戦い』の志賀勝入ってますが。

 フルシチョフ政権でジューコフは国防大臣に収まりますが、何しろ英雄で政治家としても有能だったので、最後は邪魔になって仲たがいし、失脚して歴史から名前を抹消されるというソ連らしい処分を受けて表舞台から去りました。

 しかしフルシチョフの失脚で復権し、今でもジューコフは英雄として人気者です。登場人物中で手放しで称賛されるのはこの人だけです。

 今作はロシアでは流石に上映禁止になりましたが、ジューコフの娘はこの措置に反対の声を上げました。あんな格好良い父なら見せびらかしたいのは人情というものです。


いなかった扱い
 かようにソ連はいなかった扱いが得意な国です。トロツキー姿を消した写真が教科書にも載っていたはずです。これが常套手段でした。

 EDは登場人物や群衆が写真から消え、あるいは顔を塗りつぶされるショットが続きエンドロールに入ります。

 言論の自由とはすばらしいものです。こんな汚れの物書きでも法的には罪に問われないのですから。

BL的に解説(ナマモノ注意)

スターリンホモ説
 今回はオール生モノ、タブーなきホモ認定の嵐です。親玉から捌いていきましょう。

 そもそもスターリンはグルジアの靴職人の倅であり、最終学歴は神学校中退です。アル中の父親は靴職人に学歴は必要ないと妨害し、そんな中でマルクスの本に出会ったことでスターリンは地獄の一丁目に辿り着くのです。

 そんなわけでスターリンは家族を全く信用しませんでした。しかし、母親だけは大切にし、宮殿に住まわせていました。

 そして西部劇や戦争映画が好きでした。ヒトラーがチャップリンやディズニーを愛好したのは有名なのでそれ自体はおかしい話ではないですが、西部劇も戦争映画もホモなのはここに訪れた方ならご承知でしょう。

 神学校に行っていたくせに同性愛者と宗教を弾圧し、そのうえマザコンでホモ臭い映画が好き。状況証拠としては十分過ぎます。愛人は大勢いたそうですが、性処理の道具としてしか見ていなかったのは扱いから明白です。これもまた怪しい。

 そしてスターリンにケツ貸せと言われてニエットと言える男は共産圏には存在しないのです。毛沢東だろうがカストロだろうが金日成だろうが後の事を考えなければ掘ることができる赤いツァーリ、それがスターリンなのです。

 あのお調子者のフルシチョフなど命じられればいとも簡単に股を開くに決まっているのです。


スターリン×モロトフ
 最もスターリンに忠義を尽くしたのはモロトフです。スターリンが死んで悲しんだ唯一の高官であり、スターリンにニエットと言える数少ない人物でした。これはBL的観点からはもう確定です。

 「同志スターリン、愛人など反革命的です。私の尻をお使いください」と自ら小姓を買って出るモトロフ。二人の愛はモロトフカクテルのように燃え、若き革命家は愛は社会主義では測れない事を知るのです。

 しかもモトロフを演じているのがペイリンです。オーストラリアはホモ、木こりはホモ、軍人はホモ、何でもかんでもホモ認定して笑いの歴史を変えた男です。もうそういう目でしか私には見れません。

 そしてスターリンの築いた体制を破壊しようとするフルシチョフと対立し、モロトフは失脚して隠遁します。これは殉死です。


ジューコフ×フルシチョフ
 二人は公衆の面前でキスをする仲です。ロシアでは一般的な挨拶なのですが、そんな事はこの際コンドームほどの意味さえありません。いや、ソ連でコンドームは貴重品でしょうが。

 二人は一緒にスターリングラードやウクライナで戦った仲です。だからあんなに仲が良いのです。ロシア軍で同性愛が蔓延していることは『レッドオクトーバーを追え!』でも説明しました。ましてスターリングラードなどという所は地獄の釜の底のような激戦地です。そういう状況下で愛が芽生えるのは自然な事です。

 ジューコフが一働きしてくれたおかげで軍は冷や飯くらいから解放され、フルシチョフは書記長になることができ、ジューコフも取り立ててもらえます。二人は運命共同体。お互いの命を預かる存在だったのです。

 ゲオルギーは愛するニキータの為に命を賭して戦い、また政治的難局も乗り越えました。ニキータはアイゼンハワーとの会談にあたってゲオルギーを連れて行きました。二人は戦争で共闘した旧知の仲だからです。

 このおかげで米ソ関係は大いに改善したわけですが、ニキータにとっては有益であっても面白くないわけです。俺のゲオルギーが資本主義者に盗られるという危惧があったはずです。元相棒の登場で残されたほうが激しく嫉妬するのはバディ物の王道です。

 愛するニキータの為にもゲオルギーはアメリカとの仲を取り持ち、ちょっとくらい領空侵犯しても放っておけばいいと主張しました。それは軍縮になるので筋が通っているのですが、ニキータの答えはニエットでした。利よりも嫉妬で動いたとしか思えません。

 ゲオルギーはもはやニキータの手を離れようとしていたのです。国民が飢えて死のうと核戦争で人類が滅びようと、ゲオルギーの方がニキータには大事なのです。

 この歪んだ愛情は男のジェラシーという最悪の形で発露し、ジューコフは失脚させられて歴史から名前を抹消されます。ゲオルギーは抗議の電話をしましたが、ニキータは冷たく突き放しました。

 しかし、その後のフルシチョフ政権はというとキューバ危機は起きるわベルリンの壁が作られるわ誰かれ構わず八つ当たりして敵ばかり作るわで散々なものになり、フルシチョフは失脚してしまいます。

 後任者はホーネッカーと濃厚なキスをしたブレジネフです。フルシチョフのやらかしのせいで作られたベルリンの壁にその様が大きく書かれていたのは有名です。

 彼は失脚してからゲオルギーの大切さに気付き、後悔したことでしょう。二人で一人のフルシチョフ政権だったのです。


カガノーヴィチ×マレンコフ
 伏線を回収します。BL的観点から見たらカガノーヴィチは並び大名どころか座頭です。

 高官連中はスターリン体制を全否定するフルシチョフの政策に怒ってか、彼とゲオルギーの蜜月に嫉妬してか、フルシチョフを解任しようと画策します。

 反党グループ事件と呼ばれる解任騒動はゲオルギーの軍用機まで使っての阻止工作もあって失敗し、カガノーヴィチもマレンコフも左遷されます。

 マレンコフは大将格なので特に厳しく処分され、共産党からも除名されて貧しい晩年を過ごすことになったのは先に説明したとおりです。

 彼はうつ病になりますが、信仰に目覚めてロシア正教の信徒になり、権力闘争から解放されたと前向きに物事をとらえて穏やかに過ごし、フルシチョフ、ブレジネフ、アンドロポフ、チェルネンコと四人の後任者よりも長く86歳の長寿を全うしました。

 信仰に目覚めた一方で、共産主義は捨てなかったとも伝わります。にしては立ち直りが上手です。何故か?ここでカガノーヴィチが絡んでくるのです。

 時を同じくして党を追われたカガノーヴィチは、なんとマレンコフと同じアパートの隣室に住まうようになったのです。

 カガノーヴィチ「弱い男は信頼できん」という言葉から、攻め受けは決定できます。セックスは最高のメンタルヘルスケアである事は医者は声高には言いませんが、どうせソ連には藪医者しか残っていないから大丈夫です。

 傷をなめ合う二人。聖書にもマルクスにも書かれない人と人の調和はこんなところに隠れていたのです。KGBが盗聴しているのは明白ですが、二人にとってはそれさえ興奮なのです。

 カガノーヴィチはマレンコフよりさらに長く、ソ連崩壊直前の97歳まで生きました。ロシアではウォッカのつまみは専ら塩であることから、古い友人を「塩を1プード(16.38kg)食べた仲」と称します。今のツァーリと安部総理が互いの仲を自分でそう称していました。

 かの文豪チェーホフは自らの傑作『かもめ』について、「ふんだんな会話、少ない事件、5プードの恋」と評しています。この事から5プードの恋とはロシアでは大恋愛の慣用句として用いられます。

 彼らは1プードではきかない「お互いの塩ではない何か」を食べ合った仲なのです。かくして居ても居なくても同じだったカガノーヴィチの存在意義は、二人の長い人生の最期で明らかになるのです。これが「チェーホフの銃」という奴です。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

赤いBL的映画鑑賞シリーズ
『ロッキー4/炎の友情』(★★)(この争いの行きついた先)
『レッドオクトーバーを追え!』(★★★★)(この争いに嫌気がさした人たち)
『グッバイ、レーニン!』(★★★★★)(この争いが別方向に行った人たち)
『T-34 レジェンドオブウォー』(★★★★)(この争いの前哨戦)

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 良い映画だと思った。解説が良かった。憐れみを感じた。その他の理由はともかく、モチベーションアップと資料代他諸経費回収の為にご支援ください。

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