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第38回 T-34 レジェンド・オブ・ウォー 最強DC版(2019 露)

 ※公開中の映画のレビューですが盛大にネタバレを含みます。嫌な人は予備知識編以降は観てから読んでください

 終戦記念日は戦争映画をとこのnoteを始める前から決めていました。戦争を肯定も否定もしませんが、戦争映画は人が死なないので安というのが『大脱走』でも述べた私の考えです。

 何をチョイスするかは悩むところでしたが、たまには公開中の映画をレビューするのもいいだろうと思い『T-34 レジェンド・オブ・ウォー 最強DC版』を選びました。

 この数年『ガールズアンドパンツァー』の絡みで戦車が盛り上がりを見せています。しかし、古来ミリタリーの世界ではこの手のブームに乗った人と原住民との争いになるのが常です。

 私も不勉強なりに結構古くからミリタリーの世界に漬かっているので、あの作品に言いたい事がないとは言いませんが、この映画が日本で公開されたのは間違いなくこのブームのおかげです。それに私だって立川には行きました。

 ロシアで昨年の正月に封切られて歴史的ヒットを記録し、日本公開は晩秋でしたが、この度ロシアでテレビ放送されたディレクターズカット版が改めて公開されました。海外初公開だそうです。

 従来の版は113分でしたが、版を重ねる度に長くなり、この版は驚異の191分。ここまでくるとほとんど別物です。どうせ入場料は同じなんですから、長い方が得です。

 実話を基にした映画で、ナチスドイツの捕虜になったソ連の戦車兵たちが演習と称して再び戦車を与えられて生身の訓練標的にされ、これを利用して逃げるという熱い映画です。

 本物の戦車を使い、本当に戦車の中にカメラを入れ、本当に戦車を役者が操縦して撮られたという日本では絶対無理な一本です。

 血と火薬と汗の臭いがスクリーンからにじんでくるような生々しい戦車のぶつかり合い。国籍も思想も超えたライバル関係。そして格好良い軍服。老若男腐女子全てにどこかしら刺さります。

 そしてガルパンを観た人は気付いたはずです。戦車はホモソーシャルが走ってるようなものだと。なにしろ女乗せない戦車隊なんて歌が我が国にはあったくらいです。

 そしてそれは男女を問いません。今作は議論の余地のないホモアンドパンツァーです。軍服好きな腐女子は急いで観に行きましょう。

T-34 レジェンド・オブ・ウォー 最強DC版を観よう!


 劇場公開中です。むしろ地方ではこれから公開です。長くて予備知識が要る映画なので、ノーマル版で予習してから見た方がいいかもしれません

真面目に解説(予備知識編)


ロシア映画らしさ
 ロシア人というのはかなり苦難の歴史を歩んできた人種です。何事も無くても寒い国ですから。

 ロシアに限らずそういう国民性は作る物に如実に現れます。従ってロシア映画というのは基本的にダークな雰囲気になります。そもそも原作のロシア文学がもう救いようもないくらい暗かったりするわけです。

 さもなければ思想で真っ赤に染まっています。例えば『戦艦ポチョムキン』は革命劇です。無声映画なので本来簡単に輸出できるのに、ボルシチより赤く染まっているので多くの国で長い事発禁でした。

 その点今作は思想性が全然なく、どこか陽気です。ソ連側は社会主義的思想など全く無縁なロシアのおっさんであり、立ちはだかるドイツ側も仕事で敬礼してる観満載です。

 つまり基本的に嫌な思いをせずに見る事が出来ます。それはとても大事な事です。


戦車映画というジャンル

 戦争映画は細かく細分化されるジャンルだと『レッドオクトーバーを追え!』でも言いましたが、その中でも戦車はかなり当たり外れが出るジャンルです。

 何しろ戦車が必要です。戦車はCGではどうにも安っぽく、本物を使うと飛行機より数を必要とし、ロケ地の問題が付いて回ります。

 その点今作は都合の良い設定でした。当時のソ連の戦車で今作の真の主人公あるT-34は呆れるほど沢山作られた上に頑丈なので、今でも動く実物がゴロゴロあります。輸入できるかは別問題ですが、探せばベンツと同じくらいの値段で買えるのです。

 今作ではコレクターから借りた2両のT-34が使われました。一方ドイツ側のIII号戦車とV号戦車(パンター)は敗戦国の哀れさで現存数が少なく、レプリカを探して間に合わせたそうですが、いずれにしても大抵コレクターは気前よくコレクションを貸してくれるものです。

 『トラック野郎』でも述べましたが、それは金で買えない栄誉です。ただ、戦闘機だとこうは言ってられません。飛ぶのは走るより危ないのです。

 とにかく本物を使う以上画が安っぽくなるはずがありません。しかも戦車の中にカメラを入れて本当に役者たちが動かすのですから半端じゃありません。戦車がいかに動くかというのが最大の見どころと言ってもいいでしょう。

 しかし、戦車というのは今も昔も乗り心地は最悪なので、撮影が終わったときには一同生傷だらけになったそうです。やっぱり女子高生がミニスカートで乗る物ではないのです。


戦車のリアル
 戦車の戦いとは即ち大砲の撃ちあいです。どうやって相手戦車を破壊するか、またどうすれば破壊されるのを免れるかというのが永遠のテーマです。

 装甲を厚くすると車体が重くなって機動性が失われ、車体を小さくすれば車内が狭くなって不便になり、材料に凝ると技術とコストの問題にぶち当たる。戦車を作るというのはなかなか難しいものです。

 そこでT-34は傾斜装甲というアイデアを他国に先駆けて取り入れました。できるだけ装甲を傾け、丸っこく設計するのです。そうすると弾が当たっても装甲を突き抜けずに滑って跳ね返ってくれます。今ではこれは戦車の基本です。

 しかし、跳ね返ったとはいっても当たったらタダではすみません。弾が当たれば命は助かっても衝撃で車内はもう大変なことになります。弾の当たる度大騒ぎになる様が今作ではつぶさに描かれています。

 また、砲弾や壊れた装甲の破片が車内に飛び込んでくることもあります。こんなものに当たれば撃たれたのも同じです。一説には戦車兵の死傷で一番多いのはこの破片によるものとさえ言われます。

 謎カーボンが守ってくれない。頼みは根性と仲間のみという戦車のリアルがこの映画の最大の見せ場なのです。そして、愛は危険を燃料に激しく燃えるのです。


カリスマ88
 第一次世界大戦で戦車は生まれたわけですが、当時は戦車同士で戦うという発想がなく、歩兵を踏みつぶして塹壕を乗り越えていければ十分という程度の兵器でした。

 ところが第二次世界大戦でドイツ軍は戦車を前面に押し出した電撃戦という戦術を採用し、これによって戦車は戦車と戦えるようにとどんどん巨大化していきました。

 しかし、戦車に載せる砲は大きさに限度があります。なので装甲の薄い側面や背後を狙うのが戦車戦のセオリーですが、そうなると攻め込んでくる戦車に対しては守る側はお手上げです。

 そこで、真正面から戦車に対抗できるように口径が大きく、貫通力の高い弾を使って直接戦車を攻撃する対戦車砲という大砲の新ジャンルが産まれました。

 結果としてドイツは本来空に向かって撃つ8.8センチ高射砲を対戦車砲に使うという発想に至りました。高い所に弾を飛ばすので威力は十分というわけです。

 このアイデアは大当たりし、「アハトアハト(88)」と呼ばれたこの砲は砲声が聞こえればドイツ軍は士気が上がり、敵は恐慌状態になるという兵器のカリスマに上り詰めるのです。

 今作でもこの88はドイツ側の最終兵器として暴れます。大砲は男のロマンです。これに興奮できるようになればあなたも戦争映画の初級を卒業です。


全部SSが悪い
 ドイツ軍=ナチスと思っている人が多いですが、ソ連人=共産党員でないように、ドイツ軍人なら誰もがナチズムと反ユダヤ主義にどっぷりだったかというとそんな事は全然無いのです。

 当時のドイツは陸海空軍から成る国防軍に武装親衛隊(SS)の四軍体制でした。SSはナチスの直営なので一番世間のドイツ軍観に近い存在です。今作でもSSは絶対悪として観客の求める悪いナチを貫いています。

 理想的アーリア人を欲していたので、体格が良くて何百年も家系図を遡って人種的に問題がない事が入隊条件とか実にアホな事を大真面目にやっていたので、年中人手不足でした。

 特に指揮官クラスの不足は深刻で、血筋や思想には目を瞑って国防軍から引き抜くことで数を揃えていました。

 人材不足の裏返しでSSは昇進が飛びぬけて速く(30代で将軍にもなれる)、その他にも何かと優遇されるので引き抜きに応じる国防軍将校は多かったのですが、思想はまた別問題です。

 特に移籍組は仕事でナチス式敬礼をするようなノンポリが少なくありませんでした。口では理想的アーリア人などと言いつつも、選り好みを言っていられないのがSSの台所事情だったのです。

 今作でもこの辺はキーポイントになっています。あまり国防軍からSSへの移籍や思想的な葛藤なんてものが描かれる戦争映画はありません。貴重です。

 しかし、ドイツは戦争に纏わる悪さを全部ナチスとSSに押し付け、事あるごとに日本に偉そうな事を言っているのはご存知の通りです。「清廉潔白な国防軍」という皮肉な言葉があるくらいです。

 哀れにもSSの隊員には恩給も支給されず、戦後ドイツで差別を受け、南米や中東へ逃げたり、前歴不問のフランスやスペインの外人部隊に流れたりと辛い思いをしました。しかし、その辺の話はまた別の機会に取っておきましょう。

真面目に解説(ネタバレ編)


腹が減っては戦はできぬ
 映画は意外にも戦車ではなく、食料を乗せてフィールドキッチン(炊事車)を曳くトラックが走るシーンから始まります。運転しているのが名目上の主人公であるニコライ・イヴシュキン少尉(アレクサンドル・ペトロフ)です。

 要は自衛隊が災害派遣の時に持って行って炊き出しに使うあれです。軍隊において食事は士気の維持の為に大事なのです。

 何といっても戦艦でボルシチの肉をケチったばかりに革命が起きる話がロシア映画の最高傑作なのですから。食い物の恨みは歴史さえ変えるのです。

 戦況は完全にドイツ優勢、目指せモスクワ状態です。果たしてニコライのトラックにもドイツ軍のIII号戦車が襲ってきます。

 ところがニコライは奇策と糞度胸で戦車に立ち向かいます。戦車がトラックに気づいて砲塔を向けてきますが、戦車の砲塔というのは機敏に動くものではありません。

 というわけで自分から戦車に向かって突っ込んでいき、狙いの定まる前に戦車の横を走り抜けてどうにか難を逃れます。

 当然戦車は追いかけてきますが、ニコライは助手席のヴァシャ(セミョーン・トレスクノフ)に砲塔の動きが止まってから数を数えさせ、4になった所で回避行動を取ります。丁度その頃合いで弾が飛んでくるというわけです。

 この映画の展開を暗示する変態機動で3発かわし、ニコライは前線に飯を届ける事に成功するのです。使い捨てキャラのヴァシャと修羅場をくぐっていちゃいちゃしているのもBL的には見逃せません。


地獄の東部戦線

 届けた先は最前線。しかしドイツ軍に戦線を突破され、両手を負傷してえらい事になっている大尉の元で悲惨な有様です。

 ソ連軍に人権と撤退はないので、モスクワからはとにかく死守しろと無茶言われて大尉は途方に暮れています。そこでニコライが1両だけ残ったT-34戦車でどうにかドイツ軍を阻止することになるわけです。

 宛がわれた操縦手のステパン以下三人の部下はヤケになっている上に前線を知らないニコライを馬鹿にして反抗的でしたが、ニコライは意外な鬼上官ぶりと謎のカリスマで三人を黙らせ、夜明けとともにドイツ軍の戦車中隊(10両くらい)に挑む事になります。

 当時のソ連の戦車兵は前線に出たら平均寿命2週間と言われた程恐ろしい仕事でした。戦車には"無慈悲号"なる格好良い名前がペイントしてありますが、こういう革命的スローガンを勝手にペイントするくらいは目こぼしされていました。規則にうるさいソ連がそんな事を許すくらい危険なのです。


熊髭さんチーム

 一方ドイツの戦車中隊を率いるクラウス・イェーガー大尉(ヴィンツェンツ・キーファー)はパイプを吹かしながらソ連軍の出方を見張っています。

 髭もじゃのイェーガーは腕利きらしく、モスクワに一番乗りしてその時髭を剃ると相撲取りみたいなゲン担ぎを副官のヴォルフに語ってご機嫌です。それが叶わなかったのは世界史の授業を真面目に受けた人はご存知と思います。

 一方、護衛に付けてもらった歩兵一個分隊(10人)をソ連名物のタンクデサント(戦車にしがみ付かせる)で運んだニコライ達は隠れてタイミングを伺います。数に勝る相手に勝とうと思えば奇襲しかありません。

 中隊はニコライの狙い通りに動き出しますが、イェーガーは腕利きなので、ソ連軍の立てこもっている村がやけに静かなのに気付いて動きを停めます。実は本隊は慌てて撤退工作の最中です。命が惜しければモスクワの言う事ばかり聞いちゃおれません。

 ここで歩兵が一働きです。村の小屋から木で作ったダミーの大砲を覗かせて無理矢理ドイツ軍を動かします。

 そしてニコライは干し草の中から敵の戦車が二両重なったところを狙い撃ちして両方撃破するというスーパープレイを決めて本格的な戦闘が始まります。

 士気が爆上がりのニコライたちは村の小屋に隠れ、ドイツ軍が村に突っ込んできて歩兵分隊たちがゴールデンカムイ並みに白兵戦で頑張る中、ドイツ軍は5両もニコライに潰されてしまうのです。


タイマンは浪漫
 ニコライたちも勿論無事ではすみません。なにしろ多勢に無勢なので、1発砲塔に食らってしまいます。衝撃と破片で車内は地獄絵図です。

 死人も出てパニック状態ですが操縦手のステパンはやたらと腕が良く、歩兵の頑張りもあってついにはイェーガーの戦車との一騎討に突入します。なんかライバル心が芽生えてイェーガーは楽しそうです。

 村を一直線に使って並走しながらの撃ちあいで前半の大詰めを迎えます。イェーガー側も小屋越しに一発食らって副官のヴォルフが負傷します、

 しかしイェーガーは無理言って励まして働かせ、小屋の陰から出てくるのを待ち伏せしていたニコライを反対側から出て行くことで奇襲してリードです。

 車中は再びえらい事になり、ニコライは謎の女の幻覚まで見てしまいます。T-34は頑丈なのでこれでもまだ動き、ほぼゼロ距離でもう一発食らってようやく止まります。

 ニコライはヤケクソになって拳銃(我が国の怖い人御用達のトカレフ)で最後の抵抗をして生き残ったステパンを車中から引きずり出しますが、虫の息の上イェーガーに逆に拳銃(三代目大泥棒御用達のワルサーP38)で撃たれて万事休すです。

 前半から飛ばしまくりです。ここまでで入場料の元が取れるレベルです。こんなのが後半にもあるのですから、そりゃあ大当たりするのも当然でしょう


ここは地獄の番外地
 時間は飛んで1944年、ドイツ軍の捕虜収容所に雨の中捕虜を満載した汽車が到着します。捕虜による楽団がお出迎えするのが哀しくも笑いどころです。

 典型的悪いナチス風のグリム少佐が捕虜にえらそうな演説をぶちます。そして雨の中伏せろと意地悪そのものの号令をして、従わなかった捕虜を次々撃ち殺していきます。

 これぞナチスです。しかも明らかに個人的に調達したらしきを持っています。ここまでくるとやり過ぎ観がありますが、実際持ってたやつは結構いたようです。

 これが綺麗なお姉ちゃんならロシア人も大喜びでしょうが、残念ながら少佐は淀川先生好みの小太りのおっさんです。ちなみにゲイは強制収容所ではユダヤ人以下の扱いを受けたそうです。

 最後にニコライが殺されかけますが、雨のおかげで弾が湿気っていたので命拾いします。あの壮絶な負けっぷりでいじけているのか、頑なに官姓名を名乗らず7回も脱走しているそうです。戦車無しでもニコライは強いのです。


収容所サバイバル
 一方、たまたま先にこの収容所に来たステパンは牢名主に収まっています。戦車だけではなく人の操縦もうまいのです。

 新入りの「腹具合に気を付けろ」「足を大事にしろ」「腎臓を殴られるな」というアドバイスが凄まじくリアルです。

 腹を壊すと体力が奪われ、労働に耐えられず死にます。腹を壊した捕虜は速やかに"処分"されてしまいます。

 そして収容所は不衛生で水虫や凍傷が治療できず、足をやられると手の付けようがなくなって切断ですが、この場合も処分されるのは言うまでもありません。

 この更に前の大戦ではこの症状は"塹壕足"と呼ばれて恐れられました。塹壕は歩兵を足から食うと言われていたくらいです。

 そして内臓は肋骨で守られているわけですが、腎臓は背中寄りにあってむき出しなので殴られると危険なわけです。ボクシングでも腎臓を打つのは反則になっています。

 牢名主なのでステパンは配給されるパンも切り分けます。天秤で測っても完璧に同じ重量になる高度な技術を身に着けています。ここまでくると現代の匠です。

 そこへニコライの噂が届きます。三回目の脱走で看守を殺して馬で鉄条網を飛び越えて逃げただの、スプーンをとがらせて看守を刺し殺しただの、スタローンやマックイーンでもそこまでやらないだろうという武勇伝が広まっています。

 一方、当のニコライは特別室で少佐から『ランボー』チックな鞭打ちで拷問されています。栄養状態の割に筋肉があるのもランボー風です。しかし、ニコライは意地でも名乗りません。


大物登場
 突然場面が豪勢な宮殿に切り替わります。もはやモスクワは無理なのを悟ってか髭を剃って顔に格好良い傷がついたイェーガーが、豪華な軍服に身を包んだ将軍に伴われて宮殿で本を読んでいる眼鏡のおっさんに引き合わされます。

 連れてきた将軍は戦車のレジェンドであるハインツ・グデーリアン(マイク・デイヴィス)で、引き合わしたのはSSのトップであるハインリヒ・ヒムラー(ロビンソン・ライヘル)です。

 イェーガーは一気に大佐に昇進して第12SS装甲師団を任せてもらう事になりました。ヒトラーユーゲントから優秀な子供を集めて作ったというおぞましい師団ですが、ある意味エリート集団なので強かったとされています。

 しかし、イェーガーはナチスの思想に乗り気でないので、嫌々ナチス敬礼です。あくまで仕事熱心な軍人というわけです。

ヤンホモ大佐現る
 かくして偉くなったイェーガーは収容所へ向かいます。イェーガーは名の知れた英雄なのでグリムは妻子も連れて記念写真なんて撮っちゃってご機嫌です。

 用件は戦車兵の訓練の為に、捕虜に戦車を操縦させて標的にしようというものです。当然最後は捕虜は死ぬわけです。この恐ろしい訓練は実際に行われた記録が残ります。

 戦車兵は捕虜収容所に沢山居ますが、肝心の車長だけは見つかりません。車長は将校ですが、捕虜収容所で日頃将校に恨みのある兵隊に報復を受ける危険があるので、身分を偽って兵隊のふりをしているのです。

 ところがイェーガーは捕虜のファイルの中から間もなく処刑の予定のニコライを発見します。これで万事解決とばかり、少佐付きの女通訳で名目上のメインヒロインあるアーニャ(イリーナ・スタルシェンバウム)を連れて説得に行きます。

 イェーガーの第一声が「久しぶり」で、ニコライの返事が「元気そうだな」です。中盤戦もロケットスタートです。イェーガーは凄く嬉しそうです。

 ニコライはもう部下を殺したくないと難色を示します。しかしイェーガーは「よく戦った」と持ち上げて応じさせようとします。しかし、ニコライは意地っ張りなので「糞くらえ」と強硬姿勢を崩しません。

 そこで大佐も押して駄目なら更に押せと言うわけで、アーニャに銃を向けて無理矢理応じさせます。アーニャは災難です。メインヒロインですが終始こんな感じで結構雑に扱われます。


白熊さんチーム結成
 イェーガーの通訳だけを通じたサシの会談は規則違反なので少佐はお冠です。アーニャを殴って八つ当たりをかまします。しかし、イェーガーはヒムラー直々の命令だと言って跳ね除け、処刑されかけのアーニャを自分の通訳に取り立てます。

 一方ニコライは少佐の拷問で傷だらけの背中を治療してもらい、伸びっぱなしだった髭を剃ってイェーガーと会談します。「男前だな戦車長」と相変わらずイェーガーは飛ばしまくっています。

 好きな部下を選べと戦車兵のリストを見せてもらったニコライは、ステパンを見つけ、面接がしたいと適当な事を言って収容所の庭に全員を並べさせて品定めします。

 ステパンと怪しいムードで見つめ合い、装填手で信心深いイオノフ(ユーリイ・ボリソフ)と砲手で反抗的なヴォルチョク(ディミヤン・ヴォルチコフ)を選び、チームが結成されます。

 ところがステパンはニコライに売られたと勘違いし、牢名主の権限を利用してニコライの寝込みを手下と襲って枕で暗殺しようとします。窒息は刑務所の暗殺の定番です。

 ニコライは戦車無しでも強いのでどうにか押しのけ、一応事のあらましを説明し、死体に紛れて脱走して鉤であばらを刺されて引きずられたときに事実上死んだから殺すなら殺せとステパンに迫ります。

 ビビったステパンは態度を軟化させ、あの時救ってくれたと恩義を持ち出して二人はどうにか和解し、チームの絆はハードかつディープに深まっていくのです。


鬼戦車T-34-85

 ニコライ達は三日前に鹵獲したというT-34を下げ渡されます。砲の口径が少し大きい改良型ですが弾は無し。1週間で修理しろという命令ですが、悪い事に車中には死体が残っています。

 死体掃除から始めなければいけないわけですが、ニコライはここで死体の下に砲弾が残っているのを発見します。

 演習場の下見がてら死体を埋葬したいと申し出て、死体に弾を隠して演習場に墓を作って弾を一緒に隠す一行。穏やかではない作戦を考え始めています。

 何しろ死ぬのが決まっている仕事なので最初は嫌がっていた乗員たちも弾の発見でモチベーションを上げ、特にステパンとニコライはいちゃいちゃしながら整備に取り掛かるのです。


アルハラ大佐

 ニコライ達はガレージを与えられて戦車の整備に取り掛かりますが、そこへアーニャが使い走りにやって来て、ニコライにイェーガーから呼び出しがかかります。

 食事が良くなって余裕が出たのでしょうか、なんかアーニャを口説き始めるニコライ。一応はメインヒロインなのです。一応は。

 イェーガーは「よく来た我が友よ」と無茶苦茶嬉しそうにニコライを出迎え、ブランデーを飲ませてご機嫌です。特に用事はなさそうです。

 酒は1942年にニスから作った密造酒を呑んで以来というニコライはフラフラですが、とにかく戦車の色を目立つ雪上仕様の白から緑に塗り替えたいと頼んで承知させます。

 異様に馴れ馴れしいイェーガーは自分はクラウスという名前で、ニコライと同じくニクラウスが語源だと雑な距離の詰め方をして「ニコライ」呼びをスタートさせ、前戦った時の思い出話で一方的に盛り上がります。酒癖の悪い御仁です。

 しかし、ニコライはイェーガーに心を開くつもりはないようです。乾杯も向こうがロシア語が分からないのをいいことに「内臓が千切れろ」と殺す気満々です。

 アーニャはまさかそのまま通訳するわけにはいかないので「あなたの健康に」と適当に訳して事なきを得ます。優秀な通訳です。

 ニコライは戦車の停めてあるガレージに戻りますが、久々に酒を飲んだものでぶっ倒れてしまいます。


名ばかりヒロインの憂鬱

 一方大佐は一人でチェスなんて指していましたが、なんと仕事帰りのアーニャに求婚します。SSの本来の理念から言えばロシア人と結婚など許されない事です。これがSSの実態なのです。

 アーニャは当然嫌がりますが、イェーガーはアーニャがニコライとデキかけているのはお見通しです。「君は私の勝利の証」なんだそうです。

 そして立場を悪用して1週間で結論を出せと脅迫し、「おやすみ、イェーガー夫人」と外堀を土塁を作る勢いで埋めていきます。

 この相手に有無を言わせない手の早さこそ電撃戦です。これにはグデーリアンも腰を抜かすことでしょう。


白鳥の湖
 一方ニコライ達は整備を完了させ、イェーガー臨席の元で試験運転を行います。「最高のバレエを見せてやれ」という号令の下、白鳥の湖をBGMに変態的なテクニックを見せるステパン。「最高の猛獣だ」と大喜びです。

 最後は砲をイェーガーに向けてフィニッシュです。イェーガーはやっぱり凄く嬉しそうですが、腕利きなので演習場に地雷を仕掛けろと冷静に部下に指示を飛ばします。

 しかし、アーニャがこれをニコライにチクります。そして逃走の為に必要な地図を盗んでくるから一緒に連れて行ってくれと駆け落ちを提案します。

 「彼と結婚するよりあなたと死にたい」と重い愛を語るアーニャ。既に石鹸に地図の入った引き出しの鍵を押し付けて型まで作ってあります。戦争映画なのに刑務所モノの型もしっかり抑えてあるのです。


ロシア式絵図面取り
 そうしていよいよ演習当日を迎えます。相手は1941年のIII号戦車より大幅にグレードアップしたV号戦車3両。ニコライ達には弾が6発、燃料は30キロ分。後は知恵次第です。

 ドッグタグ(認識票)を地面に叩きつけて気合を入れ、墓を掘り返して弾を仕入れて臨戦態勢です。なんだか気合の入れ方がヤクザ映画みたいです。

 グデーリアンや記者も迎えてご機嫌のイェーガーをしり目にアーニャはイェーガーの部屋へ地図を盗みに行きます。将校が用事でやって来ますが、ベッドで裸で寝るという力業で切り抜けます。他の将校もイェーガーがアーニャとニコライにお熱なのを知っているのです。

 ちなみに、今作の女のお色気シーンはこれだけです。そしてアーニャは守衛に適当な法規をまくし立てて外に出ます。後はニコライ達の頑張り次第です。


リアルモクモク作戦
 ニコライ達はそこらの葉っぱを集めて煙幕を焚き、寄って来たパンターに不意打ちをかまします。これにはグデーリアンとのん気にパイプを吹かして見物していたイェーガーもびっくりです。

 イェーガーも腕利きなのですぐに対戦車部隊を出動させますが、ニコライ達はイェーガーたちが陣取る監視塔にダイレクトに砲撃を食らわせて正門を目指します。

 ライバル補正でイェーガーとグデーリアンはどうにか助かりましたが、歩く死亡フラグのグリム少佐はこれにて退場です。

 ニコライ達はお偉いさんを乗せてきたベンツを踏みつぶし、手りゅう弾で抵抗するドイツ兵をなぎ倒し、バックで正門をぶち破ってロシア軍人お約束である「ウラー!」という勝利の雄たけびを上げて逃げ去ります。

 イェーガーは追いかけて拳銃で気休めの抵抗をして、対策に追われる事になるのですが、大失態にも関わらずやっぱり嬉しそうです。


アカがタンクでやって来る

 アーニャは街道沿いのバス停でニコライを待ち、戦車の登場に卒倒するドイツのご婦人をしり目に戦車に乗り込んでソ連の勢力圏であるチェコを目指します。

 燃料が怪しいのでまずは腹ごしらえです。ガソリンスタンドに乗り込み、慌てて飾ってあったハーケンクロイツを隠した店員を「ドイツ野郎、満タンにしろ」とステパンが脅し、燃料の問題は結構簡単に解決します。

 ニコライ達の燃料も怪しいので、ゲーテとシラーの銅像が印象的なワイマールの町でランチタイムです。

 「略奪だ」と血の気の多いヴォルチョクは息巻きますが、イオノフは信心深いので「恵んでもらおう」と博愛主義です。しかし、やる事は変わりません。

 憲兵から銃を奪い、市場で野菜とソーセージを持てるだけ貰い、雑貨屋で服もゲットです。イオノフはイコンの描かれた絵皿を戦車に飾って神のご加護を期待します。

 スターリンは「戦車の中に百貨店を作るのか?」というパワーワードで戦車開発に口出ししたので有名ですが、戦車の中に教会は割と簡単に作れるのです。

 ステパンは通りがかった子供に稚拙な手品を見せて遊び、ヴォルチョクは酒場でオクトーバーフェストな格好の姉ちゃんを「コウモリ食べたことある?」等と前衛的な口説き方でナンパしつつビールを飲み、ニコライはゲーテの詩を引用して演説をぶち、ひとしきりワイマールの町を騒がせ、代金の代わりに「ヒトラーは破滅する」と捨て台詞を残してプラハへと急ぐのです。


槍の玄蕃が仁王立ち
 そんな事をしている間にイェーガー達は非常線を張り、道を必殺の8.8センチ砲で塞いで出会いがしらの一発を食らわせます。

 一番装甲の厚い真正面だったのでどうにか助かりましたが、例にもよって車内は大混乱です。道を外れてジグザグに走行し、森に逃げ込む羽目になります。

 こいつを道という道に配備してニコライ達を待ち構え、空軍にも応援を頼んで小道を見張るというのがイェーガーのプランですが、グデーリアンは「ついでに占い師にも頼め」とご機嫌斜めです。

 だってSSにイェーガーを推薦したのはグデーリアンなのです。面目丸つぶれの上に事態が収束しても後でヒムラーに嫌味を言われるのは必定です。ヒムラーなんてナチスの偉い手でも特に嫌な奴ですから怒るのは当然です。

 なのにイェーガーは「敵は一流だ」とやっぱり嬉しそうなのです。


コウノトリが飛ぶ

 イェーガーはシュトルヒ(コウノトリ)と呼ばれる軽飛行機に乗って自ら偵察に赴きます。戦車の走った跡を見つけてニッコニコです。とはいえ森の中は飛行機では探れないので、ニコライ達の方が有利です。

 ニコライ達は湖の側にキャンプを張り、ヘルメットを鍋にしてシチューを作り、野郎四人で水浴びをしてまた「ウラー!」と勝どきを上げます。今作最大のサービスシーンです。ただしアーニャは脱ぎません。

 そしていちゃつくニコライとアーニャ。一行は身の上話を始めます。妻子を故郷に残しているステパン、兄弟全員が出征しているイオノフ、天涯孤独のヴォルチョク、アーニャは母親は輸血の事故で死に、父親は"きっと"従軍中とやっぱり重い女です。

 お互いそこそこ不幸と分かったところでステパンが陰気な歌を歌い、とうとう一行は泣き始めます。戦争は悲しいものです。

 チェコまで残り50キロなので、ニコライは戦車を湖に沈めて徒歩で逃げようと提案しますが、ステパンはこれを拒否。ニコライと雑なキスシーンと濡れ場を終えたアーニャだけが先行してチェコに入り、後で合流という運びになります。


市街戦は戦車の華
 イェーガーがついに一行の居場所を掴み、ニコライ達は国境のクリンゲンタールの町でラストファイトに入ります。

 ところが、ニコライが町に入ろうとすると人影が全くありません。イェーガーたちが街の住人を追い払って待ち伏せていると察知したニコライは迂回して脇道から街に入ります。

 しかし、イェーガーはそれをさらに察知して赤外線スコープまで用意して二両で待ち伏せています。先制攻撃を食らって慌てるニコライ達ですが、士気が高いのでコントロールは失いません。

 真正面からでは撃破は不可能なので、戦車の下の地面を狙い、弾を跳ね返らせて戦車の底に弾をぶち込むというスーパーショットで切り抜け、広場へと向かいますが、ニコライが戦車を降りて偵察に行くと3両も道を塞いで待ち構えています。

 車内で作戦会議を開き、囮を立てて1両を陽動してその間に広場の壁をぶち破って逃げるプランが立案されます。

 一番血の気の多いヴォルチョクが志願をして手りゅう弾を戦車に放り込むことになりました。イオノフにお祈りしてもらって突撃です。

 ヴォルチョクは見事手りゅう弾を戦車に入れる事に成功しましたが、撃たれてしまいました。その間に壁をぶち破って逃げ出すニコライ達。


東部戦線でウエスタン
 しかし、壁をぶち破って路地を抜けた先にも戦車が。ケツとケツとがぶつかる距離です。

 両者砲塔を慌てて回しますが、時間がかかる分緊迫感が強調されます。小型のT-34がタッチの差で早く狙いをつけ、爆発でヘロヘロになりながら2両目を撃破です。

 しかし、イェーガー達残った2両が迫ります。絶体絶命を悟ってイオノフはお祈りを始めてしまいますが、なんと加勢が。ヴォルチョクが手りゅう弾を投げ込んだパンターを乗っ取って撃ってくれたのです。

 残るはイェーガーの戦車だけですが、何しろ重傷のヴォルチョク一人で動かしているので限界があります。イェーガーの弾とヴォルチョクの最後の一発はクロスカウンターの形になり、イェーガーの弾は地面に当たってヴォルチョクの弾はイェーガーの赤外線スコープを破壊してついに1対1となります。


ドイツなのにマカロニ
 イェーガーはここへきて邪魔者が居なくなったので自分の流儀を通し始めます。手始めにハッチから手袋を投げつけていささか古風に決闘を持ち掛けます。

 ニコライは「5分くれニクラウス」と一時休戦を条件に応じ、まだ生きているヴォルチョクを拾って橋の両端に陣取って本格的な決闘をおっぱじめます。

 イェーガーは砲塔だけ貰うとニコライを助けるつもりですが、ニコライは殺す気満々です。喧嘩はイカれている方が有利なのでニコライにアドバンテージがあります。

 ジグザグ走行をしながら距離を詰め、パンターの下部の弱点である操縦手用のハッチに最後の一発をぶち込み、横に回り込んで体当たりでイェーガーを川に突き落としにいきます。

 恐ろしい事にイェーガーはまだ生きていて、ハッチから這い出して拳銃で最後の抵抗を試みますが、先にニコライが憲兵から奪った銃で狙いを付けて敗北を悟ります。

 イェーガーは撃てと迫りますが、ニコライは撃てません。やっぱりタイマン張ったらマブダチなのです。

 ニコライはイェーガーに手を差し伸べて助けようとしますが、イェーガーは手を払いのけ、ターミネーター風に川に落ちていきます。戦車の角度を鑑みるに、「He'll can't be back」です。ちなみに、シュワちゃんの親父はナチス党員だったそうです。


全ての戦車兵に捧ぐ
 アーニャは合流地点の野原で寝て待っています。すると一行はヴォルチョクを担架に乗せて無事?合流を果たします。

 すべての戦車兵に捧ぐとメッセージが入り、一行は堅気の暮らしに戻っていきます。運転の上手いステパンはトラクターに乗って妻子の元へ、信心深いイオノフは教会でイコンの修復、獣並みのヴォルチョクは猟師、そしてニコライはアーニャを連れて母親の元へ。

 しかし、彼らの戦後が苦難に満ちたものになる事は『スターリンの葬送狂騒曲』をご覧になった方は想像が付こうと思います。それがプラウダ(真実)なのです。

BL的に解説

SSホモ集団説
 そもそもSSという組織からして怪しいのです。妙に格好良い制服を着てイキり倒している様はゲイ日本代表の私兵そっくりです。

 ナチスは同性愛者を酷く弾圧したので有名ですが、この動きの先頭に立っていたのが誰あろうSSの親玉であるヒムラーなのです。

 しかし、SSやゲシュタポはむしろ同性愛の蔓延が問題化していていました。それどころかSSの前身である突撃隊に至ってはもうホモ祭りの様相だったのです。

 何しろ長官のエルンスト・レームという人物がゲイで、自分好みの男ばかり採用するのでホモがホモを呼ぶ手の付けられない有様でした。その結果起きた内ゲバが名前だけは有名な「長いナイフの夜」です。

 とはいえゲイというのは一度目覚めたら治る性質のものではありません。結局同性愛の伝統はネオナチにもしっかり受け継がれているのですから。

 ヒムラーは終始部下の尻ぬぐいに負われていたわけですが、ヒムラーだって怪しいものです。ホモフォビアにゲイが多いのは良く知られた話です。ホモのホモ嫌いです。

 一夫多妻制を提案したりと女性軽視の傾向が目立ち、衆道と不可分の武士道に多大な関心を寄せ、自分は小男のくせに金髪碧眼でガタイの良い男に執着したヒムラーが本当はゲイ。大いにあり得る話です。

 グリム少佐の病的な振る舞いもこの事から説明が付きます。逞しいロシア野郎をいじめる事に性的興奮を覚えていたのです。

 イェーガーをやたら手厚く歓迎したのも下心です。自分好みのいい男が来た。もはや奥さんもコンドームでしかありません。

 突撃隊がホモ軍団なのは市民にも広く知られて顰蹙を買っていたくらいなので、SSに移籍する軍人たちも出世の代わりに尻を差し出す覚悟は決めていたはずです。

 従って、イェーガーもヒムラーに美味しく頂かれていた可能性が十二分にあります。これ以上は長くなりすぎるので別の機会に譲って本題へ移りましょう。


イェーガー×ニコライ

 要はヤンホモイェーガーがニコライを追いかけ回す。突き詰めればこの映画はそれだけです。

 戦車戦は事実上のセックスです。しかし、イェーガーは輪姦は好きではないようです。二人でガンガンやり合うのが好きなのです。

 果たしてニコライとの戦いはイェーガーを最高にエキサイトさせるものでした。極上の雄を組み伏せる。男の本懐です。

 そして二人は運命的な再会を果たします。イェーガーの嬉しそうな事。彼の股間の88はSS魂で熱く膨らんでいくのであります。

 そして「男前だな戦車長」です。普通言いますか?しかし、イェーガーのニコライ愛は普通じゃないのです。まあ、SSでは普通なのかもしれませんが。

 用事もなく呼びつけて酒を飲ませるのも彼なりの愛情表現です。ロシア人はウォッカが燃料なので、酒を飲ませれば勢いでヤれるという計算が合ったのではないでしょうか?

 のっけから「よくきたな我が友よ」と来て、ニクラウスの件で距離を詰めていくのもSS式男の口説き方なのでしょう。

 しかし、ニコライは心も体も許さないばかりかアーニャに接近する有様です。ホモ特有の直感でこれを察知したイェーガーはアーニャに求婚するのです。

 これはアーニャを通じた間接ホモセックス狙いであり、イェーガーにとってアーニャなどコンドーム程の存在に過ぎないのは明白です。ニコライを承知させるために殺そうとした後ですから。

 大体この年まで独身なんて当時のドイツでは不道徳と言われても仕方のない事です。つまり、イェーガーはSSどうこう以前の筋金入りのガチホモである可能性が濃厚です。

 ニコライの反乱にもイェーガーはやっぱり嬉しそうです。あの1941年の再戦ができるのですから。「よくやった我が友よ」ということです。

 ヤンホモ特有の執念でニコライを見事に発見したイェーガーは、取り巻き(恐らく小姓兼任)の部下を連れて市街戦に突入します。そして期待通り、ニコライは他の連中を打倒して再び1対1。もはやイェーガーを妨げるものは何もありません。

 手袋を投げつけるという古風な決闘の申し込みもなかなかホモ臭いものがあります。そんな作法を用いる貴族や騎士連中がホモばかりなのは今更説明は要らないでしょう。

 そして最終決戦に際してもまだイェーガーはニコライを諦めていません。殺さず生け捕りにするつもりです。しかし、その愛ゆえにイェーガーはニコライに敗れるのです。

 しかし、ニコライもまたイェーガーに奇妙な友情を覚えていたのは事実でしょう。川に落ちかけているイェーガーに手を差し伸べたのでもそれは明らかです。

 ですがイェーガーは捕虜になるより死を選びました。SSの大佐など捕虜になればどんな目に遭うか考えたくもありません。そして、最後の最後にイェーガーはニコライからの愛を確認することができたのです。もはや彼には生きている意味は無くなったのです。

 ニコライは結局アーニャと引っ付いて故郷に帰りましたが、イェーガーの事は死ぬまで忘れる事が出来ないはずです。イェーガーはそれで十分なのです。想い人の心の中で永遠に生き続ける事こそがヤンホモの本懐なのです。


ステパン×ニコライ
 戦車がいかにホモソーシャルな乗り物であるか、もはや走るハッテン場である事実は映画をご覧になったならもうお判りのはずです。

 ニコライはハッテン場のツァーリというわけですが、誰が皇后なのかと考えた場合、やっぱりステパンでしょう。

 彼とはイェーガーとの激しい実質セックスを切り抜け、一人生き残ったつわものです。そして収容所で牢名主として君臨しています。

 ニコライを暗殺できる権限を持っているくらいなので当然捕虜のケツはみんな彼の物です。

 しかし、ステパンはきっと新入りを掘りながらも自らの命を救ってくれたニコライの事を考えていたのです。

 そして再会しましたが、ステパンはニコライに売られたと思って暗殺を謀ります。しかし、むしろニコライはステパンを助ける為に危険を冒したことを知り、またニコライは殺すなら殺せと居直ります。

 ステパンにとってこの言葉はお前に殺されるなら本望だと解釈したはずです。彼の愛の天秤は大きく傾き始めます。

 そして、自分を救ってくれたからと急激にデレて、二人の愛のシーソーゲームが始まります。そして砲弾の発見により二人の愛は爆発して止められなくなります。

 ニコライとステパンはお互いの腕に全幅の信頼を置いています。そして試運転で「最高のバレエを見せてやれ」と来ました。そして戦車には白鳥の羽をあしらったエンブレムが。

 チャイコフスキーがゲイである事を大学出のニコライが知らないはずがないのです。この日ステパンとニコライはディアギレフとニジンスキーの関係になったのです。アーニャなどどうでもいいエキストラの群舞に過ぎません。

 アーニャとニコライが出来ているのはステパンも知っていますが、自分もまた妻子持ちなのでそこはお互い様。パートナーの表の幸せを壊さないのが理想のカップルなのです。

 そして、戦車を放棄してチェコを目指すという提案をステパンは拒否しました。操縦しか能がない自分をよくわかっていたのです。操縦している限りニコライは自分の物なのです。いわば戦車は愛の巣なのです。

 そしてイェーガーという恋敵をスーパーテクニックで撃破したニコライ達は故郷へと帰ります。しかし、ニコライのアーニャといちゃつく日々はやがて耐え難い退屈へと変質していきます。

 そしてニコライはワイマールの町の絵葉書を闇屋から購入し、「会いたい」と一言添えてステパンに送るのです。そして二人は再会し、物陰でアーニャが観ているとも知らず濃厚なキスをかます。そんな未来が私には見えてしまうのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

赤いBL的映画鑑賞
『レッド・オクトーバーを追え!』
『ロッキー4/炎の友情』
『スターリンの葬送狂騒曲』
『グッバイ、レーニン!』

『大脱走』(★★★★★)(西側の脱走)
『兵隊やくざ』(★★★)(極東の脱走)

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