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第55回 修羅の群れ(1984 東映)

 さて、本noteも相変わらずの低空飛行ながらもどうにか新しい年を迎えることができました。これも読者の皆様の支えあればこそでございます。

 さて、前回は『エクスペンダブルズ』でクリスマスをバラ色に染める試みをしたわけですが、邦画も負けてはいられません。

 しかし、あの映画に比肩する邦画があるだろうかというと困るところです。そして考え付いた結論は、スタローンと並ぶ本noteの事実上の主役、松方弘樹主演による『修羅の群れ』です。

 大下英治原作で監督は山下耕作、そして公開は1984年。実録映画の最末期の映画で、この時期からヤクザ映画は徐々にVシネに軸を移していきます。

 関東の大組織、稲川組の総裁である稲川聖城をモデルとした松方弘樹演じる稲原龍二の生涯を胸焼けしそうなキャストを織り交ぜて群集劇的に描く大作であり、松方弘樹が後にVシネでセルフリメイクする程深い思い入れを持っている作品でもあります。

 しかし、松方弘樹の思い入れと裏腹に詰め込み過ぎの感が否めず、ヤクザ映画初心者にはあまりお勧めできない作品です。逆に上級者を目指す人は絶対に避けて通れません。

 北島三郎がいい役で出ている。その真意が分かればもう上級者です。もはや紅白にも有馬記念にもサブちゃんは出られそうもありませんので、この映画を代わりとしましょう。

 そして、ヤクザ映画としては今一つですが、この映画はBL的には非常に良く出来ています。『ロッキー5』でも言いましたが、多角的評価軸を持つことが豊かに生きるコツなのです。2021年は多角的に映画を楽しみましょう。

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真面目に解説

ヤクザ映画空白地帯
 実録ヤクザ映画をある程度知ると分かる事ですが、ヤクザの世界で映画のモデルになる対象は非常に限られています。

 Vシネでは全国津々浦々の組織がカバーされていますが、東映の映画のモデルはその大半が山口組関係か、さもなければ山口組の脅威にさらされる組織です。

 これは東映の岡田茂社長と山口組の田岡一雄組長が懇意であった事が関係しています。山口組に次ぐ存在である稲川会や住吉会の映画は実は一本ずつしかないのです。

 住吉会はモデルになった親分が自ら企画を持ち込んで『バカ政ホラ政トッパ政』という映画が70年代には撮られていますが、稲川会は1984年まで遅れました。そういう意味では非常に貴重な映画です。

 関東と関西ではヤクザも少し違うのが窺えるのが面白い点です。例えば賭場で行われている博打は関西だと専ら「手本引き」ですが、これが関東なので「後先(バッタ巻き)」です。


ヤクザ映画と忖度
 この際ハッキリ言いますが、この映画は非常に腰が引けています。勿論東映の培ってきた任侠映画のテイストと頭の悪いシーンは山盛りで画的には楽しいのですが、その一方でモデルを美化しすぎています。

 その最たる例が稲原の気前の良さと麻薬を許さない姿勢です。稲川会はシャブが主要財源で、山口組は表向きシャブが御法度なのを利用し、「麻薬追放国土浄化同盟」なる組織をでっちあげて関東進出の口実にしたほどです。

 そして稲原は兄貴分に「銭に汚ねえ奴は男になれねえ」と言われて薫陶を受け、何かというと財布ごと人に金をやりたがりますが、稲川は会費を治めさせるのにも各組員の直接の親分への分と自分への分を別に徴収したとされています。

 その他何かにつけて正義のヤクザを気取りますが、まあヤクザはどこまで行ってもヤクザです。そこは切り離して考えないといけません。

 『大阪電撃作戦』でも述べましたが、こういうモデルへの忖度が実録映画というジャンルを短命に終わらせたのです。本部に自分の胸像がある稲川の事なので、さぞ盛大に横槍を入れたのでしょう。

 そして比較的汚い事を描くのに寛容だった田岡が世を去った事でいよいよ実録ヤクザ映画は行き詰まり、今では各地の親分衆のご機嫌を取るような作品がVシネで量産されるばかりです。


なれずなれず尚なれず

 『県警対組織暴力』でも述べましたが、柔道の世界には警官とヤクザが非常に多いのです。

 そして、本作は骨接ぎをしてもらおうと柔道の道場を訪れた侠客加東伝三郎(丹波哲郎)に、柔道の修行をしていた稲原がスカウトされて若い衆になるところから始まります。

 警察から巡査の口を紹介されているというのに是非と頼んで若い衆になってしまう稲原。のっけからコンプライアンスなどこの映画に存在しないとぶちかましてきます。

 そして稲原は父親が博打で財産を失って貧乏し、警官に馬鹿にされながら故郷を去る途上で身売りされていく娘におにぎりを恵んでもらった思い出を兄貴分の横山(鶴田浩二)に語り、その仇で警察を蹴ってヤクザになったと話します。

 どこまで事実なのか分かりませんが、いずれにしても明らかに手段を誤っています。

 しかし、横山は流石に鶴田浩二なので理解があり、「馬鹿でなれず、利口でなれず、中途半端じゃ尚なれず」というヤクザの世界の有名な格言を授けてくれるのです。

 この言葉はこの映画の裏のテーマかも知れません。早い話が色々と間違ってしまった人間ばかり出てくるのですから。


修羅の群れ(直球)
 冷静に考えて下さい。松方弘樹の親分が丹波哲郎で兄貴分が鶴田浩二ですから信じられないほど豪華です。この組なら入っていいかと思わせます。

 従来の実録映画だと親分が金子信雄で若頭が室田日出男とかなので、他の実録映画とは根本的に違うと言っていいでしょう。

 他のキャストも必要以上に豪華な面々が揃えられ、胸焼けしそうな勢いです。逆にピラニア軍団は実力派の成瀬正や小林稔侍がいるくらいで殆ど姿が見えません。

 というのも、もうこの頃にはピラニア軍団は立派に一本立ちして居たので使いにくかったのです。拓ボンの負け犬芸や室田日出男のサイコパスや志賀勝の怖い顔はこの映画では生かせません。

 その一方でのっけに海水浴場で稲原と喧嘩するチンピラさえも世界の福本清三ですから妥協がありません。キャスティングにも横槍が入ったんじゃないかと勘繰りたくなります。


預かったり預けられたり

 任侠映画テイストではありますが一応実録映画であり、稲川の生涯がモデルになっているので色々と複雑なヤクザの政治が見え隠れするのは興味深い点です。

 最初は稲原は大船の加東の子分でしたが、他所の組と喧嘩を起こしたことから仲裁に入った湯河原の大物の鶴岡(若山富三郎)に預けられて修行をします。こういう喧嘩の収め方があったのです。

 そうこうするうちにその鶴岡から熱海の親分が引退するというので、三国人が暴れまわって荒廃している熱海を仕切れる後継者が欲しいというので横山に跡目の話が回ってきます。こういう跡目の取り方もあったのです。

 しかし、横山は稲原を推薦。松方弘樹の癖に謙虚な稲原は最初は断りますが、結局二人の後押して稲原は熱海の親分になってしまうのです。

 どっちも今ではあまり聞かないですが、古い文献などには散見される方法です。まあ、そんな事を覚える必要があるかというとないのですが。


神奈川のエクスペンダブルズ

 映画の序盤は稲原が兄貴分の横山といちゃつく様に主眼が置かれます。横山は鶴田浩二です。『日本侠客伝』以来このnoteには登場がありませんでしたが、そりゃあもう格好良いのです。

 何しろ何十年にもわたる大河映画なので稲原の前半は松方弘樹の年齢上無理が出てしまうのですが、鶴田はそういう心配がない役どころなので自然体です。

 その一方でヤクザは一人前になれば弟分や子分が増えていきます。そうして戦後になると稲原とその仲間達は大所帯になり、エクスペンダブルズで神奈川水滸伝な事になっていくのです。

 最初に子分になったのが鶴岡の賭場で賭場荒らしを仕掛けた復員兵の森谷(清水健太郎)と長谷部(木之元亮)。

 賭場で財布を丸ごと恵んでもらい、その後別の賭場で韓国人差別をよしとしない稲原の男ぶりに惚れこんで無理矢理子分にしてもらうという実にホモ臭い展開になるわけですが、何しろ清水健太郎なのでエクスペンダブルです。

 そして同様にそんな稲原に惚れこんで最終的に子分になるのが川崎の在日コリアンの山村(張本勲)です。

 そう、あの日曜朝に喝を入れてるあの張本です。元をただせば東映フライヤーズの選手で八名信夫とは同僚であり、菅原文太に広島弁を指導したと言われているので意外と映画には縁があるのです。

 そして在日コリアンが球界に多いのは知れた話ですが、当時からカミングアウトしていた選手は実は少なく、張本は在日コリアンの間では英雄視されていました。

 いずれにしても、ご存知の通り見た目が完全にヤクザなので素人ながら結構決まっています。在日コリアンの訛りも演技力をカバーするのに役立っていて上手い手だと私は思うのです。


四天王というロマン
 そして最終的に「稲川の四天王」と呼ばれた面々がモデルの大物が集まってきます。

 最初に稲原の元へ現れたのが賭場荒らしで飯を食っていた愚連隊のモロッコの辰(北島三郎)です。稲原の迫力に呑まれてしまい、刑務所から出てきた兄弟分の井沢(菅原文太)を連れて一緒に兄弟分に収まります。

 井沢は刑務所で舎弟にした田上(小林繁)を連れています。江川に人生を翻弄されたあの小林です。とにかく球界関係者が多い映画です。

 合流のしかたが凄く、小林稔侍率いる三国人の愚連隊に稲原が殴り込みをかけているところに出くわして勝手に助太刀し、最初は嫌がっていた井沢も稲原を気に入ってしまい一緒に子分になってしまうという頭の悪すぎるエクスペンダブルな展開になります。

 その後は辰が敵対組織を襲撃してビビらせ、井沢がその後丸め込んで傘下に取り込んでどんどん組が大きくなっていき、仲間が増えるという男の夢のサイクルに突入するのです。

 そうして四天王の残る林(待田京介)も身内にして陣容が整います。四天王のラストの吉水金吾は残念ながら映画に出てきません。

 林も四天王なので鉄砲玉(丹波義隆=丹波哲郎の息子)を撃退したりと出番は少ないですが見せ場は作ります。待田京介をぞんざいに扱う事など出来ませんからね。

 この鉄砲玉も丹波義孝なので後でカタギになって稲原に挨拶しに来たりと、豪華なキャストにし過ぎて見せ場を作ろうとした結果ダレる展開が増えてしまったのがこの映画の難点です。

 その他特に必然性もないのにヤクザとの付き合いを優先して紅白を辞退したので有名な鳥羽一郎が子分に加わったり、横山の家に詰めている子分が大麻で前科のあるスター錦野旦だったり、モロッコの子分が岡崎二郎だったりと、エクスペンダブルズ感はどんどん増す一方です。


キタサンブラック映画
 冒頭でも述べましたが、四天王の中でも北島三郎演じるモロッコの辰のイカれぶりは凄まじく、非常に美味しい役どころです。

 白いスーツで進駐軍相手にマシンガンを振り回し、シャブをキメながら賭場荒らしをして大暴れです。

 サブちゃんと言えば『暴れん坊将軍』にも出ていたことですし歳に目を瞑れば芝居の方は問題ないのですが、これにも忖度が覗くのです。

 というのも、ご存知の方も多いでしょうがサブちゃんは稲川会とズブズブの仲なのです。主題歌の『神奈川水滸伝』は事実上稲川会のテーマソングとして扱われています。

 演歌歌手がヤクザと不可分なのは誰もが知るところですが、サブちゃんはブラックさにかけてはナンバーワンなのです。

 こう考えるとサブちゃんが馬主になれて表彰式で歌えるのが不思議です。もっとも、天皇賞馬プレクラスニーの本当の馬主は稲川だと言われています。

 なんならサブちゃんに馬主になるのを勧めたのも稲川だという説があります。ヤクザが知り合いの社長に名義を借りて馬を持っているなどという話は腐るほどあるのです。

 そして井沢のモデルになった井上喜人はヤクザを引退した後は今でも売っている競馬新聞『勝馬』の発行に携わって余生を過ごしました。新聞にヤクザが噛んでいるというのもありふれた裏話です。

 そして作中稲川の子分が工事の利権を巡って喧嘩になりますが、この時敵方の親分として登場する元力士の会津川を演じるのは本当に元力士でプロレスラーのグレート小鹿です。

 やっぱり元力士の大熊元司と「極道コンビ」というタッグチームを組んで鳴らし、後期高齢者になった今でも現役の顔が怖いこの小鹿、黒い交際の噂が古くから絶えないレスラーの一人です。見た目は実にそれっぽい一方で演技が恐ろしく下手なのがそれを裏付けます。

 そして会津川を見事仕留めた長谷部は褒美として稲原が警察に掛け合って一時的に保釈してもらい、刑務所に行く前に父親の三回忌追善興行と称して浪曲の大看板、玉川勝太郎の興行を打たせてもらって刑務所に入ります。

 全盛期の勝太郎の『天保水滸伝』が聞けるので浪曲初心者にも是非お勧めしたいですが、これも今の価値観だと無茶苦茶な話です。

 というわけで例にもよって『兵隊やくざ』の浪曲師の彼にコメントを求めると

「映画で唸っているのは三代目だが、モデルのヤクザが呼んだのは二代目だろう」
「古い師匠なら指定暴力団の組長と大体面識がある」
「稲川の名前の入ったテーブル掛けを使っていた師匠もいた」
「浪曲にしろプロレスにしろ、ヤクザが地方興行を手掛けてくれていたのが警察の締め付けで駄目になって一気に衰退した」

 など、書ける範囲でもサブちゃんの服のように黒いエピソードがこんなに出てきました。どう転んでも実録映画は衰退するよりなかったと言う他ありません。


オメコ芸者も出てこない

 この映画はヤクザを極限まで美化しているので、女もマリア様の生まれ変わりかと思うようないい女ばかりで、普段映画を賑やかすオメコ芸者は一人も出てきません。

 その最たる例が稲原の姐になる雪子(酒井和歌子)です。酒井和歌子と言えばかつては青春スターの筆頭でしたから、本来ヤクザ映画とは真逆の世界に居る人種です。

 海岸でキャラメル売りをしていて、おでん屋に因縁をつける福本清三を稲原がぶちのめしたのに惚れ、母親の反対を押して結婚してしまうのです。その母親さえ風見章子なのですから、松方弘樹の女房にはあまりに不適格です。

 しかし、稲原は松方弘樹なのに女郎買いは嫌いだわ雪子のまでは童貞みたいに固くなってしまうわ、結婚したらヤクザのくせにマイホームパパを決め込むわで笑ってしまいます。

 いい女は押し倒して「性教育」を施して女郎屋に売るのが松方弘樹本来の姿なのですから。

 モロッコの姐で幼馴染の千恵(小野さやか)もヤク中の亭主を懸命に支えて実にいい女です。鶴田浩二の娘ですが、こうして見ると父親そっくりです。


マイホームヤクザの悲哀
 どんどん組織は大きくなっていきますが、それにつれて問題も増えてきます。というのも、稲原の子分は行儀の悪い愚連隊ばかりなので揉め事が絶えないのです。

 モロッコはいつもラリっているし、井沢は後先考えずに拡大路線を取って威張りだすしでもう手が負えません。

 息子の龍好はグレて刺青を彫るし(後に三代目を継ぐ)、モロッコは死ぬし、井沢は暴走するしで段々と楽しい稲原組は崩壊の方向へ向かい、暗雲が立ち込めていきます。


指の生き死に
 最後にモロッコの説得で加わるのが石河(北大路欣也)この人は稲川会の二代目を継いだ石井隆匡がモデルです。

 出番は少ないですが行儀の悪い稲原組の面々では一番まともという事になっており、井沢が破門になりかけるのを自ら指を詰めて阻止し、刺青を彫ってしまった龍好を修行のために預かってくれます。

 石河が指を詰めた時の稲原の「死に指にするなよ」という一言に注目です。詰める指には生き死にがあるのです。

 ヤクザが指を詰めるのは不始末のけじめをつける時や組を抜ける時というイメージがありますが、これは「死に指」なのです。

 逆に今回の石河のように組の為に詰めるのを「生き指」と言い、これは名誉とされます。

 もっとも、今やヤクザは指より金という時代で、この言葉もやがて死語になってくるのでしょう。


ラスボス登場
 しかし、井沢は切れ者のくせにアホなので、クラブで大島という他組織の大親分(天知茂)に絡んで喧嘩騒ぎを起こし、結局破門されます。こうなると石河の名誉の生き指は死に指に早変わりです。

 しかし、ほんのちょい役なのに天知茂は見事に大物感を出していています。そして、このnoteでは初登場ですが、天知茂はBL力抜群です。

 というのも本物という疑惑の持ち主なのです。彼の弟子の宅麻伸の疑惑の方が有名ですが、仕込んだのは誰なのかという話です。

 こういう見方からもBL的映画鑑賞では映画人の師弟関係に着目するのをお勧めします。片方怪しいならもう片方も、という一粒で二度おいしい手法です。

 例えば、本作の音楽はあまりヤクザ映画にはタッチしていない『水戸黄門』のメインテーマなんかで有名な木下忠司が手掛けています。

 どこか繊細で上品なBGMが津島利章サウンドが骨身にしみたヤクザ映画フリークにはちょっと変わった印象を残すのですが、この人はあの木下恵介の弟です。

 日本初のオープンゲイ映画『惜春鳥』の木下恵介の弟です。つまりそういう事です。情報量がBLに直結する。それがBL的映画鑑賞なのです。

BL的に解説

稲原ホモ説
 稲原は父親の破産で貧しい少年期を過ごし、その鬱屈したエネルギーを柔道にぶつける青年でした。このバックボーンがすでにホモ臭いではないですか。

 女郎がかわいそうだから女郎買いは嫌いと言っていますが、何の事はありません。彼自身が女郎にされたのです。

 借金取りに利子の代わりに、兄弟子に生意気だからと慰み者にされて段々と男の世界にのめり込んでいく稲原。何なら警察嫌いは巡査に掘られたトラウマから来ているのかもしれません。

 やがて雪子と結婚しますが、稲原はヤクザのくせにこの姐さんを信じられないほど大事にします。ここで登場するのは「ホモは結構奥さんを大事にする」論です。

 雪子はまさに観音様のような女であり、稲原は初めて心から信頼できる女性に出会ったのです。しかも酒井和歌子です。そりゃあのめり込みます。何しろ男といちゃついていても嫌な顔一つしないのですから。


横山×稲原
 さて、この映画は稲原のハーレム映画であり、その点でも和製『エクスペンダブルズ』なわけですが、一つ違うのは松方弘樹は基本攻めであり、例外があることです。

 横山と稲原は完全に夫婦です。松方弘樹さえ嫁にしてしまう事が出来るのが鶴田浩二なのです。

 道場でスカウトされた時の稲原の表情をご覧ください。完全にメスの表情です。

 横山の狙い通りは甲斐甲斐しく賭場で働き、チンピラの悪行を見逃さない立派な男に成長します。海水浴場のおでん屋でいちゃもんを付けた福本清三をぶちのめし、屋台が滅茶苦茶になったので財布ごと有り金くれてやるのです。

 これにキャラメル売りのアルバイトをしていた雪子が惚れちゃうのですが、それはこの際些細な問題です。もっと惚れ直したのが他ならぬ横山なのですから。

 横山は稲原と縁日デートをしながら今度は自分の財布をプレゼントし、ついでにチンピラを殴り倒して稲原に猛烈にアピールします。

 確かな情報網を持つ横山の事ですから、あるいはキャラメル売りの娘が稲原に気があるという情報も既に掴んでいたのかもしれません。

 だとすればこのデートはお前は俺の物だと再確認させるためのアピールです。こんな調子で結構横山は独占欲が強く、腐った眼でこの映画を観る私をどきどきさせてしまうのです。

 雪子は良家の娘なので母親が稲原との交際に反対し、横山がアドバンテージを持って事を進めます。横山はこのアドバンテージを最大限活用して映画をコントロールするのです。

 そうこうしていると賭場に喧嘩が発生します。近衛十四郎のDNAと柔道のバックボーンをフル活用して単身賭場荒らしをぶちのめす稲原。適当なところで横山が止めに入るのがポイントです。こうして二人の主従関係はどんどん深みにはまっていくのですから。

 その一方で稲原はやっぱり松方弘樹なので血の気が多すぎるところがあり、博打のいざこざで組内にわだかまりを作り、日頃稲原を面白く思っていなかった剛(成瀬正)が稲原を襲撃します。

 後ろから鉈でぶん殴られて頭蓋骨陥没の重傷を負う稲原。剛は所詮はピラニアなのでそれでも反撃しようとする稲原にビビって逃げ出してしまい、稲原は驚異の生命力で一命をとりとめます。

 これはよく考えたら不思議な話です。たかが賭場で熱くなって行儀の悪い所を見せた程度で稲原ほどのホープを殺すのは割に合いません。

 では何故?痴情のもつれと考えれば簡単な事です。剛は稲原に横山の正妻の座を盗られ、ホモのジェラシーで稲原を殺しにかかったのです。とんでもないヤンホモが居たものです。

 そして入院している稲原を剛たちは再び襲撃します。しかし、そこには横山が。横山は鶴田浩二なので流石に強く、襲撃してきた連中を簡単に片づけてしまいます。

 わざわざ自分一人で待ち受けていなくても、何人か若い衆を詰めさせておけば未然に防げた事件です。なのに横山がわざわざ危険を冒したのまた稲原へのアピールです。

 意識朦朧とした稲原は横山の強さと愛を目の当たりにして惚れ直してしまいます。吊り橋効果です。

 雪子も白い菊を持って見舞いに来ます。これを横山は見越していたのです。友達と女性経験の少なそうな稲原の事ですから、雪子に優しくされると簡単に落ちる可能性があります。見張らねば危険です。

 そして狙い通り雪子につれない態度をとる稲原ですが、横山は雪子を付き添いに残します。ここが横山の凄い所です。

 稲原は血の気が多いので、その夜怪我を押して仕返しに行ってしまうのです。雪子は慌てて横山に連絡を取り、横山は稲原の行く道を完璧に察知して仕返しを止めに行きます。

 「どうしても行くなら俺も一緒に行こう」「ヤるだけが男じゃねえ。我慢するのも男の道だ」と任侠映画の粋を込めたようなセリフで稲原を停める横山。見つめ合う二人はもう目でセックスしています。

 狙って降ってくる雨もホモ臭くていい味出してます。この後絶対ヤってます。

 そして成り行き上雪子と稲原は結婚して子供が生まれますが、これも横山の策略です。稲原が侠客として出世するには自らコンドームになりに行ける姐が必要不可欠ですが、その一方で稲原の中で雪子>横山となるのは避けたいのが横山です。

 そこでこの襲撃未遂事件で稲原との仲を深めるとともに、あえて雪子を介入させて雪子の信頼も勝ち取ってコントロールできるようにしたのです。

 相方の幸せを壊さないのは良きホモカップルの条件ですし、また世間知らずなお嬢様である雪子はアンコカッパも侠客の修行と言われれば横山に稲原を差し出してしまうのです。

 そうしていると時代は戦争に突入し、都合よく右手の人差し指の動かない稲原は徴兵を免れて勤労奉仕に駆り出され、言った先の工事現場で喧嘩を起こして鶴岡親分の預かりとなります。

 『強盗放火殺人囚』でガチホモカップルとなった二人なので相性は抜群。稲原はどんどん出世して湯河原で賭場を任せられるほどになります。横山は男の器量を見極める力の持ち主なのです。

 横山の雪子をコントロールする手法はその後も広く応用され、稲原が森谷と長谷部に子分にしてくれとせがまれる時にも颯爽と現れ、「見どころがありそうだから子分にしてやれ」「お前はもうそういう時期なんだ」と稲原を口説き落とします。

 稲原の出世には見どころのある子分が必要であり、また自分が一番であり続ける工作を忘れないのが横山なのです。

 その直後熱海の跡目の話が横山に来ますが、横山は稲原にこの話を譲ります。ここまでくれば完璧です。最初は嫌がる稲原ですが、横山と鶴岡にステレオで勧められればもう止められません。

 鶴岡の「何かあったら横山に相談しろ」という言葉が粋です。親分は何もかも知っているのです。

 継承早々横やりを入れたのが熱海で暴れていた鄭(小林稔侍)達三国人です。横山は「骨は俺が拾う」と格好いい事言って稲原を焚き付けます。勿論稲原が負ける事など最初から考えていません。

 鄭は小林稔侍だけあって精神的ホモに強いため、三国人たちもホモソーシャルな絆に結ばれていて案外強く、モロッコと井沢の助太刀でどうにか勝ちを拾います。

 鄭と稲原の一騎討ちがあるのが泣かせます。小林稔侍はここまで出世したのです。健さんもさぞ喜んだことでしょう。

 三国人はまとめてトラックに載せられ、危うく海に突き落とされそうになります。

 ところが鄭は「殺すなら俺一人をやれ」と健さんイズムを爆発させ、熱海からの退去を条件に仲間達を救います。良い親分です。その夜熱海を発つ夜行列車はハッテン場に変身したに違いありません。

 横山は強引に組織を拡大する井沢を露骨に警戒し始めます。俺の稲原が井沢の広げた縄張りに目がくらんで心変わりしては困るというホモのジェラシーです。

 井沢のベンツを見て「稲原よりいい車に乗ってるな」と嫌味を言う所にどろどろの争いがあります。大奥物を観ている気分です。

 横山は小姓としか思えないスター錦野を連れて半隠居状態ですが、最後の大仕事として山村と石河を手駒に井沢を破門することを決意します。

 刺青を入れてしまった稲原の息子の龍好を石河に預けようと提案したのも横山でした。こういう大事な相談は横山に持って行く。そして石河が二代目、龍好が三代目になるのを横山は予見していたのです。

 そして都合よく井沢が勝手に喧嘩をおっぱじめ、ついに稲原は井沢の排除に同意してしまうのです。

 痴話喧嘩の末に井沢をカタギにした稲原に無茶苦茶嬉しそうな横山。そりゃあそうでしょう。もう自分と稲原の仲を妨げるものは存在しないのですから。

 しかし、嬉しすぎたのか心臓まひで横山はぶっ倒れ、横山は稲原の腕の中で息絶えます。「俺の弔いはお前ひとりで」と最後の最後まで独占欲を見せながら。

 横山の霊前で稲原は「今夜は俺と兄貴の二人きりにしてくれ」と人払いをし、泣き崩れます。この後何が起こったのか。アブノーマルすぎてちょっと書くのが憚られます。

 そして横山の墓参りをするシーンで映画は終わります。最後の最後まで稲原は横山の物だったわけです。


稲原×長谷部&森谷
 二人は特攻崩れでお互い地獄を見た仲間であり、コンビで賭場荒らしで生計を立てるというデキない方がどうかしている仲です。多分森谷が受けでしょう。シャブをやり過ぎるとインポになるそうですから。

 しかし、稲原の賭場に入った事で運命が変わります。稲原にぼこぼこにされる二人。

 ところが二人は鶴岡親分と同郷で世話を受けている身だったので殺されずに済み、稲原は得意の財布ごと攻撃と「親父の顔潰すような事すんな」という一言で二人を心身共にノックアウトします。もう二人の目にはハートが浮かんでいます。

 稲原の男ぶりは二人の想像を上回るもので、賭場で朝鮮人差別を跳ね付け、何故かたまたま天井から降りて来た蜘蛛を食っちゃいます。

 差別した客はドン引きして逃げ帰ってしまいます。しかし、その不気味な迫力に心底ほれ込んだ二人は稲原に子分にしてくれと泣きつきます。

 横山の取りなしで子分にしてもらった二人は稲原にひたすら忠義を尽くすようになります。「愚連隊と博打打ちは違うんだ」という稲原の言葉がここで効いてきます。

 この言葉と忠誠心を盾に取られれば二人は当然尻を差し出せと命じられても逆らえないのです。しかし、二人にとってそれは願ったり叶ったりです。

 稲原の襲名式で感動の表情を見せていた二人は三国人との立ち回りでも大暴れを見せて忠義を見せます。稲原の為に死ぬならそれは男の本懐です。

 二人の稲原愛は工事現場で勝手に賭場を開いていた会津川との対決です。ここが男の見せ所とばかり勝手に会津川を襲撃した二人は見事本懐を遂げます。

 二人を警察に送り出す稲原の悲痛な表情。最初に盃をやった子分ですから愛着はひとしおなのです。

 そして二人とも一人で会津川をやったとお互い庇い合うのです。これがBLでなくて何でしょうか。

 そして長谷部は父親が好きだったという玉川勝太郎の興行を打たせてもらいます。玉川勝太郎の十八番、『天保水滸伝』は濃厚なヤクザBLであり、腐女子は一度は聴くべきです。こんなの好きな父親から生まれたのだから長谷部は遺伝子レベルでホモだったという事です。

 そして二人は風呂に入ろり、長谷場が涙ながらに稲原の背中を流すサービスショットを入れて刑務所に入ります。あの後絶対ヤってます。

 長谷部は十年、森谷は八年の刑を貰い、一足先に森谷が出所してきます。稲原はあえて横山と二人だけで出迎えて特別な存在であると森谷に思わせる男心の分かった戦術を取ります。きっと宴会場へ向かう車中でヤってます。

 続いて長谷部も出所し、二人はモロッコと井沢亡き後の飛車角として偉くなっていくのです。


稲原×山村
 張本と言えばノムさんに「態度はデカいのにナニは小さいのう」と馬鹿にされて仕返しにノムさんをバットでぶん殴ったという武勇伝です。

 女性には想像しにくいでしょうが、ノムさんは殴り殺されても文句は言えないところです。しかし、ゲイにしてみれば張本のナニが小さいのはむしろプラスです。そういうのには需要があるのです。

 そして、この機会を借りて皆様に強く訴えたいことがあります。張本は本物であるという疑惑です。

 大阪の古手のゲイの間ではよく知られている話ですが、張本は大阪のある伝説のハッテン場の常連客であったと言われています。

 ちなみにそのハッテン場には千葉ちゃんもよく来たそうです。JACとジャニーズは同じ仕組みだという怖い噂にも俄然信ぴょう性が増すエピソードです。興味のある人は大阪のノンケOKのゲイバーで聞き込みしてみましょう。

 さて、本題に戻りましょう。山村は賭場で差別をよしとしない稲原に一目ぼれしてしまいます。

 稲原は関東大震災の折、殺されそうになって逃げてきた朝鮮人を匿った事があったのです。

 そして山村は韓国人である事をカミングアウトして稲原にお礼を言います。当時在日コリアンなのをカミングアウトするのは勇気のいる事であり、セックス以上の愛情表現と言っても過言ではありません。

 それ以来稲原の事が忘れることができない山村。そんな山村を井沢は競輪場で待ち伏せし、舎弟になれと迫ります。

 あまりにぶしつけな物言いなので最初は嫌がりましたが、惚れた稲原の子分になれるならとチョロい所を見せてあっさり承諾してしまいます。山村は萌えキャラです。

 その後も主要幹部として山村は要所要所に顔を出します。デカくて怖そうなので並べておくと迫力があるのが有利だったのでしょう。

稲原×モロッコ
 モロッコはシャブ中のうえ、子分をぞろぞろと連れ歩いてホモソーシャルを爆発させます。サブちゃんがさぶちゃんでシャブちゃんです。従ってこのカップリングは凄い事になります。

 シャブを打ちながら賭場で拳銃を使って賭場荒らしに明け暮れ、稲原の賭場に拳銃で脅しをかけますが、これに黙って屈する稲原ではありません。

 「後ろから撃つのは豚野郎だ」と正常位好きをアピールしつつ、モロッコを別室に誘い込んで「撃ってみろ」と度胸を見せる稲原。モロッコは撃てません。

 「まいったな」と狼狽えるモロッコ。彼の中の女心が目覚めて揺れている証です。

 そしてメスになったモロッコは稲原の子分になる事を決意します。井沢を連れて行くのは彼の最高の愛情表現です。

 三国人との乱闘に加勢した時の楽しそうな様。もうこれは実質セックスです。身も心もモロッコは稲原の物になったのです。

 モロッコは稲原組の切り込み隊長として大暴れする一方でどんどん薬が増え、千恵や子分が止めるのも利かずラリラリです。

 そんなモロッコを案じた稲原はモロッコの事務所に乗り込み、薬を踏みつぶしてモロッコの首に腕を絡ませて「二度とポンやったら承知しねえぞ」とホモ臭く言いつけ、熱海で一緒に静養しようと淀川先生ばりに温泉デートに誘います。

 モロッコにとってはシャブ打ってセックスする以上の快感であったでしょうが、モロッコはもう自分の命が長くないのを知っていました。

 稲原への土産と称して稲原の軍門に下っていない最後の大物の石河を身内にするべく石河のもとへ乗り込み、説得に入りますが途中で吐血してしまいます。

 そしてなんとモロッコは切腹して相変わらずBLその物の鋭い眼光の石河にアピールし、力業で石河を身内にして息絶えます。

 モロッコは最後の最後に稲原への愛に殉じて死んでいったのです。

 モロッコの骨は薬のやりすぎでボロボロで、箸で掴めない有様です。稲原は「馬鹿野郎」と嘆きながら骨を手掴みで骨壺に入れるのです。それに続く子分たち。骨まで愛してとはこの事です。

 妊娠していた千恵のその後の話も入るのですが、まあいいでしょう。コンドームはゴミ箱へです。

井沢×田上
 モロッコの無二の兄弟分である井沢は刑務所で牢名主として君臨していました。当然新入りの尻は全部彼の物です。

 そこへ井沢に挨拶もしようとしない生意気な新入りが入ってきました。これには井沢より井沢のアンコ達が吹き上がり、大喧嘩となりますが、井沢はかえってその新入りの田上の根性を気に入り、盃をやって一躍田上は正妻に上り詰めるのです。

 刑務所にイケメン小林繁です。そりゃあ尻が無事で済むはずがありません。福原では「六発仮面」の異名で女の子に恐れられたという性豪もミスタートルコの文太兄ぃの前には六発仮面される側なのです。

 その後も田上はストーリーにほとんど寄与せず井沢の小姓として画面に花を添えます。野球選手に難しい芝居は無理ですからね。


井沢×モロッコ

 この二人は絶対にヤっています。井沢の出所に子分全員引き連れて来るなんてモロッコの愛無くして説明できません。

 攻め受けは悩むところですが、長谷部×森谷の時と同様のシャブ中インポ説と、出所早々の井沢の「早くパツイチやりてえ」という言葉からモロッコ受けとしました。

 その後の出所祝いも芸者総揚げとかすればいい物を、男ばかりなのが全てを物語っています。二人でパツイチやったのです。そこへ生活に窮してやって来た千恵などコンドームに過ぎません。

 飲みながら早速暴れようとハッスルする井沢に稲原を引き合わせ、盃を貰いたいと打ち明けるモロッコ。

 井沢はお互い親分なしで全てを成し遂げてきたのでこの提案に不満です。しかし、モロッコは「俺は俺で勝手にやるぞ」とまで言い切って無理やり稲原と会う事を承知させます。

 そして二人で稲原の子分になり、モロッコが敵を襲撃し、井沢が口説き落として稲原の軍門に下らせる戦術でのし上がります。組一つ傘下にするたびに二人は離れられない仲になっていくのです。

 しかし、モロッコは薬でどんどん弱っていき、最後は石河を身内にするのと引き換えに切腹します。

 すんでのところで駆け付けた井沢の腕の中で息絶えるモロッコ。まるで忠臣蔵の四段目です。

 自分じゃないと申し開きしようとする石河を制して「兄弟らしいやり方だ」と全てを察し、息絶えたモロッコを抱きながら涙を流す井沢。美しい愛です。


稲原×井沢

 実はこのカップルがこの映画の大トロです。もう凄い事になります。

 井沢はモロッコ共々親分を持たない事を身上とする愚連隊であり、モロッコが稲原に引き合せようとしても嫌がります。

 しかし、三国人と稲原の戦いを目の当たりにして心変わりし、盃を自ら申し出るのです。男が男に惚れるとはこういう事です。

 以来モロッコと井沢は稲原の飛車角として立ち回り、会津川襲撃に際しても稲原は井沢はいなかったことにして庇う程になります。井沢は隠れながらビンビンです。

 井沢はその後も横山のジェラシーも厭わずジャンジャン縄張りを拡大してきます。稲原は無理するなと言いますが、その行動原理は稲原への愛なので大事になります。

 井沢の暴走は目に余るようになり、山村と石川が横山にケツかかれて(意味深)稲原を破門にしようとしていると警告を持って行きますが、井沢は「親分が俺を破門にするわけがねえ」とヤンホモぶりを発揮して手に負えなくなります。

 石河が指を詰めてこの場は納めましたが、井沢が稲原から注がれる愛の量を過剰に見積もり、横山の妨害を計算に入れ忘れたのが破局を招きます。

 勝手に他組織と喧嘩をおっぱじめようとする井沢についに稲原が怒り、特に必然性なく海岸でカタギになるよう宣告します。

 「お前を助けるには」「承知できねえならこの場でお前の命取る」と井沢への愛を最後まで隠しきれない稲原。

 井沢は「親父の手で殺されるなら本望だ」とヤンホモを爆発させますが、稲原は涙声で「俺の気持ちが分からねえのか」と井沢を殴り倒します。

 完全にホモの痴話喧嘩です。そして、井沢は稲原の愛の深さを前に結局カタギになります。

 井沢のモデルになった井上喜人はカタギになった後は今でも売っている競馬新聞『勝馬』の発刊に携わって余生を送りました。

 ここに大トロがあります。稲川は子分に競馬新聞は必ず『勝馬』を使うように通達し、勝馬の発行元からは稲川会へ毎年カレンダーが届けられるのが通例だそうです。

 つまり、稲原にとってカタギになっても井沢は愛する人なのです。詳しい話は競馬場で『勝馬』読んでる小指の無いおじさんを探して聞いてみましょう。何が起こっても私は保証できませんが。


稲原×鳥塚

 井沢は東海道のヤクザを片っ端から制圧していき、京浜兄弟会という組を潰してしまいます。

 これに怒ったのが組員の鳥塚で、大胆にも稲原暗殺を狙います。しかし、林が身体を張って阻止し、一世一代の大勝負は失敗に終わります。

 何度でも狙うと言い切った鳥塚は稲原のとりなしで命は助かります。そして稲原は「いつでも来い」と度胸を見せます。この時、親分(有川正治)に身も心も捧げたはずの鳥塚の乙女心が揺れ始めたのです。

 鳥塚は結局稲原を殺すことを諦めて堅気に戻り、嫁さんを貰って横浜でクリーニング屋を開業し、稲原の元へ挨拶に行きます。

 嫁さん曰く、いつも稲原の話ばかりしているそうです。普通の女性なら面白くないはずですが、嫁さんも嬉しそうなあたりこの女は極道の妻の資格十分です。コンドームになりに行けることが第一条件ですから。

 稲原は三度目の財布ごと攻撃で完全に鳥塚を落としました。もう鳥塚は稲原に逆らえません。

 男日照りのタイミングで稲原は鳥塚の店を訪れ、不穏に盛り上がった褌とその先端のシミを見せながら言うのです。「シミ抜きをしてくれ」と。そして余計にシミを付けちゃうのです。


稲原×石河
 松方弘樹と北大路欣也となればトリに持ってくるしかありません。

 石河はモロッコが切腹して身内に引き入れたほどのケツもとい傑物です。果たして石河はわずかな出番でその大物ぶりをアピールします。

 あの名高いモロッコが切腹してまで身内に引き込もうとした稲原に石河も心酔しきっています。でなければ井沢の為に指を詰める事など出来ません。

 横山が龍好を石河に預けるよう口添えしたのも横山が二人の愛を認めた証拠です。

 それに何より稲原が井沢に「石河の指死に指にしたな」と無茶苦茶怒るのが二人の愛を物語っています。

 この二人が本当にヤっている可能性については『暴動島根刑務所』で述べましたが、石河のモデルになった石井が稲川引退後に跡目を取ったのは事実です。最後に勝ったのは幼馴染なのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

『実録外伝 大阪電撃作戦』(★★★★)(正直な松方弘樹)
『県警対組織暴力』(★★★★)(文太×弘樹)
『暴動島根刑務所』(★★★★)(弘樹×欣也)
『日本侠客伝』(★★★★★)(原点)

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