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福祉と援助の備忘録(29) 『依存症で有名な病院に就職活動したけど・・・』


今日は #就活体験記  の記事を書こうと思う。これが『福祉と援助の備忘録』の話に加わってしまう。なぜならしばしば問題になる

依存症者が受診するまでのいばらの道の物語


に見事に関連するからだ。


まずは依存症でもポピュラーな酒の話から


患者も治療を受けたくなければ、医者も患者を診たくない。それが依存症かもしれない。肝臓に影響があるといっても、内科医は依存症には深く関わりたがらないし、精神科医だって普段は依存症ではないべつの疾患を診ていて、依存症は敬遠しがちだ。まったく診ないと公言してしまう人もいる。

まとめると、アルコール多飲は医療の問題であるにも関わらず一般の医者には敬遠され、精神科でも一般の(?)精神科医には敬遠され、依存症を扱う精神科医に押しやられる。

ここまではアルコールの話だ。


覚せい剤は?

それでもかつてよりは依存症を治療する施設へのアクセスは容易になった。その手の施設が多くなったとは言わないが、インターネットや自治体に登録するシステムがあり、どこで治療できるのかを調べやすくなったからだ。主に家族にとってだが、良い話である。

ただ、依存症もいろいろある。それが覚せい剤への依存であった場合は、治療機関探しは数倍難しくなる。依存症を診る医者でも診ないことがあるのが覚せい剤依存である。だから覚せい剤の患者を診る医者は、奇特と言ってもいい。

たしかに覚せい剤使用は犯罪であることを考えると、恐れるというのはわかる。だからといって「俺は診ない」と言うと、診てほしい側は当然困ってしまう。医療者が救う対象を選り好みして良いものか?


いや、耳鼻科医は水虫を診ない。依存症だって専門家が診るべきである、という理屈はないわけでもない。各治療機関にはそれぞれ役割、担当というものがある。覚せい剤依存症を診ない病院は、その代わりによそでは診ない危険な感染症を診てくれているのかもしれない。科を越えた診療を断るのは照応義務には反しないとされている。

ただ、「依存症治療」の看板を掲げている病院がしばしば「うちでは覚せい剤は診ません」と言うのは? アルコール依存症を専門的に診ている、という理屈なのか。よほどアルコールに特化した治療があるというのであれば、それに文句は言えないが

だけど、そんな専門ってあるか?

依存症治療の看板を掲げた病院に就活したがお前もか!

私がとある精神科病院で働くことを検討したときのことを簡単に述べる。依存症治療である程度有名なところであり、動機づけ面接の有名な先生もいた。そこで覚せい剤も含めた依存症の治療がやろう! と思っていた。だが面接の際に「覚せい剤の患者は断ってます」と平然と言われてしまった。


え?


はっきり言おう。薬としてはダウナーとアッパーの違いはあれ、アルコールと覚せい剤の治療に、本質的な違いはない。右目は治せるが左目は治せないなどという眼科医はいまい。神に影響する物質を摂取する問題行動をやめるようにする、ということは同じなのだ。まあアルコールには抗酒剤という薬もあるが、まさかその薬を出すだけで治療ができるということはない。

いや「アルコールを診るだけましじゃないか」それさえも診ない精神科も多いのだから」と思うべきか。だが「依存症治療」の看板を掲げておき「うちでは覚せい剤は診ません」は、かけたはしごをはずすようなものだ。門前払いをされる家族はすっかり気落ちすることであろう。嫌われる依存症の中でも、覚せい剤依存症者がさらに嫌われ迫害を受けるのである。

その迫害に与したくないな、と思った。私は「覚せい剤の患者は断ってます」のひと言でその病院に就職するのやめた。



うちのクリニックも依存症治療をする機関としての登録を考えている。いっそ「アルコール依存の治療」の登録はあえてはずし、他の依存には登録をしようかな、などと考えている。
アルコールの項目にしかマルをつけていない病院と、すべての項目に丸をつけている病院がある中で、アルコールだけはずすというのはかなり目立つ。それが「うちはちゃんと覚せい剤を見ますんで」という半ば抗議の思いも込めたアピールになるのではないかと思うのだ。


Ver 1.0 2023/3/30


福祉と援助の備忘録(28)はこちら。


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