見出し画像

【エッセイ】 万年筆

万年筆の〝味〟について、書いてみたいと思う。

この頃は文章を書くというともっぱらパソコンを使って書くので、〝手を使って〟書くということは滅多に無い。ましてや、万年筆を使って文字を書くなどということは皆無だった。

家の断捨離をしている時に、大量の万年筆のインクが出てきたのをきっかけに、買ったはいいものの全然使わずペンケースの中にしまいっ放しになっていた万年筆を引っ張り出して、縦書きの文章などを書いてみた。手書きということを長い間していなかったので文字が書けなくなっているかと思ったら、案外漢字も調べ直す必要も無く、スラスラ書けて嬉しかった。勿論、薔薇とか難しい漢字の代表格は、ネットで調べないと書けないけれど……。

こうして思いつくまま、自由に色々書いていると、何だか楽しくなってきた。そして、横書きよりも縦書きの方が、万年筆の場合は何だか水が流れるように、自然な重力に従って字が書けるような気がした。これは何気に面白い発見だ。

万年筆って、いいな。

というわけで、ここ数日は小さく切った紙に何枚も駄文を書き連ねて遊んでいる。


浄化の方法のひとつに、「ジャーナリング」というものがあるそうだ。

頭に浮かんだことをそのまま紙に書き出すというもので、「書く瞑想」とも言うらしい。これをすることでストレスが軽減し、直感が冴えてくるのだとか。

これは昨日たまたまインスタで見かけた情報なのだが、最近、私は知らず知らずの内にこれをやっていた。勿論、万年筆きっかけで。

令和の生活の中では、文章を書くというとスマホやパソコンでフリック&タップやキーを叩くといった動作が主流となっている。私もたまにする手書きの作業といえば、スケジュール帳にシャープペンシルで予定やその日にあったことを日記的に書き込むぐらいだ。

だからわざわざ万年筆を使って黒のインクで縦書きの文字をつづるなんて、最後にそれをしたのはいつだったか思い出せないくらい、久しぶりのことだった。

ここ数日遊びながら使ってみて、私は手書きの良さ、万年筆というこの古典的な筆記具の魅力に目覚めつつある。

万年筆が紙の上を走る感触は滑らかでとても心地いい。鉛筆やシャープペンシルの、紙をこするように多少ひっかかる感じも好きだが、このスルスルと滑るような感覚は文字を書くことにおけるストレスを減らしてくれるようにさえ思われる。

どこか静かな温泉地に居心地のいい宿を取って腰を落ち着け、四百字詰め原稿用紙を持ち込んで万年筆で文字を綴れば、何かいい小説が書けそうな気がしてくるくらいだ。こういった環境の変化や手元の物理的刺激の変化は、いつもと違う発想を与えてくれそうな予感がする(希望的観測(笑))。

あと、書いた〝跡〟の様子がいい。
これは「縦書き黒インク」の成せるマジックなのかもしれないが、万年筆を使って書いた文章のビジュアルには、何か風情があるような気がする。
私は自分でも悲しくなるほど字がヘタなのだが、こんな私の文字でも万年筆で書くと何とは言えないにしてもそれなりの〝味〟が出るように思える。これもまた、「縦書き黒インク」による視覚的錯覚に過ぎないのだろうけれど、いつもなら嫌悪しか覚えない自分の文字が、コロンとした丸い愛嬌を帯びているように見えたりする。

普段愛せないものを愛せるようになるなんて、嬉しい変化と言えはしまいか。

更に、万年筆で書かれた縦書きの文章は、山の上から滝壺に向かって滝が流れ落ちるように、綺麗な流れを形成しているように見える。

触覚・視覚をこれまでと違った形で刺激してくれる魅惑の筆記具。

万年筆を、これからはより頻繁に使っていこうと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?