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湊かなえ先生の『未来』で見える子供の貧困問題と大人の無知|伝えられない現実が闇の深さを濃くする

伝えられないって苦しいことです。
その苦しさが現実にどう跳ね返っていくのか、それを想像させてくれる。

『告白』から十年以上を経て、またも名作現るという感じの読後に「うぅむ」と子供の貧困と喘ぐ辛苦の現実に唸りました。

※感想とレビューを記載しますが、記事の特性上ネタバレを含む場合がありますので既読のもとでお読み頂けると幸いです。

お金のない大学生の末路

作中に登場するある方の過去。
その過去に登場した「お金のない大学生」という過去。

小説内では単にお金がないでは済まされないエピソードとして登場人物と同じように「何だそれ!」と叫びそうになる展開が用意されていました。

その理不尽な感情を吐き出す部分は別として現実問題として「お金がない状態で大学に通っている」という学生は多い。
登場人物は両親がいなくなり、祖母に育てられ、祖母が喜ぶように将来の職にありつこうと努力している女性。しかし当然ながら祖母だけの実入りでは贅沢も出来ない、貧困層に差し掛かる直前の状況にある。

そんな状況下で祖母が死に、相続問題で現れる自分を捨てた母親。その母親に祖母が渡してくれた学費を全て奪われて足りない分をどうにか工面する必要が出てくる。

この時に甘い囁きに乗ってしまう形で「身体を見せる仕事」を行ってしまった。現実問題としてこういった状況は十分にある。

以前にもこういった記事を書いたが、苦しいところに現れる搾取する側の人間というのがどこの世界にも現れるもの。
これは小説に限らず本当に、現実のものとして存在している。

僅かな金にたかるように現れて全てを啄んでいくものもいる。減るものじゃないと身体を要求して金銭の代わりとする存在も現れる。

じゃあこの状況、もし小説の人物と同じように「金が用意できないと大学を辞めることになる。もし辞めてしまったら祖母も願っていた夢も叶えられない」とすればどうするか。

そこに舞い降りた一筋の蜘蛛の糸に思える細い希望。それにしがみつかないと意志強くいられる人間がどれほどいるだろうか。

苦しむ子供の声は聞こえない

『未来』の軸にあるのは少年少女、子どもたちの貧困問題がある。

そしてその声はとても小さい。
両親が何とかしようと相談する段階にあるのは「子どもたちの貧困問題」とは言わないだろう。それは親の貧困問題、要するに大人の問題。

ここでは貧困問題が更に深部に進んで「子供が貧困問題に喘ぐ」という状況に至っているものを指している。
作中ではその事も明るい様子の少年少女の様子が見えていて何となく靄をかけながら進行してくれている。だからこそ「子どもたちが何を思っているのか」を想像しやすい。

「親に本当のことが言えるか」
「先生の本当のことが言えるか」
「友達に本当のことが言えるか」

言えません。
大人になると子供のときの感覚を忘れてしまいがち。

「何かあれば言うだろう」
「本当に苦しめばサインを送るはず」

いじめの問題にも通じる部分ですが、残念ながら子供は子供なりに周囲を伺って生きています。もし子供にも貧しいことが伝わっているのなら「こんなこと言うとお母さん困るよな」とか「先生に言ってもお金が増えるわけじゃないし、困惑させるだけ」とか勿論難しい言葉で脳内を巡っている訳ではありませんが「言わない理由」はしっかり持っています。

もし子どもたちが何かを送ってきたのなら、それは「緊急のサイン」と受け取ってもいいレベルのものだと解釈してもいいのではないかと『未来』を読むと感じるところです。

子どもたちは言うかどうかを悩み抜き、迷い抜いた上で、ギリギリの極限でようやく「お母さんがちょっと元気無くて」と半笑いで伝えてくる。そう思っていれば僅かなサインも本当の奥底に何かが隠れているのかもしれません。

子供なりに出来る限り軽い感じで相手が重く受け取り過ぎないような気遣いで半笑いになった可能性を考える。これが大人に出来る大切なことだと思います。

子供の声は思ったよりも小さい。
そしてその声を届けようと最後の勇気を振り絞って語った相手が「あなた」なのかもしれないと今日からほんの僅かに認識してみるのも一つではないでしょうか。

本棚に置く意味

人は小説も実用書も読んでしまえば棚にしまいます。そしてその棚を見返すことって少ないのかもしれません。

でも少しだけ、本の背表紙だけを見たときに「ああそうだった」と子供の声の小ささに気付く。

それもまた本棚の持つ意味なのかもしれないと感じました。
湊かなえ先生の新たなステージと言える『未来』は意味も深く考えさせられる部分も多い作品となっています。

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人間の多面性を色濃く描いた作品。誰もが嘘をつくし欺瞞のもとに生きている。そんなリアルを守護霊という立場の出現で「覗けないはずの人間の中身を覗く」行為を愉しんで頂くものに仕上げています。

最後に怒涛の勢いで伏線を回収していきますので、そういった小説が好きな方は是非一読頂けると嬉しいです。

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最後まで読んで頂きありがとうございました。

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