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出来上がったコミュニティ

ここ2年ほど、正確には大学院に入学してから友達がほぼ増えていない。
私は地方の国公立から都内の国立大学の大学院へ進学したのだが、まず同期が恐ろしく愛想のない女子一人しかいなかった。
外部入学で右も左もわからない私はその子にカリキュラムについてのラインをしたのだが、返信が来たのは五日後だった。普通、初対面でこれから仲良くしてこうという人間のライン、しかも重要な内容のものを五日も放置するだろうか。そこでこいつとはやっていけないかもしれないと思った。
だがそんな思いも杞憂で、コロナ真っ只中の大学院の講義はほぼオンラインだった。
同学年の知り合いやゼミの先輩の知り合いもできるはずだったが、オンラインではそれも叶わず、私の大学院生活はただ一人で文献と睨めっこし、一人で課題をこなすだけの日々であった。
ゼミの先生も身体を壊したり、研究室を使っているのもほぼ私だけだっただったりしたので、ずっと一人だった。
しかも外部入学の悪いところは、まずほぼ内部進学なのでカリキュラムや大学の説明がほぼ全くないことと、既に人間関係が出来上がっており、わざわざ外部の私と関わろうとしないところにある。
図書館の説明とか、その他の設備の使い方とか、カリキュラムの詳細とか、私はわざわざ職員に聞き回って覚えていったのだ。ゼミの先生もその辺は疎かったし、同期はクソだったし、頼れる人間はいなかった。当然、友達なんかできなかった。
(一年後に入ってきた後輩も一人で、恐ろしく無口で愛想がなかった)

バイト先でもだいたい同じである。私が働いている書店は、仕事は仕事、プライベートはプライベートという境界線がはっきりしている職場で、特に大学生バイトはそれが顕著だった。
しかも書店って結構忙しくて話している暇もない。
そんな中でも忙しい合間を縫って話をしたりしていたのだが、やはり彼らには彼らそれぞれのコミュニティが既にあった。サークルとかゼミとかの人間関係を彼らは既に築いていたのだ。
沖縄から一人出てきた男がそこに入り込む余地もなく、かといってサークルをする時間も暇もなく、ただバイト中に話をするその場しのぎの間柄になっただけである。シフトが被らなければ多分一生話さないし、辞めたらそれまでの関係だ。バイト帰りにご飯に行ったりもしたことはあったのだが、辞めたらもう会わなくなった。他の仲間はそもそも彼氏がいたりとかして誘えない。
以上のことに気づいた時、なんていうか、ものすごく孤独だなと感じた。
面白いことがあっても、面白い漫画を観ても、ただ自分が楽しんでいるだけで、それを誰にも共有できないというのは、結構キツいものだ。
それで結局、都内にいる高校時代の友達とか、沖縄から来た大学の友人とかと遊ぶようになった。
すごく楽しいし、孤独はあまり感じなくなった。
だが同時に、「ああこれって、結局あいつらと一緒だな」と思ったりもした。
出来上がった人間関係というのは、とても楽で、居心地が良くて、楽しい。
共通の申し合わせが暗に存在し、その中にいる限り無条件に肯定されるコミュニティは安心できる。男女がいれば、カップルができるかもしれない。
でも、そのようなコミュニティというのは、とても排他的だ。そこに入り込む余地が、部外者にはない。
その狭いコミュニティの中で、みんな友達とか恋人を作り、安息して生きていくのだろうか。コロナのせいもあっただろうが、私が声をかけても、手を伸ばしても、みんなそこから出てきてくれないのだ。
多分、私にそこから出るまでの価値がないのだろう。私はずっとただの「部外者」であって、みんなの人生ではすれ違うだけの他人なのだ。そう思うと、たまらなく寂しく、悲しくなった。
友人の作り方を、私はもう忘れてしまったらしい。


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