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比較・地方自治:海外諸国の地方分権制度に関する情報まとめ

はじめに.

本記事は、私が知り得た、地方分権に関する海外の制度をまとめた記事になります。

内容としては、主に、立法権の所在が、連邦と州のいずれに属するかという観点でまとめております。

地方自治や地方分権を学ぶ、様々な方々の参考になれば幸いです。


1.アメリカ合衆国

まず、アメリカ合衆国は、最も地方分権が行われている国だと言われております。

その証拠に、各州毎に、州憲法もあり、州議会も二院制であり、州軍と呼ばれる州の軍隊を持っており、まるで、一個の小国かと思えるほど、州政府は圧倒的な自治権を握っています。

ですが、個々の州内においては、州内の地方自治体は、州から付与された権限と自治権を有すると州憲法に規定されており、州と地方自治体との関係性は、単一国家モデル(下図)であるとのことです。


各州への分権の根拠条文は、以下のアメリカ合衆国憲法修正第10条になります。

アメリカ合衆国憲法 修正第10条
本憲法によって合衆国に委任されず、また州に対して禁止されなかった権限は、それぞれの州又は人民に留保される。

また、アメリカ合衆国憲法第一条 第八節において、明示的に、連邦政府の権限がまとめられております。

解りやすい図を下に載せておきます。

アメリカの州・地方政府の概要

つまり、上図で示された立法範囲以外は、全て州政府の立法範囲下にあるという事です。

本記事には、他の数か国の状況もまとめておりますが、アメリカ合衆国の各州は、他の諸外国の州と比べ、圧倒的に権限を握っているという事が、お解りになると思います。


2.イギリス連邦

まず、イギリスには成文憲法がありません。

国会主義という基本原則の下、議会がどんな事でも決定できるとされており、各国の憲法に該当する規定は、各法案によって、代用されております。

また、イギリスにおいては、権限移譲という大規模な地方分権改革が1998年に行われ、・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの3つの地方は、独自の議会を持ち、ある程度独自の法を持てる事が保障されております。

その根拠法案は、それぞれ、ウェールズ政府法(2006年制定)スコットランド法(1998年制定)北アイルランド法(1998年制定)です。


各地方政府の管轄する立法範囲については、以下の通りとなります。

イギリスにおける権限委譲


3.スイス連邦

スイスの連邦制の原型は、13世紀には出来上がっておりました。

それから時は流れ、18世紀に起きたナポレオンの台頭がきっかけとなり、スイスは完全なる連邦国家となります。

つまり、スイスは、連邦国家としての歴史が非常に長いという事です。


そして、地方自治の根拠条文は、以下のスイス連邦憲法 第三条になります。

スイス連邦憲法 第三条
州は、連邦憲法によって主権が制限されていな連邦に委ねられていない限りにおいて主権を有し、連邦に委ねられていないすべての権限を行使する。

ですが、アメリカのように、ハッキリとした形で、連邦政府の権限が示されている訳では無いようです。

また、連邦と州の立法範囲が競業する範囲もあり、以下の連邦政府の立法範囲を見る限り、実質的には日本と変わらず、そこまで州が実権を持っていないという事がお解りになると思います。

(1)立法権の配分
ア 連邦に立法権が専属する分野

・関税
・鉄道、ロープウェイ、船舶航行、航空、宇宙飛行
・高速道路の整備
・郵便、電話、電報、ラジオ、テレビなどのコミュニケーション分野
・金融および通貨
・蒸留酒の製造、輸入、精糖、専売
・賭博
・臓器移植
・刑法にかかる法律制定
・度量衡
・火薬規制
・国防
・民間防衛(執行は州に委任される)
・外交
・非常時における食料供給
・行政訴訟手続き

イ 連邦と州の立法権が競合しているが、連邦が全般にわたって立法する分野
・度量衡
・私法(民法、商法など)
・借金や破産の訴追
・知的所有権
・刑法
・労働法
・社会保障
・原子力エネルギー
・動物保護
・水質汚染防止
・疫病予防の一部
・農業の保護
・経済や文化的観点からの映画に関する規則
・州間の犯罪者の引渡し

ウ 連邦と州の立法権が競合しているが、連邦は原則だけを定める分野
・水力資源
・森林保護と資源活用
・漁業および狩猟
・大規模な公共工事
・都市計画及び地域開発
・経済的自由及び秩序

エ 連邦と州の立法権が並立する分野
・税の徴収
・大学の設置(公教育は州の権限で、一般に大学は州が設立する。しかしながら、連邦も連邦工科大学や高等教育機関を設立できる権限をもつ。)
・環境保全 ・国道整備(道路に関する権限は基本的に州に属するが、高速道路の計画は連邦の権限であり、連邦は補助金を州に交付し工事進捗を管理する。)
・州の組織 オ 基本的には州が立法権を持つ分野
・市町村の組織
・民事訴訟や刑事訴訟の手続き
・公衆衛生や病院
・老人および児童福祉施設
・公的扶助、老人
・孤児
・障害者手当て
・埋葬
・公教育
・公共事業
・消防
・警察
・建築物規制および歴史的建造物保存
・宗教および教会
・自然景観保全


4.ドイツ連邦共和国

歴史的に見ても、鉄血宰相ビスマルクが、プロセインを中心に、周辺諸国を束ね、1871年にドイツ帝国を作ったという経緯がありますので、おそらく連邦制が根付いているだろうと予想できると思います。

ですが、その一方で、二度の世界大戦を引き起こした国であり、その影響もあってか、一度は中央集権制寄りの体制となってしまいました。

しかし、ドイツは、第二次世界大戦の反省から、二度とヒトラーのような独裁者を誕生させないため、直接民主主義的な制度を出来る限り撤廃し、大統領の権限を大幅に縮小し、首相の権限を強化するなど、より民主的な体制へと転換を図るような改革が成されています。

ですので、アメリカと同様に、各州は、独自の州憲法を持ち、憲法(ドイツ基本法)上でも、連邦政府が持たない管轄分野については、州が立法権を持つとされている等、欧州の中では、一番地方分権が進んでいる国と考えられる事もあります。


しかし、ドイツ基本法(憲法) を見ると、基本的には、州だけが管轄する立法範囲は狭く、連邦政府の立法範囲の方が広いという印象を受けます。

ドイツは社会保障も充実しているため、社会福祉国家としての役割を担うため、連邦政府の管轄が広くなっていると考えられます。


地方自治の根拠条文は、ドイツ基本法(憲法) 第30条です。

第30条 [連邦と諸ラントの権限配分]
国家の権限の行使および国家の任務の遂行は、この基本法が別段の定めをせず、または認めない限り、諸ラントの事務である。

国と州の立法権範囲については、以下の通りになります。

1.3.1 専属的立法権
専属的立法権については、基本法第71条、第73条及び第105条第1項において、連邦が所管した方が明らかに合理的と考えられる次の分野に関し定められており、基本的に連邦だけに立法権が認められ、州は連邦法によって明示的に授権された場合のみ立法権を行使できることとなっている。
1 外交、防衛及び民間人保護
2 連邦における国籍
3 人の移動の自由、旅券制度、移住及び犯罪人引渡し
4 通貨、紙幣・硬貨制度、度量衡及び標準時制
5 関税分野及び通商分野での統一、通商・海運条約、商品流通の自由、外国との商品及び支払手段の流通、税関・国境警備
6 航空交通
7 全て又は半分以上が連邦の所有になっている鉄道(連邦鉄道)の交通、連邦鉄道の鉄路の建設、維持及び運営、これらの鉄路の利用に対する対価の徴収
8 郵便制度及び電気通信
9 連邦及び連邦公法人に勤務する者の権利関係
10 営業上の権利保護、著作権及び出版権
11 次の事項に関する連邦と州との協力
a 刑事警察
b 自由で民主的な基本秩序、連邦又は州の存立及び安全の擁護(憲法擁護) c 暴力又は暴力を目的とする準備行為によって、ドイツ連邦共和国の対外的利益を危殆に瀕さしめる連邦領域内における活動に対する防護
d 連邦刑事警察庁の設置及び国際的な犯罪対策
12 連邦目的のための統計
13 関税及び専売制度

1.3.2 競合的立法権
競合的立法権については、基本法第72条、第74条、第74a条及び第105条第2項において次の分野に関して定められ、連邦が立法権を行使しない場合には州が立法権を行使できることとなっている(基本法第72条第1項)。 連邦が競合的立法権を行使できるのは、連邦領域内の均質な生活環境を創出するため、または国家全体の利益に関わる法的・経済的統一を保持するために連邦法制が必要とされる場合であってその限りにおいてである(同条第2項)が、実際には、先に述べた理由で広範囲にわたって連邦が立法権を行使している。但し連邦法において、そのような必要性がもはや存在しない場合には州法をもって代えることができる旨を規定することができる(同条第3項)。
1 民法、刑法及び刑の執行、裁判所の組織、裁判手続、弁護士制度、公証人制度及び法律相談
2 出生、死亡及び婚姻の登録
3 結社及び集会に関する法律
4 外国人の滞在及び居住に関する法律
5 武器及び爆発物に関する法律
6 難民及び国外追放者に関する事項
7 公的社会扶助
8 戦争損害及び補償
9 戦傷者及び戦争遺族の援護、従前の戦争捕虜の生活支援
10 戦没者の墓地、戦争又は圧制のその他の犠牲者の墓地
11 経済関係法規(鉱業、工業、エネルギー産業、手工業、貿易、商業、銀行及び証券取引制度、私法上の保険制度)
12 平和目的のための原子力エネルギーの生産及び利用、この目的に資する施設の建設及び運営、原子力エネルギーの発生又は電離放射線によって生じる危険に対する防護、放射性物質の処理
13 労働関係法規、企業経営組織、職業安全及び職業紹介、社会保険及び失業保険
14 職業教育補助に関する規定及び学術研究の助成
15 基本法第73条〔専属的立法権〕及び第74条〔競合的立法権〕の所管分野に関係を有する場合における公用収用に関する法律
16 土地、天然資源及び生産手段を、公有又はその他の公企業体の形態に移すこと
17 経済的に優越な地位の濫用の防止
18 農林産物生産の促進、食品安全、農林産物の輸出入、遠洋・沿岸漁業、沿岸保護
19 不動産取引、不動産関係法規(開発分担金法を除く)、農地賃貸借制度、住宅制度、定住制度及び家産制度
20 公衆の危険があり、かつ伝染する人間及び家畜の病気に対する措置、医師及びその他の医療業及び医療補助業に対する許可、医薬品、麻酔剤及び毒薬の取引
21 病院経営の確保及び診療報酬の規定
22 食料品、嗜好品、生活必需品、飼料及び農林業用種苗の流通の安全、植物の病害虫に対する保護並びに動物保護
23 遠洋・沿岸海運及び航路標識、内航海運、気象通報サービス、海洋航路、一般交通に供する内陸水路
24 道路交通、自動車交通制度、遠距離交通に供する高速道路の建設及び維持、自動車による公道の利用に対する料金の徴収及び配分
25 山岳鉄道を除く、連邦鉄道以外の鉄路
26 塵芥処理、空気の清浄維持及び騒音の防止
27 国家〔賠償〕責任
28 人間に施される人工授精、遺伝情報の研究及び人為的改変、器官及び組織の移植のための規定
29 基本法第73条第8号2によって連邦が専属的立法権を有していない場合において、公法上の職務関係及び職務忠実義務関係にある公務員の俸給及び年金その他の給付
30 関税又は専売以外の租税であって、税収の全部又は一部が連邦に帰属する場合

1.3.3 大綱立法権
連邦の大綱立法権については基本法第75条において次の分野について定められており、連邦の定める大綱に基づいて州は詳細を定めることとなっている。
1 基本法第74a条3に特別の定めのある場合を除いて、州、市町村及びその他の公法人の公務員の権利関係
2 大学制度の一般原則
3 報道の一般的法律関係
4 狩猟制度、自然保護及び景観保護
5 土地利用区分、国土計画及び水資源管理
6 届出制度及び証明制度
7 ドイツの文化財の国外流出に対する保護


5.フランス共和国

歴史上、"フランスは、万年戦争を行ってきた"と言っても過言ではありません。

ですので、国籍取得に関する制度を例として、軍事力増強に特化した国作りが長期に渡って行われてきたため、基本的には、中央集権制です。

ただ、その一方で、2003年に行われた憲法改正では、憲法第一条に地方分権の明記がされるなど、地方分権に向けた試みは行われております。

以下に、フランス共和国憲法 第1条と第72条の日本語訳を載せておきます。

しかし、第72条の条文をよく見ると、"法律で定められた条件の下で"というニュアンスの言葉が多数出てきます。

つまり、地方分権の状況については、あまり日本と変わらない事が、お解りになると思います。

※筆者は、フランス語が解りませんので、日本語訳はGoogle Translatorの原文をそのまま載せております。

フランス共和国憲法 第1条
フランスは不可分の、世俗的で民主的かつ社会的な共和国です。これは、出身、人種、宗教の区別なく、すべての国民の法の下での平等を保証します。彼女はあらゆる信念を尊重します。その組織は分散化されています。

この法律は、女性と男性が選挙の任務や選挙の任務、さらには職業的および社会的責任に平等にアクセスできることを促進しています。

フランス共和国憲法 第72条
共和国の領土的集団は、コミューン、県、地域、特別な地位を有する集団、および第 74 条に規定される海外の集団です。その他の領土的集団は、該当する場合、この段落で言及されている 1 つまたは複数の集団の代わりに法律によって創設されます。
地方自治体は、そのレベルで最もよく実行できるすべての権限について決定を下すことが求められています。
これらのコミュニティは、法律で定められた条件の下で、選出された評議会を通じて自由に運営され、その権限の行使に対する規制権限を持っています。
組織法で定められた条件の下で、また公共の自由または憲法で保障された権利の行使に不可欠な条件が疑問視されている場合を除き、地方自治体またはその団体は、場合に応じて法律または規制が定めている場合には、試験的に、限られた目的および期間に限り、その権限の行使を規定する立法または規制の規定を逸脱することができる。
いかなる地方自治体も他の地方自治体を監督することはできません。ただし、権限の行使に複数の地方自治体の協力が必要な場合、法律はそのうちの 1 つまたはそのグループの 1 つに共通の行動方法を組織する権限を与えることができます。
共和国の領土集団では、国家の代表者、政府の各メンバーの代表者が国益、行政管理、法律の尊重に責任を負います。

フランス共和国憲法 第72条1項
法律は、各地域コミュニティの選挙人が請願権を行使することにより、その権限の範囲内にある問題をこのコミュニティの審議議会の議題に含めることを要求できる条件を定めています。
組織的法によって定められた条件の下で、領域集団の権限の範囲内にある審議または行為のプロジェクトは、その主導により、国民投票によってこの集団の有権者の決定に付されることができる。
特別な地位を有する地域共同体を設立したり、その組織を変更したりすることが計画されている場合、当該共同体に登録されている有権者と協議することが法律で決定される場合があります。地域集団の制限を変更する場合には、法律で定められた条件の下で有権者との協議が必要になる場合もあります。

フランス共和国憲法 第72条2項
地方自治体は、法律で定められた条件の下で自由に処分できる資源の恩恵を受けています。
彼らはあらゆる種類の課税収入の全部または一部を受け取ることができます。法律は、法律が定めた制限内でベースとレートを固定することを許可する場合があります。
地方自治体の税収およびその他の独自の資源は、地方自治体の各カテゴリーにおいて、そのすべての資源の決定的な部分を表します。組織法は、この規則が実施される条件を確立します。
国と地方自治体との間で権限が移譲される場合には、その行使に充てられる資源と同等の資源の配分が伴う。地方自治体の支出増加をもたらす能力の創出または拡張には、法律で定められたリソースが伴います。
この法律は、地方自治体間の平等を促進することを目的とした均等化制度を規定しています。

フランス共和国憲法 第 72 条の 3
共和国は、自由、平等、友愛という共通の理想をフランス国民と海外住民の中に認めている。
グアドループ、ガイアナ、マルティニーク、レユニオン、マヨット、サン・バルテルミー、サン・マルタン、サン・ピエール・エ・ミクロン、ウォリス・フツナ諸島、フランス領ポリネシアは、海外の県および地域、および第73条の最後の段落に従って設立された領土共同体については第73条が適用され、その他の共同体については第74条が適用される。
ニューカレドニアの地位はタイトル XIII によって規定されます。
この法律は、フランス南部および南極地域およびクリッパートンの立法体制と具体的な組織を決定します。

フランス共和国憲法 第 72 条の 4
第 72 条の 3 の第 2 段落に規定する権限の全部または一部について、第 73 条および第 74 条に規定する一方のシステムから他方のシステムへの変更は、次段落に規定する条件の下で事前に当該権限または当該権限の一部の有権者の同意を得ずに行うことはできない。この政権交代は有機的な法則によって決定される。
共和国大統領は、会期中の政府の提案、または官報に掲載された両議会の共同提案に基づいて、その組織、その権限、または立法制度に関する問題について海外にある領土共同体の有権者と協議することを決定することができる。協議が前項に規定する変更に関連し、政府からの提案に基づいて組織される場合、政府は各議会の前に宣言を行い、その後議論が行われます。


6.イタリア共和国

イタリアでは、1948年に新憲法が制定されました。

ですから、ファシズム体制からの転換を図る意味で、単一国家モデルと連邦制の中間にあたるスペイン憲法に範をとる"リージョン・モデル"を取り入れたとのことです。


分権の根拠条文は、イタリア共和国憲法第117条であり、国と州が、それぞれの立法権を持つ事が、明示的に示されています。

イタリア共和国憲法第117条
国および州は,憲法,欧州連盟規則に従う拘束要因および国際条約に基づく義務を遵守した上,立法権を行使する。

また、当該177条には、国の立法権適用範囲についても、以下のように、明示的に示されています。

ただ、国の立法権範囲が及ぶ内容について見てみると、実質的には、今の日本における、国と地方自治体の業務分担と大差無い事が解りますので、あまり、地方分権は進んでいないと言えると思います。

国の独占的立法権限は,以下の事項に関するものである:
a) 外交,国と欧州連盟との国際関係,庇護権,欧州連合に帰属しない国の国民の法的立場
b) 移民問題
c) 共和国と宗教信仰の問題
d) 国防,軍隊,国の安全保障,兵器・軍需品・爆薬
e)貨幣,貯蓄および金融市場保護、競争保護、通貨制度、税制および国家会計、公的財政均衡、財政資源平準化
f) 国家組織および関連選挙法;国の国民投票;欧州議会選挙;
g) 国および全国公共団体の制度および行政組織;
h) 公共秩序および安全保障,但し,地方行政警察は例外とする;
i) 国籍,戸籍上の身分,戸籍簿;
l) 司法権および各訴訟手続き;民事および刑事制度;行政裁判;
m) 国土全体で保障されるべき,市民権および社会権に関わる給付の基本的水準の決定;
n) 教育一般規則;
o) 社会保障
p) 市,県,大都市に関わる選挙法,統治組織,基本的権能;
q) 税関,国境防備,国際的予防措置;
r) 質量,長さ,時間定義;国,州,地方行政データの統計および情報処理調整;優れた創造産物;
s) 環境,生態系,文化財保護。

国と州が共同で権限を持つ分野は:
州の国際関係および欧州連合との関係;対外貿易;労働の保護,安全保障;学校自治を保障したうえでの職業教育および訓練を除く教育;職業;科学技術研究,産業界における革新化支援;健康保護;食糧;スポーツ制度;市民防災;地域領域の統治;民間港湾,空港;大規模輸送網,航行網;通信制度;エネルギー生産,全国への送配;補完的および補充的社会保障;公共財政均衡および税務制度調整;文化財および環境財の評価,文化活動の促進および組織;貯蓄銀行,農業金融機関,地域的特色を持つ金融機関;地域的特色を持つ不動産および農業信用金庫。国と州が共同権限を持つ分野においては,州に立法権が認められる。但し,基本原則の定義は,国に独占的立法権が留保される。


7.スペイン王国

スペインにおいては、1936年から1978年まで、独裁政権が国を統治していたので、1978年の民主化運動をきっかけに、スペイン1978年憲法が制定されました。

それ故、比較的近代に憲法が制定されたことに加え、スペインでは、代々、色々な民族が入り混じって、国家が形成されてきたことから、"自治州国家モデル"という独自のモデルを取り入れているようです。

ですから、一個の州に一個の憲法(自治憲章)を持つ、仕組みを取り入れているようです。

その点においては、アメリカと類似していると言えます。


憲法において、州やそれ以下の地方自治体に対する明示は無いですが、国の権限については、国の専管事項がスペイン憲法 憲法第149条第1項において列挙されております。

また、同項において列挙されていない事項で、自治州が自治憲章に列挙していない権限は国の権限であることが同条第3項により規定されているようです。

ですが、内容を良く見てみますと、"自治州に属する権限は、これを妨げない"という言葉が、度々登場し、現代に成立した憲法であるためか、自治に重きを置いている事が良く解ります。

以下が、当該第149条の内容をとなります。

スペイン憲法第149条
1.国は、次に掲げる事項について、専管的な権限を有する。
一 憲法上の権利の行使及び義務の履行に際して、すべてのスペイン人の平等を保証する。
ニ 国籍、入国移住、出国移住、在留外国人及び亡命庇護。
三 国際関係。
四 防衛及び軍隊。
五 司法。
六 商法、刑法、監獄法及び訴訟法の制定ただし、訴訟法については、自治州の実体法の特殊性からくる、必要な特別規定の制定を妨げない。
七 労働法の制定。ただし、自治州の機関によるその執行を妨げない。
八 民法の制定。ただし、州の民法すなわち地方特別法が存するときは、その存続、改正及び規則制定を妨げない。すべての場合における、法規範の適用及び効力に関する規定。婚姻の形式、公的登録及び公的文書の保持、契約債務の基礎、法的紛争の解決のための規範並びに法源の決定については、地方特別法の規範を尊重する。
九 知的所有権及び工業所有権に関する立法
十 税関及び関税制度、外国貿易。
十一 貨幣制度。外貨、為替及び兌換性。信用、銀行及び保険制度の基礎。
十二 度量衡及び標準時の決定に関する立法。
十三 経済活動の一般計画の基礎及び調整。
十四 一般財政及び国債。
十五 科学技術研究の促進及び一般的調整。
十六 検疫。保健の基礎及び一般的調整
十七 社会保障に関する基本的立法及び財政制度。ただし自治州によるその役務の執行を妨げない。
十八 すべての場合に、住民に対し平等な取扱いを保証するための、公行政の法的制度及び公務員の紀律の基礎。共通の行政手統。ただし、自治州固有の組織による、特別の取扱いを妨げない。強制収用に関する立法。行政契約及び許認可に関する基本的立法及び公行政の全体にわたる責任制度。
十九 海洋漁業。ただし、この分野の規制について自治州に付与された権限を妨げない。
二〇 商船隊及び船籍の登録。灯台及び海上信号。一般港湾、一般空港。空域管制、航空交通、航空運輸、気象観測及び航空機の登録。
二一 一の自治州を超える地域にわたる鉄道及び陸上運輸。一般通信制度。自動車交通。郵便事業及び電信、電話。電線、海底ケーブル及びラジオ通信。
二二 一の自治州を超えて流れる川の水力資源及び水力利用に関する立法、規制及び許認可並びに水力利用が他の州に影響を及ぼし、又は電力輸送が州域を超える場合の、水力発電所設置の承認
二三 環境の保護に関する基本的立法。ただし、環境保護のため、自治州が追加的立法措置をとる権限を妨げない。森林地、林業及び牧畜用道路に関する基本的立法。
二四 全体の利益に関わる、又はその実施がーの自治州を超えて影響を及ぼす公共事業。
二五 鉱業及びエネルギー体制の基礎。
二六 武器及び爆発物の製造、販売、保持並びに使用に関する制度。
二七 新聞、ラジオ及びテレビ並びに社会的伝達手段のすべての制度に関する基本的規範ただし、その発展及び実施に関し、自治州に属する権限は、これを妨げない。
ニ八 輸出及び略奪から、スペインの文化的、芸術的財産及び国家的記念建造物を保護すること。国立の博物館、図書館及び公文書館。ただし、自治州による管理を妨げない。
二九 公共の安全。ただし、組織法の定める範囲内で、各自治憲章の定めるところに従い、自治州によって警察を創設することを妨げない。
三〇 学位及び専門的資格の取得、発効及び認可の条件の規制並びに憲法第27条で定める事項の具体化につき、公権力の義務の履行を保証するための基本的規範。
三一 国家目的のための統計。
三二 国民投票の実施により、民意を間うことの承認。
2.略
3.本憲法により、明示的に国に権限が付与されていない事項は、自治憲章により、自治州がこれを行うことができる。自治憲章により権限が付与されていない事項は、国の権限に属し、紛争が生じたときは、自治州に専管的権限が認められていない事項に関しては、すべて国の規範が自治州の規範に優先する。国法は、すべての場合に、自治州の法を補充する。


まとめ.

以上の事を踏まえると、比較的地方分権が進んでいる国の憲法においては、"州も立法権を持つ"という趣旨の条文があり、州の立法権について、憲法上でハッキリと明文化されている事が挙げられると思います。

また、国と州の立法権の管轄を憲法で明文化し、ハッキリ棲み分けを行っている国も多数あります。

しかし、個人的には、国と州の立法権の管轄を憲法で明文化してしまう事には反対です。

やはり、今後、より効率的な行政を実施する上で、各行政事務一個一個を取り上げても、国から末端の地方自治体(市区町村)まで、横断的に協力体制が必須となると考えているためです。

例えば、マイナンバーカード関連の行政事務は、それに該当するでしょう。

さらに、国の立法範囲における管轄が多すぎれば、逆に、今よりも、地方の活動を制限する事にも繋がってしまい、管轄範囲を修正する際には、いちいち憲法改正を行う必要が生じてしまい、費用面で見ても、かなりの損失に繋がるでしょう。


最後に、日本の憲法上の地方自治体の条例制定権に関する条文である第94条を取り上げておこうと思います。

第 94 条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行 する権能を有し、法律の範囲内条例を制定することができる。

日本国憲法

やはり、この一文だけ見ても、本記事で取り上げた他の国のように、国と各都道府県等の各広域自治体が、対等な立法権を持つとは、どうやっても解釈する事は出来ません。

まず、"地方公共団体"とは、何を指しているのか、それすらも明確ではなく、広域地方自治体(都道府県)と基礎的自治体(市区町村)が一緒くたにされている事からも、各都道府県や州のような都道府県連合体には、立法権を与える気は一切ない事が読み取れるでしょう。

さらに、敢えて、"条例"と言う、法律とは別の言葉を作り出し、それを条文内に使っている事からも、同様の意図が読み取れます。

最後に、"法律の範囲内で"という言葉ですが、この言葉が最も今の地方政治に大きな影響を与えており、結局、法律によって委任された事柄しか、条例は制定出来ないようになっています。

それどころか、官僚達は、国の法律制定後も、条例の制定余地を一切残さないように徹底して政令や省令を加え、しっかり地方の裁量の余地を潰しております


しかし、仮に、官僚達を上手く動かせるようになり、法改正によって、条例制定の裁量が拡大したとしても、アメリカの各州のように、地方自治体が、自由に立法出来るようにはなりません。

確かに、条例の制定権の裁量が増える事によって、各行政事務においては、効率化が行えたり、多少の改善は見込まれるでしょう。

しかし、各地方の人々が、"自分達の法律を作れるように"するためには、日本国憲法の改正が必須であり、本記事で取り上げたような海外諸国の憲法のように、"各都道府県は、国と同等の立法権を持つ"との趣旨の条文を、憲法内に設ける他無いと思います。


参考文献.

・各国における分権改革の最新動向―日本、アメリカ、イタリア、スペイン、ドイツ、スウェーデン (神奈川大学法学政治学研究叢書)

アメリカの地方自治

アメリカの州・地方政府の概要

スイスの地方自治

ドイツにおける国と地方の役割分担

フランスにおける国と地方の役割分担

フランスの地方自治

Texte intégral de la Constitution du 4 octobre 1958 en vigueur(フランス第五共和国憲法全文)

COSTITUZIONE ITALIANA(イタリア共和国憲法全文)

スペインの地方自治


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