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行政事務を国や自治体間でどのように分業すべきなのか?:大阪都構想や今後の行政のあり方について考える



はじめに.

理想論を言えば、すべての行政サービスについて、分権化を行い、地域住民の話し合いによって、自分達に合った行政サービスを作る方が、より納得のいく行政になることは間違いないでしょう。

しかし、費用や効率の観点から言えば、全ての行政サービスを分権化し、市区町村に丸投げする事は出来ません。

実際、各基礎的自治体(市区町村)では、人口減少や歳入確保の難化から、自治体間で連携しての広域の行政を行ったり、他の自治体に業務委託を行う事により、予算の削減を行っております。


本noteでは、まず、2章において、私の考えた社会保障事務の分担案を簡単に述べさせていただきます。

そして、後の章において、行政事務の分担の現状や問題点を述べながら、最後に、将来の行政はどうあるべきかについて、まとめさせていただこうと思います。


1.日本の自治体の構造

事務の処理権能の規定(政令指定都市 百万都市から都構想へ (中公新書))

まず、簡単に、現在の日本の自治体の構造について、おさらいしておきます。

現在の日本の行政法上の自治体の縦の分類としては、
国→都道府県→市区町村→行政区または地域自治区
という構造になっております。


行政区と言うのは、政令指定都市という大都市にのみ設けられる地区で、本来なら、市町村が行う事務を主体的に行う権利が付与されている点で異なります。

※本記事では、便宜上、地方自治体を解りやすく分類するため、都道府県=広域自治体、市区町村=基礎的自治体と定義しております。


2.社会保障(年金・医療)に関する所管事務分担についての改革案

私は、以前投稿したnoteにおいて、社会保障の分権化を行い、社会保障の制度のあり方については、地域の住民で話し合い、地域毎の社会保障制度にするべきだと述べました。

なので、これから述べる内容は、具体的に、国・都・区の三機関の間で、どういう事務分担をすべきかを、私が考え、非常に簡単にまとめた改革案になります。

本案から掴み取っていただきたいポイントは、改革案の良し悪しではなく、効率面やサービス向上のため、"国・都・区の三機関の連携が、いかに重要となるか?"という事です。

それでは、ご覧ください。


2-1.社会保障(年金)編

まず、"各国民が、今までどれだけ年金を支払ってきたか"というデータについては、国がデータベースを持ち、全ての情報を管理すべきなので、国の所管となります。


次に、全国の社会保険料のプール(積み立て基金)を管理する事も、国の所管であるべきです。

この点については、現在でも、年金の積み立て金を使用した資産運用が成されておりますので、国が一括で社会保険料を集め、その膨大な貯金を使って、資産運用を行う事は、賛否両論ありますが、多少は有意義だと思うので、今後も、国の所管であるべきでしょう。


最後に、"社会保険料をいくらに設定するか?"と言う社会保険料の決定権や、"年金支給額はいくらにするか?"と言う年金支給額の決定権については、各地方自治体の所管とし、各地域の住民で良く話し合って、決めるべきだと思います。

以上をまとめると以下のようになります。

・年金情報に関するデータベースの管理:国
・社会保険料基金の管理:国
・社会保険料及び年金支給額の決定:市区町村または都道府県


2-2.社会保障(医療)編

年金と同様に、"各国民が、どんな医療サービスを利用したか"というデータについても、国がデータベースを持ち、全ての情報を管理すべきなので、国の所管となります。

なお、国民の医療利用履歴と言うのは、今後、どうすれば、"医療の不正利用を防げるか?""医療費の削減が出来るか?"など、自治体が作戦を立てる際に使える情報となりますので、集めるべきだと思っております。


次は、"健康保険料をいくら徴収するか?"という健康保険料の決定権"自己負担率をいくらにするか?"と言う自己負担率の決定権についても、年金同様に、地方自治体の所管であるべきでしょう。

ちなみに、健康保険料の決定権については、ご存知の通り、既に自治体が保有しております。


更に、"各医療機関に、どれだけの診療報酬を払うか?"と言う診療報酬の決定権については、間違いなく、地方自治体(都道府県)の所管であるべきです。

現在、国が一括で、診療報酬を定めてしまっているおかげで、地方と都市部では、物価や地価が全く異なるにもかかわらず、各病院に入る報酬は同じになるので、万年赤字に悩まされている病院は数多く存在します

また、この事が、コロナ禍における医療崩壊の大きな主要因となっております。


以上をまとめると、以下の通りです。

・医療サービス利用履歴に関するデータベースの管理:国
・健康保険料及び自己負担率の決定:市区町村
・診療報酬の決定:都道府県


2章まとめ

以上の案は、私が勝手に考えたものですが、社会保障という行政事務を一個取っても、一個の自治体で全てを賄える訳ではなく、IT技術の発展により、効率的に行政を運用する手段が増えた事から、"国から末端の基礎的自治体まで、横断的な連携が必要になる"と言う事です。

なので、一概に全て、"分権の方が良い!"と言って、全部を全部、広域自治体や基礎自治体に事務を丸々丸投げすることは、効率面やサービスの質を最大限に高める上で、難しいと言うことです。


3.地方自治体間の分業は非常に上手く行われている

主な共同処理の事務件数の状況(広域連携の仕組み 一部事務組合・広域連合・連携協約の機動的な運用 )

上図は、実際に、各行政事務項目について、各地方自治体間で、いかに連携して行っているかを示す図となります。

基礎的自治体(市区町村)間の連携だけではなく、広域自治体(都道府県)と基礎的自治体(市区町村)間の連携も、効率よく行えており、国が自治体からのニーズに応じて、迅速に法改正を行っている事により、各自治体間の連携については、理想的と言える程の分業が実現していると言えます。


マイナンバー不祥事から考える国と地方自治体の連携不備

ただその一方で、国と地方自治体の連携に関しては、あまり、上手くいってるとは思えません。

例えば、最近起こっている、マイナンバー関連の不祥事が挙げられます。

マイナンバーのトラブルとは 人為的ミスが大半

具体的には、マイナンバーカードの取得者向けの専用サイトで、他人の年金情報が閲覧できたトラブルが起こったり、マイナンバー“ひも付けミス”他人口座に誤振り込みという事件が起こったり、マイナンバーの紐づけに関連した、様々なミスが頻発しております。

ですが、この問題に関しても、国や各自治体やその他の団体が、自分たちの所管争いを繰り返し、連携が上手く行えていないから起こる問題であると考えております。

仮に、国などの各機関が、各自治体のマイナンバー紐づけに際して、参考となる情報などを、上手く各自治体に提供していれば、ここまでミスが頻発する事は無かったのではないでしょうか。

ですから、マイナンバー不祥事の大きな要因が、"国や自治体などの、権限を持った各機関の連携不備"であるならば、それを改善しなければ、今後もマイナンバーに関連した問題は、立て続けに起こり続ける事が、容易に予想されます。


自治体間の連携でも問題は起こる

一部の例外的な話になりますが、例えば、東京都の清掃事務は、
収集・運搬は23区、中間処理は一部事務組合、最終処理は東京都
という風に、分担されており、通常通り、一連の業務が行われている場合は、問題は特に起こりません。

ですが、問題となるのが、清掃工場に、水銀混合ゴミ等の不適正廃棄物が持ち込まれる時などのイレギュラーが発生した場合です。

そういった不適切なゴミが、焼却炉に入ってしまうと、焼却炉が故障し、工場が自体が使用できなくなってしまうため、一回当たり3億~4億円の損失が出るとのことです。

ですが、冒頭で述べた通り、清掃事務は、分担して行っているため、清掃工場を運営する一部事務組合の立場からでは、各23区の収集・運搬の行政を改善する事が出来ません。

仮に、収集・運搬~中間処理~最終処理まで、一貫して、一つの機関が行っていれば、収集・運搬段階での行政について、改革を行えるという訳です。

以上をまとめると、自治体間の連携についても、権限の取り合いや責任の押し付け合いが起こる事も少なくないため、少なからず、問題が起きているという事です。


4.大阪都構想とは何だったのか?

今さら聞けない「大阪都構想」| 特別区

端的に言えば、大阪都構想とは、"行政費を節約して、社会保障費や教育費等の予算に回す"改革です。

まず、かつての大阪市は、役人天国と呼ばれ、汚職や賄賂のような汚い手段を用いて、役人が私腹を肥やしたり、役人の腐敗と呼べるような不祥事が数多く起きていたそうです。

そこで、そんな事になるならと、大阪市のいくつかの所管事務や固定資産税の課税権などの権限を奪い、大阪府が、代わりに権限を行使し、行政の無駄等を省いた上で、住民に税の還元をしようとした訳です。


ですが、ここで問題となるのは、大阪市は、政令指定都市であるという事です。

政令指定都市というのは、市区町村の中でも、人口密度が高い事によって、市区町村から進化と遂げた自治体となっており、その権能についても、都道府県の8割の事務を担当できると言われる程、強力な権限を持っております。

つまり、地方自治の観点から、大阪市には、大幅な権限が認められており、その下には行政区も置けるので、通常の市区町村よりも、分権的な行政が行う事が出来ると言えるわけです。


一方、それとは反対に、大阪都構想で目指した、東京都の都区制というのは、地方自治の観点から見ても、複雑な問題を含んでおります。


東京都の歴史

「東京23区」カネはある・人口も多い、ないものは…

まず、現在の東京都の都区制の始まりは、1943年の戦時中になります。

戦時中、中央政府は、首都の置かれた東京都を一元的に支配したいと考え、かつての基礎的自治体である東京府や東京市から実権を奪い東京都自体を最小の自治体とする改革を行いました。

それから、50年以上にかけて、東京23区内では、度重なる自治権を取り戻すための住民運動が巻き起こりました。

その結果、23区は、自治権を段々と取り戻していき、現在のように、1区毎に区長や区議会を置く事ができ、各区が所管事務を持てる体制にまでなったという訳です。


そして、現在の話に移りますが、各市区町村の権限の強さから言っても、次の通り、未だに、東京23区は、一番権限が弱い自治体となっております。

権限の大きさで見た市区町村の優劣:
政令指定都市>普通の市区町村>東京23区


特別区(東京23区)と通常の市区町村の違い

一般的に、以下の点で異なります。

1.通常市区町村の所管である、上下水道の整備管理・消防・救急・公共交通について、東京都が所管している。
2.通常市区町村の権利である、固定資産税の課税権を東京都が所有している。

確かに、東京都が担っている本来の23区の事務というのは、上下水道の整備管理・消防・救急・公共交通という大した内容では無く、そのサービス内容についても、不満が起こるような内容になっておりません。

また、課税権についても、通常の市の持つ権限の内、固定資産税課税権に限り、東京都が所有しており、固定資産税を都が回収し、貧富の格差が出ないように、平等に分配しています。

しかし、東京都23区の住民の中には、通常の市の権利を取り戻したいと考える市民が一定数存在する事からも、住民自治という観点からは、あまり望ましいと言う事はできません。

ですから、以上の内容を踏まえても、東京都の制度は、ハッキリと、"他の市も真似すべきだ"と言えるような制度ではないという事が、お解りになると思います。


4章まとめ

大阪都構想の元々の発端は、汚職や買収など、問題行動を行ってきた大阪市の役人達であり、大阪府との連携に協力的ではない傲慢な大阪市長達であった訳です。

そして、大阪維新の会の議員達の尽力によって、それらの問題のある人々は、排斥されましたから、大阪都構想自体は実現しなくとも、大阪都構想によって、得られる恩恵を、大阪府や大阪市は十分得られているといえるでしょう。


ですが、改めて、地方自治の観点から言えば、大阪都構想(都区制化)自体は完全に正しいとは言えないという事です。

確かに、今の大阪市は、270万人の市民を一人の市長が抱えているため、なかなか住民の声が反映され辛いのは事実です。

ですので、都区制に変わると、270万人が4分割され、1区毎に、区長や区議会を置くことが出来るため、実質的に人口が減る事になり、個々の意見は通りやすくなるため、大阪市→各行政区という観点からは、分権的な改革であると言えます。

また、個人的な意見としては、区の数を4つに減らすのではなく、現状の24区を維持したまま全部の24区について、区長や区議を改めて置くような形にしていれば、住民投票の結果は多少変わっていたかもしれないと思っております。


ただ、その一方で、大阪市の権限を大阪府に移すという事は、集権的な改革であり、大阪市の自治権を奪う事になるので、大阪府→大阪市という観点からは、集権的な改革であり、住民自治を阻害する事に繋がります。

ですから、最終的には、大阪都構想というのは、大阪市の市民の方々の選択に委ねるべき問題であり、一概に、大阪都構想が否決されたからと言って、その選択が間違っていたとは、到底言う事は出来ないという事です。



5.衰退都市と発展都市では、目指すべき方向性が違う

逆に、人口が減り続けて、消滅の危機に陥っている地方の市区町村こそ、都区制度導入や自治体合併などの、集権化を行うべきだと思っております。

確かに、東京23区や大阪市のように、人口が増え続けている発展都市に関しては、分権化を進めるべきだと思います。

しかし、人口が減り続け、消滅の危機に瀕している地方都市については、"住民による自治"を気にしている場合ではないと思うので、市町村合併や広域行政に頼り、行政費を節約し、人口を増やす政策に金を使うべきだと思います。

ですから、発展都市と衰退都市では、全く進むべき方向性が異なるという事です。


6.省庁の対立(縦割り行政)と自治体間の対立に共通する事

縦割り行政の弊害とは?〜第11回インターン勉強会〜

分権化が重要なのは確かですが、個々の各機関の権限が強いと言う事は、各機関が、自分達の利権を巡って対立する事にも繋がります。

例えば、大阪府と大阪市の事例で言えば、大阪府が、横断的な上下水道の整備するような都市計画を考えたとしても、大阪市は、それに関して、実権を握っているため、大阪府と大阪市の協議に失敗すれば、大阪市を除いた形での都市計画を立てざる負えない訳です。

そういう縄張り争いの結果、所謂、二重行政と呼ばれるような、市民にとっては何の得も無いような行政が行われてしまう訳です。


そして、大阪市と大阪府のような対立構造は、中央省庁の縦割り行政の構造と同じ事が言えると思います。

各省庁が、それぞれ、大きい権限を持っているため、各省庁で縄張り争いが起こり、結果として、国民にとっては、何の得も無い行政が行われる事に繋がっているわけです。


解決策

なので、解決策としては、争いが起きた時には、"上位の組織が、全権利を握る"というやり方しか無いと思います。

例えば、省庁の争いで言えば、各省庁間の対立が起こった場合は、内閣総理大臣をトップとする内閣が、両者の権限を奪い、裁判所のような役割を担い、対立に決着をつけるという事です。

さらに、大阪府と大阪市についても、対立が起こった際には、上位機関である大阪府の意向を優先すると言うような、解決策が良いのではないかと思っております。


まとめ.

政府の事務の多様化IT技術の発達によって、行政事務一個を取っても、ハッキリと"これは国の所管であるべきで、あれは地方自治体の所管であるべきだ"とは言えない状況になっております。

それは、最も分権化が行われているアメリカにおいても、同じ事で、アメリカの各州は、強い自治権を持っておりますが、1930年代の大恐慌等が起きてからは、社会保障制度の導入など、横断的に行うべき事務が増えたため、近年では、連邦政府の権力も高められつつあります。


勿論、基礎的自治体だけで運営できる事務については、基礎的自治体に任せたら良いと思います。

特に、国民の利害に関わるような行政処分を行う事務については、そう言えるでしょう。

例えば、生活保護の受理営業許可等、行政の裁量次第で、国民の利害に大きく関わるので、それについては、住民に寄り添う形で、極力分権化するのが望ましいと思います。

その一方で、消防・清掃・警察に至っては、特に行政処分において、その裁量によって、悪影響を与える等という事は無いため、広域自治体(都道府県)が担っても問題無いと思います。


そして、最後に、何よりも、重要なのは、国や地方自治体やその他機関で、より協力的な連携をすべきだという事です。

結局、行政の分権化と言うのは、住民サービス向上という目的のために行うものであって、各機関が対立し、"集権化した方が上手く行く!"などと思われる状況となってしまったら、何の意味も無いという事です。

ですから、各行政機関には、よく連携していただき、その上で、住民サービスを向上させるような改革を、行って欲しいと思っております。


参考文献.

・行政法 第6版

・大都市制度の構想と課題――地方自治と大都市制度改革――

・広域連携の仕組み 一部事務組合・広域連合・連携協約の機動的な運用 改訂版

・政令指定都市 百万都市から都構想へ (中公新書)

・大阪・役人天国の果てなき闇


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