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東山 詩織「盾、葉」-総体としての世界は美しい +旅気分の隅田川散策
東山詩織 個展「盾、葉」(〜11月13日、土日祝のみ、Token Art Center.)に足を運んできた。たまたま読んだ『美術手帖』に作家と作品が紹介されており、とても気になってInstagramをフォローしていた。都内で個展があることを知り、心待ちにしていた。
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東京都墨田区東向島3-31-14
東山の絵画は、画面がグリッドやパース状の幾何学形状に分割され、それぞれ個別のセルには色鉛筆や水彩絵の具でモチーフが細やかに反復して描かれて、それらが時にセルを跨ぎ、有機的に連なりながら全体が形作られているのが特徴的でした。一方、今回の出品作は、2020年に開催した個展「simple bed」時の作品と比べると、以前は見られなかった塀や石垣、陣形図、棘や、より強調された罫線など、切断や遮蔽、防御を表すようなモチーフが多くあることに気づきます。これは、近年東山が、人と人との関わりの境界線や人が自らの心身を守る無意識、意識的な行為に関心を持っていることに由来しています。例えば、人が危機や困難に直面したり、受け入れ難い苦痛に晒された場合に、防衛機制というその不安を軽減させるために無意識に作用する心理的なメカニズムがあります。それは自我が壊れるのを防ぐ安全装置のようなものでしょう。そのきっかけとなるのは、例えばその人にとって身近な人間関係かもしれないし、自国で起こる紛争であるかもしれない。そしてそれらによって防衛機制が作用すると表面的には幼児退行や暴力などさまざまな行動が現れると言われていますが、その内奥、精神の動きはどのようなものか。東山が描こうとするのは社会的な出来事とは無関係でいられない精神の深層が、どのように意識的、無意識的に変容していくのかというものであるのかもしれません。
■小さな分断の集積を俯瞰
まず、作品と展示風景をランダムに。
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急な階段を上がって、2階へ。
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2階建ての木造建築をリノベーションして2019年にオープンしたこのギャラリーの雰囲気に、作品たちはよく似合っていた。
作家の作品世界のなかでは、白い裸体の人々が関係し合い、ときにはひとりで佇む。その世界は白く細い線で分断され、時折、諍いがおきている様子もうかがえる。ただ、セルの中の個々のエピソードは淡い色彩の水彩で細かく描きこまれており、鑑賞者の視点は、そうしたさまざまなセルの集積である世界を「まとめて俯瞰する」形になる。
世の中ではさまざまなことが起きているが、そのすべてをはるか上空から見ることができるのなら、世界はやはり美しい。雑誌やネットで作品を観たときから、わたしには、そんなふうに、作品世界がポジティブに感じられた。実際の作品を観てやはり、第一印象は覆らなかった。
わたしはもともと、どんなことが起ころうとも(それが人類滅亡のようなものであっても)、世界は総じて美しいし、「結果として」明るい方向にすべてが進んでいると思っている。そんな思い込みの色眼鏡によるバイアスがかかったままの観方かもしれないけれど。
来てよかったと思った。
■ふっとアートを買う瞬間
なかには、女性がそれぞれひとりで思い思いに過ごしている風、の作品もあった。そこから伝わってくる世界観がなかなか良くて、しかも会場に置かれているプライスリストを見ると、何とか手が届きそうな価格だった。
その作品は、残念ながら売約済で、今回は叶わなかったけれど(残念だと感じると同時に、やっぱり売れるよね、という納得感もあった)、なるほど、こんなふうに、ふとアートを買う瞬間は降りてくるのだなと実感した。
思考や意識にはのぼってこない、自分として生まれてこのかたインプットしてきた全データがおさまっている無意識が、「この絵は必要だ」とささやくのだろう。そして、家でその作品世界に浸ることで、わたしの中の足りない部分が満たされていくのだろう。
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その出逢いはいつ訪れるかわからない。でも、そう遠くない未来に、再びやってきそうだとも感じている。
■浅草駅から片道30分(以上)の隅田川散歩
Token Art Centerの最寄り駅は、東京スカイツリーラインの曳舟駅(徒歩10分)となっている。ただ、写真を撮りながら川べりを歩くのもいいな、と、あえて浅草駅から歩くことにした。Google検索だと徒歩26分程度だったと思うが、迷ったり寄り道したりで、相当な時間がプラスされることとなった。
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毎日見慣れている地元の人にとってはいつもの風景だとしても、視界の中に東京スカイツリーと屋形船と高架の上を走る列車、が突然同時に現れると、あまりの情報量の多さに思考がフリーズしてしまう。
普段見慣れたものの中で大きなものといえば、西新宿の高層ビル群で、「大きなもの」の基準が高層ビルになっているわけだけど、東京都庁舎(約243 m)と比べても東京スカイツリーの634 mはいかにも巨大だ。新宿住友ビルが211mだそうなので、住友ビルを3棟縦に積んで・・・などと妄想するとだんだん怖くなってくる。
そんな他愛ない自分とのやりとりの中で、ああ、今「旅」をしているなあと思った。
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■作品世界と現実が結びついていく
観光客、午後の散歩か夕涼みに訪れた地元の人とおぼしき家族連れ。休日の午後、しかも午前中の曇り空からうって変わっての晴れ模様とあって、人の数はかなり多かった。周りでは、たくさんの関係が繰り広げられていた。
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それもこれも、総じてみれば世界はやはり美しい。作品たちの前で感じたことを、再び反芻した。
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