六本木クロッシング2022展[1] つながり,アフターコロナ,ディストピア
六本木クロッシング2022展(~ 2023.3.26、会期中無休)が森美術館ではじまった。3年に一度の祭典のような展覧会は未知の作品、アーティストとの出会いの機会でもあり、毎回、楽しみにしている。
数多くの出典作のなから、順不同で振り返っていこうと思う。今回は3アーティスト。
※本稿の作品写真はすべて「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
■横山奈美《Shape of your words》
写真かと思うほど写実的に描かれた作品たち。異なる5人による手描きの「LOVE」がその周囲を照らす…というところで降参し、解説を読む。
ワンステップごとの増幅。3枚、2枚、と展示室の2面を使って展示されていたけれど、取り囲まれた形で鑑賞してみたい。
■青木千絵《BODY》
《BODY》とタイトル付けされ、そこに各々の番号が付いた4体の作品。表面の光沢と、人体のフォルムがとにかく美しく、まずは周囲をぐるぐる回って撮影してしまった。
一見、重厚そうに見えながら、重量感をあまり感じないところを不思議に感じていたのだけど、発泡スチロール×漆だったのかと驚いた。
■市原えつこ《未来SUSHI》
ご時世をふまえた世界観造りがうまいなあ、と、ディストピアのテーマパーク的に楽しんでしまったのが、この作品。一見「未来の寿司屋」なのだけど、「どこか不気味」な感じは遠目からもわかる。
やっぱりDystopiaなのか、じつはUtopiaなのか。
ペッパー君らしきロボットにお面をかぶせた「大将」(声も、ペッパー君ではない)が、客である我々に、未来に起きる(起きた)ことを教えてくれる。例えば2050年、人々は複数の胃袋をインストールして、暴食ができるようになったが、
それが深刻な食糧不足を招き、2060年に下級国民用にベーコン味の配給寿司が配られる顛末となったとか、
食料不足で深海魚を食べざるを得なくなったが、あまりにまずいので、カラッとから揚げにしてみましたとか、
2100年代になると、寿司は媒体化し、同じ寿司を食べた人が意思の疎通ができるように。ところがそれを悪用され、2110年には寿司が脳をハックする陰謀が勃発して多数の死者が出たとか、
「その話、どこかで?」のフィクションが繋ぎ合わされ、それが目の前に世界としてあるので、思わずほくそ笑んでしまう。
ディテールは非常に細かく、英語で寿司の解説をしてくれるロボットがいたり、
もっともらしい「番組」が流れていたりと、
「なんとなく知っているディストピア」が具現化されていて、そこに昨今の「フェイクニュース」などの知識も被さってきて、笑いながらも認識がぐらぐらしてくる感じが、なかなかよかった。
2016年にYahoo! JAPANを退社し独立、という経歴の一文を読んで、フェイクとリアルの妙な融合の匙加減に、なるほどと勝手に合点してしまった。
もう一つの、写真と映像作品である《「自宅フライト」完全マニュアル》は、「ああ、そういえばこんなことってあったよね」という言葉が浮かんできて、しかも自分が「かなり前のこと」として認識している(それこそ、311が起きた、といった出来事と同列に)、それに唖然としてしまった。
それほど前のことでないはずなのに、時間の流れが速いのか、それとも懲りずに忘れてしまえる能力?
■腑に落ちるまで、繰り返し鑑賞
美術鑑賞には精神力と体力が必要で、よほどコンディションを整えないと1回で気のすむまで鑑賞するのが難しいことが多い。森美術館の場合、自動更新される年パス的なメンバーシップに入っているので、今日は気になる作品を優先して鑑賞する、というこの美術館ならではの方法をとった。
会期がそれなりに長く、しかも望めば何度でも通える機会があることに感謝を。何度も足を運んで、それぞれが腑に落ちるまで、じわじわ理解していきたい。