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【写真】睦月,直島② パブリックアートと海,空,雲,

 2023年1月の直島の旅。施設全面メンテナンス期間中に訪れてしまったのだけど、ひとけのない島で、珍しい経験ができたのは書いた通り。

■高松港10:14発フェリー

 ただ、旅程は短縮し(また2月に来ます)、この日は滞在さいごの日。手が届きそうなふわふわの白い雲が立ち込める高松港、10:14発。

 船はもちろんすいていて、デッキもほぼわたしひとり。空を見上げると、鳥たちが美しい列を作りながら飛び去って行った。

 どう見ても曇りなのだけど、予報では晴れ間もあるという。船が島に近づくにつれて、青空も見えはじめた。

 宮浦港へ。草間彌生『赤かぼちゃ』は今日も修復作業中。

 フェリー到着にあわせて運行している村営バスで、今日は途中下車せず、終点の「つつじ荘」まで。


■「南瓜」草間彌生

 「南瓜」はその日も、ひとり佇んでいた。

草間彌生「南瓜」2022年

 ほどよい距離にベンチがある(ここにベンチを置いてほしい、というリクエストも以前受け付けていたし、この島は本当に鑑賞者にやさしい)。

 そこに落ち着いて「南瓜」とともに4時間ほどを過ごそうと思い、本を開いたのだけど、ふと気づいた。

■じつは入れた、屋外アートのエリア

 前回、わたしは「屋外アートエリアは立ち入り禁止」だと思っていた。理由は、こちら側から続く通路が、封鎖されているように見えたからだ。

 でも眺めてみると、道路は工事用の車が走り、時折関係者らしき人が歩いているのが見える。もしかして、封鎖は「向こうからこちらに入れない」という意味ではなかろうか?

 近づいてみると、やっぱりその通りだった。推奨されているのかはともかく、そこから先が工事中でトラブルを引き起こしてしまうといったことはなさそうだ。どのみち付近には誰もいないので、「南瓜」を後にして、屋外アートのある方向に進んでみた。

 うん、やはり大丈夫そうだ。
 前回気づいていればよかったと思いつつ、「南瓜」をじっくり鑑賞できた経験は素晴らしいひとときだったので、それでよしとした。

 急な勾配を登りきり、屋外作品たちが展示されているエリアに到着。空と海とアートを鑑賞できる、この島ならではの場所だ。


■「三枚の正方形」ジョージ・リッキー

 メタリックな素材でできたとおぼしき3枚の正方形が、風によって、ゆらりゆらりと方向を変える「三枚の正方形」が出迎えてくれる。

 重厚な見た目と裏腹に、あっさりと、素直に、そして静かに方向を変える。キイ、と遠慮がちな音がする。空の下で鑑賞すると、いろいろな思いが浮かんでくる作品だ。

ジョージ・リッキー「三枚の正方形」1972-82年


■「茶のめ」片瀬和夫

 心でいただく、もてなしの一服。

片瀬和夫「茶のめ」1987-94年


■「見えて/見えず 知って/知れず」ウォルター・デ・マリア

 「三枚の正方形」から石段を下ると、安藤忠雄設計のシーサイドギャラリーがある。

 ここにあるのが、ウォルター・デ・マリアの「見えて/見えず 知って/知れず」。

 扉が閉まっていたが、開いているときはこのような感じだ。左右の奥には金箔を施した木彫の柱が配置されている。

ウォルター・デ・マリア「見えて/見えず 知って/知れず」2000年

 ちなみに地中美術館のウォルター・デ・マリア作品「タイム/タイムレス/ノー・タイム」は、同様の球体+27体の金箔を施した木彫の柱で構成されている。

 本作の開口口と地中~のほうの天窓など、2つの作品で類似する点、あるいは相似点を探すと時間があっという間に過ぎていく。美術館が開いているときは、ここで作品と対話してから美術館に向かうのがいつものコースだ。


■「シップヤード・ワークス 船尾と穴」、「シップヤード・ワークス 切断された船首」大竹伸朗

 坂を下って、ビーチのほうに降りていくと、大竹伸朗の2作品にも出逢える。

大竹伸朗「シップヤード・ワークス 船尾と穴」1990年
「シップヤード・ワークス 切断された船首」1990年


■雲の合間から、神々しい陽光

 しばらくビーチを散策したあと、石段をのぼって、その途中に座る。

 工事関係者の方々の声と、機械の音が遠くから聞こえる。それ以外は、波と風と、「三枚の正方形」が放つかすかな音が響くのみ。

 本を開く。珍しく紙の本を持ってきたのだが、このシーンによく合っている気がした。

 しばらく読み進めると、空がこんなふうに変わり始めた。

 まるで夏のような雲。

 暗雲から、太陽が顔をのぞかせる。

 まるで、目が合ってしまったかのような。

 空を時折眺めつつ、本を楽しんだ。時間はまだ、たっぷり残っている。

■終わりの時間が近づく?

 短編をいくつか読んだ。顔を上げてふと思う。

 そういえば、まるで通うように、このアートの島を訊ね始めてから、すでに10カ月を過ぎた。その間にかなりの数の美しいものを見たし、島は数え切れないほどの気づきをもたらしてくれた。

 ただ、その期間はそろそろ終わりに近づいているのかもしれない。なんとなく、感じた。

 そして、まるで課題を提示されるかのように、次なる出逢いが目の前に姿を現すのかもしれないな、などと思いつつ。

 17時発、直島・宮浦港出発、最終フェリー。



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