Amtrak アメリカ鉄道旅 10 エンパイア・サービス
Empire Service(エンパイア・サービス)は、アムトラックが運営する列車でニューヨーク州を縦断します。ニューヨークは逆三角形のような形をしていて、州の南端であるニューヨーク・シティにあるペン・ステーションから真ん中にあるアルバニーまで北上し、左上のナイアガラの滝が終点です。
ニューヨーク州はエンパイア・ステートと呼ばれているので、この列車はまさにエンパイア(ニューヨーク州)の主要都市を結ぶサービスを行う列車という位置付けです。この路線はニューヨーク州の援助を受けて運営されています。
運行間隔:毎日運行
運行主要都市:ニューヨーク-オルバニー-シラキュース - バッファロー - ナイアガラ・フォールズ
時間:7時間20分
距離:742km
この路線は、別のアムトラックと線路を共有しています。メープル・リーフ号はエンパイア・サービスを全て共有し、ナイアガラ・フォールズからさらにカナダに入りトロントまでいく列車です。レイクショア・リミテッド号は、エンパイア・サービスと線路をほぼ共有し、バッファローから、さらに西に向け走り、最終的にはシカゴまで向かいます。
この2路線に乗ると、エンパイア・サービスと重なっている部分では、同じ景色を見ることになるのです。
エンパイア・サービスとしてはナイアガラ行きが1日に2便、アルバニー行きが1日に6便あります。これとは別にトロントまで行くメイプル・リーフが1日1便、シカゴまで行くレイクショア・リミテッドが1日1便あります。
ハイライト
列車はニューヨークを出発し、ナイアガラの滝まで向かいます。時間にして7時間30分もかかるのですが、なんとこの列車は全てニューヨーク州内を走るのです。止まる駅も全てニューヨーク州の駅ということになります。日本人がイメージするニューヨークはニューヨーク・シティのことで、ニューヨーク州はとても巨大だということがわかります。この巨大なニューヨーク州の主要都市を通りながら、あまり見慣れたことのない美しい自然が残る景色を見ていると7時間30分は短く感じます。大都会からハドソン・バレーを抜け、州都アルバニーを通り、緑の続く丘陵地帯を抜るエンパイア・サービス。ナイアガラ観光、トロント観光で片道だけでも乗る価値のある列車です。
座席のクラス
この列車には、他のアムトラックのように個室やベッドルームが設置されていません。距離が短いので日本の新幹線のようなシート構成になっています。
コーチクラス (2-2)
普通席です。といっても日本の新幹線のグリーン車ほどの快適な座席となっています。食事のサービスなどはありません。
ビジネスクラス (2-1)
コーチクラスよりも快適なシート、広い足元スペースの席です。アルコール以外の飲み物が提供されます。
私が乗った印象は、コーチもビジネスもシート自体はあまり変わらないです。ただ、乗客の質が違いました。コーチクラスは、学生とか若い人、家族などが乗り、皆がよく話していました。人によってはうるさいと感じるでしょう。そして結構混んでいます。ビジネスクラスは、ビジネスマンとか高齢者の夫婦などが目立ちます。とても静かで快適です。
エンパイア・ビルダーに乗る場合は、シートのデザインよりもこの環境を重視した方が良いと思います。
食事について
エンパイア・サービスにはカフェカーがついています。ここで軽食やコーヒーなどを購入することが可能です。
乗車記 Take the Train !
エンパイア・サービスの搭乗記です。私は複数回乗車していますが、なるべく夜帯は避けて昼の景色を見る方が楽しいと思います。今回はニューヨークからナイアガラまでの経路を辿ってみましょう。
ニューヨーク Penn Station, NY– Moynihan Train Hall (NYP)
ニューヨークにある鉄道駅のひとつペン・ステーションから出発です。アムトラックの乗客はモニハン・ホールに向かいます。ここで乗車するホーム番号を確認して乗り込みます。
エンパイア・サービスは、他のアムトラックとは違う線路を使います。アセラ・エクスプレスなどはマンハッタンを東西に走るので、駅を出るとボストンなど東に行く場合はイースト・リバーをトンネルで越えます。ワシントンD.C.など西に行く場合はハドソン川を越えニュージャージーに抜けていくのです。エンパイア・サービスはマンハッタンの西側をハドソン川に沿って北上するのです。
駅を出てしばらくトンネルを進むと地上にでます。そこはまだマンハッタンのウエストサイドです。向かって左側にはハドソン川が見えます。しかも川面とほぼ同じ高さを走るのです。水面スレスレの高さを走るので、マンハッタンや川の反対側のニュージャージーが目線の上に来ます。この景色はなかなか面白いです。そしてハドソン川にかかるジョージ・ワシントン・ブリッジの下を潜ります。橋はかなり高いところを通っています。大きな橋を車窓から見上げるような感じとなります。ハドソン川には大きな船が行き交うので橋の高さも必要ですが、マンハッタン側と対岸のニュージャージー側の高さが一緒なので端はその高さに合わせて作られていることがわかります。ここは、かつて氷河が削り取った渓谷となっていて、我々が通っているのは渓谷の底だというんことが見てわかります。列車は、しばらくこのハドソン川沿いを北上していきます。
ヨンカース Yonkers, NY (YNY)
エンパイア・サービスがジョージ・ワシントン・ブリッジを過ぎるとマンハッタンの北限です。ここでハドソン川から分岐しているイースト・リバーを橋で渡ります。すると右側から線路が合流してきます。これはMTAのハドソン・ラインです。ニューヨークの北に住む人達がマンハッタンへの通勤に使う郊外電車です。映画「恋に落ちて」や「運命の女」「ガールズ・オン・ア・トレイン」などの舞台となった路線です。ちょっと古いですがドラマ「ニューヨーク恋物語」にも登場しました。このハドソン・ラインとしばらく並走となります。
ヨンカースには川崎重工の鉄道工場があり、ニューヨーク地下鉄の車両などを製造しています。昔は工場地帯でしたが、最近は再開発が行われ、若者向けの洒落たデザインのマンションが建っているのが見えます。
ハドソン川の対岸は巨大なクリフ(崖)が続いています。森しか見えません。クリフの上には富裕層の住む邸宅群があるのですが、車窓からは見ることができません。
しばらく走ると、ハドソン川の川幅が広くなります。そこに長い長い橋がかかっています。これがタッパン・ジー・ブリッジです。ニューヨークというか東海岸の交通の要となる橋です。とても美しいのですが、これは2018年に架け替えられた新しい橋です。詳しくは以下の記事をご覧ください。
タッパン・ジー・ブリッジはニューヨーク州ウエストチェスター郡のタリータウンとロックランド郡のナイアックを結んでいます。両方の町は、昔からニューヨーカーの避暑地として栄えました。今は裕福な郊外の街となっていて住民の多くはマンハッタンに通勤しています。タッパン・ジー・ブリッジを通るニューヨーク・スルーウエイという高速道路は、これからエンパイア・サービスと並走することになります。
クロトン・ハーモン Croton-Harmon, NY (CRT)
ニューヨークから50km北上しました。ここクロトン・ハーモン駅までが電化区間です。電車はこの駅止まりとなります。ここより北上する列車はディーゼル気動車に引っ張られる列車に限ります。エンパイア・サービスもディーゼル機関車に牽引されていますのでそのままこの先に進めます。。厳密にいうとエンパイア・サービスを引っ張る牽引車は、ディーゼルと電気のハイブリット車です。ニューヨーク・シティではディーゼルの排気による空気汚染に厳しく、ペン・ステーションからクロトン・ハーモンまでは第3軌道の電気で走ってきました。ここからはディーゼルに切り替えて終点まで走ります。
駅の脇はハドソン川ですが、川幅は相変わらず広いです。ただ、川の両側には大きな山が見えています。昔ハドソン川が氷河だった頃、この山を削ってできた谷だということが見てわかります。
クロトン・ハーモン駅を出ると橋が見えてきます。ベア・マウンテン・ブリッジと言います。この辺りから川幅が急に狭くなります。すると川の対岸に何やら古い建物群が見えてきます。これはウエスト・ポイントです。アメリカ陸軍の士官学校です。
そしてしばらく走ると壊れた城が島に建っているのが見えます。バナマン・キャッスルというこの城、かつては人が住んでいたそう。今は観光地になっています。
城を過ぎると、長くて細い橋が見えてきます。ニューバーグ・ビーコン・ブリッジです。この辺りは最近観光地化されていてニューヨーカーが週末に訪れる品の良い地域です。川の反対側はニューバーグという町です。映画「スワロー」の主人公が住んでいました。
ポキプシー Poughkeepsie, NY (POU)
この辺りまで来ると川幅はかなり狭くなってきます。と言っても川幅は数百メートルはあるでしょうか。景色はほぼ緑。山の中を走る感じです。左側にはハドソン川が見えるのでとても気持ちが良いです。
ラインベックなど、有名な観光地やワイナリーがあるのですが、車窓からはそれらがみえません。ポキプシーではニューヨーク•シティからの観光客が降りていきます。
そしてひたすらハドソン川を登っていくとアルバニーに到着です。
アルバニー Albany-Rensselaer, NY (ALB)
ニューヨークの州都であるアルバニー。駅の周辺には特に何もなく、ここがニューヨーク州の州都なのかと思いますが、確かに州都なのです。街の中心はハドソン川を渡った反対側にあります。この駅ではボストンから来たアムトラックとの接続がある場合があり、その時は長く停車します。
駅を出ると線路は初めてハドソン川を渡ります。ハドソン川とはここでお別れです。川はここからさらに北に向かいます。エンパイア・サービスは、ここからバッファローまで西に向かいます。このルートはエリー運河と並行することになります。かつてエリー湖とニューヨークが運河でつながることで、ニューヨークは大きく発展しました。シカゴなどで作られた工業製品はエリー運河を通りアルバニーまできて、ここからハドソン川でニューヨークまで荷物を運んだのです。物流の中心であったエリー運河とハドソン川。その後、鉄道がそれに取って代わりました。エンパイア・サービスはこのルートを使って運営されています。現代は、鉄道輸送が廃れ、自動車に取って代わられています。現代の動脈、それがエンパイア•サービスの横を走るニューヨーク・スルーウエイです。
エンパイア・サービスという路線は、エリー運河+ハドソン川という「船の道」、スルーウェイという現在の「車の道」と並行しているというのも面白いです。いつの時代もこの路線が重要幹線なのです。
アルバニーを出ると、景色はひたすら森、丘陵、時々川が見える景色が続きます。この辺りでは農業や畜産業が盛んなように感じます。特に大きな町もなく、アメリカ東海岸の田舎町といった風景となります。遠くには高速道路が走っているのが見えます。トラックが何台も走っていて、貨物量の多さにも驚かされます。
この辺り、南にある小さな町に星野リゾートが温泉旅館を作るそうです。日本の旅館のシステムをそのまま持ち込んでおもてなしサービスをするのだそうですが、果たしてうまくいくのでしょうか。90年代であればニューヨーク・メトロポリタン・エリアにはたくさんの日本人が住んでいましたが、今は激減しています。ビジネスを成立させるためにはアメリカ人を取り込まなければならず、日本の温泉旅館が受け入れられた頃には、ここで下車して温泉に行くという贅沢ができるかもしれません。
シラキュース Syracuse, NY (SYR)
大学で有名な街。アムトラックに乗る人も降りる人も学生が多いです。この街の北には5大湖のひとつ、オンタリオ湖があります。車窓からは湖は見えませんが、かなり近くを走ります。南側には観光地のフィンガーレイクがあります。
日本から飛行機でニューヨークに行く際、JFKに降りる手前でこの辺りの景色がよく見えます。
バッファロー Buffalo, NY – Depew Station (BUF)
ここでレイクショア・リミテッド号は、路線を西にしてシカゴを目指します。エンパイア・サービスは北に向かい40分ほどでニューヨーク側のナイアガラ・フォールズ駅に到着となります。
ナイアガラ・フォールズ Niagara Falls, NY (NFL)
名前の通りナイアガラの滝にある駅です。ナイアガラの滝はアメリカとカナダの国境にもなっていて、カナダ側にもナイアガラ・フォールズという同名の駅があります。エンパイア・サービスはアメリカ側が終点です。
ナイアガラ観光の中心はカナダ側なので、ここで降りて観光をする場合は、自分で歩いてカナダ側に渡る必要がありますので気をつけてください。アメリカ側にもホテルなどありますので、アメリカ側で宿を取り、歩いてカナダ側を観光することも可能です。
停車駅について
停車駅は以下に記します。駅名の後ろのアルファベットは駅の記号です。チケットを購入する際にも使われます。主要駅以外では人の乗り降りはそれほど多くなく寂しい感じです。
各停車駅(太字は主要駅)
Niagara Falls, NY (NFL)
Buffalo, NY – Exchange Street (BFX)
Buffalo, NY – Depew Station (BUF)
Rochester, NY (ROC)
Syracuse, NY (SYR)
Rome, NY (ROM)
Utica, NY (UCA)
Amsterdam, NY (AMS)
Schenectady, NY (SDY)
Albany-Rensselaer, NY (ALB)
Hudson, NY (HUD)
Rhinecliff, NY (RHI)
Poughkeepsie, NY (POU)
Croton-Harmon, NY (CRT)
Yonkers, NY (YNY)
New York, NY (NYP)
注意点
・アムトラックの報告書によると、この路線は高い定時運行率を誇っています。遅延はあまり起きないということです。ただ長距離路線なので、到着が遅れることがあります。スケジュールには余裕を持ってください。
・長い間座ることになるので、途中駅でホームに降りてストレッチなどするといいでしょう。列車に乗り遅れないように注意してください。。
・席にいるのが疲れたらカフェカーに移るのも良いでしょう。
最後に
エンパイア・サービス。ニューヨーク州の南端からから西端まで走る列車です。距離は他のアムトラックと比べると短いのですが7時間以上かかる長距離路線です。そして個室がないので、ちょっと疲れるかもしれません。ただ、なかなか見ることのできないニューヨーク州の奥深くを見ることができる貴重な路線です。
時間がない方は、ニューヨークからアルバニーまでハドソン川沿いを往復するのだけでもこの列車に乗る意義があるように思います。
各回テーマ:
01 アムトラックの旅
02 アムトラックの路線
03 アムトラックのチケット購入・座席の種類
04 アムトラックの駅
05 エンパイア・ビルダー号
06 カリフォルニア・ゼファー号
07 サウスウエスト・チーフ号
08 コースト・スターライト号
09 アセラ・エクスプレス号
10 エンパイア・サービス号
11 レイク・ショア・リミテッド号
12 メープル・リーフ号
13 シルバー・サービス号(シルバー・メテオ号 / シルバー・スター号)
14 テキサス・イーグル号
15 サンセット・リミテッド号
16 クレセント号
17 シティ・オブ・ニューオリンズ号
18 キャピタル・リミテッド号
19 カージナル号
20 パルメット号
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?