酷くわかりやすくて酷く頼もしくて酷く嬉しい嘘:先生、知ってたでしょう?
小・中・高の児童・生徒時代の記憶が断片的だ
強烈な感情を伴った時・人・場面の記憶しか残っていない
あの先生の怒鳴り声
あの先生の吐き捨てた言葉
あの先生の優しい嘘
*
校門の前で竹刀を持って遅刻を監視していた、小3の時の女性の担任の先生
確か運動会の出し物の練習で私が何か勘違いして(整列する順番?)何か滞って
もう、私が何をやらかしたか忘れたが「お前かー!!!」と私に怒鳴った声が記憶に残っている
今でも疲れ過ぎると左右の認識さえ曖昧になるのだから、当時は指示を上手く理解してなかったんだろうな
*
中学3年間の社会科担当の先生
怒る理由を探している人だった
平安時代は12~13歳くらいで元服して大人なのに、お前らは常識が無い!お前らの常識は社会の非常識だ!ってさ
何年前と比べてるんだろう
始業チャイムが鳴る前に「俺の機嫌が悪いんだ!早く座れ!」と怒鳴って
その機嫌が悪い理由が「前の授業クラスの生徒がみんな答えない!」だった
自分の機嫌の悪さを理由に、なんで生徒の休憩時間を削るんだ?
間違える度に「バカ!」と怒鳴られるから、みんなそりゃ黙るよね
チョークの粉が舞うのが嫌で、黒板が汚くて見えにくいのが嫌で
休憩時間、毎回のように黒板消しと黒板を綺麗にしていた私の
「偽善者」と吐き捨てられた時の感情は
哀しさだったかな、虚しさだったかな
*
中学の国語科の先生
複数人居たはず
その中の一人の先生
いつも化粧をバッチリして、いつもキッチリとしたスーツを着て
「凛とした」「飄々とした」という形容詞が相応しい
無表情とは思わなかったけど、あまり笑う印象は無くて
その時々見せる笑顔も「爽やかな」って感じで
「授業の時だけ」って人だった
*
高校生になって自宅の最寄り駅で偶然会った
どっちが先に気付いたか、どっちから話しかけたかも覚えていない
何を話したかさえ覚えていないが
私が何かを話していて、先生は「ふんふん」と相槌を打ちながら聞いていた
鮮明に覚えているのは、その後で
中学生の時には見た事が無い
穏やかな、柔らかい笑みを浮かべて
いつかは確実にバレる嘘を私に贈ってくれた
*
まあ、貴女なら何処でもやっていけるわよ
拝啓 先生
御無沙汰しております
学生身分を卒業して、仕事がどうしても出来なくて
発達障害の診断を受けました
色々と見聞きしていく内に痛感したのは「何処でもやっていける人は居ない」という事です
先生、知ってたでしょう?
まして、私みたいな少数派は尚更です
先生が駅で私に伝えた言葉は
嘘だとわかりました
ですが
◆
先生が付いた嘘の中身は
本物だと思っています
酷くわかりやすくて
酷く頼もしくて
酷く嬉しい
私の宝物です
そう、信じてくださり心から感謝いたします
敬具
酷く具合が悪い時
何かの不安で一杯な時
目を閉じ眠りに堕ちれずに
頭の中で走馬灯のように
強烈な感情を伴った時・人・場面の記憶が繰り返される
失敗や後悔や失望の渦中の中に
あの優しい嘘が混じっている
*
先生、本当にありがとうございます
少し怖い始めの1歩を踏み出す時
貴女の想いが私の味方
あとがき
先生の名前は伏せましたが、今でも覚えています
本当にね
「ふわっ」って笑ってくださってね
言われた瞬間はポカーンとしてしまって、言葉を飲み込んで意味が身体に入ってきて
去っていく後ろ姿に、慌てて「ありがとうございます!」って言葉を投げました
片手を挙げて答えてくださいました
「どんな人と出逢えるか」ってのは凄く大切だなあ、と思います
それが少しでも伝える事が出来たなら本望です
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