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第一話「ハローワーク」2024年4月24日水曜日 雨

 篠突く雨の中、自宅から30分ほど歩いた。少し汗ばんでいる。薄手のレインコートが雨と汗で身体にまとわりつくのが不快だった。
 初めて入るハローワーク。2階建ての役所然とした建物は、想像よりも遥かに静かで秩序だっていた。
 1階の受付で、1階は求職者のためのフロア、2階は失業手当受給者のためのフロアと説明を受けた。案内係の男性は、丁寧で穏やかだった。もっと殺伐した役所だと想像していた。職を求める者の怒号もなければ、求職者を見下す横柄な職員もいなかった。自分がこれからその求職者=失業者になるのだが、少し肩透かしを食った感じだった。
 2階で簡単な受付を済ませるとすぐに呼び出しを受けた。私と同世代の女性。私の二言三言の説明で事情を察し、すぐに回答してくれる。ベテランなのだろう。
 完全な失業者になるのは初めてだった。これまで何度か転職したが、それは自分の意志によるもので、大まかに次の生業が決まっていた。それがアルバイトであっても。
 今回は会社都合の、その予兆はあったにしても計画的な退職と失業ではなかった。
 ベテラン職員の女性が私の個人情報を元に失業保険の支給期間と概算であるが支給額を計算してくれた。
 ハローワークでの手続き完了から330日間。支給額は1日6000円前後になるという。仮に28日ごとの支給になるとして1回の支給で168000円。非課税とのことだが、家賃と通信費、光熱費、借財の返済で消えてしまう。貯金は全くない。
 4月末に退職となる会社のほかにダブルワークとして週一で働いているワインバーチェーンがある。失業保険受給中はアルバイト禁止ではなく、アルバイト勤務日を無職とカウントすることができず、その日数を後ろ倒しにすることなる。しかしながら、このワインバーの時給と勤務時間では週2日以上働くとその会社に雇用されていると解釈されるらしい。つまり失業保険の支給は止まる。
 週二日の給料では、もちろん生活はできない。
 二進も三進もいかない。

 ハローワークを出ると、雨は強くなっていた。
 傘を広げて、歩き出した。
 とりあえず家に帰ろう。

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