消える駅


当時私のかかりつけのクリニックは
自宅から約2時間のところにあった

電車に乗っている時間は約1時間半

朝から出かけるのでどうしても通勤時と重なる


満員電車の中、座ることができないまま
その時間を過ごすことが苦痛でしかないので
毎回特急券みたいなものを購入し、座席を確保してから乗車する

金銭的には負担はかかるが、この電車でないと私は電車で出かけることができなくなってしまう

すぐに降りられない、という状況と
大勢の人に囲まれることに苦しくなるのだ


息苦しくなって
呼吸は荒くなり
動悸も激しくなる

口は渇き喉は痛くなり
目眩に耐えることで吐き気すらしてくる

「パニック障害」なるものの所以であった


なので1人で病院へ行くことができなかった
誰かと一緒で話をしてたりすれば症状は軽く済んでいたように思えていたから
毎回、同行をお願いしていた

それでも何年も誰かが付き添って行ってくれるというのにも限界がある
負担をかけ続けることも苦しく感じていたので
私は少し症状がよくなっていったとき
1人で行く決断をしたのだ

それまで何もかもを
同行者に頼り行動をしていたものを
私1人でしていかなければならない


それは1人で電車に乗っているという事実よりも
その行動を思うだけでどうにかなってしまいそうなものだった

特急券みたいなもので乗車する電車は
想像していたよりも落ち着いていられた
問題はそこからの乗り換え
ほんの5分の距離
私にはその5分がそれまでの1時間よりも遥かに辛い時間だった

初めての単独での通院

大きな失敗もなく到着ができた
すごく嬉しくて、少し誇らしげにも感じることができる結果となった

それをきっかけに
同行すると言ってくれるのを断り
私は単独で行けるようになっていく


あるとき

その最後の5分が終らないことに気づいた
10分にもなろうとしていたのだ
パニックになってしまってはと思い
出口のところに立っていた私は
すぐさま次の駅を示す掲示板をながめる
天井付近にある路線図に目をやる

おかしい

私が降りるべき駅は通り過ぎてしまっている

この電車に止まらない駅があったか?
私は逆方向の電車に乗ってしまったか?


集中して考えることができない状態にあって
考えていること自体が現状と噛み合わなくもあったが
何としてでも答えを見つけなければならない

さっき私は目的の駅のふたつ前の駅に到着したとき
『次の…次』
と呟いて、次の駅は確認した
そこからも『この次』と言葉を繰り返していたはずだ

なのになぜ

私の降りるべき駅が消えたのだ

そう

私は意識して集中していたのにも関わらず
降りるべき駅を目の前に
その瞬間、私の意識がそこになかった
その駅だけ気づくことができなかった

この時は慌てて下車して折り返したが
この不安がなくなることは今もまだない

なぜか降りるべき駅のときだけ
意識を向けることができなくなるのだ

降りるべき駅が消える

私にはそうとしか感じられなかった


私は今も1人で通院している

意識し過ぎて、ひとつ手前で降りてしまうときもある

最近は最後の5分の電車ではなく
指定席での電車ででもやってしまった

すべてをスムーズに
失敗なく行けるときももちろんある

失敗だらけで診察ギリギリになってしまうときもある


それでも私は1人で行く



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イラストお借りしました♡︎
ありがとうございます(ㅅ´ ˘ `)☆*。


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