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みかこちゃん

ー生意気

言葉をまっすぐ信じていた。

変な味がするもの、怪しい香りがするもの

すべて、ごくんとのみこんだ。

だから、大人になりかけたとき

あ、また、だまされた。

気が付くたびにクスッと笑った。

ああ、くだらない。くだらない。

大人の遊びってほんとうにつまんない。

こんなに小さなことで

崖から落として不幸にできると思ったの?

わたしの方がずっと、世界の美しさを知っているのに。


ーみかこちゃん

小学生の頃、友だちにはイマジナリーフレンズがいた。

だから一緒に下校するとき、私には見えない人たちに声をかけながら歩いていた。

挨拶をしたり、知らない話をしたり。

いいなあ、目に見えないともだちがいるなんて。

ちょっぴり羨ましく思えた。


ー秘密

ある日の放課後、ひかるちゃんと空き地で遊んでたとき。

「 ねぇ、500円玉を埋めたら、願い事が叶うの。」

「その代わり、誰にも言っちゃだめだよ。」

「ぜったい、二人だけの秘密だよ?」

幼い嘘をついた。

-(大失敗!ママに知られたらどれだけ怒られるんだろう。)

じわじわと心の中が怖さでいっぱいになった。

けれども私たちは無事に埋め終えて

目印に小枝を立てた。お願い事もした。

数日後、雨が降って500円玉は行方不明になった。

-あぁ、お菓子をたくさん買いに行けばよかったな。 

ちょっぴり後悔したけれど

どんなに叱られたって、どうしたって

大人の知らない秘密と約束がほしかった。


ー小学生の家出

休み時間、自由帳に家出の計画を立てた。

資金はどうする?きっと、500円あれば足りるね。

夜はどうする?きっと、暗いし寒いよね。

「ごめん、やっぱり行けない。怒られちゃうよ。」

ああ、やっぱり、世界で一人ぼっちだった。

みんな、きっとひとりぼっちなんだ。

なぜだか少しほっとした。


ー夜のコンビニ

子供の頃から、パパがたまに夜のスーパーやコンビニへ出かけることがあった。

ママに何も言わずさっと支度をして出ていく。

置いて行かれてしまわないように駆け足で私もついていく。

夜中の道、夜中のお店

高い果物、見たことのないアイス。

大人になった今でもコンビニの夜の灯りをみると

あの時の感情を思い出す。

うれしい、でも

たのしい、でも

幸福、でもなくて

夜の静まり返った道を歩いていると

知っているはずの景色もすべて

ずっと知らない世界のように映ったこと。

きっと、まだ何にも知らなくて、ちっぽけな存在なんだと

ちびなりにしっていた。

それがぜんぜん、いやじゃなかった。


-だいすき

小さな虫も、大の苦手だった。

とくに足がたくさんあって、すばしっこいクモは

おばけよりずっと怖かった。

変な色をしているんだもん。

だから道端に咲く花を摘むときは、戦いだった。

可愛らしい花を見つけて

そっと茎に手をのばすと

ぎゃっ!と声が出そうなくらい虫が隠れていることがある。

けれども、ママにあげるための花を摘むときだけは

どんな虫もやっつけられた。

おそる、おそる、茎に手をのばして

えいっ!と、勇気を出して摘んでは

自転車のかごに入れて

道の隅々までママがよろこびそうな花をさがした。

よろこんでくれるかな、よろこんでくれるかな。

うれしいって言うかな?

花を摘んだ帰り道はいつも心の中がドキドキした。


ー塩とココア

冬になって雪が積もると

体中が冷え切るまで外であそんだ。

雪だるまを作ったり(とびきり大きいのをつくろうとしてたいてい失敗する。)

公園の山でスキーもした。

くたくたに疲れて家に帰ると

すこししょっぱいココアがよく出てきた。

わたしはしょっぱいココアがきらい。

甘いだけがいいのに。

心の中で文句を言いながら、しょっぱいココアを飲み干すと体中がぽかぽかしてよく眠れた。

大人になって、塩を入れるのは甘さを引き立たせるためだったのだと知った。


 あとがき 

子供の頃、

周りのみんなのように特段すきなものもなくて

興味や主張をあまりしない子だった。

大人からみると、とても不思議らしく

何を考えているのか分からない様子だった。

ただ、じっと世界を見つめていて

それを誰にも話さないで過ごしているような子どもだった。

-追記-

うれしい、たのしい、悲しい。

心の中にある宝物を

どうして、すべて大人のひとに話さなくちゃいけないのだろう。

すべて、私だけのものなのに。

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