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児童文学はいいぞ

私は普段、一般向け小説を好んで読むことが多いが、「ちょっと一息つきたいな」というときは児童文学に限る。

ストレスフルの現代を生きる社会人にこそ、童心に帰る気持ちでたまには児童文学を読んでみることをおすすめする。

以下で紹介する児童書は、単純に私が「また読みたいな」と思った本である。

本当はこのほかにもまだ何冊もあるけれど、長くなりそうなので今回はパッと思い浮かんだ順で泣く泣く5冊に絞った。

1.『七時間目の占い入門』

小学生の頃から今に至るまで、私のお気に入りの作家は藤野恵美さんである。

『七時間目の占い入門』は、ちょうど占いにハマっていた当時小学生の私が、書店で「これが欲しい!」と初めて親に主張して買ってもらった本で、大人になった今でも何度も読み返すほど大好きな作品だ。

HACCANさんの挿絵も大好きだ。出版から15年以上経つ本であるが、いま見ても全く古さを感じない、オシャレで可愛いイラストが物語に花を添える。


当時は、小説ではなく本当に占いの入門書だと思ってこの本を選んだのだが、そんなことを忘れてしまうほど物語にのめり込んでいったのを今でも鮮明に覚えている。

登場人物たちの抱える問題、小学生特有の友達関係というものが非常にリアルに描かれているのだ。

ページが進むごとに、様々な問題が浮き彫りとなっていくが、「占い」が物語に上手く落とし込まれていて面白い。そして読後感は爽やかである。

2.『ふたりの文化祭』

同じく藤野恵美作のこちらの作品。
その魅力の一つは主人公の描写である。
随所で大人びた振る舞いを見せているのだが、心の中では年相応の自分が隠しきれていないのがなんとも微笑ましい。

まだ高校生であるにもかかわらず「人生何回目ですか?」と聞きたくなるほど人付き合いが上手く、頭の中であれこれ考えながら人と接している様子が伝わってくる。

なかでも、不満や苛立ちを前面に出してしまう、精神年齢の低い同級生に対しての心の声が辛辣で「この大人対応、見習おう…」と大人の私が読んでも身につまされる思いがする。

しかし物語が進むとともに、背伸びをやめ、ありのままの自分を見せられるようになっていく。嫌味なくらい大人びていた主人公であったが、やっと等身大の自分になれた瞬間はなんと晴れやかだったことか。

この本を読もうと思ったきっかけは、もちろん安心と信頼の藤野恵美作品であるということも大きかったが、単純にタイトルに惹かれたからでもある。


「文化祭」「修学旅行」「夏祭り」などの、青春を感じさせるようなワードがタイトルになっている小説はつい手にとってしまうのが私の癖である。

特に文化祭なんて「これぞ青春」という感じがして最高だ。

こういった作品を読むことによって、若者のエネルギッシュなパワーを受け、自分も元気をもらえるのである。

3.『ぼくのまつり縫い』

もう一人、神戸遥真さんという最近私のお気に入りの作家がいる。

本の持つ雰囲気というのだろうか。挿絵からも文章からもにじみ出る、あたたかさ。

神戸さんの作品に出てくるキャラクターたちはやさしくて、あたたかい、良い子たちで、なんだかホッとする。

『ぼくのまつり縫い』は全3巻。
このままずっと読んでいたい気持ちになって、ゆっくりじっくり読んでいたつもりだったが、完結まであっという間に読み終えてしまった。

これくらいの年頃になると、どうしても周りの目が気になり始めてしまう。そんな中、本当に自分の好きなものを好きだと言うことは簡単なことではない。
大人の私ですら未だに周りの目が気になることなんてしょっちゅうだ。

それを痛感するとともに「大人になってまで周りの目を気にして無理する必要があるのだろうか?」という気持ちになった。

いや、大人だからこそ周りの目を気にしなくてはいけない場面ももちろんあるのだけれど。

いらないところで周りの目を気にしてしまう人って最近結構多いように感じる。


私も主人公を見習ってこれからは「好きなものを好き」と言うことにする。そして同じように「嫌なことは嫌」と伝えることも時には必要なことであるのだな。

4.『笹森くんのスカート』


学生時代、私は制服のスカートが嫌で嫌で仕方がなかった。

私の場合はジェンダーがどうこうというわけではなく、思春期を迎えると自分の脚の形や太さが妙に気になり始めた。

そうなると毎日が苦痛で苦痛で仕方がなかった。ましてや、極寒の季節にも頑なにスカートを履かされ、寒さとも戦わないといけないなんてどんな苦行だろうと思っていた。

制服として女性はみな等しくスカートを履かないといけない理由って本当に何なんだろう、と今でも疑問に思う。

私の時代にもジェンダーレス制服があったなら、間違いなくスラックスを選んでいただろう。

そういうわけで『笹森くんのスカート』というタイトルも、スカートを履いている男の子の表紙の絵もかなり気になっていた。

神戸遥真さんならジェンダーの問題をどう描くのだろうか、と考えながら読み始めた。

やはり私の想像していた物語とは違っていた。

いつも思うが、神戸さんの物語に出てくる少年たちは人としてかっこいい。

ジェンダーについて考えるとき、いつも何となく腑に落ちないことが多かったのだが、きっと私は難しく考えすぎていたのだと思う。

私も笹森くんみたいになれればいいな。

5.『ラベンダーとソプラノ』


最後に紹介したい児童文学は、つい先日読み終えたばかりの本である。

登場人物たちの、気持ちの揺れ動くさまを想像しながら、じっくり読み進めたいと思える本だったので、一つひとつの表現を噛み締めながら読んでいるつもりだったが、やはりページをめくる手が止まらず、一気に読んでしまった。


希望を持って合唱クラブに入ったとある女の子の物語である。

「クラブ」という響き、とても懐かしい。
私は小学生の頃、イラストクラブに入っていたので、その時のことを思い出しながら読んだ。

「コンクールで金賞をとる」ことを目指すあまり、徐々に自分の好きだった合唱クラブではなくなってしまう。メンバーの気持ちはバラバラ、どんなに練習してもみんなの歌声は一つにならない。

「楽しく歌いたい、けれどこのままだと歌が嫌いになりそう」という主人公の心情を推し量ると、胸が締めつけられる思いになった。

こういったクラブ活動や習い事での、友達とのちょっとしたいざこざによって、学校に行くのが嫌で嫌でたまらなくなったりする経験は私にも心当たりがある。

大抵は時間が経てば何事もなかったかのように元通りに戻れることが多いけれど、下手をするとそれがきっかけで学校に行けなくなってしまったり、友達と絶交してしまったり、といったケースを目にしたこともある。

まだ未熟な子どもたちにとっては、学校が世界のすべてなのだ。

額賀澪さん、これが初めての児童文学作品とは思えないほど、この年代の子どもたちの繊細な心を丁寧に描くのが非常に上手い。
小学生時代を思い出して「わかるわかる〜!」とつぶやいてしまいそうになる。

読了後、作中に出てくる合唱曲を聴いてみた。

聴くのは学生時代に授業で歌った時以来だった。当時は歌詞の意味などを特に気にするわけでもなく、曲調だけでただ漠然と良い曲だなと思っていただけだったが、大人になったいま、改めて聴くと感情が揺さぶられるようだった。

唯一『彼方の光』という曲は、今回初めて聴く曲だった。もちろん、作中にも名前が出てきた「リベラ」が歌っているものを聴いた。

この時、私は生まれて初めて曲を聴いて涙を流した。

本の内容を受けての涙なのか、リベラの歌声に感動したのか、はっきりとした理由は自分でもよく分からない。
けれど、とにかくこの時に聴いた『彼方の光』は格別だった。


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