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名前

 私の名前には特に意味はない。命名の理由は、親がある漢字を使いたかったことと、生まれた季節だ。小学生の頃は、それを寂しく思ったことも、他の名前がいいと思ったこともないけど、なんというか、自分の名前にこれといった思い入れがなかった。

 それが変わったのは、アメリカに行ってからのことだ。私の名前は英語話者にとっては発音しにくいので、無理やり英語の名前の読み方をして、違う名前で呼ばれていた。一年間それがスタンダードで過ごしたのだが、6年生の担任の先生は初日に

 「あなたの名前はどうやって発音するの?」

と聞いてくれた。初めてだった。やっぱり難しいから、一度や二度ではそれらしい発音にはならない。それでも、私が「うん」と頷くまで何度も繰り返して、覚えてくれた。新しいクラスで自己紹介をするときも、「英語読みじゃなくて、本当の名前で読んであげるんだよ」とわざわざ言ってくれた。私はそれに愛を感じた。

 名前はその人を象徴する音の組み合わせだ。「英語読み」じゃない、本当の名前で呼んでもらえたとき、初めて「自分が自分である」ことを実感した。私の音の組み合わせは、深い意味もないけど、やっぱり私を表すのはこの音の響きなんだと思う。そして、思い入れがないと思っていたけど、やっぱり私は私の名前が好きだ。



きゅう

髪の毛がいつもちょっとはね気味の高校生。将来は田舎に住みたい。言語学に興味がある。好きな食べ物はきゅうり。

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